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おかぁさんといっしょ。

 禅爺からの要請を了承しようとした俺の言葉を突然遮るクレア。


「お爺様!!我がホワイトファミリーに任せて下され!!教皇領代理(アルギス)を倒した主の名声があればそこら辺りの能力者は簡単には近づいて来れませぬよ!!」


 …やれやれだな。さっきまで母親の前で委縮してたのに、クレアの言葉が、普段通りの強気な感じに戻ってる…。


 その瞬間、突然スキルの波動のようなものが一気に拡がり、流れた。


 ん?何だ…?違和感を覚えて俺は皆を見た。


 クローナ、クレア、ティーちゃんとシーちゃん、リーちゃん以外は全員、凍り付いたように全てが止まっていた。


「…何だっ、これは!!敵の襲撃かっ…?!」

「あぅ~?」


 俺は慌てて立ち上がる。フラムも不思議そうに周りをキョロキョロと見ていた。どうなってる…?


「…主、これは敵襲ではなく『クロニクルウェーブ』という時間を極度に遅らせる母上のスキルです…」

「…そうじゃ、久々に見たのぅ…」


 どうやら妖精族三体もクローナのスキルの事を知っているようだ。説明を受けて俺はほっとしつつ、フラムを抱っこしたまま席に座った。


 そんな俺にクローナが、意味深な視線を向ける。


「…そこの人間達に聞かれては困りますのでね。スキルを使ったのですよ…」


 静かに説明するクローナ。そのクローナは、目の前の男とその子供がクロニクルウェーブの中で動ける事に驚いていた。


(…この親子、このスキルの範囲にいて動けるとは…。確かにクレアの言う通り、この者は人間の範疇を超えていますね…)


 ただ単に、クロニクルウェーブを敵の攻撃と誤認識したゾーン・エクストリームが発動して、お互いの効果を二人分だけ相殺してしまっただけなのであるが、この場にいる中でそれに気づいている者はいなかった。


「…クレア、私からあなたに言っておくことがあります…」


 クレアは強張った表情で顔を蒼褪めさせていた。


「…良いですか?我々龍族は下界に影響を与える事を控えなければなりません。婿殿を手伝うのは構いませんが特定の勢力に加担する事がない様に努めなさい…」

「…母上、何故ですか?龍族の掟には下界に関わってはならぬという文言はありませぬ…」


 クレアの言葉を聞いたクローナが溜息を吐く。


「…これだから…あなたはまだ子供なのです…。良く聞きなさい。我ら八大龍族は皆が皆、仲が良いという訳ではありません。それはアナタも知っていますね?」

「…はい…」

「あなたがこの王国に加担したとしましょう。そうなると黒龍族を嫌う他の龍族は必ず、敵方に肩入れします。それは必ず、龍族大戦に発展するでしょう。そうなると下界の者達はこの星で生きていく事が出来なくなる…」


 一度、間を置いたクローナが話を続ける。


「…どちらが正しいか、ではないのです。龍族達からしてみれば下界の争いなどどうでも良い事。理由を与えてしまえば次期龍神、龍王の座を巡り戦争を起こす。過去二度の龍族大戦と同じ轍を踏んではならないのです。あなたのように下界に興味を持ち、里から出る龍は他の龍族でも居ます。しかし、里から出た者はすべからく、その事を一族からの口伝で知っているのです。以後、父上や兄の立場もよく考えて行動しなさい…」


 クローナの言葉に、シュンとして項垂れるクレア。初めて見るクレアの姿に俺の胸中も複雑だ。今まで何も知らずにクレアに頼っていたからな…。


 クローナはそんな俺の胸中を見透かしたように話す。


「…婿殿、(クレア)とお互いが依存しない様に努めなさい。先に話した様に小さなきっかけが大事を起こしかねないのです。頼みますよ…?」

「…はい。肝に銘じておきます…」


 俺の言葉にクローナは静かに頷く。瞬間、クローナのスキルが解除され、通常の時間の流れに戻った…。



「…で、ホワイトよ、受けてくれるな?」


 禅爺の言葉に、慌てて返事をする。


「…え、えぇ…。繋ぎの間は俺がスラティゴの防衛に当たりますが、その前にお話して置く事があります…」

 

 クレアが勝手に先に受けてしまったので補足として話をする。


「…俺は、先程戦闘をしていたジード博士と教皇領の聖女称号を持つエミルという若い女性にかなり恨まれています…。この二人は確実に俺を狙ってきます。スラティゴがとばっちりを受ける可能性もありますが…よろしいですか?勿論、そうならない様に努めますが…」


 俺の話に、禅爺がアグラー村長とエルカートさんを見る。


「おぬしらはどうじゃ?」

「噂や伝書で今までの話を聞いてますからね。問題はないですよ」


 村長に続きエルカートさんも頷く。


「カイザーセンチピード、怪物退治と俺もその強さは知ってます。特に異論はありません…」

「うむ。二人が良いなら暫くの間はスラティゴの防衛はホワイトに任せる」


 その言葉に頷きつつ、俺は晩餐会の事に付いて聞いた。


「…禅さん。晩餐会は明日ですが…開催するのは危険なのでは…?延期してはどうでしょうか?」


 俺の言葉に禅爺が難しい顔をして唸る。


「…うぅむ。その事じゃが、既に各方面に招待状を出しておるのじゃ。開催するメイヤーズ市長の面子もあるからのぅ…。延期も中止も難しいのじゃ…」


 続いて禅爺はベルファでも最大限の防衛と警戒をするよう報告する、と話してくれた。その説明を聞いて考え込む俺を見る禅爺。

 

「…おぬしの言わんとしている事は解かる。しかし貴族同士の体裁もある。そして今回の晩餐会には、おぬしに会わせたい人物が来るのじゃ…」


 …俺に会わせたい人物か…。貴族か…?商人か…?まぁ、どちらにせよ貴族同士のメンツもあるから、延期も中止もないという事だな…。


 …仕方ない。どうせ俺も参加するから、一応気を付けておくか…。


 今日は念の為にスラティゴで一泊する事にした。明日の朝、一番でパラゴニアに転移して、源さんを迎えに行く予定だ。


 明日は色々と忙しくなりそうだな…。



  クローナは俺達と同じく、スラティゴで一泊してから黒龍の里へ帰る、という事だそうだ。


 親子水入らずで過ごして貰おうと、気を使って部屋割を俺と子供達、クローナとクレアで別々にしようとしたが、何故だかクレアに凄い目力で「それだけはやめてくれ」と言わんばかりに凝視されたので、皆で大部屋にという事になった。


 いくら苦手でも、親子久しぶりなんだから遠慮しなくていいのにw


 取り敢えず宿屋のオープンテラスで、いつも通り少し早い夕食にする。スラティゴは港だけあって基本的に魚が多いが、ちゃんと肉もある。


 クローナ、クレアの事も考えて、今回も肉中心でディナーを囲んだ。母親が隣に座っているせいか、クレアは常に緊張気味で全く酒に手を付けない。


 俺だけ酒を呑むのもアレなので、クレアと同じくお酒は控えておいた。


 クレアにとって、とても長いスラティゴの宿屋での一泊を終えた翌日、朝食の後、村の門でクローナを見送る。


「…クレア、わたしの言った事を良く肝に銘じておくのです。良いですね?」

「…解っております。母上…」


 そしてクローナは続けてクレアに話をする。


「クレア。いつでも良いので婿殿を連れ、一度父上に挨拶の為に里に戻って来なさい…」


 クレアは少しの沈黙の後、渋々と言う感じではあったが頷いていた。


「妖精女王、妖精リーア、そして婿殿、今後もクレアをよろしく頼みます」


 そう言うと、一瞬で消えてしまった…。



 クローナを見送った後、クレア、ティーちゃん、シーちゃんの三人は世界樹に戻り、それぞれ晩餐会の為の正装を準備して貰う。ついでに、フラムの鞄と妖精人形が出来ていたら持ってきてと頼んでおいた。


 リベルトは引き続き調査を続けるという事で、東鳳へと転移で向かった。俺とフラム、リーちゃんは、パラゴニアへ鮨屋の源さんを迎えに転移で向かった。


 源さんと合流した俺達はパラゴニアで、ネタにする魚を選別して買い付けに行く。道すがら、


「アンタ、もう一人下の子がいたんだな?」


 と、フラムを見て細い眼を更に細める。話を聞くと源さんにも地球に残してきた家族がいるようだ。

 

 娘さんが一人いてまだ小学生だそうだ。つらい所だろうな…。しかし、そんな事は微塵も感じさせる事無く、真剣にネタ選びをしてくれた。


 魚を買い付けた後、お店の厨房で柵(ブロックの状態)にして、氷と共にアイテムボックスに放り込む。


「アンタもアイテムボックス持ってたのか。実は俺も持っててな…」


 そう言うと、諸々の道具などを俺と同じくアイテムボックスに放り込んでいた。


 その時、思いがけずスキル泥棒で源さんのスキルが視えてしまったのだが、『目利き+5』という鑑定スキルを持っていた。


 恐らくこっちの世界に来てスキル化したものなんだろう。他にもスキルを持っていたが余り見ていると失礼なので止めといた。


 諸々の準備を終えて昼前、準備が終わったので俺達はすぐに転移でベルファへと向かった。



 ベルファの門前で合流した俺達は、いつもの様に入場許可台帳に名前、滞在期間と滞在理由を記入して、許可証を貰い街に入る。


 まずは宿屋に行って部屋を取っておく。ここで正装に着替えてから、メイヤーズ市長の館へと向かう予定だ。


 フラムの鞄と、人形が出来ていたのでティーちゃんから受け取り、鞄を肩から掛けさせてみる。

良い感じで保育園の年少組みたいでカワイイw

 

 妖精人形も渡すと喜んで、早速ぎゆぅぅっと、ベアーハグしてたw


 俺も世界樹の中の縫製屋でレンタルして持って来て貰った正装を着てみる。少し大きめだったがこれくらいがいいだろう。


 個人的には、調理もするので正装以外にも料理服もいるのだが、そこは源さんが気を利かせて、お店の制服一式を持って来てくれた。


 今回、源さんは連休を利用してこっちに来てくれたそうで、晩餐会が終わった後は、ベルファの街を散策してからお土産を買ってから帰るという予定の様だ。


 昨日、禅爺から、夕方の晩餐会が始まる前に来て準備をしてくれとの事だったので忘れ物が無いかチェックした後、宿屋の受付で大き目の馬車を手配して貰った。


 馬車に乗り込んだ俺達は晩餐会の会場であるメイヤーズ邸に向けて出発した。

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