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誤解。

 シーちゃんが、ジジイの腹に突っ込んで上空に吹っ飛ばした。その先で待ち受けるクレア。


≪クレアッッ!!ジジイを叩き落してくれッッ!!抜き取りたいスキルがある!!≫

≪承知ッッ!!≫


 上空に飛んできたジジイを、縦回転の蹴りで迎え撃つクレア。一気に垂直落下したジジイが、地面に激突する。


「…ぐほォォッッ…」


 轟音と共に、ジジイが地面に激突する。そこに四、五メートルほどのクレーターが出来上がっていた。


 俺はすぐに神速で接近すると土埃が舞う中、ジジイの首を掴む。サンダークラップを喰らわせてから、改めてスキル泥棒を発動させた。


≪…スキル付与、抽出完了しました≫

「よっしゃ!!」


 直に掴んでいたので、抽出はすぐに終わった。貰うものは貰ったし、最後にジジイに制裁を…。


 そう考えていた俺は、完全に油断していた。サンダークラップで弱っているものだと思い込んでいた俺の目の前で、ジジイが呟く。


「…き、貴重な…一つだけの…装置を、使う事に、なる…とは、な…」


 何言ってんだこのジジイ?そう思っていた俺の目の前で、ジジイが渾身の叫び声を上げた。


「…オオオッ、おぬしらッッ!!覚えておくぞぃッッ!!またいつの日か相まみえようぞッ!!その時はワシがおぬしらを圧倒してやるわぃッッ!!」


 そう言うと巨大な両掌を地面に当てる。瞬間、巨大な掌と足の裏から凄まじいエネルギーを放出させたジジイは一気に斜め四十五度、空中へとミサイルの様に飛んで行った。


 凄まじい土埃と熱気で、視界を奪われた俺は辛うじて空で点になっているジジイを確認した。


 思わずクレアを見る。


「…任せて下され。オォォォォォッ…」


 俺の意図を察したクレアが口を開き、上空を見上げたまま大きく息を吸う。そこに黒く凝縮されたエネルギーの球が凝縮されていく。


 …ちょっ、ま、待てっ…それって…まさかッ…!!


 俺が止める間もなく、クレアが叫んだ。


「…龍戯!!『黒閃咆(こくせんほう)ッッッ』!!」


 同時に、凝縮された黒いエネルギーが、一筋の光線の様に一気に上空を切り裂く。空の彼方で某海外ヒーローの様に飛びながら、点になっていたジジイにその黒い光線が掠めた。


 瞬間、煙を上げながら墜落していくジジイ。しかし墜落途中で点になっていたジジイが消えるのが見えた…。


 …逃げられたか…。


 しかし、そんな心配より、俺はクレアが放ったドラゴンブレス?の方が気になった。擬人化していても使える事に驚いたが、それよりもあれだけの遠距離を一気に突き抜けて当てるその精度に驚いた。


「…主、済みませぬ。逃がしました…」

「…ぁ、あぁ、それは良いよ。俺も油断してたからな…。まさかあんな方法で逃げるとは思わなかったし…」


 話しているとティーちゃんとシーちゃんも集まってきた。


「フラムは大丈夫じゃったかのぅ?」


 ティーちゃんの言葉で思い出した俺は、慌てて背中におんぶしていたフラムを確認する。


「…フラム、大丈夫だったか?」

「あぅ!!」


 土埃やら衝撃やらがあったから心配していたが、小さな手をくるくる回していた。


 どうやら『まねっこ』で極々狭い範囲ではあるが、旋風掌を起こして土埃やら衝撃を回避していたようだ。フラム偉いぞ、と褒めてやるとキャッキャッと喜んでいた。


 その後、口を大きく開けて、うぁーと息を吸い始めたので、慌てて皆で止めた。


 フラムが、クレアの放った黒閃咆(こくせんほう)を見て真似ようとしたので慌てて止めた。


「フラム、それはマネするの止めとこうな?」

「…あぅ?(なんで?) 」


 俺が必死に、そのスキル?魔法?は危ないからだよ、とフラムに説明する。フラムは暫く考えた後に、うんと頷いた。どうやらわかってくれたようだw


 フラムがクレアのドラゴンブレスを真似て、出来るかどうかは解らないが、もし出てしまったら大変だ。小さな子供は、色々興味を持つからな。威力が小さくても面白がって危険なスキルや魔法を乱発しちゃうと危ないし、トラブルの元になりかねない。


 フラムには、分別わきまえる大人になって欲しいからね。俺達が色んなスキルや魔法を見せているから、もう遅い気もするけどw



 ジジイには逃げられたが、スキル『スキル付与』は抜き取れたので良しとしよう。


 ジジイの最後の言葉通りだと以降、狙われる可能性もあるがあれだけ痛手を負わせておけば暫くは動けないだろう。


 俺達は村の中の片付けを手伝うべく、村の門へと向かう。ジジイとの戦闘でスラティゴからかなりの距離を移動していたので、村の門までが遠い。


 暫く歩いていると俺達の前に、スゥーッと妙齢の美人な女性が空から降ってきた。


 …何かどこかで見たことある光景だな…。


 俺達は足を止める。


 その妙齢の女性は、顔立ちの整った鋭い釣り目で、透き通る様に肌が白い。腰まで伸びた艶のある黒く長い髪をポニーテールに纏めていた。


 女性は何も話す事なく、ゆっくりと俺達に近づいてくる。その動きは優雅を絵に描いたような所作だ。

近づいて来た女性は、二、三メートル手前で立ち止まった。


「…妖精女王、二人とも久しいな…」

「…うむ。クローナ様もお久しぶりじゃの…」

「…お久しぶりでしゅ…」


 俺は振り返って、目の前の女性と挨拶をするティーちゃんとシーちゃんを見る。つい先ほどまで隣を歩いていたはずのクレアが、ティーちゃんとシーちゃんの後ろに下がっていた…。


 クレアは顔を蒼褪めさせ、まるで海外アニメのキャラの様に汗をダラダラ流している。


 顔は強張り、目はキョロキョロと挙動不審だ。明らかに、目の前の女性とは目を合わせたく無いようだ…。いつも無駄に堂々としているクレアの挙動不審ぶりを見た俺は、なんとなく事情が分かってきた…。


「…久しいですね、我が(クレア)よ。二千年振りですか…」


 クレアは母親であるクローナに声を掛けられても、おろおろするだけで、一言も発しない。


 それどころか今すぐにでもここから逃げ出したいような素振りさえ見せている。しかし、この場から動けないようだ。


 それ程までに、クレアにとって母親クローナの存在は怖いのか…。


「…クレア?どうした?お母さんなんだろ?久しぶりなら挨拶くらい…」


 クレアに声を掛ける俺を、チラッと見るクローナ。


「…ふむ。この二千年、ずっとその気配さえも感じさせなかった娘がここ最近、突如として『龍戯』を発動したかと思えば…」


 静かで穏やかな視線だったが、凄まじい圧が俺を襲う…。


「…何故、人間などに追従しているのですか?龍族のプライドはどこにやったのです?」


 そう言うと静かに、しかし恐ろしいスピードでクレアに接近する。クローナが振り上げた右手は龍化して鋭い爪があった。


 俺は神速四段で割って入り、クローナの振り上げた右手を掴む。


「…お母さん、久しぶりに会った娘に手を上げるのはちょっとどうかと思いますが…」

「…人間如きが良くわたしのスピードに付いて来れたものです。そして腕を止めたこの力と言い、能力者の様ですね…」


 目の前のクローナは俺が軽く腕を掴んでいるように言っているが、止めている俺の方はほぼ全力だ。


「お母さん、何か誤解がある様ですが俺はクレアに助けて貰っているだけですよ?追従しているとか主従関係ではありませんから…」


 そう言った俺を、キッと睨むクローナ。


 …凄く怖い…。


 俺達の遣り取りを聞いていたクレアが、ようやく震える声で話す。


「…ぁ、主は人間ながら跳び抜けた能力と、斬新な発想力でわらわに勝った男…。既に結婚しております故…。わらわがどうしようと…は、母上には…関係のない事です…」

「…ちょっ、おまっ…何言ってんだっ!!まだそこまでいってな…」


 クレアに突っ込みを入れる俺の言葉が止まる。恐ろしい圧力が瞬間、倍増して俺を襲った。

俺は思わず、ギギギとゆっくりと首を回し、クローナを見る。


 怒髪天とは正にこの事だろう。黒い闘気を全身から放出し、俺を襲う圧力がどんどん増していく。


 …ひいぃぃぃぃぃぃぃッッ!!コワ過ぎるうゥゥッッ!!


「…我が娘よ。今、何と言ったのです?わたしの聞き間違いですか?人間如きと結婚などと…思わず鼻で笑ってしまいましたよ?」


 …いや、アナタ全然笑ってないですけど…。


「…母上…わ、わらわは主と結婚した…と言ったのです…。主は人間ながらそれを遥かに超越した存在…。われら最凶龍族と肩を並べる程の力を持っています…」


 相変わらず声は震えていたが、逃げる事が出来ないと覚悟を決めたのだろう。ハッキリとクローナに自分の意思を伝えるクレア。


 その言葉に、フゥッと息を吐くとクローナが突如、キレて声を荒げた。


「龍族と肩を並べる人間など存在しないッッ!!増してやこの世界最凶の黒龍族と対等に戦える人間など居はせぬッッ!!」


 怒号を上げて威嚇する様に叫ぶクローナ。完全に覚悟を決めたのか、クレアも負けていない。


「…母上、それは龍族の慢心というものですぞ!!それを今から、そこにいる主が証明して見せます!!」

「…オイッ、ちょっ、ちょっと待てよ…何で俺を巻き込むんだよ!!」


 俺を間に置いて、圧をぶつけあう母と娘。


「…そうですか、あなたの覚悟は解かりました。クレア、あなたの言っている事を証明して貰います。今から、この男にわたしと闘って貰いましょう…」


 そう言うと、掴んでいた俺の腕を、恐ろしい力で振りほどくクローナ。


「母上、後で後悔しても知りませぬぞ?我が主は強いッ!!母上が相手とは言え負ける事などあり得ませぬッ!!」

「…ほぅ、それは楽しみです。精々わたしを落胆させぬように頼みますよ、人間?」


 嫌な予感はしていたけど、この龍の親子、当の本人の意思を無視して勝手に話を進めるの止めてくんないかなw?


 事の成り行きを見ていたティーちゃんとシーちゃんは、ポケットの中で寝ていたリーちゃんを慌てて起こす。


「…リーよ、大変な事になった。神様の所に行ってこの闘いを仲裁してくれるよう頼んでくるのじゃ。良いな?」


 突然起こされたリーちゃんは、寝ぼけ眼のまま半分寝ているような状態だ。状況も良く解らぬまま、クローナを見る。


「…あぁ…クローナ様…来てたんですか…。…親子喧嘩ですか…?」


 ふわぁ~と大きなあくびをしながら、状況を理解するリーちゃん。


「…その喧嘩に、アンソニーが巻き込まれてるんでしゅ!!早く神様の所に行って仲裁を頼んでくるでしゅよ!!」

「…解りました。すぐ行ってきます…」


 まだまだ、頭が半分眠っているままのリーちゃんがすぐに転移で消えて、天界に向かう。俺は強烈な圧を飛ばしてくるクローナと向かい合っていた。



「…いくら強いと言っても相手は人間。龍族のプライドが許しません。其方(そなた)にアドバンテージを差し上げましょう。『龍戯』は一切使いません。使うのは…この己の両拳のみ…」

「…それはどうも。クレアはああ言いましたが正直な所、俺にアナタの相手が出来るかどうかは解りません。死にたくないので全力でやりますが…」


 話している俺の後ろからコソコソとクレアが話す。


「…主、母上は龍戯とは別に『殲滅拳打』『一撃滅殺拳打』というスキルを持っております。気を付けて下さい…」


 …何だよ、その物騒な名前のスキルは!!人間の俺が勝てる訳ないだろッ!!しかしその時、突然俺達の上から声が下りて来た。


≪…えー、こほん。クローナ、ワシじゃ、神じゃ。おぬしに伝えておく事がある…≫


 やった!!神様だ!!


 俺は、闘いが始まる前に、神様がこの闘いを止めてくれる事を期待した。


「…その男の肉体はワシが創り上げたアバターじゃ。余り激しくしてくれるなよ?」

「…ほぅ。ファザー・ゴッドか。(ファーザー)が創りしアバターに魂を宿す者か。面白い…」

「それからホワイト、そこにおるのはその昔、現龍神をも倒した事がある強者じゃ。心して掛かるが良い…」


 心して掛かれって…。ていうか何で止めてくれないの神様…。現龍神って…クレアの親父さんの事だよな…?


 闘いを止めてくれる事を願っていた俺は、神様の言葉に思わず溜息を漏らした。


 クレアと初めて出会った時を思い出すと、この母親にしてこの娘あり、と言った感じだな…。マジで不安しかない。しかしここまでお膳立てされると逃げ様がない。


 …仕方ない、やるか…。


 仕方なく俺は、作戦会議がありますので…と言って、クローナから少し離れると、皆を集めて作戦会議を始めた。

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