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サイエンスマッド爺さん。

 俺は火葬された元衛兵三人に合掌して冥福を祈った後、リベルトの話を聞いてすぐにスキル『バニッシュ』を使って姿を隠し、村の外に出た。


 既に勝負は付いていた。狼達は殲滅、吸血鬼ブラスレクは半身を失い逃げられないままクレアに首を掴まれ、今にもラッシュを喰らわされそうだった。


 しかし、覚醒吸血鬼ブラスレクの敗北寸前に突然、白衣を着た爺さんが現れた。俺はバニッシュを使って隠れたまま、それを見ていた。


 クレアに気配を感じさせる事無く現れた爺さんを見た俺は、リベルトと俺の推測が当たっていたと確信した。


 巨大な特殊センチピード、良いトコ取りの継ぎ接ぎキメラモンスター、そして今回の覚醒吸血鬼はいずれも何者かによって創り出されたものだ。


 ブラスレクは新しい力を試しに来た様な口ぶりだった。


 その話しぶりからリベルトは、その力を授けた何者かが、研究成果をどこかしらで見ているだろうという事を推測した。俺もこの騒ぎに、マッドなヤツが絡んでいるだろうと考えていた。


 そして予想通り隠れていた。


 突然現れた白衣を着た爺さんは、小さな球の様な何かをブラスレクにぶつける。瞬間、クレアの怨蝕によって今にも呑み込まれそうだったブラスレクがその場から消えた。


 それが強制転移か強制転送などの何かの装置だと感じた俺は、爺さんが逃げる前に神速で背後に接近した。


 俺は爺さんの肩を強く掴んだ。


「…関係のない人間まで巻き込みやがって、このマッドジジィが!!一番やっちゃいけない事をやりやがったな!!」

「…はて?何の事かのぅ…?」


 惚けながら振り返る爺さん。白髪で頭頂部は剥げていて側頭部の毛髪が逆立っている。鋭い眼光と吊り上がって白い眉と瘦せぎすな彫りの深い顔。


 白い鼻の下の髭と顎髭を生やし、如何にも科学者然とした爺さんだ。


「…お前さん達と話している時間など無いでのぅ。悪いがワシは帰らせてもらうよ、ほッほッ…」


 そう言って肩を掴んでいた俺の腕を払う。爺さんの癖に結構な力だ。さっき肩を掴んだ時のがっしりとした感触と言い、ただのマッドサイエンスジジイではなさそうだ。


「…ではのぅ…」


 今にも転移で消える寸前の爺さんを、容赦なく蹴り飛ばす。


「…ぐほぉっ!!こッ、この若造がッ!!老人じゃぞッ!!もっと(いた)わらんかッ!!」


 爺さんは吹っ飛んで行ったが、何とか膝を付いて踏ん張っていた。


「こう言う時だけ、弱者面するなよ?今のは巻き込まれた村の兵士達の分だ!!」


 膝をついて、口元を拭うジジイ。


「…おぬし、かなりのスピードじゃな。実験対象として興味はあるが今はそれどころではないでの。早く戻って治療せぬと実験体(ブラスレク)が消えてしまうでな。今日の所は帰らせてもら…」


 ジジイが話し終わる前に、高速弾丸ドロップキックが、その脇腹に直撃する。吹っ飛び、転げながら叫ぶジジイ。


「ぐほォォォッ…ぉッ、おぬしらッ…これは老人虐待じゃぞッ!!」

「うるさいでしゅっ!!これは狼達の分でしゅっ!!」


 シーちゃんのドロップキックで吹っ飛んだジジイが、何とか立ち上がろうとして上を見上げる。


「アイシクルスパイン!!」


 ティーちゃんの発動ワードと共に、ジジイの頭上に、無数の氷柱が(つらら)が出現していた。ティーちゃんの手が振り下ろされた瞬間、ジジイはダッシュでその場から逃れる。ジジイの癖に結構な瞬発力だ。


 ジジイがいた場所には、無数の氷の棘が地面に刺さっていた。


「…こやつら、揃いも揃って尋常ならざるヤツらよ…。本来なら実験体としてスカウトしたい所じゃが…」


 独り言を言いつつ、立ち上がるジジイ。


「…今はおぬしらの相手はしておれんのじゃッ!!しかし、ただで帰してくれそうにないのぅ。仕方あるまい、強行突破させてもらうぞぃ!!」

「…いや、悪いけど逃がす気はない…」


 俺は話しつつ、ジジイに確認を取る。


「…ところで確認したいんだけど、ジジイ。アンタの名前、ジード・シュタイニーで合ってるか?」


 俺の言葉に、ジジイがフンッと鼻を鳴らし応える。


「…何故、ワシの名前が解ったのかは知らぬが…。如何にもワシがイシュニア帝国、生物兵器開発研究所、所長のジード・シュタイニーじゃ。おぬしらに興味がある。後日、会いに来るゆえ名を知りたい。何と言う…?」

「…アンソニー・ホワイトだ。ジジイ、アンタに後日なんてない。今日ここで俺が引導を渡すからな」


 俺の言葉に、溜息を吐くジジイ。


「…ふぅ、解からんヤツじゃのぅ…。ワシは研究で忙しいのじゃ。今はおぬしらの相手などしてやれんとさっきも言うたじゃろうが…」

「…嫌でも相手をして貰うさ。アンタはやり過ぎてる。人間を巻き込んでるからな…」


 フンッと鼻を鳴らすジジイ。


「…この若造が。おぬしは何も解っておらん。ワシはな、究極の力を持った生命体を創りたいのじゃ。この世界でどの種族よりも強い、頂点に立つ事が出来る究極の人間をな…」


 顎髭(アゴヒゲ)を触りながら、話を続けるジジイ。


「その為に研究が必要なのじゃ。…良いか?進化には何事も犠牲が必要じゃ。おぬしは戦争を経験した事はあるか?どの世界であれ、人はお互い争う事で進化してきたのだ。相手より強くなろうとしてな…。やはりそこにも犠牲がある…。全ての進化は犠牲の上に成り立っておるのだよ」


 俺は、ジジイに反論する。


「…いや、解ってないのはアンタだよ。アンタの思考は一部の特権階級のそれだ。俺は戦争なんか体験した事はない、したいとも思わない。アンタと戦争を議論する気もない。ただ俺が言いたいのは、お前らみたいなヤツらの犠牲になっている人達の事も考えろよって事だよ。迷惑千万なんだよ!!」

「…解かっとらん上に、おぬしは考えが甘ちゃんすぎるわぃ。これ以上の問答は無用。ここは無理矢理にでも突破させてもらうぞ!!」

「…解って貰わなくて結構!!突破出来るもんならやって見ろよ?ジジイ…」


 応酬しつつ、俺はジジイのスキルを見ていた。このジジイはかなりのスキルを持っている。十三個あるスキルの中で一つ、俺が欲しいスキルがあった。


 カイザーセンチピードの時は確認出来なかったが、継ぎ接ぎキメラモンスターの時にはスキルを確認し、その説明文も読んでいる。


 『****によって与えられたスキル』の伏字の部分が、ジジイ本人とその名前を確認した事によって見えるようになった。


 マジックキャンセル、物理攻撃無効化のどちらも、『ジード・シュタイニーによって与えられたスキル』となっている。

 そして俺は、その欲しいスキルを『スキル泥棒』によって確認した。


 『スキル付与』だ。


 この爺さんがどうやってこれだけのスキルを集めたのかは分からないが、今はそれはどうでもいい。

『スキル付与』があれは、融真に『メルトフィーバー』を返す事が出来る。


 それが可能になれば、亡命した融真もこの王国の戦力になってくれるだろう。それだけ『メルトフィーバー』のスキルとしての力は大きい。


 しかもそれだけじゃない。スキル付与が使えれば、集めたスキルを最適な者に、分配する事も出来る。

何としても、この爺さんから『スキル付与』を抜き取りたい所だな…。


 俺、クレア、ティーちゃんとシーちゃんが囲んでいる中で、ジード爺さんが、オオオッと唸る。


「…フォォッ、見ておれよ若造共がァッ!!」


 叫ぶ爺さんの下半身が突然、張り裂けんばかりに巨大化する。次に上半身がガクガクと痙攣を始めた。

下半身と同じように巨大化するのだろう。


「…ふぅっ。爺よ、巨大化してもわらわ達には勝てぬと、先程吸血鬼の時に見たであろう?」

「…ほッほッほッ…。ブラスレクの時のとは違う力じゃ!!おぬしらで試させてもらうかのぅ…」


 身長、百六十センチ程しかなかったジジイの上半身が巨大化すれば、恐らく三メートルは優に超える。

しかし、その背後に、一瞬にしてクレアが立っていた。


 そして、変身真っ最中のジジイを問答無用で蹴り飛ばす。クレアのハイキックを背後から喰らい、前のめりに転がり吹っ飛ぶジジイ。


「…おッ、おぬしッ…変身の最中に襲うとは…卑怯であろうッ!!」


 そう言って立ち上がろうとしたジジイを、シーちゃんが高速タックルで吹っ飛ばす。


 更に、吹っ飛んだ先で風の槍がジジイを襲う。それを横転して何とか避けた後、(ようや)くジジイの上半身も巨大化を始めた。


 立ち上がりつつ、巨大化するジジイにクレアが突っ込みを入れる。


「何が卑怯なのだ?闘いの最中に強くなるのを待ってやるヤツなどいないだろう?(むし)ろそんな手間の掛かる変身とやらをする爺が悪いのだ!!」

「…クッ、こういう時は待つというのがセオリーじゃろうがッ!!それを無視しおって…」


 クレアの言う事は最もなのだが、たまにそうじゃないのもいるんだよな…。わざわざ敵が強くなるのを待ってやるエリートとかなw


 俺は爺さんの変身が気になったので、どんなものか見るつもりで黙って見ていたんだが…。恐らくジジイが持っている『ビーストウォーリアー』というスキルだと思う。


 何とか立ち上がり、巨大野獣化したジジイが、不敵に笑う。


「…ほッほッ…では見せてやろう。ワシはな、研究をしながらも自分の身体で人体実験もしておったのじゃよ。その結果…」


 ジジイはそのまま四肢を踏ん張ると、一瞬にして三十数メートル程の高さまで跳躍する。


「…あらゆる耐性と共に全身ビースト化の能力も手に入れたのじゃ。野獣の様に荒れ狂う攻撃、受けてみるが良いわァッ!!」


 ジジイの野獣化も終わったので、もう待ってやる必要はない。俺は跳躍を使い、今にも上空から攻撃を仕掛けようとするジジイの背後にいた。


「何ッ!!おぬしッ…何故後ろにッ…?」

「…驚いた?俺もこの程度なら跳躍出来るんだよっ!!そしてェェェェッ…」


 俺は、右腕から闘気ハンドを出して、背後からジジイの首に伸ばす。


「ジジイッ!!アンタのスキル貰うぜェッ!!、」

「なんじゃとッ!?スキルをッ…」


 ジジイの首を掴んだ俺は、『スキル泥棒』を発動する。闘気ハンドが光りを放ち、狙いのスキルを一気に吸い上げる。


「…クッ、させぬわッッ!!」


 ジジイは巨大化した左手で俺の闘気ハンドを弾く。


「…ちッ、弾きやがったか…」


 ジジイはどういう原理なのか解らないが滞空したまま反転し、俺に右拳で襲い掛かる。

 

 その瞬間、ゾーン・エクストリームが発動。空中でジジイの動きが止まった。      


 しかし、俺が既に落下を始めてしまったので、範囲から出たジジイはすぐに動けるようになってしまった。


 ジジイは上から、落下する俺を追撃してくる。


 鉄腕アトムの様に、俺に拳を叩き付けようとしたジジイに、跳躍して来たクレアが拳による連打を放つ。


「…クッ、四対一ではどうしても邪魔が入るか…」

「爺よ、中々やるがその程度のパワーではわらわには通用せぬぞ!!」


 空中でラッシュをぶつけ合うジジイとクレア。俺は地面激突前に旋風掌を発動して、ふわりと降り立つ。


 上空を確認すると、クレアに打ち負けたジジイが、ガードの上からラッシュを喰らって吹っ飛ぶ。しかし、ジジイは吹っ飛ばされた勢いを利用して背中から鷹や鷲のような大きな翼を出すと、滑空して飛んで行った。


「お嬢さん、吹っ飛ばしてくれてありがとうよ!!それではさらばじゃ!!」


 俺は、それを見て思わず叫んだ。


「クレアッッ!!ジジイを逃がすなッッ!!」


 不敵な笑みを浮かべ、悠々と去っていくジジイ。しかし突如、その周囲に無数の小型竜巻が出現して旋回、その辺り一帯に超乱気流を起こす。


「…なッ、何じゃッ!?グッ、バランスが崩れるッ…!!」


 大きな翼を出したのが災いしたジジイは、ティーちゃんの精霊魔法によってバランスを崩した。その直後、真下からロケットの様に飛んできたシーちゃんが、頭からジジイに突っ込んだ。


「…グハッッッ…!!こやつらァァッッ…」


 思いっ切り腹に突っ込まれて、上空に吹っ飛んだジジイをクレアが待ち受けていた。 

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