小都市ベルファ。
盗賊退治を卒業し、俺は妖精族三体と共に、街へと向かう事になった。翌朝、南東に森を抜けて街道に出る。
そこから東へ行くと王都に繋がる街『ベルファ』がある。
スラティゴに行く行程より遠いらしいが、俺達にはその辺りは関係ないね!!俺はファントムランナーを使い、三体はそれぞれ転移が出来る。
ティーちゃんとシーちゃんはリーちゃんほどの超長距離転移は出来ないけど、この銀河内くらいの距離なら転移出来るそうだ。
俺は一気に街道の端を『ファントムランナー』で駆け抜ける。
途中、旅人や交易商人、ハンターや冒険者などとすれ違ったが、恐らく見えていないだろう。強い風が吹き抜けた、くらいの感じだと思う。
暫く街道沿いに走って行くと、目の前に大きな城壁の様な石壁が見えてきた。恐らくあそこがベルファの街だな。
俺はスピードを緩めて一旦止まる。
事前に打ち合わせていた通り、ベルファの街の近くの森で合流した俺達は、街の西門に向かう。この世界の都市はスラティゴもそうだが、各都市が強固な壁で囲まれていた。
俺達は、街の中に入ろうとする人々の列に並ぶ。この世界の冒険者やハンターとは違うゲーム内装備なので、かなり珍しいのか周りからチラチラと見られた。
「西の大陸にある小さな島国から来たんですよ」
いつもの適当な説明をすると何故か皆さん、納得してくれたw実際そんな島国があるかどうか知らんけどw
みんなと話していると俺達の番になった。三人分の名前を俺が記入する。リーちゃんは人間には見えないので記入していない。スラティゴの時と同じく、職業と滞在理由と滞在期間も記入して許可証を貰って俺達は街の中へと入った。
◇
小都市『ベルファ』。
スラティゴとは違った雰囲気で、活気あふれる街だ。多層階の建物はないが、石造りや木造の立派な建物が並んでいる。街は綺麗に区画整理されていて、ちゃんと案内看板もあった。
中央に大きな通りがあり、両側に商店などの施設が並んでいる。ここの街で朝食を食べたかったので、世界樹の中では食べてこなかった。
午前八の刻なので、朝ごはんに丁度良いと思って三体と料理屋に向かう。道中、獣人を見かけた。狼っぽい獣人だ。スラティゴでは見かけなかったが、ティーちゃんやリーちゃんによると大きい都市には結構いるそうだ。
「獣人は猫獣人以外は大半が魚が嫌いじゃからの。だからスラティゴにはいなかったんじゃろう…」
と説明してくれた。対、獣人だと魚持ってると良さそうだなw
商業街にある小さな料理屋に入ってみた。街だけあって、朝から何人か客がいる。カウンター席に、三人で座る。椅子が高いので一人づつ、抱っこして椅子に乗せて上げた。
パンに色々な食材を挟んで食べるサンドイッチの様な料理を勧められたので三人分、ドリンクと一緒に注文した。
ティーちゃんは紅茶、シーちゃんはホットミルク、俺はお茶だ。
メニュー表のドリンク欄を見ると、お酒も出しているようだ。思わず、じっと見ているとティーちゃんから釘を刺された。
「アンソニーよ、今はまだ朝じゃからな?これからギルド行ったり、街を周るんじゃからお酒は夜にするんじゃ」
「…わ、わかってるよっ!!ちょっと見てただけだって…」
言い訳する俺を、カウンターの中のおやっさんが笑いながら見ていた。俺は大人しく、注文したお茶を飲んだ…。
こういう世界だと、大体すっごい堅いパンとかが出てくるイメージなんだけど、意外や意外、歯ごたえはあったが、ガチガチではない。地球で言う所のフランスパン位だ。
そして食材もかなり美味しい。生ハムのようなものと、レタス的な野菜を挟んで食べる。地球のサンドイッチと遜色ない。しかし、ソースとかマヨネーズとか、そう言うものはなかったので、ちょっと口の中がモゴモゴした。
朝食の後、街をブラブラ歩きつつ商業ギルドに到着。訓練所や闘技場があるか聞いてみた。残念な事に、闘技場は王都にしかないようだ。
見世物になるのはちょっと…と思っていたので闘技場はなくても良いかな。訓練所は冒険者ギルドに併設されているようだ。
と言う事で強い人探しと依頼ボードを確認する為に、ハンターギルドに向かった。
◇
ギルドに入ると、正面に依頼受付カウンターがあった。その右横に、大きな依頼ボードがある。
反対側には、料理屋兼飲み屋も併設されていた。
中央を抜けると訓練所があり、その左にある階段を上ると、職員達の休憩所とギルドマスターの部屋があるそうだ。
朝早いのだが冒険者PT?らしき人がちらほらいた。俺はここでは新顔なので、やたらとチラチラ見られてる…。
視線は気にしない様にして、依頼ボードを見る前に、フリーで依頼を受ける事が出来るか聞いてみた。
俺には神様からの依頼があるので、今の所ギルドに所属するつもりは全くない。だからフリーで受けれるなら、それに越したことはない。
意外な事に一部許可がいるが、フリーでも受け付けはしているようだ。受付のお姉さんが言う。
「フリーで依頼を受けた場合、依頼主と直接ご相談して下さい。依頼がギルドから出ている場合はギルドマスターの許可が必要になります。それから金銭、怪我、命の保証はありません」
まぁ、そりゃそうだな。所属してないヤツのサポートはしないってとこかな。
「ちょっと、依頼見ても良いかな?」
「どうぞ」
そう言われたので依頼ボードを確認してみる。依頼ボードを見ていると、後ろからお姉さんが説明してくれた。
「依頼には段階があって、緑色の通常の依頼、黄色の少し危険が伴う依頼、赤色のかなり危険な依頼があります」
ふむふむ。今の所、黄色と赤色の依頼はない。ボードを見ていると、別の受付のお姉さんに呼ばれた。
「そこの方?ホワイトさんではありませんか…?」
「…ん?そうですけど?どこかでお会いしましたっけ…?」
顔立ちの整った、メガネを掛けた結構な美人さんだ。会ってたら覚えてそうだけど…。
俺は、チラッとネームプレート見る。アマリアさんね。美人だから覚えとこ。そんな事を考えてたら、伝言がありますと言われた。
「グレンさんからです」
そう言いつつ、アマリアさんが俺の目の前に、結構な量の金貨袋を出した。
「…ナニコレ?」
「盗賊ウスバ、捕縛の懸賞金です。ホワイトさんがこちらのギルドに来られたら渡してくれと…」
あの人達、律儀だな~。別に賞金は持っていってよかったのに…。
思わず一人で呟いてしまう。
「…いえ、ウスバを捕らえたのはホワイトさんだから、とおっしゃられまして…」
「しかしあの人、俺がこの街に来るって良く分かったな…」
俺の独り言に、アマリアさんが答えてくれた。
「腕試ししてる風だったから、そのうちこの街に来るだろうっておっしゃられてましたよ?まぁ、王都や他の街に行くにはこの街を通らないとダメですし、何よりここの街から西はスラティゴ以外の街も村もないですからね」
そりゃそうだな。マップ見ても街道以外は森に囲まれているような地形だ。他に行く所なんてないよな…。
ついでに俺はふと気になった事を聞いてみた。
「よく俺がホワイトだって分かりましたね?」
するとアマリアさんに、さも当たり前のように言われた。
『病的に肌が白い』『二人のちびっこを連れた』『見た事のない珍しい装備』『年齢不詳の男』…だ、そうだ…。
「そんな人、そうそういないと思いますよ?」
そう言われて納得した。
しかしあの人、どういう伝え方してんだよ。そんな事を考えつつ、目の前に渡された金貨がかなり多いので困った。
あのチンピラ、強くはなかったが『大気光象』のスキルで、かなり暴れてたみたいだな。相当の賞金だわ。コレどうするかな~?
お金にそんなに困ってるわけじゃないので、預ける事の出来る施設があるか聞いてみた。
ハンターギルドでも、商業ギルドでも預かってくれるそうだ。ただギルドに登録していないと預かりは出来ないとの事だそうです…。
仕方ないな。取り敢えず、ウスバ捕縛の賞金はそのままアイテムボックスの中に入れとく事にした…。
◇
ハンターギルドを後にした俺達は宿屋に向かった。大きな中央通り沿いに何件かある様だ。とりあえず一番大きくて綺麗な宿屋に入った。
料金的に高いのか安いのかわからなかったが、小奇麗で一階に食事処もあるしカウンターのおやっさんの対応も良かった。
三体とも気に入ったようなので、ここに宿泊する事にした。
取り敢えずカウンターで、滞在期間三日分の料金を前払いしておいた。すぐに部屋の案内を受けたが、既に昼になっていたので、そのまま一階で食事をしてから案内をお願いしますとお願いした。
俺達は、カウンター席に座り、メニュー表を見せて貰う。この世界の料理は結構な感じで充実している。その点は嬉しい所だ。
よく小説や漫画だと結構堅くて味のない食べ物とかが出てくるのが多い。だからあまり期待はしていなかったが、世界樹の中の料理屋と言い、街の料理屋と言い、良い意味で裏切られた感じだ。
カウンターの中にいる料理担当のおばちゃんに風呂の事を聞いてみる。宿屋には風呂はついてないみたいだ。残念。しかし、スラティゴと同じく、街中に大衆浴場があるそうだ。街の散策ついでに後で行ってみるか…。
ちなみに風呂は、この世界では大商人や貴族などの一部の人達の贅沢品の様だ。基本的に一般の人は、街の大浴場を利用するらしい。まぁ、そりゃそうか。こういう世界だもんな。
しかし風呂という文化がない世界より、あるだけマシだと思った。
お昼を食べて部屋に上がる。結構広くて綺麗だ。ちゃんとトイレと洗面台も付いていて俺は嬉しい。俺は共同トイレとか苦手だからね…。
歯磨きセットをアイテムボックスから出す。ちゃんとこっちの世界に来るときは忘れずに持って来ている。歯磨きセットは全宇宙ナントカ協定には引っ掛らないようだ。
この世界にも歯磨き習慣はあるそうだが、この世界の歯ブラシは硬すぎて俺には合わなかった。
◇
滞在二日目。午前、七の刻。三体に起こされた。
ティーちゃんもシーちゃんもリーちゃんも、朝起きるのが早い。俺も地球では朝早い仕事をしているから、午前三時半から午前四時の間で大体、起床している。
だけど、休みの日にこっちの世界に来ているから、朝はゆっくりしたい。が、うちのちびっこ達はそれを許してくれなかった…。
宿屋の一階の料理屋で朝食を食べる為に降りて行く。
朝から冒険者らしき人達が何人かいた。俺達はカウンター席に座り、軽い朝食を摂ってからハンターギルドへ向かった。
昨日はいなかった、何人かの冒険者グループがいた。俺の装備をチラチラ見る者や、二人のちびっこを見て顔を顰める者がいた。
依頼ボードを見ていると、アマリアさんがそっと教えてくれた。小さい子供を連れて来ると、余りいい顔をされないようだ。
そりゃまあ、命を懸けてる冒険者達からすれば、こんな所に小さい子供連れて来るなよ、てトコだろう。定番の喧嘩売られるような状況にならないだけマシってもんだ。
次から一人で来るか…。
ボードを見ていると、アマリアさんと他の受付のお姉さんが、ティーちゃんとシーちゃんをカウンター内に呼んで面倒を見ていてくれた。
お礼を言ってから、俺は再びボードを見たが、簡単な採集や護衛依頼しかない。お茶とお菓子を出してもらって、満足気にソファでくつろいでいた二人を呼ぶ。
俺はアマリアさん達にお礼を言ってから、ギルドを後にした。
「…うーん、これと言ってあまりいい依頼は無かったね…」
「まぁ、こういうのはタイミングじゃからのぅ。ない時はないじゃろ…」
確かに、タイミング良く自分の望む依頼なんて出てこないだろうし…。取り敢えず、今日は街のお店を見て周る事にした。
スラティゴの時と同じく、美味しそうなものを売っているお店を廻り、結構大きな書店があったのでそこに寄ってから、大衆浴場にも行ってみた。
◇
滞在三日目。今日も良い依頼が無ければ一旦、世界樹に戻る事になっている。取り敢えず二人には宿屋で留守番して貰った。リーちゃんだけは俺以外、誰も見えないので付いて来た。
「昨日はどうも」
と、カウンターのお姉さん達にお礼を言う。
アマリアさんは、今日はお休みの様だ。残念。相変わらず、他の冒険者達にチラチラ見られたが、気にせずボードを見た。
「おっ、赤色っ!!」
滞在三日目で、初めて見る赤色依頼の紙が依頼ボードに張り出されていた。