地球に戻る。
俺は階段を降りて、一階の待合フロアにいた三人と合流する。
「ダンナ~、貴族と知り合いなんて凄いじゃん!!」
合流早々の、キャサリンの言葉に、今までブレーリンであった事を話した。
「…ふーん、どこにもチンピラみたいなのがいるんだねー」
「そいつらもダンナに絡んで良く死ななかったな…」
「まぁ、少し力をセーブしてやったからな…。黒焦げにはなったけど…」
「どうして殺さなかったのですか?」
そんなクライの質問に答える。
「殺すのは簡単だけど、ああいうヤツらは、殺すよりも生かしたまま、苦しませた方がいいんだよ。ああいうのはいつまで経っても自分達のしてきた事を理解もしないし、反省もしないからな…」
「うげっ…ダンナって、結構ねちっこいタイプなんだね~…」
「キャサリン。お前そう言う事、言うなよ…」
キャサリンの言葉に突っ込む融真。俺達は、話をしつつギルドへ向かって歩く。
三人に亡命許可が下りるまで大人しく待つように言い含め、その間、俺は別件の仕事でブレーリンから離れると話した。
明日には一度、地球に帰らないといけないからねw
◇
三人をブレーリンギルドの宿舎に案内した俺は、報告があると受付の職員からロメリック伝えて貰う。例のミーハー受付嬢ネリアがいたが、他の冒険者の対応をしていたので絡まれる事がなくてほっとしたw
待っていると、すぐに上がって下さい、と言われたので、俺はロメリックがいる部屋へと向かった。
ノックをしてから声を掛けて部屋に入る。
「こんちわ。もう情報が入ってるかと思うけど、ウェルフォード方面の街道でエミルの仲間に遭遇したよ」
その後、四人現れて戦闘になったが何とか押し切り、三人が亡命希望、一人を逃がした事、エミルはまだ現れていないと報告した。
庁舎でその三人の亡命申請を終わらせて今、ギルドに連れて来たと話した。
「えぇ、情報は既に聞いております。戦闘、ご苦労様でした…」
「…うん、教皇領のヤツらの相手はホント骨が折れるよ。良くあんな能力者集めたもんだと思うわ」
俺は笑いながら、その能力の高さに驚かされた事を話す。
「…そうですか。ホワイトさん、エミルの…本人の現在地は知っておられますか…?」
予想通り、ロメリックはそっちの方が気になるようだ。ロメリックにエミルがどこにいるか聞かれたので隠す事なく、そのまま答えた。
「その事は、三人に教えて貰ったよ。送迎屋のフードと接触して一度、教皇領に戻っているらしい…」
俺の言葉に案の定、ロメリックは顔を曇らせた。俺はそんなロメリックに、恐らくエミルはまた現れると話す。
「エミルは俺にスキルを全部抜き取られた事や、教皇代理アルギスが殺された事を恨んでるみたいだからね。俺を狙って必ずまたこっちに潜入して来るよ」
俺は、続けて話す。
「しかも今回は仲間が三人も教皇領から離反しているからね。エミルのあの性格だと絶対に反逆や亡命など許さないッ、て感じで来ると思うよ?」
俺の言葉に、苦笑いするロメリック。
「解りました。その時にはまた戦闘が予想されます。気を付けて下さい」
「うん。何とか頑張ってみるよw」
あらかた報告が終わった後、ロメリックがフラムを見て笑いながら話す。
「…所でフラムちゃん、昨日より随分と大きくなりましたね…?」
そう言われて、テンダー卿の時と同じく、俺自身も驚いてると話した。
フラムは覚えていたのだろう。名前を呼ばれて、ロメリックを見ると、両手を上げてキャッキャッと喜んでいた。
その後、亡命希望の三人について少し話す。
「戦闘にはなったけど、悪いヤツらではないね。後で三人にも会って話をしてみると良いよ」
「はい、ありがとうございます。仕事が終わり次第、会いに行ってみます」
俺は三人の事を頼むと、マスターの部屋を退去した。
下に降りてみると、俺が報告をしている間に、三人がギルド職員から諸々の説明を受けていた。俺は三人に数日後、また会いに来ると伝えると、フラムと共にいつもの宿屋へと向かった。
◇
俺はフラムと共に、宿屋で皆と合流した。
皆には、亡命申請手続きをしてからギルド宿舎で亡命許可が下りるまで、三人をギルド宿舎で待機させていると話した。
「ご苦労じゃったのぅ。それで三人は亡命できそうなんかの?」
「うん、多分だけど大丈夫だと思うよ」
その言葉を聞いたクレアとシーちゃんが「良かった」と言いつつも、お腹を空かせて待っていたようだ。
「早くお昼ごはんにするでしゅ!!」
「そうだな。シーの言う通りだ。主、早くお昼にしましょう!!」
ちょうど時間も昼に差し掛かる頃なので、そのまま宿屋の一階の料理屋で昼食を摂る事にした。
パンとバター、トマトスープみたいなやつとハムエッグ、ローストビーフ的なモノと野菜盛りを注文する。
「…主、ちょっと肉が…」
例の如く、クレアが肉が少ないと言うので、追加でステーキを頼む。ティーちゃん達もハンバーグが欲しいと言うので、またまた追加で注文した。
リーちゃんは俺の皿の上のハムエッグを齧り、パンをちぎって食べる。ついでにローストビーフも齧っていた。
ティーちゃんとシーちゃんを見ると、ハンバーグを小さく切り分けている。
「ほれっ、フラム食べるでしゅ」
二人は自分達も食べつつ、交代でフラムにハンバーグを小さくして食べさせていた。
もう既に、固形物でも食べて大丈夫な様だ…。
それを見たクレアが、ステーキを小さくサイコロに切って、フラムに食べさせる。フラムは元気よく、もしゃもしゃとサイコロステーキを食べていた。
「フラム、野菜も食べな…」
肉ばかりだと栄養が偏るので、俺は野菜を小さくちぎってドレッシングを掛け、フラムに食べさせた。
野菜も、一生懸命もしゃもしゃ食べるフラム。
「おっ?ちゃんと野菜も食べて偉いぞ?フラム」
俺は、肉しか食ってないクレアを見ながら、フラムを褒めてやる。しかし、俺の嫌味な言葉にも、クレアはチラッと俺の方を見ただけで、何も言わずにひたすらステーキを喰っていたw
フラムは、俺の方を見上げてにかっと笑う。小さいけどもう歯が生えていた…。俺が続けて野菜をちぎってやると、モリモリと食べていた。
昼食後、まったりしてから部屋に戻って各自、自由な時間を過ごす。
いっぱい食べて眠くなったのか、フラムは目を擦りながら陽の当たるテラスの傍に行くと、ぺたっと座る。
うとうとし始めたので、布を折りたたんで敷いて、その上に寝かせた。
皆、午前中の戦闘で疲れたのか、俺も含めて全員、夕方までお昼寝をした。
その後、起きて一階で夕食を食べて、宿屋にもう一泊した。
◇
朝方、俺は頬をぺちぺちと触る感触で目が覚めた。まだ外は少し暗い。午前五の刻辺りだろうか?
「あーぅ。あぅ、あーぅっ…」
ん?なんだ?「あぅ?」まだ半分、寝ている俺の耳に「あぅあぅ」と声が聞こえる。
再び頬をぺちぺちされて俺は目を覚ました。
隣で寝かせていたフラムが、寝ている俺の身体の胸の上にいた。俺を起こそうとしたのか、頻りに小さな手でぺちぺちと頬を触る。
「あーぅっ、あぅーっ…」
どうやら、あぅあぅ言ってたのはフラムの様だ。
「…フラムか…。喋れるようになったのか…凄いな…」
まだ目が覚め切っていなかったが俺は、喋れるようになったフラムを褒めてやる。昨日までは、キャッキャッと笑ったり、顔を顰めてぐずったりしていただけだったが…。
…子供の成長とは早いものだ…。
俺は寝ころんだまま、両手でフラムをリフトアップしてやる。キャッキャッ、と喜ぶフラム。
「ん?」
抱き上げていたフラムを見て俺はさらに驚いた。
「…あれっ?フラム、また大きくなったのか…?」
リフトアップしたフラムを見ると…。ティーちゃんやシーちゃんと同じくらいのサイズになっていた。二人より少し、小さいくらいだろうか?
俺は上半身を起こしてフラムを抱っこしたまま、ティーちゃんとシーちゃんを起こす。
「…二人とも起きて。フラムがまた大きくなったよ…」
俺の言葉に、二人は眠い目を擦りながら起きる。
「…なんじゃ、アンソニーよ。フラムがどうかしたんかの…?」
「…うーん、まだ眠いでしゅ…。…フラムがどうしたでしゅか…」
ベッドの上で、俺は二人の傍に、フラムを立たせてみる。やはり二人より少し小さいくらいだ。
俺達の声に、リーちゃんも目を覚ました。寝ぼけながら、起きてフラフラと飛んできたリーちゃんを、まるで人形を抱きかかえる様に、フラムがぎゅっと抱きしめる。
「…んんぅっ、ぐっ、ぐるぢぃ…フラム、ぐるぢぃって…」
完全にリーちゃんより体長が大きくなっていた。フラムはまだ赤ちゃん気分かも知りないが、このサイズで抱き着かれると、まるでベアーハグだw
慌ててティーちゃんとシーちゃんが、フラムを止めてリーちゃんを開放させた。
俺はフラムを抱っこしてベッドから降りると、洗面所に行っていつもの様に身だしなみを整える。
その頃になると、昨日酒を飲み過ぎてダウンしていたクレアも、あくびをしながら起きて来た。
皆で一階に降りて、朝食にする。宿屋の一階の料理屋の従業員達に「フラムちゃん、また大きくなったね」、と言われたのは言うまでもないw
朝食を終えた俺達は、暫くまったりした後、支払いをしてから宿屋を後にした。
◇
俺達はブレーリンから、妖精族の拠点である世界樹に戻った。世界樹の上層階にある女王の間で、俺はクレア、ティーちゃん、シーちゃんにフラムの事を頼む。
これから、リーちゃんの超長距離高位次元転移で地球に戻って、明日仕事に行かなければならない。
次に、こっちの世界に戻ってくるのは、明後日の夕方から夜になる。その翌日が、ベルファでの晩餐会の日だ。
それまでフラムの面倒を見てもらう予定だ。
「…済まないけど、皆でフラムの面倒を見て上げてくれ。明後日の夕方頃には戻って来るから…」
「…ん?主はどこに行くつもりなのですか?」
クレアの質問に、ティーちゃんが答える。
「アンソニーは、これから西大陸で交易の仕事があるからの(嘘)。暫くはクレア姉さまにもフラムの世話をして欲しいんじゃ…」
「西大陸なら、すぐそこではないか…。主、わらわも付いて行きましょうか?」
すぐそこって…。人間の感覚だと、海のはるか向こうなんだが…。龍の尺度だとご近所に行く感覚かもしれないな…。
「…いや、交易の仕事は退屈だろうから俺一人で行くよ。俺が戻るまでフラムに世界樹の中を色々と案内してやってくれるか?」
俺の言葉に、一瞬の間があったがクレアは戸惑いつつも了承してくれた。本当はフラムも連れて行った方がいいと思ったが、まさか七銀河離れた先の星に、フラムを連れて戻るとは言えない。
それを言ってしまうと、クレアも付いて来ると言いかねない。フラムくらいなら向こうに連れて行けるかもしれないが、クレアを転移させるのは質量的に無理だろう。
そう考えて、ティーちゃん、シーちゃん、リーちゃんと事前相談しておいたのだ。
クレアには、フラムの世話をして貰うという名目で、こっちの世界にクレア、ティーちゃん、シーちゃん、フラムの四人で残って貰う事にした。
今回は俺とリーちゃんだけ転移で地球に戻る予定だ。
クレアの表情はいまいち納得がいかないようだったが、フラムも残るという事なので了承したようだ。
次にフラムの説得だ。これが一番、難しいかもしれないw
フラムは生まれてから、ずっと俺と一緒にいる。成長は早いが、まだまだ赤ちゃん気分は抜けてないだろう。俺はフラムに言い聞かせるように、話した。
「フラム、パパはお仕事で暫く、いないいないしちゃうけど、ここがフラムの家だからクレアと二人の姉さん(ティーちゃんとシーちゃん)とお留守番しててくれな?」
「…あぅ?」
俺の説明に、キョトンとしているフラム。まぁ、そうなるよねw
クレアに、そっとフラムを渡す。いまいち状況が分かっていないようだが、大人しくクレアに抱っこされるフラム。
そんなフラムの頭を撫でつつ、「じゃあ、行ってくる」と言って俺はリーちゃんと共に下層階の地下にある転移室へと向かった。
俺は転移室の転移魔方陣の上に、仰向けになる。
「じゃあ行くよ!!」
リーちゃんの言葉と共に、転移魔方陣が激しく光る。同時に、俺はアバターから魂を吸い上げられ、ワームホールの中を一瞬にして通り抜けた。