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今後について。

 クレアによってダークエネルギーを吸い取られたクライは人が変わった様に明るくなっていた。


 クライはお礼を言いつつクレアに頭を下げる。急に明るい笑顔を見せるクライに全員、苦笑いしていた…。


「そう言えばフードはどうなった…?」


 俺の言葉に、キャサリンギャル子が、先程まで戦闘があった場所を指刺した。


「ダンナ、フードならあそこでボロボロになって倒れてるけど…」


 見ると二人の戦闘に巻き込まれたフードが倒れていた。俺がフードを確認すると戦闘に巻き込まれて既に死んでいた。


「散々、クライを追い込んだ報いだ。ザマぁないな」


 融真の言葉に、キャサリンも頷いていた。


 何とか戦闘も終わったので、クライの処遇についてどうするか、クライ自身がどうしたいのかを話し合う事にした。



 クライの情報では、これ以上は教皇領から刺客が送られてくる事はないとの事だ。もう一人、未依里(みより)という子がいるそうだが、エミルにべったりなので単独で来る事は無いという。


  一度、エミルがシャリノアに工作員として来た時には一人残してきたので、未依里が泣き喚いて大変だったそうだ。


 ダン爺さんは俺にスキルを破られた上に錫杖を置いて行ってしまったので、当分は来る事は無いだろうと話すクライ。


 俺は戦闘が終わって、やれやれと言った感じだった。あのまま戦闘が長引くと地球に帰れないからな…。ちゃんと仕事に行かないとクビになってしまうw


 ついでに俺はエミルが今、どこにいるのかを三人に聞いてみた。どうやら一度、教皇領に戻ったようだ…。


 ロメリックに話すのは迷う所だが、どっちにしろ俺を狙ってまたこの王国に来るだろうからな。捕まえるならその時でもいいだろう…。

 

 潜んでいるヤツもいないだろうという事で、融真がクライの今後についてどうするのかを聞く。


「クライはどうする…?俺とキャサリンはこっちに亡命を希望するつもりなんだが…」


 融真に問われたクライは、さっきまでとは打って変わった明るい爽やかな笑顔で話す。


「うん、僕もこの国に亡命を希望するよ。もう帝国や教皇領には戻りたくないからね」


 クライは元々、召喚された場所がイシュニア帝国だったそうだ。余りのネガティブエネルギーを持て余した帝国側が、教皇領に送還する伝書を送り、クライは教皇領に護送された。


「エネルギー…と言うか念の…力の正しい使い方を先生にも習いたいからね」


 そう言いつつ、クレアを見るクライ。


「…何?クライは奥様のとこに弟子入りでもすんの…?」

「…クライ、奥さんマジで強いぞ?弟子入りって…大丈夫かよ?」


 二人の心配をよそに、クライは爽やか笑顔でクレアに向き直り、頭を下げる。


「…先生!!僕を鍛えて欲しいのです。帝国や教皇領の者達に敗けない様に…そして自分に敗けない様になりたいのです。何卒、弟子入りの件、考えて頂けないでしょうか?」


 その言葉に、ふーむ、と腕を組んで考えるクレア。


「…わらわは弟子など取っておらぬのだ。しかし、お主がどうしてもというのならば戦闘教練くらいならしても良いぞ?」


 クレアの言葉に、嬉しそうに礼を言うクライ。


「…ありがとうございます!!この王国に定着出来ましたら是非、戦闘教練をよろしくお願いします!!」


 クライの言葉に、満足そうなクレア。俺はクライのスキルを改めて視る。『ペシミスティック・サイコ』が『サイコキネシス』に変わっていた。

 

 亡命が上手くいけば、クライだけでなく、融真とキャサリンギャル子もこの王国にとって大きな戦力になってくれるだろう。


「…スキルは無くしたけど、今後の為に俺も戦闘教練して貰おうかな…」

「…あっ、奥様!!アタシもお願いしまーっす!!」


 三人のヤル気に、クレアは腕を組んだまま、満足そうに頷く。それを見て俺は思わず笑ってしまった。


 お前は大師匠かw?

 

 俺はクレアを見て笑いつつ、いつか『能力を付与出来るスキル』が手に入れば、融真に『メルトフィーバー』を返してやりたい所だと考えていた。


 俺達はその後も、話をしつつ、ブレーリンに向かって歩いた。



 ブレーリン東門に戻り、衛兵に亡命希望者の件をテンダー卿に上げてもらう様に伝える。ついでに引き摺ってきたフード二人を衛兵に引き渡す。

 

 一気に三人も亡命希望という事で、衛兵が慌ただしく動き出した。国境線の都市だと亡命はよくあるそうだが、内陸での亡命希望は珍しいケースなのだそうだ。


 取り敢えず東門の詰め所で待ってて下さい、と言われたので俺と融真、キャサリンとクライ以外の皆には、一旦宿屋に戻って貰う事にした。


 俺は三人に付き添って、亡命に関する諸々の処理を見届けた後、皆と合流してお昼ご飯を食べる予定だ。


 眠そうにしていたフラムをクレアに預けて連れて行かせようとしたが、離れようとしないので仕方なく、俺が抱っこしたまま三人と待つ事にした。


 待っている間、キャサリンがフラムのほっぺをつんつんしてみたり、頭を撫でたりしていた。フラムは、触ってくるキャサリンをじっと見ていたが、眠かったせいなのか特に何も反応しなかった。


「…ダンナ、その子は俺から抜き取った『F・リヴァイヴァー』意外にスキル持ってるのか?」


 特に隠す事でもないので、融真の質問に答えた。


「あぁ、持ってる。俺の子供だから主要スキルはほぼ遺伝してると思う」

「…マジか…その子、末恐ろしいな…」


 そう言われて改めてフラムのスキル欄を見ると、少し変化していた。『遺伝』という文言が消えていた。


「でもまだまだ、ちんちくりんのちびっこでしょ?大丈夫じゃね…?」


 笑いながらフラムのほっぺをつんつんするキャサリン。そんなキャサリンをじっと見ていたフラムが小さな手を伸ばす。


「…ん?何?ちびっこ…」


 フラムが手を伸ばして来たので、徐に掌を出すキャサリン。するとフラムがその掌の上で、小さな人差し指を、トントン、トントンとリズムよく、つんつんし始めた。


 何をしているのか、皆で観察していると数十秒後、キャサリンがうとうとし始める。


「…あれっ?何だろ…なんか…ねむ…ぃ…」


 そして、ついに「…ぐぅ…」と眠ってしまった。


「その効果は…!!まさか!!この子、ダンさんの『幻錫響』を今やって見せたのですか!?」


 驚くクライ。そして融真は顔が引き攣っていた。


「…オイオイ、マジか…。ダンナ、その子、どうやってダン爺さんのスキルを覚えたんだ?確か爺さんのスキルは抜き取ってないはずだよな…?」


 俺は驚く二人に、フラムの持つ固有スキル『まねっこ』の事を説明する。


「この子は『まねっこ』って言うスキルを持ってるんだ。恐らくさっきダン爺がやってたトントンのリズムを視て覚えてたんだと思う。キャサリンはさっきまでそのスキルに掛かってた。身体に影響が残ってたから音じゃなくても、トントンのリズムで眠ったんじゃないかな?」


 俺の説明に、二人はふむふむと感心し、フラムを褒めながら、頭を撫でてやっていた。それが嬉しかったのか、フラムは小さな両手を上げてキャッキャッと喜んでいた。



 暫くして、警備隊長が来た。亡命手続きをするのでブレーリン庁舎に来て欲しいとの事だ。三人との経緯も聞きたいので俺にも来て欲しいと言われたので付いていく事にした。


 警備隊長が用意してくれた護送馬車に乗り、皆で庁舎に向かう。


 東門から街の大通りを西に抜けて行くと、街を北から南へ流れる大きな川があり、橋を渡った先に大きな四階建てのブレーリン庁舎があった。


 庁舎はちょうど街の真ん中辺りに建てられており、東西南北どこからでも入れるように出入り口が作られている。


 庁舎に入ると、真ん中に階段が設置してあり、その両側に各ブースで申請や各種手続きをするようだ。


 俺達は案内されて、三階の応接室に向かう。大都市なので建物も大きいが、人口も多いので、各種申請窓口が一階から二階まであるそうだ。


 三階まで上がり、応接室に案内されて入る。中にはテンダー卿と、事務方と思われる人がいた。


「おはようございます、テンダー卿。昨日はごちそうになりまして、ありがとう御座いました」


 俺の挨拶にテンダー卿が、デスクから立ち上がる。


「いえいえ、こちらこそ、昨日の試食会、ありがとうございました…」


 そう言いつつ、フラムを見たテンダー卿が驚く。


「…あれ?フラムお嬢さん、昨日より大きくなってませんか…?」

「そうなんですよ、私もびっくりで。ここ二日で大きくなってちゃんと立って歩くし、顔の表情で感情表現するんですよ」


 俺達が話している間、フラムは昨日会ったテンダー卿を覚えていたのか、キャッキャッと喜んでいる。

俺達が挨拶をしているのを聞いて、キャサリンが後ろでひそひそと話す。


(…ダンナ、なんで貴族と知り合いなの…?)


 俺はキャサリンを無視したまま、勧められるままに三人と共にソファに座る。テンダー卿も正面に座り、話を始めた。


「…そちらの三人が亡命希望とか?まずは経緯を、それから素性と亡命理由など、お話し頂けますか?」


 テンダー卿に促されて、まず俺が経緯を話した。


「…この三人とはエミル捜索の道中で遭遇しましてね…」


 戦闘になったが俺達が押し切った後に、亡命希望である事を聞いたと説明した。ついでに三人とも、今までこの国での工作活動は無い、という所も伝えておいた。


 ふむふむ、と聞いているテンダー卿の隣で、事務方が手続き用紙に記入していく。次に、融真がフルネームで名乗り、転生者である事を話す。続いて教皇領から出たい理由を話した。


「…教皇領の者達は、召喚者や転生者を利用して他国での工作活動をしています。戒律という名の下でそう言う事を強いられる事に嫌気が差しまして…」


 融真の後に続いてキャサリンが名乗る。


「…キャサリン・バンシーです。召喚されて教皇領にいました…」


 そして、融真と同じく、戒律の下で工作をする事がイヤだったと話し、エミルとは根本的に考え方が違っていたと話す。


 最後にクライが、名乗った後、帝国に召喚されて抑圧され続け、更に教皇領でも精神不安を抱えていた事、そして教皇領には戻りたくない事を話した。


「…僕は…先生のお陰で目が覚めたんです。だからこれからこの王国で新しい道を進んでいきたいのです」


 力強く訴えるクライ。


「…先生…?ホワイト殿の事ですか?」

「…いやいや、『先生』ってのはクレアの事ですw」


 俺は笑いながら答えた。


「…ふむ。そうですか…。大体の経緯は解かりました。続いてこれからの事を説明します…」


 そう言いつつ、事務方に記録させていた用紙を伝書として鳩の首に付けて飛ばす。


「まず王都に、今回の亡命の件を伝達します。王都に申請して亡命許可が下りるまでは少し時間を貰います」


 テンダー卿が、続けて説明してくれた。


「王都からの亡命許可が下りるまでは三人とも制限付きでブレーリンギルド宿舎にいて貰います。許可が下りるまでは基本的にギルド宿舎から出る事は出来ません。不便かもしれませんが、ギルドには最低限の施設は揃っています。許可が下りるまでお待ち下さい」


 テンダー卿、自らの丁寧な説明に、三人とも頭を下げた。


「牢獄に入るより、はるかにマシですよ。ありがとうございます」


 三人を代表して融真が礼をする。 


 亡命手続きと話が終わったので、三人をギルドに案内しますと伝えて応接室から出ていく。しかし、テンダー卿から俺だけ少し残って欲しいと言われた。


 三人には一階の待合フロアで待つように伝えた後、下りていく三人を見届けてからテンダー卿が話を始めた。


 どうやらエミルの現在地に付いて知りたいようだ。


「…ホワイト殿は、エミルが今、どこにいるかご存じですか?」

「えぇ、知ってますよ」

「…王国のどこかに潜伏しているのですか?」

「いや、既に教皇領に戻っているようです」


 俺の言葉にふむ、と考え込むテンダー卿。義弟ロメリックの事を考えて、どう伝えるか考えているのかもしれない。


「…ロメリックに伝えますか?」

「…うむ、そうなのですが…。どう話すか迷っておりまして…」


 そんなテンダー卿に、俺が説明しますよと話した。


「エミルのあの性格なら再び、私を狙って必ず王国に侵入して来るでしょうからね。これから三人をギルドに案内するので、ロメリックにはこっちで説明しておきますよ」

「…おぉ、それは助かます。是非、よろしくお願いします」


 俺の言葉に、晴れやかな顔を見せるテンダー卿。


「それでは三人をギルドに案内してきますので…」


 そう言って俺は応接室を後にした。

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