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フラムちゃん観察記Ⅱ。

 リーちゃんの呼びかけで、戦闘中のクレアを見ると苦戦していた。苦戦と言っても、戦闘で押されている訳ではない。


 クレアが投げ捨てたガントレットを拾ってみると、半分以上が溶けている。


 俺には、それが融真のスキル『メルトフィーバー』によって攻撃されたモノだと分かった。クレアのヤツ、融真の攻撃を直に防御したな…。


 スキルの説明文を読んでみる。


 『メルトフィーバー』炎熱神アドラヌシアの力を宿したグローブに付いているスキル。殴った対象を灼熱のエネルギーで溶かす。炎熱神が使用者の肉体に耐性を与え保護し、周辺温度を上昇させて防御する攻防一体の能力。

 赤色スキル。


 まぁ、このスキルは個人的にどうでもいい。欲しいのは融真が持っている、もう一つのスキルだ。その『もう一つ』のスキルの説明文を読んだ俺は、フラム用に取得させて置けば安心出来ると思った。


 そう考えている俺の前で闘っている二人が、そのスキルの効果を見せてくれた。ガントレットを溶かされてしまったクレアは、武器を外して闘気を纏った素手で攻撃、防御をしていた。


 メルトフィーバーの高熱は、闘気を通過する事はなかったが、その高温過ぎる熱は闘気の外からでも伝導しているようだ。クレアがめちゃくちゃ熱そうな顔してるからな…。


 熱過ぎて接近したくないし、されたくないクレアは、融真の攻撃範囲外から、闘気を纏った拳圧を圧縮して打ち出す。ベルファの禅爺が出した闘気弾と違い、単純に拳のスピードが空気を圧縮して打ち出す空気弾だ。


 無防備に、クレアに接近しようとした融真の左半身に、クレアの打ち出した圧縮空気弾が炸裂する。

瞬間、融真の左半身が吹き飛んで無くなった…。


 動きが止まり、ドサッとその場に倒れる融真。しかし、ここからが融真(コイツ)の『もう一つ』の能力(スキル)の本領だろう。


 額の汗を拭いつつ、油断せず戦闘態勢を崩さないクレア。顔は赤く染まり、身体中から汗が流れている。その姿で、どれだけ熱いかが解かる。


 その目の前で、倒れた融真の身体が光を放ち始めた。急速にその細胞を増やして肉体を復元していく。

そして一分掛からず、元の姿に戻った。俺がフラム用に欲しいと思ったのは、このスキル『F(フェニックス)・リヴァイヴァー』だ。


 スキル説明文を読む。


 『F・リヴァイヴァー』攻撃によって肉体が消し飛んでも、復活出来るスキル。細胞一片、DNAの欠片、残滓が少しでも残っていればフェニックスの如く完全復活が可能。しかし、戦闘での肉体的、精神的な死は復活出来るが、老衰での死は復活出来ない。

 プラチナカラースキル。


 と、なっている。良いね!!このスキル、フラムの為に頂戴しますかw何といってもこのスキルの良い所は、消し飛んだはずの装備をも復活出来る所だ。


 そうでなけりゃ肉体が復活出来ても、はだかんぼのままだ。戦闘中に、「キャーッ、の〇太さんのエッチ!!」みたいになっても、お互い困るからなw


 肉体を復活させて立ち上がる融真。その顔には不敵な笑みが見えた。


「…全く、コイツはゾンビか…?」


 正にクレアの言う通り、融真の戦闘スタイルはゾンビアタックに近いw


「…いや、奥さん、アンタも普通じゃないな?普通なら、メルトフィーバーの熱でとっくに脱水してるか気絶して倒れてるはずだからな…」


 確かに融真の言う通り、俺達のように特殊な能力を持っていたり、特殊な種族でなければ、この高温の熱波でとっくに倒れているだろう。


 この辺り一帯の気温は、融真のメルトフィーバーによって既に五十度は越えているんじゃないだろうか?実際、高熱で地面から、ゆらゆらと熱気が立ち上っている。クレアが苦戦しているのは、熱を遮断してくれる闘気自体を広範囲に拡げる事が出来ないからだ。


 ちなみに俺は身体を中心に、半径三メートルの範囲内から風を起こして熱を外に逃がしている。ティーちゃんも、身体の周りに風を起こして外側に熱を出していた。


 シーちゃんはプロテクトの範囲を拡げて熱を遮断しつつ、身体の周りに衛星の様に飛ばしている無数の小さな球体を回転するように動かして風を起こして熱を逃がしていた。


 融真がチラッと俺達の方を見る。


「やっぱりアンタ達も、普通じゃなさそうだな…。さすがにアルギス様を殺しただけはある…」

「…まぁね。アルギスを殺したのは俺じゃないけど、普通じゃないのは確かだね…」


 そう言いつつ、俺は融真からスキルを貰う為に、準備を始める。


≪ティーちゃん、氷結魔法とかでこの辺り一帯の気温を下げてくれる?≫

≪うむ。出来るが、何かやる気なんかの?≫

≪…あぁ、フラム用にアイツのスキル『F・リヴァイヴァー』を貰っとこうと思ってさ…≫

≪おおっ、それはいい考えでしゅ!!≫

≪クレア、ティーちゃんがこの辺り一帯を氷結で気温を下げるから、そのタイミングで俺と交代だ≫


 クレアは高熱に耐えながら、融真と撃ち合っていた。


≪…解りました。主、気を付けて下され。この熱は半端じゃないですぞ…≫

≪あぁ、解ってる。これだけ離れて熱を逃がしてるのに、まだ熱いからな≫

≪こんな小僧など、わらわが龍形態でブレスを使えば一気にカタが着くのですが…≫


 悔しそうに言うクレア。


≪…それは解ってるよ。けどそれだけは止めてくれw大騒ぎになるからなw≫


 密談の後、ティーちゃんに視線で合図を送る。シーちゃんとリーちゃんは俺達から離れて、後方で汗を拭いながら座って休憩タイムだ。


「…では始める。範囲氷結魔法『アイスキングダム!!』」


 詠唱なしで、ティーちゃんが魔法名を声に出すと、一帯の地面に広範囲魔法陣が現れた。一瞬にして辺り一帯、氷の空間になった。


 空気が凍り、大地も凍り付く。空気中の水分が結晶化してキラキラと光を放っていた。俺はクレアに下がる様に伝える。

 

 拳打で撃ち合っていたクレアは、隙を突いて融真を蹴り飛ばして後退させると、俺と入れ替わった。


「クレア、後ろで熱冷まして休んでて良いよ」

「かたじけない、主、フラムもいるのですから気を付けて下され…」

「あぁ、解った」


 俺と入れ替わったクレアは、シーちゃんと一緒に汗を拭きつつ座って休む。クレアはシーちゃんが出してくれた清涼水を一気に飲んで身体を冷やし潤していた。


 ティーちゃんには、氷結魔法を持続させてもらった。なんせ、凍り付いていく傍から、融真の熱で氷の世界か溶けているからな…。


 氷結なしで接近すると、フラムが熱でやられてしまうかもしれない。念には念を、だな。


 俺は一歩前に出る。


「…なんだ?ようやく本命の登場か?俺の戦闘スタイルの分析でもしてたのか…?」

「あぁ、まぁそんなとこだね。ついでにチミのスキルがとても素敵だからね。チョイと貰っちゃおうかなって思ってさ…」


 俺の言葉に、融真の顔が一瞬、強張った。俺は融真と話しつつ、フラムをお(くる)みして、落ちない様に身体に括りつける。


「…そうか。そうだったな。エミルから話は聞いてるよ。アンタ、他人のスキルを抜き取る事が出来るらしいな…」

「うむ、その通り!!そのスキル、頂戴致します!!」


 俺の言葉に、融真がフッと笑う。


「それが解ってて、俺がアンタに接近するとでも思ってるのか?俺の能力は離れていてもアンタにダメージを与える事が出来るんだぜ?」


 俺も、フッと軽く笑った。


「いや、チミは俺に接近せざるを得んよ。なんせ俺もここからチミを攻撃する事が出来るからねぇ…」

「…へぇ、凄い自信だな…。じゃあやって見せてもらおうかな…」


 応酬の後、沈黙が走る。


 俺は頭の上に腕を伸ばすと、アイテムボックスから龍神弓を取り出した。それを見た瞬間、融真の表情がサッと変わった。


 やはり俺の本職がアーチャーだという情報は聞いてなかったようだな。

 

 エミルと闘った時に弓を見ているのは別人格の鬼老婆の方だ。気絶させた後、スキル『ダブルフェイス』は抜き取った。だから俺が弓を持っていた記憶はエミルには同期していなかったのだろう。


 しかし一瞬、動揺した表情を見せたものの、融真はすぐに冷静さを取り戻した。


「…フフッ、離れた所から攻撃出来ると言っても、俺の熱波攻撃と違ってアンタの弓の攻撃は俺に到達する前に溶けて無くなるけど?この勝負、もう決まったも同然だな!!」

「うーん、そうかなぁ?別に俺は普通の矢を使うとは言ってないけど…。そこでチミにはこれを見て欲しい」


 そう言って俺は右腕の籠手を見せた。


「じゃじゃーん!!これが超便利アイテム『精霊の籠手』であーる!!」

「…まさか…」

 

 融真は察しが良いようだ。俺の言葉の直後、表情が強張った。俺は弓の弦をゆっくりと引いていく。


 本来、金属製の矢があるべき所に、精霊のエネルギーが集まり、徐々にその形を矢の形状に変えていく。


 その瞬間に、融真はダッシュで一気に間合いを詰めて来た。反応は良いが、もう遅い。俺は風雷のエネルギーを纏わせた矢を、融真の足元に打込む。


 一の矢、雷撃。融真はそれを素早く横移動で躱し、再び間合いを詰めてくる。

二の矢、風圧を起こすエネルギーを纏わせて、やはり融真の足元に放つ。


 風圧で、融真の突進の勢いは死んだが、もう少しで拳打の届くその距離まで間合いを詰めていた。


 融真が叫ぶ。


「全て溶かせ!!『メルトフィーバーッ!!』」


 しかし、融真が叫び、フック気味に拳打を俺に撃ち込もうとした瞬間、その動きは止まった。

いや、少しづつは動いてるんだけどねw

 

 究極に、極端に遅くなるから止まっているように見えるのだ。


「はい、ご苦労さんでした。それではこれからうちの子の(いしずえ)となって貰います!!」


 融真の表情は、何が起こったのか解からないようだ。熱過ぎて、いちいち説明してやってる暇はないので、俺は闘気ハンドを出す。


 この距離だとかなり熱い。見るとフラムも顔が火照って熱そうだ。急がないとな…。


 この熱さではフラムにスキルを取得させる為に接近する事が難しい。俺は闘気ハンドを使い、まず『メルトフィーバー』の遠隔抽出から始めた。


 発動中のスキルを遠隔抽出しているので、少し時間が掛かっている。その間に俺は籠手から『天獄』を出しておく。

 

 俺がこのまま発動中のスキルをそのまま貰うと、その瞬間に俺の身体から出た熱波が皆を襲う事になる。そうなると一番近いフラムを危険に晒してしまう。


 念には念を入れて、俺は抜き取ったメルトフィーバーを直接、天獄へと移動させた。


≪ティーちゃん!!氷結はストップだ!!≫


 スキルを抜き取ったタイミングで、ティーちゃんにも氷結を止めてもらう。そのままだと今度は俺達が氷の世界で危険になるからねw


「大丈夫じゃ、スキルが抜けた時点で氷結は止めたからの」


 その言葉を聞いた俺は、まずアイテムボックスから木製水筒を出し、シーちゃんに貰っていた清涼水をフラムに飲ませる。かなり熱くて喉が渇いていたのか、ごきゅごきゅと飲んでいたw


 清涼水を飲んで一心地付いたフラムをお包みから解放して、抱っこする。


 どっしりと両足を踏ん張り、中腰で熱溶解攻撃を叩き込もうとしていたその姿勢のままの融真に近づく。


 そしてスキル泥棒で視えていた『F・リヴァイヴァー』を確認する。


「フラム。ほら、スキルが視えるか?これをチョーダイしよう。さっきやったみたいに、この兄さんの首をぺちってしてみな?」


 フラムは手を伸ばすと、ぱちっと可愛い電撃を出す。そして融真の首にぺちっと小さな手を当てた。


 暫くしてフラムのスキル欄を確認してみたが、抜けていないようだ。

あれっ?さっきのフードの時は出来てたんだけど…。スキルランクが高いから難しいのかな…?


 そう思った俺は、闘気ハンドで融真の首を掴むと、スキルをガタガタと揺らしてみる。

これで緩くなったからいけるかな…?


 俺はもう一度、フラムに、ぺちっとするように言う。俺の言う通り、再び融真の首に手を触れるフラム。


 十秒ほどして、フラムが掌をぐーぱーぐーぱーさせているので、見ているとそのまま吸い上げたスキルを小さな手でガシッと掴んだ。


 どうするのか観察していると突然、フラムはまるで綿菓子を食べるかのようにスキルのタマシイをもしゃもしゃと食べ始めた。

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