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フラムちゃん観察記Ⅰ。

 リベルトを見送った後、俺達は部屋に戻る。エミルの身柄確保の作戦を考える為だが…。


 まぁ、作戦も何も俺が一人で街道歩いていれば出て来るだろう。連絡要員としてリーちゃんに付いて来て貰い、何かあれば皆に連絡して貰う事にした。


 大雑把だが、作戦も決まったので俺はアイテムボックスから歯磨きセットを取り出し、洗面所に向かった。


 フラムがとことこ付いて来るので洗面台の端に座らせて、うがいをさせる。不思議な事にフラムは昨日に比べて少し大きくなっていた。既にリーちゃんの身長を越している。

 

 しかも、ハイハイではなくちゃんと立って歩いていた。


 …成長が早いな…そう思いつつ、俺は歯磨きを始めた。


 まずは何を始めるにしても歯磨きをしてトイレを済ませてからだろう。朝スッキリすると一日がとても爽快になる。


 今度、地球に戻った時に、フラム用に子供歯磨きセット持ってくるか…。


 歯磨きの後、トイレに入る。またフラムが付いて来ようとしたので、皆に止めて貰った。その間に用を足す。う〇こがもりもり出たのでとても爽快だ。


 手を洗ってトイレから出ると、フラムがとてててっと寄ってきたので抱っこする。俺はアイテムボックスから布の端切れを出すと、くるくると丸めて小さなボールを作った。


「フラム、一緒に遊ぶか?」

 

 フラムを床に下ろすと、ボールを転がしてあげる。きゃっきゃっと喜んでボールを取りに行くフラム。今度はフラムが、俺に向かってボールを転がす。


 キャッチしてまた、フラムの方へ転がして上げた。


 ひとしきり、ボール遊びをすると疲れたのか、フラムはトコトコとテラスのある窓際に行く。陽の当たる暖かい場所でぺたっと座った。


 お日様に当たりながら、フラムがうとうとしている。そのまま後ろに倒れると危ないので、布を折りたたんでその上に寝かせた。


 さて、出掛ける前にちょっとストレッチでもしておくか。そう思いつつテラスに出ようとした俺に、ティーちゃん達が突っ込んできた。


「アンソニーよ、さっきからのんびりしておるがエミルを捕まえに行くんじゃないんか?」

「そーでしゅよ、早く戦いに行くでしゅ」

「そんなに急がなくても、大丈夫だよ。向こうさんも朝飯と歯磨きとう〇こくらいはしてから出て来るでしょ?」

「それはそうじゃが…」

「戦闘中にいきなり便意を催したら最悪だからね。…あっ、ゴメン!!う〇こ出そうだから、ちょっとタイム!!…って言われてもお互い気まずくなるし…。まぁ、そこは待ってあげるのが紳士ってもんだけどね…」

「…そーでしゅね…」

「…ていうか、そんな能力者いたら怖いよねー。範囲内で下痢を引き起こすヤツとか…ある意味、最強かもしれないよ?」

「リーちゃん、変な事言うの止めて…。マジで出てきそうで怖いから…」


 俺達が話している傍で、お日様に当たりながら眠っているフラムに、クレアが添い寝をしていた。


「…フフフ、我が娘よ。可愛いのぅ…」


 などと呟いている…。


「クレア。フラムはお前の娘じゃない!!俺の娘だからなw!!」

「…フフッ、主の娘はすなわち、わらわの娘でもありますぞ?」


 なんだその、『お前の者は俺のモノ』みたいなジャイ〇ン的思考は…。まぁ今後クレアにもフラムの世話を頼む事もあるだろうからそれ以上は何も言わないで置いた。



 現在、午前九の刻半だ。さて出掛けるか。


「そろそろ行ってくるよ」


 皆に伝えて部屋から出ようとするとフラムが、とてててっと付いて来た。眠い目を擦りながら俺の足元でズボンの裾を掴んで見上げている。どうやらお昼寝から目覚めたようだ。


「フラム、パパはちょっと出てくるから部屋で待っててな?」


 そう言いつつ抱っこしてやる。そのままクレアに預けようとしたが、ぎゅっと胸にしがみついて離れなかった。


「あらら、こりゃ困ったな。一緒にお外に行きたいのかな…?」

「フラムよ、母と一緒に部屋で待つのだ。主が呼べばすぐに会いに行くのだからな…」

「そーでしゅ、一緒に待つでしゅ。お外はとっても危ないんでしゅ」


 しかし皆の説得に応じる事無く、フラムは顔をしかめたまま俺から離れようとしなかった…。


「仕方ないのぅ。フラムが行くなら安全の為にわたしらも付いて行くしかないじゃろうな…」

「…いや、『ゾーン・エクストリーム』があれば何とかなるし、リーちゃんもいるから大丈夫だよ。皆はここで待ってて…」

「…主、そう言う訳にも行きますまい。あの変人(ジキタリス)の様な能力者もいます。念には念をですぞ?」

「そーでしゅ。フラムが行くなら、皆で護って上げるでしゅ」


 …そう言われたので仕方なく、皆で行く事にした。


 街を歩いて東門に到着。東門で外出手続きをしてから、俺達は街道を東に進んでウェルフォードに向かった。



 しかし何と言うか…。


 後ろから隠れて付いてくる三人の距離が近い上に、挙動不審過ぎるw


 確かに心配なのは解かるが、二十メートルも離れていない。更に、クレア、ティーちゃん、シーちゃんが三人とも、周りを異常な程に警戒しているので、怪しい事この上ない…。


 この街道は人通りがほとんどない。だから俺達だけなので丸わかりだった…。この状況でエミルや、ジキタリスの様な刺客が出で来る事はまずないだろう。


 俺達の情報が流れているなら尚更だ。俺達四人を相手に、一人で出て来るヤツがいるとしたら相当のバカだ。


 その時、突如レーダーマップに一つの赤い光点が現れた。


 …バカいたよ…。


 遮蔽が解かれた瞬間、目の前に男が現れた。



 その男は、黒い短髪に白く長い鉢巻をしていた。眉毛が濃く、目力が凄い。学ランの様な服を着て袖を捲っている。

 

 応援団にいそうなヤツだな…。


 しかし応援団のヤツは白い手袋をしているが、コイツは真っ赤なオープンフィンガーグローブを嵌めていた。今から喧嘩にでも行くのだろうかw?


 そいつは話しながら、ゆっくりと近づいて来た。

 

「俺は(はがね) 融真(ゆうま)だ。アンタがホワイトだな…?」

「あぁ、そうだ。しかし一人で出てくるチミは相当闘いに自信があるんだろうね?」

「…あぁ、そうだ。しかしアンタ、抱いてる子供、後ろに預けた方がいいんじゃないか?戦闘で死んでも俺は知らないぞ?」

「あぁ、この子が中々離れてくれなくてねぇ。やりにくいなら、後ろの連れが相手するけど?」


 その言葉に、融真と名乗った男が顔をしかめる。


「いや、俺はアンタを殺すか、連れて来いと言われて…」


 しかし、融真はそこまで言うと後ろを振り返る。そして再び顔をしかめた。


「…子供か奥さんでもいいって…?エミルがそう言ったのか!?」


 どうやら遮蔽付きの送迎フードと話しているようだ。融真は顔をしかめたまま呟く。


「…エミルのヤツ、どんだけ根性がひねくれてんだか…」

「融真くんよ。後ろのヤツと話は付いたかな?」

「…あぁ。まずはアンタの連れから殺していくよ」

「…フフ、チミィ、大層な自信だねぇ。さて、後ろの三人を倒して俺まで辿り着けるか楽しみだわ…」

「…あぁ、俺も楽しみだ。アルギス様を殺ったヤツらと闘えるからな…」


 クレアが、俺の隣に立つ。


「…主、聞こえましたぞ。戦闘でフラムに被害が飛び火しない様に下がっていて下され…」

「あぁ、頼む。大丈夫だと思うが、油断はするなよ?」

「解っておりますとも…」


 俺達のやり取りを黙ったまま、見ている融真。俺には、ヤツのスキルが視えていた。


≪クレア、アイツのスキル教えようか?≫

≪…主、ネタばれというヤツをやってくれますな?≫


 クレアがそう言うので任せる事にした。


「…奥さん、ダンナと子供にお別れの挨拶をしなくていいのか?」


 その言葉にクレアが答える。


「その必要はない。何故ならわらわが敗ける事など在りえないからな。それよりも小僧、お前こそ覚悟は出来たのだろうな?」

「…後悔しても知らないからな…?」


 沈黙が流れる。二人とも、ゆっくりと歩いて拳打が当たる程に間合いを詰めた。



 俺はクレアが(ゆうま)と戦っている間に、送迎フードを倒す事にした。どうやって探そうか考えていると、フラムが俺の服をクィッと引っ張る。


「…ん?フラム、どうした?」


 フラムを見ると、小さな手で何もない空間を指差している。


「…アレっ?フラムは視えてるのか?」


 どうやらフラムは隠れている送迎フードがどこにいるか俺に教えてくれているようだ。俺はそこらに転がっている手頃な石を拾う。


 石に電撃を纏わせて、それを何もない空間に向かって投げ付けた。直後に「ギャッ!!」という叫び声と共に現れたフードが気絶していた。


 どうしてフラムはフードの隠れている場所が解かったんだ?俺が考えているとティーちゃんが驚きと共に教えてくれた。


「アンソニー!!フラムはスキルを発現しておるんじゃ!!」


 ティーちゃんの鑑定を見た俺は驚いた。昨日はスキルはなかったが『純粋な眼』『まねっこ』の二つのスキルがあった。


 俺はスキル説明文を読んでみる。


 『純粋な眼』小さな子供の眼は純粋であるが故に、見えないモノが視えてしまう事がある。コワいものが見えた時は、優しく抱っこして上げましょう。緑色スキル。


 …純粋な眼ってw確かに大人じゃ視えなくなってしまうモノもあるけど…。続いてもう一つ『まねっこ』も読んでみる。


 『まねっこ』小さな子供は何でも真似をするもの。子供の前で悪い事しちゃダメ!!絶対!!黄色スキル。


 …何だろう?このスキルはw?単純に俺のマネをしてたから獲得したのか?スキルとかも真似るのかなw?


 しばらくフラムを視ていた俺はある事に気が付いた。極弱く狭い範囲だったが、スキルのエネルギーがフラムを中心に球状に拡がっていたのだ。


 …これは!!『ゾーン・エクストリーム』か!?なぜフラムが俺のスキルを使えるんだ?


 ティーちゃんとシーちゃんも気が付いたようだ。


≪アンソニーよ。まさにそれが『まねっこ』スキルじゃなかろうか?≫

≪…見ただけですぐマネ出来るなんて、フラムは凄いでしゅ!!≫


 しかしいくら真似をすると言っても天使に創成して貰った高等スキルだそ?こんな小さな子にすぐマネが出来るかな?


 その時、俺はフローレンスの言葉を思い出した。フローレンスはフラムを生み出す際、俺の細胞を使ったと言っていた…。


 臓器移植でその元の人間の細胞の記憶によって移植された人の習性が変わるというのを聞いた事がある。フラムの細胞に、俺の記憶があるのかもしれない…。


 …俺は鳥肌が立った。


「…ティーちゃん、シーちゃん。フラムは、俺達が思っている程、弱い存在ではないかもしれない…」

「どういう事じゃ?」


 俺はさっき気付いた仮説を話した。


「…あり得る話じゃな。その可能性は高いじゃろう」

「それだと、フラムはアンソニーのスキルとまねっこでどんどん強くなるって事でしゅか?」

「…そうだと思う」

「でもまだ子供だからね。スキルが完全覚醒するまではしっかり護って上げないと…」


 リーちゃんの言葉に、俺達は頷いた。


 俺達が話していると、フラムがまたも俺の服をクィッと引っ張る。フラムは倒れているフードの方を指差し、俺を誘導しているようだ。


 フードの傍まで来ると、フラムがもぞもぞし始めた。どうやら下りたいらしい。すぐに下ろしてやるとフラムは、俺の真似をしているのか小さな手からごく弱い電撃をバチッと出した。


 そして、気絶してうつ伏せに倒れているフードの首をぺたっと触る。

しばらくしてフラムは俺を見上げて両手を上げた。


 俺は再び、フラムを抱っこしてやる。


 俺はフラムのスキル欄を覗いて驚いた。スキルが増えていたのだ。サンダークラップは見せていない。当然、スキル泥棒もフラムには見せていない。


 しかしフラムのスキル欄には、『サンダークラップ(遺伝)』、『スキル泥棒(遺伝)』、『ゾーン・エクストリーム(遺伝)』が追加されていた。


 …そうか。俺のスキルが遺伝したのか!!


 そしてフードのスキル『遮蔽』『瞬転移』『ネットワーク』『スーサイド』が新たに追加されていた。


 俺は驚きつつもフラムからスーサイドだけ抜き取る。そんな俺を不思議そうに見上げているフラム。

俺はフラムを褒めて上げた。子供は褒めるとよく育つって聞いた事あるからねw


「フラム、偉いな。よくやったぞ!!」

「うむ。フラムや、頑張ったのぅ!!」

「フラムは凄いでしゅ!!」


 フラムを褒めている中、リーちゃんが慌てて俺達を呼ぶ。リーちゃんに言われて、戦闘中のクレアと融真を見た。


 俺達が考えていたよりも、融真のスキルはかなり厄介な様だ。クレアがまさかの苦戦をしていた…。

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