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夢の中で。

 皆がリビングで話している中、俺は練習で作ってきた酢飯、シャリ玉を取り出す。海苔、醤油、ワサビ、巻きす(巻き寿司を作る玉すだれみたいなやつ)、それからパラゴニアで捌いた魚も取り出した。


 既にフィレ状態で持って来たので皮を引いて、まずは刺身を造る。大根ケンも貰ってきていたので丸い器を借りてケンを盛って行く。


 そこにマグロ、ブリ、サーモン、タイ、タコ、イカなどを盛り付けて刺身を完成させた。


 次に鮨ネタとして各素材をカット、シャリ玉の上に乗せて軽く握ると丸い器を借りてそこに綺麗に並べていく。

 クレア待望のスライス牛肉は、厨房の火を借りて少し炙り、シャリ玉に乗せた。


 その後、海鮮太巻きを作る。巻きすの上に海苔を乗せて、酢飯を潰さない様に海苔の上下、三分の二くらいに拡げていく。


 海苔の両端ギリギリまで酢飯を拡げて、両端を土手の様に固めておくと巻いた後に両端がへこまなくて綺麗に出来る。海苔、拡げた酢飯に大葉を乗せて、マグロ、ブリ、サーモン、タイの芯を入れるとクルッと巻く。半分ほど巻いて酢飯を締めあげると、前に転がしつつ全て巻いて再度締める。

 

 これで巻き鮨も完成した。巻き鮨は八切にカットして横長の皿を借りて盛り付けた。



 完成した刺身と鮨を持って皆の待つリビングへ行く。持ち切れない分は館の料理人達が運んでくれた。俺達は、館の料理人達も交えて試食会を始める事にした。


 クレアがまず、ラフレス夫人に肉の乗った握りを勧めていた。


「ラフレス、この牛肉が絶品なのだ。食べてみるとよい」


 クレアとラフレス夫人は、戦闘や冒険の話で意気投合したようだ。厨房の中まで話が聞こえて来てたからねw


「…!!…クレア殿、これは最高品質の牛肉なのでは…?口に入れた途端に溶けて無くなりましたよ…」


 ラフレス夫人の驚きの言葉に、クレアは満足そうにうむうむと頷く。その反応を見た一同が、まず炙り牛肉の握りから口にした。


 俺の肩で、「無くなる前に早く取って!!」と急かすリーちゃんの為に、一つだけ取って渡す。


「…おおっ!!確かに最高品質の牛肉ですね。どちらの地方の牛肉なのか気になりますね」


 ロメリックも牛肉の柔らかさと、炙った事によって出た旨みに驚きつつ、舌鼓を打つ。


「…うーん、牛肉はすごく美味しいですが…この下にあるビネガーを混ぜて握ったお米でしょうか…これは少し苦手かな…」


 そう言ったのはリジュリーだ。


「お嬢様、このビネガーの入った米と炙った牛肉の旨みが合わさる事で絶妙な味を体現しているのですよ」


 館の料理人達は何やら料理マンガで言いそうな台詞を言っていたwしかし、皆、肉以外の感想が出てこないなw


 お酒を飲み、子供達はドリンクを飲みながら試食を楽しむ。館の料理人やその見習いに、刺身、鮨と両方食べてもらい感想を聞いた。


「生の魚は初めてですが…この醤油とピリッとした緑の調味料に付けると素材の味を引き出して美味しいですね」

「生魚の乗ったこの鮨とやらはビネガーの米がポイントですね。好みが分かれる所だと思いますが料理人としては新しい味で良いと思いますよ」


 …はいはい、と。晩餐会の為に参考にさせて頂きますw


 全体的に概ね好評だったが、やはり酢飯が好みの別れる所の様だ。晩餐会では、ゲンさんに相談して鮨以外にも海苔でご飯とネタ巻いたやつも出すかな…。

 

 その後、ダイニングルームに移動して、館の料理人達が用意してくれた夕食を頂いた。


 俺達はお酒を飲みつつ、コースで出てくる料理を楽しんだ。パラゴニアでの話と、リベルトを雇った経緯を聞かれたので、掻い摘んで話した。


「…つい先日、引き受けた件で調べてもらう事がありましてね。一人では難しいのでうちに来て貰ったんですよ」

「ふむ、ホワイト殿は、かなり忙しそうですな…」


 テンダー卿の言葉に俺は笑いながら答える。


「苦手な事や解からない事は出来る人間に任せるのが一番ですからね」


 テンダー卿やロメリックは人を動かす立場なので、その事が良くわかっているようだ。二人ともうんうんと頷いていた。


 夕食後、クレアを除く女性達はうちのちびっこ達とリビングでお菓子を食べながらお話していた。


 クレアはまだ、フラムを認めていないのか、ただお酒が飲みたいだけなのか、晩餐会の事について話す俺達に混じっていた。



 美味しい料理を頂き、お酒を飲んだ俺達は、馬車で送って貰って宿屋に戻る。クレアはかなり酔っていたので、そのままベッドでダウンしていた。


 フラムはティーちゃん、シーちゃんと一緒にベッドに入ったが、何やらフラムがぐずり始めたので、俺のベッドに来た。フラムを枕の横に寝かせると安心したのか眠り始めた。それを見たティーちゃんとシーちゃんも、俺のベッドに入ってフラムと一緒にすやすやと眠りに入った。


 皆がベッドの中で眠り始めた頃、半覚醒状態の俺は広いお花畑の中に立っていた。


 あれ?…ここは…?


 周りを見ると、クレア、ティーちゃん、シーちゃんとリベルトもいた。ここは…俺の夢の中なのか?俺はすやすやと眠るフラムを抱っこしていた。


「これは夢の中にわたしらの意識が呼び込まれたようじゃの」

「ここは…ホワイトさんの夢の中、という事ですか…?」


 リベルトにそう聞かれたが、俺は特に何もしていない。


「…いや、俺は呼び込んでないけど…」


 そこへ、突然現れた椿姫が、リベルトの疑問に答える。


「…ここはフラムちゃんの夢の中だと思います。少し遅れましたがわたしもホワイトさんではない何者かによって魂を呼ばれまして…」

「ふむ。そいつがわらわ達をここに呼んだという事か…」


 クレアの言葉には未だに、棘がある。


「しかしフラムは何で俺達を夢の中に呼んだんだろう?凄く気持ち良さそうに寝てるけど…」


 俺の腕の中で、フラムはすやすやと眠っている。その直後、俺達の前に何かが、静かにすぅーっと現れた。


 それは目鼻立ちがはっきりしない、体長百二十センチほどの白く光る人型をした何かだった。それを見たシーちゃんが声を上げる。


「花の精霊フローレンスでしゅ!!」

「わたしらを呼んだのはフローレンスじゃったか。随分久しいのぅ。ずっと世界精霊会議で会わんかったがどこか行ってたんかの?」


 ティーちゃんの呼びかけに、ふわふわと浮遊している花の精霊フローレンスが静かに話し始めた。


「お久しぶりです。妖精女王ティーア、シーア。そして人族の者よ、わたしと花達を開放してくれてありがとう」

「…ん?俺?俺、何かしたっけ…?」


 俺は花の精霊にお礼を言われて、何があった考えてみた。思い出せない俺に、花の精霊フローレンス説明してくれた。


 どうやらこの世界にジキタリスが転生し、花を使う能力を獲得してからというもの、その能力(スキル)によって酷使されていた花達を護る為に、フローレンスは奔走していたそうだ…。


 俺がジキタリスからスキルを抜き取った事によって、花達はようやく解放された。


「…あぁ、アイツの事か。俺が開放したと言っても偶然の結果だから…」

「それでも花達は救われたのです。だから再度お礼を言わせてもらいます。ありがとう」


 確かに、スキルを使う方は優雅で良いかもしれんが使われる花達にしてみればいい迷惑だ。…アイツ、ホント禄でもないヤツだな。


 フローレンスは花達を助ける為にエネルギーを使ってたのか…。だからもやっとして姿形がはっきりしないんだな。


「妖精女王、わたしはまだエネルギーが完全には戻っていないのでしばらく森の中で隠棲します。その前にここにいる皆さんに頼んでおきたい事があるのです」


 そう言うとフローレンスは、すやすやと眠るフラムの額に触れる。


「…この子を、護ってやって欲しいのです」


 フローレンスはフラムを生み出した経緯を話し始めた。



「あの(ジキタリス)の能力によって多くの花達が散り、死んでいった…。わたしは全てを護り切れなかったのです…。しかし、死んでいった花の魂達はその無念さから昇天する事が出来なかった。だから、わたしは考えたのです。その浮かばれない花の魂達にもう一度、生を与える事を…」


 そしてフローレンスは俺を見ると話を続けた。


「人族の者よ、わたしは毒花粉に耐えうるアナタの細胞を少し分けてもらい、その体内で救われない花の魂達と結合させてこの子を生み出したのです」


 フローレンスはあの時、ジキタリスが出現させた蛇結茨にその魂達を乗せたそうだ。浮かばれない魂を俺の中に入れるには、外からだと『ゾーン・エクストリーム』に阻まれてしまう可能性がある。

 そう考えたフローレンスは、蛇結茨で間接的に俺の体内に魂を送り込んだ。


 そしてフローレンスは戦闘中、対峙していた俺の体内に潜り込み、細胞を少し使って魂達と細胞を結合させてフラムを創り出した。


「この子には救われなかった花の魂達が宿っています。この子を護り、育てて上げて欲しい。わたしは今、エネルギーが完全には戻っておらず、この子を護ってやる事が出来ないのです…」

「…そうか、解かった。ゆっくり休むんじゃ。エネルギーが復活したらまたフラムに会いに来て欲しい」

「…えぇ、ありがとう妖精女王。そして人族を超えつつあるアナタにもこの子を託したい。どうか護ってやって欲しい」


 俺は無言で頷いた。…んっ?人族を超えつつあるって…どういう事w?しかし雰囲気的に聞きづらいのでそこはスルーしておいた。今更だしw

 

 花の精霊フローレンスは眠っているフラムの頬にそっと手を触れる。


「…強く、育つのですよ?」


 そう言い残してフローレンスは消えてしまった。


 フローレンスの代わりに、フラムを何としても護り、育てようと皆が無言の決意を固める中、俺の後ろから、鼻を啜る音が聞こえてきた。


「…ぐすっ、んっ…うぅっ…」


 振り返ると、何故かクレアが号泣していた…。何でw?


「…そう言う事だったのだな、ぐすっ…。フラムよ…。邪険にして…悪かった…。そしてフローレンスよ。我々に任せるが良い。…必ずやこの子を護り、育ててやる!!」


 鼻水垂らして号泣しながら、凄くカッコいい事言ってるけど、コイツまだ酔ってんのかなw?


 さっきまで(かたく)なに認めないって態度だったのに、事情を知ったとたん、急に態度が変わったよ…。皆がドン引きして苦笑いだ。


「…大丈夫だ、この子は我らが必ず護ってやる…」


 強く呟く、クレアの言葉が聞こえた。



 さて、フラムの正体も解った事だし、夢の中から解散するか…。そう伝えようとした時、リベルトから質問を受けた。


「…あの、少し確認したい事があるのですが…」


 というので、どうぞと話を促した。


「…あの…、先程の花の精霊?が言っていましたが…二人のお子さんは、妖精女王なのですか…?」

「…ぁ、あぁ…その事か…」


 確かにリベルトには、そこら辺りの話はしていない。リベルトとは初見の椿姫も紹介しつつ、今までの事をざっと話した。


「…そうですか。それで妖精のネットワークが使えるのですね」

「うん、俺はこの世界に来た時から、この子達と一緒にいるんだ。実はもう一人、と言うかもう一体、妖精のまとめ役のリーアって子もいるんだけどね。視える人と視えない人がいるから、いつも紹介は省いてるんだよ…」


 しかし夢の中だと椿姫と同じで、リベルトにもリーちゃんが視えたようだ。ティーちゃんのポケットの中で涎垂らして寝ているリーちゃんを見て笑っていた。


  

 翌日、皆で一階の料理屋に下りて朝食を食べる。俺が抱っこしていたフラムを見た厨房のおばちゃんが、フラムを見て言う。


「…んんっ?昨日より大きくなってるんじゃないかい?」


 そう言うと、おばちゃんは厨房の奥へ行って、何かを作り始めた。


「ほら、いっぱい食べさせてあげな」


 そう言っておばちゃんは、フラム用に 柔らかな離乳食の様な物を作って持って来てくれた。


「お気遣い、ありがとうございます」


 お礼を言ってからフラムに少しづつ、離乳食をべさせる。食べさせながら、俺も朝食のパンとスープ、ハムエッグと野菜を食べた。


 クレアは昨日までと打って変わって、フラムの口周りを拭いてやったり、俺の代わりに離乳食を食べさせたりしていた。


 朝食を終えた後、リベルトは昨日の試食会と朝食のお礼を言うと、すぐに東鳳に調査に向かうという。


「東鳳は閉鎖的な国の為、調査に少し時間が掛かるかもしれません。何か分かりましたら報告に戻ってまいりますので…」


 東鳳に調査に出るリベルトを見送った俺達は一旦、部屋に戻るとエミルの誘き出し作戦について話す事にした。

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