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試食会。

 俺は、ロメリックに何かを聞こうとしたクレアを部屋の外に連れ出した

 

「…主、急に何ですか?わらわは…」


 皆でギルドの階段を降りながら、俺はクレアに話す。


「…クレア。お前さっきロメリックにエミルが好きなのか聞こうとしただろ?」

「…ん?主は知っておったのですか…?」

「…あぁ、ジキタリスと闘いに行く前に、気になったから思わずロメリックに聞いちゃったんだよ…」

「ほう…それなら何故止めたのですか?」

「姉さま。状況が複雑な今、それを聞いても本人が混乱するじゃろ?」

「…なんだ皆、気が付いておったのか?」


 クレアの言葉にリベルトが頷きつつ答えた。


「…そうですね。敵である少女を不自然な程に気にしていますからね。ホワイトさんに直接、調査を頼んだのもそれがあるからでしょう」

「うん、そうだと思う。俺も気になって思わずエミルの事を聞いちゃったからね…。これ以上は何も聞かずに見守った方がいいと思ってさ…」

「…そうだったのですか…。ロメリックのヤツ、青春しておりますな~」


 そう言いつつ、クレアはガハハと笑っていた。取り敢えず試食会まで時間があるので、宿屋で部屋の予約を取る為に一旦、ギルドから出た。


 俺達はいつものダンディーさんがいる宿屋に向かう。今回も最上階のテラス付きの部屋と隣にもう一つ、リベルトの部屋の予約を取った。


 リベルトには部屋で寛いでもらって、俺は試食会の為の食材の確認を始めた。取り敢えずスタンダードな所で行くと、サーモン、鯛、(ぶり)(まぐろ)後は、烏賊(イカ)(タコ)辺りでいいだろう。


 あとは肉を少し炙って出してみようかな…。


 食材の確認をしている間、ティーちゃん、シーちゃん、リーちゃんにはフラムの世話をして貰った。

三人とも喜んでフラムと遊んでいた。


 クレアは、俺と一緒に食材の確認をします、と言って肉がどれだけあるのかを確認していた。最高級の牛肉は、パラゴニアから戻る際に、ティーちゃん達に世界樹のお店から持って来て貰った。

 

 事前に妖精達にスライスして貰っていた味付き牛肉を、クレアが俺の目を盗んでは、ちょいちょい摘まんで喰ってた…。


「…クレア、あんまり摘まみ食いすると皆の分が無くなるだろ?」

「…ぁっ…しまったあぁァァッ!!牛肉を見てしまうと、つい…」


 しまったァッ…じゃねぇよw最初の一口以降は完全に確信犯だろw


 用意して貰っていたスライス肉を既に半分程、クレアが摘まみ食いしていた。俺はそれ以上食われない様に、包んでアイテムボックスの中に放り込む。


 それを涎を垂らしつつ、名残惜しそうに見るクレア。これ以上食われると皆の分がなくなるからな。そんな目で見ても上げませんw


 暫く部屋で待っていると、迎えの馬車が来たと宿屋のスタッフから知らせてくれた。


 フラムを置いていくわけにいかないので、お包みした後、今度はシーちゃんがポケットに入れて連れて行く事にした。


 部屋で読書をしながら待っていたリベルトを呼んで、一階へと下りていく。


 今回もディストレア家から馬車を出してくれたようだ。俺達は豪華な貴族馬車に乗り込むと、ロメリックの館へと向かった。


「皆さん、ようこそいらっしゃいました。さ、中へどうぞ…」


 ロメリックに促され、館の中央ホールに皆で入っていく。ここに来るのは二度目だが、俺はどうも慣れなくて緊張してしまう。


 一般家庭で育った俺が、貴族の館にすぐに慣れるはずもないんだがw

 

 中央のホールには、ロメリックと執事、そして今回はテンダー卿とその夫人、そしてロメリックの妹もいた。

 家族総出でお出迎えだw


「お邪魔させて頂きます、アンソニー・ホワイトです。よろしくお願いします」


 俺は初対面の夫人と妹に挨拶をした。


「ロメリックの姉でアイゼル・テンダーの妻であるラフレス・テンダーです。こちらこそ、よろしくお願いします」

「その節は助けて頂いて、ありがとうございました。リジュリー・ディストレアです。よろしくお願いします」


 ラフレス夫人、ロメリック、リジュリーの三人は家族ながら、三人とも見た目が似てない。


 ラフレス夫人は背が高く赤毛のストレートのロングヘア、少し釣り目で整った顔立ちの美人さんだ。


 対して妹のリジュリーはほんわかした雰囲気だ。クリーム色のボブヘア、小柄で少しぽっちゃりでおっとり垂れ目な可愛い丸顔さん。


「わたしの妻、ラフレスは今は引退しておりますが、わたしと同じくハンターを長くやっていましてね。同じPT(パーティ)だったんですよ」


 テンダー卿の説明に納得した。失礼ながら雰囲気が余り貴族の夫人、と言った感じではなかったからね。しかし、元々は領主の家で貴族籍だったはず…。姉も弟もハンターやってたとは…かなり自由な両親だったんだろうな…。


 そんな事を考えている横で、クレアが挨拶を始めた。いつものヤツだ…。


「アンソニー・ホワイトの妻でホワイトファミリーのサポートをしているクレア・ホワイトです。よろしくお願いしたい!!」

 

 続いて、うちの二人のちびっこも挨拶をする。


「ティーアなのじゃ、よろしく」

「シーアというでしゅ、よろしくでしゅ」


 二人の挨拶に、ロメリックの妹、リジュリーが声を上げて喜ぶ。


「まぁ、小さくて可愛らしいお子さんが二人もいるんですね…」


 リジュリーはしゃがんで目線を二人に合わせると、「こんにちは、よろしくね」と挨拶をする。


「先日、ホワイトファミリーに入りましたリベルト・グランテと申します。以後よろしくお願いします」


 リベルトも挨拶を終えた所で早速、俺は厨房を借りて鮨と刺身の試食の準備に入った。リジュリーはちびっこ好きなのか、楽しそうに二人を連れてリビングに案内していく。


 それに続いて、テンダー卿、ロメリック、リベルト、クレアとラフレス夫人もリビングに入る。


 例によってリーちゃんはロメリックにしか見えないので、紹介は省いたwリーちゃんは俺の肩に乗って、俺の作業を見ていた。


 館の料理人達も興味津々のようだ。


 

 リジュリーは、ティーちゃんとシーちゃんを一人づつ、抱っこすると大きなふかふかのソファの上に座らせる。


「ちょっと待っててね」


 そう言うと、厨房の方に入って来る。棚を空けて、お菓子やら飲み物を取り出すと大きなお盆に乗せて持って行った。


 リビングの端にある暖炉の傍のソファでは、テンダー卿、ロメリック、リベルト、そしてクレアとラフレス夫人が食前酒でワインを呑みながら談笑しつつ、試食を待っていた。


「はい。おやつと飲み物をどうぞ。遠慮なく食べてね」


 お盆に乗せたお菓子とドリンクを、ガラステーブルの上に並べていくリジュリー。


「ありがとうなのじゃ」

「ありがとでしゅ」


 自身もソファに座りつつ、お菓子を摘まむリジュリー。


「うむ。柔らかいしっとり生地で甘くて美味しいのぅ…」

「それはマドレーヌっていうお菓子よ?異世界の人がこの世界で作り始めたそうなの」

「おおっ、シーも食べるでしゅ」


 マドレーヌを手に取り、齧り始めたシーちゃんのポケットから、もぞもぞ動いたフラムがひょっこり顔を出した。どうやら甘い焼き菓子の匂いに興味を持ったようだ。


 目をぱちぱちさせて、シーちゃんの齧っているマドレーヌを見ていた。


「…ん?フラムも欲しいでしゅか?」


 シーちゃんがポケットにいるフラムに声を掛けると、リジュリーがフラムを見て喜ぶ。


「わぁ!!可愛い子連れてるのね!!その子にもお菓子上げても大丈夫かな?」


 リジュリーに聞かれてシーちゃんがお菓子を(かじ)りながらティーちゃんを見る。


「柔らかいから小さくして食べさせれば大丈夫じゃろ?」


 ティーちゃんの言葉を聞いて、リジュリーはマドレーヌの端を少しちぎると、フラムの目の前に持って行く。


 差し出されたマドレーヌの小さな塊を手に取り、不思議そうに見るフラム。齧って食べているティーちゃんとシーちゃんを見てフラムは目をぱちぱちさせて、再び手に持った塊を見る。


 リジュリーもフラムの前で、マドレーヌを齧って見せる。それを見たフラムは同じ様に小さな口で、もしゃもしゃと柔らかなマドレーヌの端を食べ始めた。


「ふふ、大丈夫みたい」


 小さな塊を食べ切ったフラムは、目をぱちぱちさせてにぱっと笑うとリジュリーを見て手を伸ばす。


「もうちょっと食べてみる?」


 そう言って再び、端をちぎって小さな塊をフラムの手に持たせた。フラムは手に持った塊を、もしゃもしゃと食べる。


「紹介を忘れておったんじゃが、この子はフラムと言うんじゃ。わたしらの妹みたいな感じじゃな」

「そうなのね。この子はホムンクルスかな?お洋服は着せてないの?」


 リジュリーの質問にシーちゃんが答える。


「まだ生まれたばっかりなんでしゅ」

「…ふぅん、そうなんだ…。…そうだ!!ちょっと待ってて…」


 そう言ってリビングを出たリジュリーはどこかへ行ってしまった。


 暫くして、お菓子を食べながら待っていたティーちゃん達の前に、リジュリーが小型のキャリーバッグ程の箱を持って来た。


「これ、わたしがお仕事で使ってるんだけど、錬金縫製の道具と素材が入ってるの。フラムちゃんくらいの小さな子の服ならすぐに作れるから…」


 そう言うと、リジュリーは「フラムちゃん、ちょっと出て来てね」と言うと、シーちゃんのポケットから抱き上げて、ガラステーブルの上にフラムを乗せた。


 フラムは、シーちゃんにちぎって貰ったお菓子の小さな塊を齧りながら、リジュリーを見上げて、目をぱちぱちさせている。


「ティーアちゃんとシーアちゃん二人の洋服のデザインに近い感じにするね。この錬金縫製で服を作れば、少しくらい大きくなってもそのままサイズに合わせて着れるから便利だと思う…」


 そう言いつつ、リジュリーはフラムを採寸して、紙にサイズを書き起こすと、その通りに布を裁縫ハサミで切っていく。


 糸と針を取り出す。これもまた錬金術を施した糸だとリジュリーが話しているのが俺の耳にも聞こえて来た。


 リジュリーは、ついでとばかりに手際よく、下着も作ってくれた。ソファに座って両側からリジュリーの作業を見守るティーちゃんとシーちゃん。

 フラムも目をぱちぱちさせながら嬉しそうにじっと見ていた。


「出来ました!!」


 暫くして大きな襟、大きなポケットの付いたライトイエローに白いラインが施された小さなスモックが出来た。下も二人と同じく、小さなカボチャパンツの様な可愛らしいズボンだ。


 リジュリーが、はだかんぼだったフラムに白い下着を着せると、カボチャズボンとスモックを着せる。


「おおっ、良かったのぅフラム!!」

「フラムが更に可愛くなったでしゅ!!」


 ワインを呑んでいた大人達もリジュリー制作の服を着たフラムを見て驚く。


「小さな服をあれだけの精度で作れるのは凄いですね」


 リベルトの言葉に、ロメリックが答える。


「リジュリーは錬金術屋で錬金術装備の見習いをしているんです。錬金術師の能力を引き上げる為の装備の縫製見習いなんですよ」

「ほほぅ、かなり高価な物になるのでは…?」


 リベルトの疑問にラフレス夫人が答える。


「そうですね。通常の装備よりかなり高くなります。レアが付くとかなり高価になりますよ。しかし、珍しいですね。この子はホムンクルスですか?」


 リベルトに錬金装備についての価値を話しつつ、夫人は元ハンターだけあってホムンクルスに興味を持ったようだ。


「…あぁ、そいつは…我が主が草原で拾ってきた子なのです。ホムンクルスと言って良いかどうかはまだ解かりませんな…」


 クレアがフラムについて話しているのが聞こえたが、その言葉の調子からまだフラムの存在を認めていない様だ。大人たちが見守る中、リジュリーはフラムを抱っこしてみたり、小さな毛玉を転がして一緒に遊んでいた。


「リジュリー、フラムの洋服代はいくらするんかのぅ?」


 ティーちゃんの質問に、リジュリーは首を横に振って答えた。


「ホワイトさんに助けてもらったお礼をしてなかったし、わたしはまだ見習いだからこの服はそんなに高価にはならないの。だからお金はいいのよ。この服がお礼の代わりになるか分からないけど、フラムちゃんに上げます」


 リジュリーの言葉に、俺は厨房の奥から「ありがとう、貰っておくよ」と声を上げた。


「うんうん、良かったでしゅねフラム」


 和やかな一同の中、クレアは一人だけ釈然としないようだった…。

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― 新着の感想 ―
[一言] フラムと聞くと最近ライザをやっている身としてはちょっと気になる
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