ナニもしてない。
俺の背後に現れ、動きの止まった送迎屋フードが持つ剣を振り向きざまに弾く。
「…いると思ってたぜ。シャリノアの時、毒島もエミルも遮蔽スキルを持っていなかったのに突然現れたからな。お前が遮蔽付き送迎屋さんだな?」
そして俺は動揺して動けないフードに拳を喰らわせた。
「気絶パーンチッ!!」
サンダークラップを応用して、電撃を纏わせた拳で軽く手加減して殴り飛ばし、気絶させた。近づいて首を掴むと、フードのスキルを確認する。
『遮蔽』、『瞬転移』、『ネットワーク』、『スーサイド』がある。スーサイド?自殺?自爆か…?
俺は慌てて、まずはそれから抽出した。先に気絶させて置いて良かったw
残りのスキルもすべて抽出して、次に気絶したジキタリスのスキルも確認する。『毒花粉』、『ラフレシアオウダー』、『蛇結茨』、『パラサイトブルーム』、『花絨毯』、『剣技+2』などだ。
…コイツ、結構スキル持ってるな。自信があったのも頷けるわ…。
ジキタリスのスキルも全て抽出すると、俺は二人を引き摺ってブレーリンの西門に戻って行く。
草原から、二人を引き摺ってきた俺を見て、衛兵が敬礼をした。
「…お疲れ様です!!そいつらは盗賊の類ですか…?」
ブレーリンの衛兵は、俺がテンダー卿やロメリックといるのを見ているので覚えてくれている。
俺は潜入していた教皇領のヤツを捕まえたと説明した。それを聞いたとたんに衛兵は慌てて警備本部に走って行った。
残っていた衛兵達に案内された俺は、警備隊の対応を待っている間、衛兵の詰め所で待たせてもらう事にした。
警備の詰め所で待っていると、暫くしてリーちゃんの転移で四人が戻ってきた。残っていた衛兵達は詰所の外でジキタリスとフードを厳重に見張ってくれている。
まずはリベルトから、報告を受けた。
「…ホワイトさん、エミルは既に仲間と接触しているようです。それからエミルの仲間達とは別に、遮蔽と転移スキルを持った者を確認しました」
「うん。こっちにも遮蔽付き送迎屋がいたよ。外に繋いでるフードのヤツがそれだ。ジキタリスと一緒に捕まえといた」
「アンソニーよ、よくやった。真面目に戦闘したんじゃのう…」
「まぁね。妙なスキルばっかりだったけど、戦闘訓練にはなったよ。まさかゾーン・エクストリームをすり抜けられるとは思わなかったけどね…」
話す俺の横で、クレアが悔しそうにしていた。
「…主、すみませぬ。こっちは送迎フードとチャビー肉団子を逃がしてしまいました…」
「いいよ。聞く限りそんなに脅威になりそうな男でもなさそうだし、別に逃がしても大丈夫だろ?」
話していると、ティーちゃんが俺の懐にいる小人に気が付いた。
「それはそうと、アンソニーよ。そこにおるのは何じゃ…?」
ティーちゃんに聞かれて、俺はすっかり忘れていた『それ』を思い出した。俺は括りつけていた布を解くと、お包みしていた小人を皆に見せる。
改めて良く見ると、髪は明るい栗色でさっぱりショートヘアで肌の色は透き通るように白い。小人は大きな可愛いブラウンの瞳をぱちぱちさせて、皆を見上げていた。
「おおっ、なんかかわいいでしゅね!!」
「そうじゃの、目がくりくりしとってかわいいのぅ…」
「ホワイトさん、この子はどこから連れて来られたのですか?」
リベルトの問いに答えようとした俺の横で、何故かクレアが、わなわなと震えていた。
「…ぁ、主ィィッ!!いつの間に子作りしたのですかァーッ!!」
「いや、ちょっと待てよ!!こんな短時間で子作りなんかできる訳ないだろ!!しかも子供はすぐに生まれてこないって!!」
「…ぁ、主…わらわは…わらわは浮気など、許しませんぞッ!!」
「…良いから一旦、落ち付け!!この子は草原で拾ったんだよ!!」
俺の言葉に、ようやく落ち着くクレア。
「…ん?そうなんですか?それならそうと早く言って下さればよいものを…」
「お前は早とちりし過ぎなんだよ…」
「…いや、わらわは主がよもやあのオ〇マ(ジキタリス)と、草原でナニをしたのかと疑ってしまったのです」
「そう言う事、言うのやめろ!!変な想像しちゃうだろうが!!」
「しかし何で、草原に小人が落ちてたんでしゅかね?」
皆の疑問に答える為に、俺はジキタリスから寄生花のスキルを受けた後、俺の身体の一部からこの子が出て来たと説明した。
「何ですとォッ!!やはり、あのオ〇マ(ジキタリス)とナニしてたのですかァッ!!」
「いや、落ち着けって!!男と男がナニしてもナニも出来ないだろうがッ!!」
この不毛な言い合いの中、一人考えていたリベルトが口を開く。
「…奥方、もしやこれはホムンクルスではないでしょうか?敵の能力がホワイトさんの身体に何らかの影響を与えた事で、生み出された分身のようなものなのでは…?」
「ホムンクルスか…。錬金術以外で身体の中でホムンクルスが生成されるというのは初耳じゃが…他に説明が付かんからのぅ…」
リベルトとティーちゃんが見解を述べる中、クレアは、
「他人の子供などわらわは育てませんからな!!」
とか言っているし…。
だから浮気相手の子供とかじゃねぇ…。
警備室のテーブルの上で四つん這いになってハイハイするホムンクルス?をシーちゃんが抱き上げて、高い高いをしてあげる。
「ほーら、高い高いでしゅよ」
きゃっきゃっと喜ぶ小人。リーちゃんも興味を持ったのか、頭を撫でてみたり、頬をつんつんしたりしている。
「…それで名前は付けてやったんかの?」
「いや、まだだけど…。うーん、そうだな…草原で生まれたから草太郎でいいかな?」
「…その名前はひどすぎるでしゅ…」
「…ホワイトさん、それはちょっと…」
シーちゃんとリベルトに突っ込まれたので、俺は考え直してみる。
「…花から生まれた花太郎?にしようか…?」
「いや、アンソニーよ。まず『太郎』から離れるんじゃ。この小人はアレが付いておらんじゃろ?」
言われてみるとそうだ、アレが無い。
「…じゃあ、花子にしようか?」
「じゃあって何よ?全宇宙の花子さんに謝った方がいいわよ?」
リーちゃんにそう言われたけど、全宇宙に花子さんってそんなにいるのかw?またダメ出しされたので俺はもう一度、真面目に考えてみた。
花か…フラワー、フローラル、ブロッサム…どうしようかな…。ブツブツと呟きながら真面目に考えている俺をキラキラとした瞳で見上げる小人。
「お花の名前を付けてあげるのですか?」
「ぅわっ…」
突然、背後から声を掛けられて、俺は驚いてビクッと身体を震わせた。
「…あ、すみません。驚かせちゃいましたね…」
どうやら椿姫もこのやり取りを聞いていたようだ。
小人は椿姫が見えるのか、近づいて触れようとする。しかし、小さなお手てがすり抜けるので不思議そうに見上げていた。
「先程ホワイトさんが呟いていた、フラワー、フローラル、ブロッサムを合わせて『フラム』ちゃんでいいのではないでしょうか…?」
椿姫の言葉に、暫く考えていた俺だったが、これ以上考えてもいい名前が浮かびそうにないのでその案に乗る事にした。
俺は大きな瞳で見上げる小人を両手で抱き上げる。
「…うん、フラムにしよう。今日からお前は『フラム』だ。よろしくな」
俺が名前を付けた瞬間、小人は身体から光を放った。
「どうやら『名前持ち』になったようじゃな」
「それってネームドって事…?」
「そうじゃ、どうやらモンスター枠の存在の様じゃのぅ…」
「という事は、ホムンクルスなのかよくわからんでしゅね…」
俺達が話している間、クレアだけは腕組みしたまま、「オ〇マとの間に出来た子など絶対に、絶対に育てませんからな!!」ってまだ言ってた…。
そうこうしている内に、テンダー卿がブレーリンの警備隊長と共に来てくれた。警備隊長と警備隊に、一応二人ともスキルを全部無効化させているが、連行している時は周囲に注意を払ってくれと頼んでおいた。
まだ別のフードが隠れている可能性が無いとは言えないからな…。
グルグルの洲巻にしておいたジキタリスと送迎屋フードの二人は、警備隊員達に担がれて、警備隊本部へと連れて行かれた。
取り敢えずフラムは眠そうにしていたので、再びお包みしてティーちゃんがポケットに入れて寝かせた。
◇
俺達はテンダー卿と共にブレーリンギルトのマスター、ロメリックの部屋にいた。諸々の話の前に、試食会で紹介するはずだったリベルトをテンダー卿とロメリックに引き合わせる。
「まず話をする前に、うちに入ったリベルトを紹介します。新たに請け負った件がありましてね。情報収集や分析、相談役をして貰っています」
俺の紹介と共にリベルトが挨拶をする。
「先日、ホワイトファミリーに入りましたリベルト・グランテと申します。以後、よろしくお願いします」
「こちらこそ、アイゼル・テンダーと申します。よろしくお願いしたい」
「ブレーリンギルドのマスター、ロメリック・ディストレアです。よろしくお願いします」
ついでにと言うかテンダー卿はクレアと初見だったので紹介…しようとしたら、自分からいつもの自己紹介をしていた…。
お互いの挨拶が終わった所で俺達は報告を始めた。
既にエミルの仲間が接触していた事、それとは別に仲間達を送迎していた遮蔽付きの送迎フードの存在を話す。
「東門の向こうで戦闘になったジキタリス・リーロウとお付のフードはスキルを無効化して捕まえて警備隊に連れて行ってもらったよ」
「…すまぬが、ウェルフォードの方は取り逃がしてしまったのだ…」
俺とクレアの報告を、調査報告書に記入するロメリック。
「エミルには遭遇しなかったけど、ジキタリスとチャビーはエミルの仲間って言ってたからすぐに殺される心配はないと思う」
続けてエミルの行動予測を話した。
「恐らく仲間達と接触して、この王国内で潜伏を続けて装備を整えると思う。理由はアルギスの敵討ちで俺に復讐しに来るってとこかな…」
「…そうですか…ご苦労様でした」
俺の話に暗い表情のまま報告書に記入するロメリック。そんなロメリックを見てテンダー卿が話す。
「今回、ホワイト殿が捕まえた二人を尋問してみる。口を割るとは思えんが何か情報を一つでも引き出せたら知らせに来るよ」
そう言って、テンダー卿はロメリックの肩をポンポンと叩くと、一旦仕事の為に庁舎に戻って行った。
「俺達の方も、晩餐会まで何日かあるから、その間に誘き出し作戦をやってみるよ。上手く乗ってくれば良いけどね…」
「…ありがとうございます。双方に被害が出る前に何とか…」
そう言いつつ、暗い表情のままのロメリック。
本人はまだ気づいていないかもしれないけど、この恋は…冬の雪山に登るくらい難しくて厳しいだろう…。結婚してない俺が言うのもアレだけどw
「ロメリックよ、お主もしや…」
すぐ横で、クレアがロメリックに何かを聞こうとしているのを慌てて止める。
「ロメリック、俺達は一旦、宿屋で試食会の準備をしてくるよ」
そう伝えてクレアを引き摺って部屋の外へ出た。