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潜入者。

 俺が立っている場所一帯に、既にジキタリスのスキルが展開されていた。棘付きの(つた)系の植物が拡がっていた。 


 …これは『蛇結茨(ジャケツイバラ)』とかいうスキルだな…。足元を拘束するのか…棘が刺さってちょっと痛いけど、だから何w?って感じだ。


「…フフフ、これでアナタ、もう動けないわよ?どうするの?」

「あぁ、俺はここから動く必要なんかないんだよ。動かなくてもアンタを倒せるからね。で?これで終わりじゃないよね?」

「…随分余裕ね。でもその余裕、いつまで持つかしらね…」

「アンタ、あともう一つ、スキルあるだろ?『パラサイト・ブルーム』ってヤツか?早く見せてくれ…」

「…!!…アナタ、鑑定スキル持ってるのね…?」

「…さぁ、どうかな…?ただ、アンタのスキルは全部見えてるけどね…」


 俺の言葉に、不敵な笑みを浮かべつつジキタリスが叫ぶ。


「…ブルーム!!見せてやりなさい!!この能力の恐ろしさを!!」


 ジキタリスの声と同時に、俺の両膝の皮膚が裂けて血が噴き出し、芽が飛び出す。


「…ぅわっ、キモっ…ていうかプチ痛いw」

「フフッ、まずは両足からよ!!そして次は両腕を無力化よ!!アナタはわたしの範囲に入った時点で敗けてるのよオォォ!!」


 俺の両膝、両肘から血を噴き出しつつ飛び出した芽は、あっという間に蕾を付けて、直径二十センチほどの花を咲かせた。


 極彩色を纏うその花びらの中心から、(さなぎ)の様なモノが徐々に飛び出し、花びらの中でその殻を脱ぎ捨てる。

 中から出て来たのは、数十センチの目鼻立ちがハッキリしない緑色の人型のモンスターだった。


「…うわっ、マジでキモチワルイ…なんだこの能力…」


 両膝、両肘から出血して少し痛いくらいで、後はキモチワルイくらい?ただそれだけだった…。


「わたしは何も攻撃しない!!そしてわたしの能力も攻撃などしない!!ただそこに出現して活動するだけ!!アナタはわたしの範囲で蛇結茨に絡み付かれた時にもう終わってるのよ!!さぁ、これからアナタはブルームに全ての生命力を吸い取られて搾りカスになって死ぬのよオォォォォッ…!!」


 …だから何なんだろうw?コイツら人型の花モンスターが「チュミミィィィィィンッ!!」とか言いながら攻撃してくるならいざ知らず…生命力を吸い取るだけかよ…。


 俺はジキタリスの『パラサイト・ブルーム』の説明文をさらっと見る。


 『パラサイト・ブルーム』蛇結茨の棘から寄生花の種を対象に侵入させる。対象の身体から生まれた花人間(ブルーム)が、宿主を弱らせて死に至らしめるまで、生命力を吸い続ける。


 …と、なっている。


 ポイントは『宿主が死ぬまで、生命力を吸い続ける』という所だ。


「クククッ、アナタがどこまで耐えられるか楽しみね…」

「そうだな…、俺も楽しみだわ…」


 …たった四体で振り切れステータスの体力を吸い尽くせるかお楽しみだな。


 どんどん、俺の生命力を吸い上げていく花人間達。生命力を吸収するにしたがい、花人間はその身体と目鼻立ちをはっきりさせてくる。


 腰から頭まで約三十センチほどに成長した花人間はギョロッと大きな黄色い目を俺に向けて笑う。


「…うわっ、やっぱりキモチワルイ…」


 生命力吸い上げるのもピークに来たのか、花人間達は大きく裂けた口の中の牙を見せて今にも俺の身体に嚙み付きそうになっていた。


「さぁ、ブルーム!!その男を恐怖のそこに堕としてやるのよオォォッ!!」


 ジキタリスの号令と共に、俺の両膝両肘から生えた花人間が今にも俺の身体に嚙み付きそうになったその瞬間、異変が起きた。


 花人間達は「キシャアァァァッ…」と、声を上げると急に苦しみ始めた。


「…ど、どうしたのよ?一体、何が起きてるの…?」


 俺は我慢していた笑いを思わず漏らしてしまった。


「…ぷっ…くくっ…うひっ、うひゃっ、うひゃひゃっひゃっ…!!」

「…な、何よ、アナタ、苦しくて気が狂ったの…?」

「…いいや、やっぱり俺の生命力を全て吸い取るなんて出来なかったな!!ていうか、対象が死ぬまで生命力を吸い続けるんだろ?花人間(コイツら)にとっては自殺行為以外のナニモノでもないな…」


 ジキタリスが見ている前で、花人間達は苦しみだしたかと思うと、急速にその身体を萎ませていく。


「…アアァァァァ…」


 声を上げて、萎んでいく花人間達。そしてついに、枯れ木の様になってボロリと俺の身体から落ちた。俺の両膝両肘から咲いていた極彩色の花びらも同時に散っていく。


「ど、どういう事よ?どうしてブルーム達が…枯れて…」


 震える声で、ジキタリスが呻く様に声を上げる。どういう事か分からない様子のジキタリスに説明してやった。


「栄養過剰摂取ってトコかな。草木と言うのは栄養が多過ぎても根腐れしたりするからな。まぁ、もっとも今回はたった四体の花人間じゃ俺の全生命力は吸い尽くせなかったって事だな」


 花人間達は俺の振り切れステータスの栄養を摂り過ぎて成長が早まり、あっという間に枯れてしまった。


「…そ、そんな…バカな事…」


 動揺を隠せないジキタリス。


「これでネタ切れですかねw?大口叩いた割に大したことなかったな…」


 笑う俺に、ジキタリスが震える声で言う。


「…普通は…普通は死ぬのよ!!全ての生命力を吸い取られて…寄生したブルームに食われて…こんなバカな事ある訳ない!!枯れちゃうまで生命力尽きないなんて…アンタ人間じゃないわよ!!」

「あははっ、まぁそうなるよね。俺、普通じゃないからねwじゃ、終わりにしますか…」


 しかし、決着を付けようとした俺は突然、激しい痛みを覚えて右の胸を押さえる。今までかなりの余裕だったが、余りに激しい胸の痛みに膝を付いてしまった。


 これは動悸か…?いや、何かが鼓動しているような感じだ。胸に異物の存在を感じる。


「…ぐっ、なんだこれ…」


 今まで余裕だった俺の異変に、ジキタリスが冷静さを取り戻して叫んだ。


「…フフッ、フフフッ。パラサイトブルームはまだ終わっていない!!今にもアンタの身体を食い破って出てくるのよオォォォッ!!」


 …クソッ、まさか…さっきの花モンスター四体で終わりじゃなかったのかよ…?絶対コイツには敗ける気がしなかったんだが…。


「…うっ、うぐっ、うぐぅぉぉっ…こっ、これはッ!!」


 俺は胸の奥から、何かが急速に外にせり上がってくるのを感じた。

そして―。


「…ぅっ、ぅおぉっ、うおぉぉぉッ…」


 俺は堪らず草原の上に両手を付く。すると胸からせり上がって来た大きなデキモノの様な物が、俺の身体から、服を破ってポトリと落ちた。出て来たのは贈答用のギフトによく入っているハムくらいのサイズの何かだ。


 しかし、異物が身体から落ちて離れた事によって幾分か体調も楽になった。俺は身体から出て来た『それ』を見る。


 …なんだこれ…?


 それは俺の血液に塗れた、白く小さな小さな人型の物体だった。人間の赤ちゃんよりも、妖精達よりも小さい人型の何かだ…。


 その人型の何かはもぞもぞと動くと、元気良く泣き始めた。


「…ふ、ふぇっ、ふぇっ、ふ、ふえぇぇぇっ…」


 …ちょっと待て!!…何で俺の身体から…赤ちゃんみたいなのが出て来るんだよ…!!

 

 俺は目の前のジキタリスをチラッと見ると、わなわなと震えていた。


「…な、何よ、それ…。パラサイトブルームじゃない…?アンタそれは何なのよオォォォーッ!!」

「そ、そんなのこっちが聞きたいわッ!!何なんだよッ、これは…!!」


 俺の言葉に、暫く考えていたジキタリスが口を開く。


「…どうやらブルームの出来損ないみたいね…。本来なら胸には寄生はしないんだけど…。でも寄生したとしたらまずは身体を食い破って芽が出てくるはず…」


 ジキタリスは呟きながら、剣を振ると俺の方に向かって歩いてくる。


「ちょっと良くわからない状況だけど、アンタと一緒にその出来損ないも殺してあげるわ!!死になさいッ!!」


 一気に間合いを詰め、上段から剣を打ち下ろしたジキタリスは突然、その動きを止めた。


「こいつは生まれたばかりなんだ。お前なんかに殺させない。そして『ゾーン・エクストリーム』が発動した。これでお前は動けない。俺の範囲ではいかなる攻撃も極端に遅くなる」


 動きを止めたまま、何か言いたげなジキタリスだったが、取り敢えずコイツは放っといて草原の中に落ちて泣き続ける血塗れの、人型の小さな生き物?をそっと抱き上げた。


 その瞬間、『それ』は泣くのを止めてパチッと目を開いた。その大きなクリっとした瞳で俺をじっと見詰める。

 そして掌から腕を伝って昇ってくると、俺の顔に抱きついた。


「…ちょっ、ちょっと待て。血が顔に付くからしがみ付くなっ…」


 俺は慌てて『それ』を引き剥がすと、アイテムボックスから木製水筒に入った水を掛けて血を綺麗に流してやる。

 

 すると遊んでいると思ったのか、きゃっきゃっと喜び始めた。


 続いて布の切れ端を取り出し、綺麗にカラダと頭を拭いてやると、別の乾いた布で顔と腕だけ出して、綺麗にお(くる)みしてやった。


 さて、こいつをどうするかは後で皆に相談するとして…。


 俺はお包みした小人を更に長い布で、落ちないように肩から斜め掛けで俺の身体の胸辺りに括りつけて固定した。


 主婦が赤ちゃんを前側に括りつけているあの状態だ。


 俺は立ち上がると、動きの止まったまま、何も出来ないジキタリスに一気に接近する。剣を右腕の籠手で弾き飛ばすと、タガーの柄をジキタリスの鳩尾に叩き込んだ、


 俺はゆっくりと後ろに下がる。俺の範囲から出たジキタリスは、悶絶して膝を付いた、


「うごぇえぇぇぇっ…」


 ジキタリスは血走った眼で俺を見上げる。

 

 蛇結茨で拘束されていたはずの俺がどうして動けるのか?そしてなぜ攻撃しようとした時に自分の動きが止まってしまったのか?


 疑問だらけで俺を見上げて睨み付けるジキタリスに、腐蝕のタガーを見せつつ、蛇結茨を数回、刺して置いた事を話した。腐蝕の進行が遅いのでジキタリスは茨が腐蝕している事に気が付かなかったようだ、


 そして剣で俺を攻撃しようと接近した時に、範囲内で攻撃意思を感知した俺のスキル『ゾーン・エクストリーム』が発動、このスキルは範囲内で攻撃意思を持つ者の動きを極端に遅くする、と丁寧に説明してやった。


 時を加速させるあの神父さんと逆の能力だなw


 膝を付いたまま肩で激しく呼吸するジキタリスの背後に周ると俺はその首を掴む。サンダークラップを最大出力で放出、激しい明滅と共に電撃がスパークした。


 しかし気絶したジキタリスから、スキルの抽出をしようとしたその時、突然、フードを被ったヤツが現れて俺を背後から襲う。

 

 しかし俺の範囲に入ったフードの横薙ぎの剣は、そこで止まってしまった。すぐに俺は振り向きざま、プラチナタガーで、剣を弾き飛ばす。


「…残念でした。さっきジキタリスに説明してたのちゃんと聞いてなかったのかw?俺の範囲に入ると動きが極端に遅くなるんだよ」


 フードは、目元が見えなかったが、明らかに顔が動揺していた。

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