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エミルとオネエとおかしなヤツら。

 上段に構えた剣をジキタリスが振り下ろした瞬間、突如として辺り一面を激しい暴風が襲った。


「…きゃーっ、何?何よッ?何が起こったの…?」

「…旋風…陣…だ…」


 俺が最後に発動した旋風陣を背後からまともに受けたジキタリスが、三人を通り越して飛んでいく。


「…あ、あと…は、たのんだ…」

「…この死にぞこないがッ!!どうして生きてるのよッ!!」


 冷静さを失い、地面を這ったまま喚くジキタリスは、目の前の小さなちびっこが魔法を行使している事に気付いてなかった。


「シルフィア!!『ヴァイオレント・ストーム』じゃっ!!」


 その直後、地面に這ったままのベルばらオネエに、巨大な嵐が上空から直撃した。


 ティーちゃんが風の精霊シルフィアを召喚し、巨大な嵐をベルばらオネエ…いや、ジキタリス・リーロウの上にぶつけた。


「ぎゃーッ!!な、何よぅッ!!何でわたしの能力が効いてないワケッ?!」


 巨大な嵐に巻き込まれ、叫び声を上げながら吹っ飛んでいくジキタリス。そこに意識を取り戻したクレアが、一瞬にしてジャンプして接近する。


 空中で身体を捻り、飛んでいるジキタリスの上からクレアが回転蹴りを打ち下ろす。


 垂直落下したジキタリスは、一気に草原に激突した。ミニクレーターの出来た中で何とか立ち上がろうとしたジキタリスに、回転して勢いを付けたシーちゃんが上からフットスタンプで追撃を喰らわせる。


「…グハッ…!!つ、強い…」


 それを見ていた俺は、身体を起こして何とか膝を付くまで体力が回復していた。


 ヨロヨロと立ち上がるジキタリス。空中からスーっと下りてくるクレア。シーちゃんとクレアがボロボロになったジキタリスと向かい合って立つ。


「…あッ、アンタ達ッ…普通じゃないわね…」

「いや、そーいうアンタも精霊魔法喰らって、クレアに蹴られてシーちゃんに踏みつけられたのによく生きてるな…」

「…それは…能力を全て防御に回したからよっ…」


 大きく肩で息をしつつ、ジキタリスが続ける。


「…大量の花で、全ての攻撃を吸収…させたのよ…。それより、そこのアナタ…さっきまで死にかけてたのに…どうして…立ち上がるまで回復してるのよ…?…絶対おかしいわよッ…」

「…あぁ、俺ね。花粉症なんだよね。だからブレーリンの西門出た時から、森とか草原の中の草花を見て身体の周りを風でガードしてたんだよ。内側から外に風が行くようにね…」

「…アナタ、魔法使い?それにしては恰好がそれっぽくないけど…」


 ジキタリスの質問に、隠す程でもないので籠手を見せつつ答えた。


「この籠手から風雷の精霊の力が出るんだよ。超便利装備だろ?ちなみに最初にアンタを後ろから風で吹っ飛ばしたのもこの籠手の力だよ」


 未だ激しく肩で息をするジキタリスが更に聞いてくる。


「…でもアンタ、さっきまで顔真っ青で油汗流してたじゃないのよ。アレは完全に毒花粉の症状そのモノよ。耐え切れるわけがないのに…」


「あぁ、その事ね。三人とも幻覚に掛かってるかなと思ったらティーちゃんだけ精霊の力を集めてるのが分かったからね。俺はアンタと闘うのがイヤだったから、ティーちゃんに任せようと思ってさ。試しで風を弱めて毒花粉、ちょっとだけ吸ってみたんだよねw」

「ちっょと吸ってみたって…アナタねぇ、毒花粉はちょっとだけでも吸ってしまえばすぐ死ぬほどの毒性があるのよ…それを簡単に克服するなんて…アナタ、人間じゃないの…?」

「いや、人間ですよw?ただ俺の脳、リミットが外れてるらしいんだよねwしかもステータスは振り切れてるわで…まぁ、人間通り越してきてる気はするねw」


 しかし、そう言っては見たものの、実は毒花粉を吸う前に、苦しんでるふりをして、帝国の能力者だった毒島(チンピラ)から抜き取った毒耐性スキルを保管していた『天獄』から自分のスキル欄に移動させていた。


 毒耐性が完全に毒花粉を抑え込んでしまっていたので、これだと戦闘をさぼってるのが解ってしまう。そこで一旦、風の力を弱めて毒耐性をオフにしてみた。


 俺は毒花粉を甘く見過ぎていた。試しに吸ってみた所、思ったよりも毒性が強く、身体に強烈な影響が出て、思ってたよりもヤバかった。


 しかしジキタリス自身が剣を抜き、攻撃意思を見せた事によって、ゾーン・エクストリームが発動、毒の進行を止めて何とか耐え切る事が出来た。


 そして再び風を起こし、毒耐性をオンにした。暫くは毒花粉で本当に悶絶していたが、そこは振り切れステータスのお陰だろう。毒耐性の再点灯も有効だったのか、何とか身体異常を克服できた。


「ちなみに俺以外の三人も毒花粉は効かないからwティーちゃんは風の精霊を操る事が出来るから毒花粉も幻覚臭気も効かない。クレアとシーちゃんはそれぞれ防御スキルで毒花粉はブロック出来る。

 匂いは止めらないから二人とも幻覚を見ていたけど、俺の旋風陣でアンタを吹っ飛ばして匂いも飛ばしたから復活したってワケです…」


 俺の説明に、焦りを見せるジキタリス。


「…さて、ここまで説明を聞いてまだヤル気かなw?もうアンタの能力は俺達には通用しないけど…」


 その言葉に、激昂するジキタリス。


「…アンタ、舐めてんじゃあないわよッ?これでもアルギス様の配下だったのよッ!!まだよッ、まだわたしは負けてないッ!!」

「…ふーん、あっそう。クレア、あの人まだ戦いたいらしいよ…?」

「…主、あの変なヤツをわらわに丸投げする気ですか?しかも、さっきの話だと完全にティーに丸投げするつもりだったでしょう?あの程度のヤツでも主が倒さぬと名声は上がっていきませんぞ…」

「…ぁ、やべっ…思わず得意になって喋っちゃったwまぁそれは良いとして、前も言ったけど俺は名声とかいらねーから…」

「アンソニーよ、確かにあの者は気持ち悪いかもしれんが、これも戦闘経験の為じゃ。名声はともかくも、戦いをめんどくさがってはいかんじゃろ?」

「そーでしゅ。気持ち悪くても逃げたらだめでしゅ!!」


 三人に責められて、俺の目は無感情になる。


「…はぁ、仕方ないね。ハイハイ、やるよ、やります。やればいいんでしょ…」

「アンソニーよ、ハイは一回じゃ!!」

「…ハイ。ワカリマシタ…」


 俺達の会話に、目の前のジキタリスが再び、拳を握ってプルプル震えていた。


「…ア、アンタ達、マジでいい加減にしなさいよ…。どこまで人を馬鹿にすればッ…!!」


 俺は、叫ぶジキタリスに手を向けて制止する。


「…あっ、ゴメン。悪いけどちょっと待って!!」


 俺の目の前に突然、妖精が現れた。どうやらウェルフォードに調査に出たリベルトから緊急の救助要請のようだ。


「ティーちゃん、リベルトから緊急で救助要請が来てる。俺はウェルフォード村に行くから、アイツの相手は三人でやって…」


 そう言って行こうとした俺の肩を、クレアがガッッと掴む。


「…主、今逃げようとしましたね?」

「いやっ、ちがっ…違うって。俺はリベルトの雇い主だから彼の身を護る義務があるんだよ!!」

「いや、だめじゃ。リベルトの所にはわたしら三人が行く。逃げようとした罰じゃ。あの変なヤツの相手はアンソニー一人でするんじゃ!!」

「そーでしゅ。変なヤツから逃げようとした罰でしゅ!!」


 俺の目が再び、無感情になる。


 そんな俺の目の前で、リーちゃんが三人をウェルフォード村に転移させた。


「…アンタ達、本ッッ当に、わたしの事、完全に舐め切ってるわよね?まぁいいわ。まずはアナタからね。その後、全員ぶっ殺してあげるからッッ!!」


 激昂するジキタリスの前で、俺は溜息を吐く。


「…解かった、やるよ。やりますよ。アンタがそこまで言うならまだ隠し玉があるんだろ?どうせだから全部見せてもらおうかな…」


 そして俺は続けて話す。


「…アンタさっき、全員殺すって言ったけどそれは無理だね。俺に会うのが最後だ。俺に会ったヤツらは皆、スキルを失うからね。じゃあ始めようか?」

「…いいわね。やっとヤル気になったみたいね…。アルギス様を殺した実力、見せてもらうわよ…」



 ウェルフォード村に向かったリベルトは、スキル『二十二面相』を使って顔を変えると、村に入り調査を始めた。


 ここ最近、普段見かけない者が出入りしていたか?それが一人だったのか、複数人いたのか?などだ。


 村で聞き込みをしていると、フードを被った者達が、突然現れたり、消えたりしたのを数回、衛兵達や村人が目撃したそうだ。


 その情報からリベルトは、潜伏者が既にエミルに接触している可能性は高いと考えた。そうなると再び装備を整えているかもしれない…。


 リベルトは、これ以上の聞き込みは危険と判断して報告する為に引き上げる事にした。怪しいフードの者達が散見されているなら、余りエミルの事を聞いて廻ると狙われる可能性もある。


 リベルトはすぐにウェルフォードの西門へ向かう。西門から出て二十二面相を解除、少し歩いた所で転移をしようとした瞬間、背後から恐ろしい圧力を纏ったクマの様に太った男が突進して来た。


 それをギリギリで躱すリベルト。


「…アンタ、臭うど…」


 その男は体長二メートル程で刈り上げた黒いソフトモヒカン、太った丸顔で革の軽装だ。つり上がったネコ目で鼻は丸く口は大きい。


「…エミルの事…か、嗅ぎ回ってただな…?」


 スキルを使い、顔を変え、今は自分の顔に戻している。何故、聞き込みしていたと解かったのか?遮蔽スキルで隠れて見ていたのか?

 正体がばれているなら、隠しても無駄だろう。


「…ぉ、おでに隠し事しても、臭いで分かる。む、無駄だど…」

「…雇い主からの指令でね。探りを入れてたんだが…アンタはエミルの仲間なのか…?」


 リベルトからの質問に、躊躇う大男。


「…そ、そうだど、おでは…え、エミルの、仲間だど…」


 既に仲間と接触していたのか。

だんまりかと思いきや、どもりながら答える男をリベルトは観察する。


 大男はリベルトから視線を外し、何も見えない空間に向かってしゃべっていた。


「…わ、わかってるど。ホワイトの仲間は、た、倒すど…」


 一体誰と喋っているのだ…?


 もう一人、遮蔽で隠れていると見て良さそうだな。一人で複数人を相手にするのは得策ではない。すぐに離脱するか…。


 反応が鈍そうな大男が何もない空間に向かってしゃべっている間に、リベルトはブレーリンへの転移を発動した。しかしその瞬間、転移の発動が一瞬遅れて、接近されてしまった。


「速い!!」


 その体格からは想像できない程に動きが速かった。


「い、いま…お前、に、逃げようとしたな…?お、おでの範囲では、に、逃げられないだど!!」


 一瞬にして接近されたリベルトは、左から来る圧力を纏った拳を一旦、バックステップで避けると、瞬時に転移を使い大男の背後に周る。


「…アンタ動きが速いな…。それはスキルなのか?」

「そ、そうだど。おでを、うすのろだとバカにしてると、い、痛い目に、会うど?」


 …ふむ。さっきからブレーリンへ転移しようとしているが出来ない…。


 目の前の男は範囲の事を言っていたな…。この男の範囲内では転移は出来るが、そこから外への転移は出来ない、という事か…。


 思考を巡らせるリベルトに再び、大男が急速接近する。それをギリギリで躱すリベルト。良く見ていると、この男はどうやらこの範囲内を直線でしか高速移動出来ないようだ。


 直線と分かれば何とか避けられるが、この男の相手をして体力を削られるとまずいな。ホワイトさん達を呼ぶか…。


 接近され、恐ろしい程の圧力とスピードを纏った拳を何とかギリギリで躱していくリベルト。


 …しかし、四回目の攻撃を避けた辺りから違和感を感じ始めた。まだわたしの体力は充分にある。何かがおかしい。何かがズレてきているような…。


 リベルトが異変に気付き始めたその時、五回目の攻撃を避けようとして反応が一瞬、遅れた事に気が付いた。


「…と、捉えたど!!」


 …ぐッ、何がどうなった?今、一瞬身体が…止まったのか?動かなかった…。


 リベルトは右肩を抑えていた。違和感に危険を感じて避けるのではなく範囲内で転移を使ったリベルトだったが、動きを制限され大男の右拳が肩を掠めた。

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