逃走中。
試食会の前にギルドに併設されている料理屋の片隅で、エミルが逃走し、その捜索と身柄確保をロメリックから頼まれた事を皆に相談した。
「既にシャリノアから各周辺都市に手配が回っているらしい。ロメリックが危惧しているのは教皇領からのエミルの身柄回収、もしくは口封じの潜入者の可能性だな…」
エミルのスキルは全て俺が抽出している。戦闘訓練を受けていたとはいえ、ロメリックはスキルの無いエミルが心配なんだろう。
更に、手配書が周っているシャリノア、ブレーリン、軍港クロナシェル、ウェルフォード村からも、ハンターPTが調査に乗り出す可能性もあると話をする。
そうなると、エミル、潜入者と戦闘に発展する恐れがある。SとAが国境防衛に駆り出されている為に、調査に出るのはBランクからだ。
ロメリックはスキル無しのエミルを無力化しても、潜入者の強さが解からなければ死傷者を出してしまう可能性を危惧している、と皆に話した。
リベルトにはエミルが教皇領の聖女称号を持つ者で一度、俺と闘っている事を話した。そしてアルギスと繋がりがある事も併せて話しをする。
「ふむ。エミルという子はどんな人物ですか?」
リベルトに聞かれたので、ティーちゃんからの人物鑑定をざっくりと話した。
「…ふむ。自殺を試みた経験があるなら、自暴自棄な行動に出たりする可能性もありますね。ホワイトさんがその子と戦った時の印象はどうでしたか?」
「…うーん、教皇領で何年か戦闘訓練を積んでたみたいだからだいぶ冷静で落ち着いた感じだったな…。ただ戦況が不利になったら途中からキレてたけど…」
「そうですか。まずそのエミルの心理から考えましょう。個人的な見解ですが、この逃走は教皇領まで逃げ切るというものではない、と思います」
皆、静かにリベルトの話を聞く。
「ホワイトさんと闘い、そのエミルという子は全てのスキルを抽出されています。その子が何かをまだ諦めてないなら、この王国に潜伏してホワイトさんへの復讐を考えるか、もしくは潜入者と接触し装備などを揃えた上での復讐のどちらかになるかと…」
そのリベルトの見解を聞いて、ふと思い出した。
「ロメリックから聞いたんだけど、アルギスが敗北して消滅した時に、エミルはそれに気付いていたらしいんだ」
クレアは瞳を閉じて腕を組み黙ったままだ。
「たぶんあのマイクロチップでアルギスの消滅を知ったんだと思う。エミルに関して言うと、あのマイクロチップで洗脳して操っていた訳じゃないらしい。実際、エミル自身がアルギスを崇拝していた様な言い方をしてたみたいだからね…」
「…ふーむ。それだと、その崇拝の対象を消した相手を酷く憎むじゃろうな…」
ティーちゃんの言葉に頷きつつ、俺はロメリックから聞いた地獄での情報が既にこの王国内に廻っている事も話した。
「…どうやら王国ギルドでは、アルギスを倒し消滅させたのは俺、って事になってるらしいんだよ…。一応、情報の訂正を頼んだけど、既に一度情報が出ているからね。エミルがそれを知ったら恐らくリベルトの見解通りなるね…」
クレアは黙って腕組みをしたまま、コクコクと頷いている。
「それなら探す必要ないでしゅ。待ってれば来るでしゅ」
「そうなんだけど、潜入者とこの王国のハンターや冒険者やらが動く可能性もあるからね。潜入者の方は早く叩いておいた方が良いと思う。潜入者がエミルを助けるにしろ殺すにしろ、接触されるとまずいからね」
俺の言葉に、クレアは黙ったまま大きく頷く。
「…逃走したばかりで充分な食料もなく物資もない。スキルも失くし装備も剣一本で充分に揃っていない。そして目的がある程度、予想できたので潜伏する場所も絞れるかと…」
「そうじゃな、物資も装備も十分でないなら森に潜伏はないじゃろう」
「森は盗賊とかモンスターがいっぱいいるでしゅからね」
頷きつつ、リベルトが話を続ける。
「わたしはこの王国の各都市を廻った事があるので地形などは頭に入っています。木を隠すには森に、という表現がありますが、恐らく各都市のどちらかに潜伏する可能性が高いですね。そして森が危険で通過できないとなるとブレーリン、ウェルフォードのどちらかになるかと思います」
リベルトの見解に大きく頷く俺の隣で、クレアも頷いている…と思って見たら静かな鼻息が聞こえてきた…。
…コイツ、寝てやがったw!!
俺は腕を組み、目を閉じているクレアの腕を突いて起こす。
「…ん?何ですかな、主…?」
「何でお前は寝てるんだよ…」
俺の言葉に至極、最もな答えが返ってきた。
「…主。わらわは戦闘要員ですぞ?難しい話はそちらでお願いします」
そう言って再び、目を閉じるクレア。…確かにそうでしたねw
「それでどうするんじゃ?エミルも潜伏者もどうやって見つけるんじゃ?」
「…俺を狙ってくるなら寧ろ誘き出そうかなって考えてるんだけど…。その前にやる事がある…クレア、もう起きろよ?そろそろ出番になるからな」
その言葉に片目を開いたクレアは眉を顰め、疑いの眼差しを向けてくる。構わず、俺は話を続けた。
「実はロメリックと話している時から気付いたんだけど、俺のレーダーマップに敵対表示の赤い光点があるんだ。今も動かず、一定の距離にいる」
その言葉を聞くや、カッ!!と目を見開くクレア。唇の口角が上がり嬉しそうな口調で話す。
「…漸く、わらわの出番の様ですな!!」
…ホント、戦闘と肉と酒以外興味ないのかよ…殺伐とし過ぎだろ…。
「取り敢えず、そいつを捕まえて話でも聞くか?」
「わたしは一度、ウェルフォードに行って少し調べてきますよ」
リベルトの言葉に頷きつつ、夕方の試食会までには戻って来るように伝える。
「解りました。では行ってきます」
瞬間、リベルトはウェルフォード村へと転移した。
◇
俺達はギルドを出てから人通りの少ない通りを探して歩いていく。とはいってもここ、ブレーリンは大都市だ。人が少ない所なんてほとんどない。
しかし人間が多い場所で戦闘をする訳には行かないので、歩きながら皆と密談で相談して外に向かう事にした。レーダーマップで赤い光点が俺達に付いてくるのを確認しつつ、西門から出る。
この先には都市も何もなく、ただ草原とその向こうに森が広がっているだけだ。
西門を出た後、俺達は出来るだけ街から離れる。相手がどういう能力を持っているか分からないので距離を取って置くに越したことはない。
暫く歩いて、森の手前で俺達は立ち止まった。もうだいぶブレーリンから離れているのでここなら大丈夫だろう。赤い光点もちゃんと追って来ているのを確認した。
待ち構えていると、約十メートルほどの距離でそいつは姿を現した。
◇
「ずっと俺を追ってたみたいだけど、お待たせしたかな?街中で暴れる訳にもいかないんでね」
「えぇ、随分と待たせてくれたわね?アナタがエミルを倒し、アルギス様を殺した人ね?」
男?の声は意外と高い。そして何故かオネエな感じの話し方だった。
「あぁ、エミルの方は事実だけど、アルギスの方は少し誤解があるな…」
俺の言葉に不敵な笑みを浮かべながら近づいてくる…男?だよな?見た感じ貴族の様な格好だ。
ベル〇らに出てきそうな貴族の服を着ている。しかし接近して分かったが、男は金髪ロン毛のパーマだったが顔は何と言うか…。
その格好とは不釣り合いだった。
まずガタイが良い。筋肉質な肉体にゴツイ顔が付いている。目は大きくギョロッとしていて、下まつ毛が長く濃い。そして顎が割れていた…。
銭〇警部がベル〇らのコスプレをしていると言えばわかって貰えるだろうか?そんな感じだ。とにかく濃いい!!キャラの癖が強い…。
≪…うーん、この人、オ〇マかな…?≫
≪見た感じはそうじゃな…≫
≪男の人なのにオンナの人みたいな話し方でしゅ≫
≪しかし顔や体格と衣装が恐ろしい程に合ってないな…キモチワルイから俺は今回の戦闘はパスするわ…≫
≪…わらわもコイツとの戦闘はちょっと遠慮したい…≫
≪…じゃあ誰が戦うでしゅか?≫
≪…仕方ないのぅ、じゃんけんで敗けた人が戦うしかないじゃろ…≫
そして、俺達は目の前のベルばらオネエを無視して、四人でじゃんけんを始めた。
「…ちょっと、ちょっとッ!!ちょっと待ちなさい!!アンタ達ッ、いきなり何やってんのッ!?」
「…えっ?何やってるって…じゃんけんしてるんだけど…?」
「いや、そーじゃなくて!!何でじゃんけんしてるのかを聞いてるのよッ!!」
「…あぁ、誰がアンタと戦うかじゃんけんで決めてんだよ…」
「…ふーん、あっそう。じゃ、わたし待ってるわね。…ってならないわよッ!!何でじゃんけんして誰が戦うか決めてるのよッ!!」
「いや、だって俺、アンタと闘うのなんか嫌なんだよね。鳥肌が立つし…」
「わたしも何か嫌じゃな、パスする…」
「うーん、何か思ってたのと違うでしゅ、シーもパスしましゅ」
「わらわもちょっと…もっと強そうなのが来ると思っていたんだが…」
俺達のやんわり戦闘拒否+押し付け合いに、目の前のベルばらオネエが拳を握り締めてプルプル震えていた。
「…あ、あ、アンタ達…人を馬鹿にすんのもいい加減にしなさいよッ!!」
そう言いつつ、ベルばらオネエは叫んだ。
「アンタ達が嫌がってもわたしが指名して上げるから戦いなさいッ!!」
瞬間、ベルばらオネエの肉体から、虹色の圧がマーブル状になって拡がってきた。
「まずはアナタよッ!!」
そう言っていつの間に、どこから出したんだか右手に持ったバラで、オネエは俺を指名した。直後に俺の背中にぞわぞわっと悪寒が走る。
「ムリムリムリムリィィィッ!!マジ、勘弁して下さい!!うちは指名制とかないんでっ!!」
「…フフ、あらそう?でもアナタ、もうわたしの術中に嵌ってるわよ?」
何言ってんだこのベルばらオネエは…そう思いつつ、俺はクレアに頼んだ。
「…悪い、クレア。アレはダメだわ。明日、肉と酒存分に呑み食いして良いからアレの相手はクレアにまかせ…」
そこまで言った俺は急に立ち眩みを起こしてその場にしゃがみ込んだ。
「…ん?主、どうかされましたか?」
クレアの話す言葉が遠くに聞こえるほどに、酷い頭痛と悪寒が走る。身体がひどく怠い。何だ…これは…?攻撃されたのか…?
しかし『ゾーン・エクストリーム』は発動してないぞ…どうしてだ…?
「…フフフ、何が何だか解からないでしょう?攻撃されたと思ってる?でも残念、わたし攻撃はしてないわよ?そしてわたしの能力も攻撃はしないの…ただそこに存在するだけで良いのよ…」
俺はしゃがんだまま、足元に拡がる花畑に違和感を感じた。
…さっきまでただの草原だったはず…何で一面に花が…。
俺の身体から大量に汗が噴き出す。身体が熱く、心臓の激しい痛みで呼吸するのも苦しい。遠のいていく意識を必死に繋ぎ止める。
「…かはっ…!!」
俺は咳き込んで口から血を吐いた。俺は激しい身体異常に耐えられず思わず蹲る。
他の皆は…見るとクレアもティーちゃんもシーちゃんもぼーっとして立ち尽くしたままで何の反応もない…。どういう事なんだ?どうなってる…?
蹲る俺の上からベルばらオネエが嬉しそうに話す。
「冥土への土産に名前くらいは教えてあげるわよ。わたしはアルギス様の配下、エミルのチームに所属しているジキタリス・リーロウ。わたしの能力はあらゆる『花』を出現させるだけ…ただそれだけの能力。この能力はわたし自身の様に美しく、ただそこに存在するだけで良いのよ」
…そ、そう…か、は…な、か…。
意識をギリギリ繋いだまま、俺はヤツから見えない様に震える手で籠手を操作してスキルを移動させ、別のスキルもセットした。
…まに…合う、か…。
「…しかしわたしの能力ですぐ死なないなんて、アナタ凄いのね…。まぁどっちにしろもうすぐ本当のお花畑を見る事が出来るわよ?あの世でね…」
藻掻き苦しむ俺を通り過ぎたベルばらオネエは、無防備にぼーっと呆けて立つ三人の前に立つ。
「『ラフレシアオウダー』幻覚臭気も同時発動しているのに、全員まだ死なないなんて凄いヤツらね…。流石、エミルを倒してアルギス様を殺しただけはあるわ…」
ジキタリスは一人、話し続ける。
「この三人は『毒花粉』が効いてない…。わたしが直接、トドメを刺すしかないわね…」
そう言いつつ、ジキタリスが腰に下げていた剣をスラリと抜く。その時、瀕死の俺の身体の中で微弱ながらも、漸くスキルが発動した。




