挨拶周りとざわつく王国。
挨拶を終えた俺達はリベルトと連絡方法について確認する。俺は、取り敢えず拠点としているスラティゴを指定した。
いつもは世界樹から、あちこちに転移で飛んでいくんだけど流石に、世界樹に来てくれとは言えないのでスラティゴを連絡拠点という事にした。
「東大陸の西にあるスラティゴっていう村にオープンテラスの付いた宿屋と冒険者ギルドがある。何かあればそこに来て欲しい」
「…解りました。ホワイト殿は、エニルディン王国所属だったのですか」
リベルトに言われて気が付いたが、あの王国の名前聞いた事なかったな…そんな名前だったのかw
「俺がいない場合は、冒険者ギルドのギルドマスターに伝文を封書にして預けてくれればいい。それから、調査は安全第一で。無理に危険を冒す必要はないから皆にもそう伝えておいて欲しい」
俺の言葉に頷くリベルト。
「もし、調査中に緊急事態が起こった時や、危険が迫った時は…宙に向かって俺を『呼んでくれ』って呟いてくれれば良い」
「…呟く…?呟くと…どうなるのですか?」
「信じるかどうかはリベルト達次第だけど…俺はあるネットワークを借りる事が出来るんだ」
俺の話を聞いたバリー隊長は何かピンと来たようだ。
「…妖精ですな?」
その言葉に俺は頷く。
「…妖精の…ネットワーク…ですか…?」
リベルトの顔は半信半疑のようだ。
「俺を呼んでくれって呟くと連絡が来るんだ。連絡が来たらすぐそっちに向かうよ。俺がいない時はクレア、クレアがいない時はティーちゃんとシーちゃんが行くから」
俺の言葉に、クレア、ティーちゃん、シーちゃんがうむうむと頷く。
「…俄かには…信じられませんが…。しかしお子さん二人を呼ぶのは危険なのでは?」
その言葉に、二人はかなりの高等魔法が使えるから大丈夫だと説明した。
「そうですか…。この世界に来て以来、色々なモノを目の当たりにしましたからね…。他ならぬホワイト殿の言う事ですから信じましょう」
ついでに俺は、硬い呼び方は無しで。とお願いした。
「リベルトとはかなり年齢が近いし、堅苦しいのは嫌だからね」
リベルトは驚きつつ、
「…見た感じ三十代かと思っておりましたが…」
「装備のせいでそう見えるだけなんだと思うよ?」
「そうですか、ありがとうございます」
俺はすぐに、アイちゃんに妖精を付けているのと同じように、リベルト達にも、妖精を見守りに付けてくれるように、ティーちゃんに『ひそひそ』で頼んだ。
それから俺は、リベルト達の給料の前払いのついでに、当座の活動費も渡しておく。
「…これは…多過ぎの様な気がしますが…?」
「…あぁ、活動費も入れてるからね。情報集めは色々お金も掛かるだろうから少し多めにしてるんだ。それから仲間の分はリベルトから振り分けて上げて欲しい」
お金の話をしていて、俺はふと気になった事を聞いてみた。
「ちょっと気になったんだけど、ミネア王国から離脱した時から今まで仲間の分も含めて金銭面はどうしてたの?」
「あぁ、それはですね…」
リベルトはミネアにいた時に、上位の軍職に就いていたので、ある程度のお金を持っているそうだ。家族も一緒にパラゴニアに退避して来たメンバーもいるのでその分もリベルトが持っていたらしい…。
「そのメンバーの家族はパラゴニアにいるの?」
「えぇ、そうです」
仲間のみならず、その家族の分までポケットマネーで払っていたとは…。
「危険を承知でわたしを信じて付いて来てくれましたからね」
ホント、この男は良いヤツだなと思った。バリー隊長にその家族の分のお金を後で別に渡しておくか…。
「家族がいるなら、エレボロス教のヤツらをパラゴニアに来る前に確実に西大陸で止めたい所だろうな…」
「そうですね、その為に情勢は常に注視しておきます」
リベルトの言葉に、バリー隊長も調査の支援を約束してくれた。
この後、試食会の為に一度東大陸に戻るから紹介の為に一緒に来てくれと俺が言うと、リベルトも了承してくれた。
◇
俺達はバリー隊長と別れの挨拶をした後、パラゴニアを発つ。皆が行った後に、俺はバリー隊長に調査メンバーの家族の分のお金を渡して置いた。
門を出た所で、俺、ティーちゃん、シーちゃん、リベルトは転移スキルを持っているのでそのままスラティゴの門の前に転移した。
クレアは転移スキルを持っていないので、リーちゃんに転移して貰う。全員、揃った所で、スラティゴの門衛に挨拶し、台帳に名前と人数、滞在期間を記入してスラティゴに入る。
冒険者ギルドに寄ってマスターのエルカートさんに会う。うちの相談役で情報分析をしてくれるリベルトだと紹介した。連絡で来る事があるのでよろしくです、と伝えておいた。
了承してくれたエルカートさんにお礼を言ってから、スラティゴを出て今度はブレーリンに向かって転移した。
ロメリックにもリベルトを紹介する為に、ブレーリンギルドに向かう。仕事の邪魔をしてもいけないので試食会兼夕食まで、「この前宴会をした宿屋で待っている」事を受付のお姉さんに伝えてもらう。
ミーハー受付嬢のネリアは居ない。どうやら休みのようだ。よかったwしかしギルドマスターの部屋から戻ってきたお姉さんからマスターが俺を呼んでいると言われた。
「ホワイトさんに少しお話があるそうです。すぐに上がって下さい」
そう言われたので俺は皆に下で待ってもらい、ロメリックの部屋に上がっていく。
…話か…何の話だろう…?
◇
俺はノックしてからドアを開ける。どうぞ、と言うロメリックの言葉の後、部屋に入った。俺は勧められるままにソファに座る。
ロメリックは、決裁文書に判を押している最中だった。
「…話があるって聞いたけど…何かあった…?」
俺の言葉に、ロメリックは仕事の手を止めて話し始めた。
「実は先日、シャリノアから伝書が送られてきまして…。どうやらエミルが逃走したようです…」
「…ええっ!!まさかあの厳重な警備のシャリノアから…?どうやって?」
驚く俺にロメリックが事情を話してくれた。
「…いえ、エミルについては王都にて処分を決めるという事で護送中だったようです」
「…護送中に逃げたのか…。まぁスキルは抜いてあるから大丈夫だとは思うけど…しかしチップを停止させても逃走したという事は…洗脳が解けていなかったのかな…?」
「その点に付いてですが、新たに情報が入ってます。エミルは意識を取り戻しましたが、マロイ先生とゴーリック村長の説得も聞かず、断固として教皇領の情報は話さなかったようです…」
…ふむ。そうか…洗脳されていないとするなら、本人自身が教皇領の一員としての自覚を持っていたのかな…。あのチップはアルギスが念の為に付けたって所か…。
「…それからエミルが意識を取り戻した時、『アルギス』という者の名を話していたそうです。教皇代理、という事ですが何者かによって消された様です」
…もうそんな情報まで掴んでるのか…。この王国の情報網は侮れんな…。
「…それとですね、ホワイトさん。自身がもう既に気づいていると思いますが…ホワイトさんには『王国の影』が付いています…」
「うん、それは知ってるよ。この世界に来た時から、付かず離れずで付いて来てるからね」
「その影からの情報ですが、そのアルギスにトドメを刺したのがホワイトさんという事になっています…これは本当ですか?もし本当の事だとしたら…いや、もう既にギルドのネットワークではちょっとした騒ぎになってますよ…」
…ざわついてるのか…めんどくせぇ…。
俺は誤解を解くべく、ロメリックに説明する。
「…いや、実は正確に言うとトドメを刺したのは俺じゃないんだ。あの時、助けに来てくれた二人のうちの一人が最後に決着をつけたんだけど…それが誰かは現時点で言って良いかどうなのか…」
まさか、魔皇に倒して貰いました、と言っても信じてくれるかどうか分からないからな…。
「…そうですか。影はホワイトさんがアルギスの首を掴み、消滅させたと報告しているようです…」
「…うーん。ロメリックには話しているから知ってるだろうけど、アレはトドメを刺したんじゃなくて、ヤツのスキルを抜いてたんだ。離れた所から遠隔で抽出してたんだけど…見る方向によっては首を掴んでいた様に見えたかもしれないね…。だからあれはアルギスの生死を確認していたって感じで修正報告しておいて欲しいんだけど…」
「…そうですか。一応、そのように情報を修正して王都ギルドに報告を上げておきます」
「…うん。誤解を解く為にも是非、修正報告をよろしく…」
…どうやらその『影』は最後の瞬間だけ見ていたようだな…。パラゴニア→真獄→地獄への移動に何とか最後に追い付いて来れたという感じか…。
異次元まで付いて来れるという事は、相当の手練れの様だな…。
俺は話を逸らす為に、話題を変えた。
「ところでエミルの事だけど、放っといてもその内、捕まるんじゃない…?」
「…いえ、王都からの通達で各都市に『確実な身柄確保』を要請されています。その主な理由としては…」
そこまで話したロメリックの言葉を掌で止める。
「…先に教皇領のヤツらに回収されるか。もしくは…口止めで殺されるかも、って事でしょ?」
「…そうです。僕としては両方止めたいのです。何卒、ホワイトさんのお力で何とか…」
その切羽詰まった様な、または焦る様な言葉に俺は暫く考える。…振りをしてレーダーマップに映った光点を確認した。
王国の影とは違う、赤い光を…。
この光点は教皇領のヤツか?エミルの仲間か…。また戦闘になりそうだな…。
「…解った。その件はこっちで何とかするよ。試食と夕食までに、少し調べてみる。つい先日うちに一人、面白い人物が仲間に入ったんだ。試食の時に紹介するよ」
「そうですか。ホワイトさんのPTに入る程の人物ですか…会うのが楽しみです」
正確にはPTじゃないんだけどwギルドにPT登録もしてないしw
「うん、うちに今までいないタイプの人間だからね。取り敢えずこれから調べて来るから…」
そう言って部屋を出ようとした俺は思わず立ち止まって振り返る。オジサンの下世話な興味で、ロメリックにある事を聞いてみた。
「…どうでもいい質問なんだけど、ちょっと聞いて良いかな?」
「はい?何でしょうか…?」
「エミルに関して凄く一生懸命だけど…ロメリックはエミルが気になってるの…?」
その瞬間、ロメリックの顔が赤くなり、焦った様に慌てて否定する。
「…えっ?…ぃ、いぇっ、そっ、そんな事は…僕には同じ年頃の妹がいますからね…それで…少し気になってるんですよ…」
…あぁ、この反応で分かったわ…。こりゃ、気になってるレベルじゃないなw
エミルはまだ十代だけど顔は細面の美人だし、スタイルもいいし…。普通に男が惚れるのもおかしくはないよな。まぁ…教皇領の人間って所が問題だが…。
…俺の質問に、焦りまくってるロメリックに謝りを入れといた。
「…ごめん。変な事聞いて悪かった…。すぐ調査に行ってくるよ」
そう言ってから、俺は部屋を出た。気になって思わず余計な事を聞いてしまったが、次からは気を付ける事にしようw
俺は皆にエミルの事を相談するべく、下の階へ下りて行った。