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リベルト・グランテ。

 俺達がパラゴニアでの用事を終えてブレーリンに戻ろうとした所、一人の男が慌てて駆け寄ってきた。俺に話したい事があるようだ。 


 俺とクレアの自己紹介の前に、昨日の騒動を見ていたリベルトが先に話を始めた。


「黒装束との戦闘で、昨日、奥方様の鮮やかな勝利を見ております」


 そうリベルトに言われたクレアは、機嫌を直すと自ら挨拶をした。


「お主、中々見込みがありそうだな。クレア・ホワイトだ、よろしく頼む」


 (おだ)てるとすぐ機嫌が直るんだよな…。ホント、単純なヤツだ…。


 次にティーちゃんとシーちゃんの自己紹介が終わった所で、巫女様は祈祷の時間だそうで、警備兵を伴い神殿へと戻って行った。


 俺達はリベルトとバリー隊長と一緒に、大天幕のお店の下で話を聞く事にした。


「昨日、ホワイト殿がアルギスと黒装束を撃破した話を聞きまして、どうしても話したい事があるのです。既にヤツらと戦ってお解りだと思いますが、アルギスと追従していた宗徒達の力は尋常ではありません」


 リベルトの言葉に相槌をしつつも、俺は先に断りを入れておいた。


「確かに、アイツらは普通の能力者のレベルじゃなかったですね。しかし、実の所を言うと最終的にアルギスにトドメを刺したのは俺じゃないんですよ。あの時、助けに来てくれた人達がいましてね…」

「…ほぅ、あの人外ともいうべきアルギスに対抗出来る者がホワイト殿の他にもいらっしゃるという事ですか?」

「そうですね。俺以外に強いヤツなんてゴロゴロいますよ。あの時、それを身に染みて理解しましたね」


 俺は苦笑いを見せつつ、リベルトに話の続きを促す。


「…それで、西大陸では今どういった状況なんですか?」

「簡単に申し上げますと、アルギスの他に西大陸東部地域、そして南部地域にもそれらしき宗徒が現れています。アルギスのような幹部と思われる者は未だ確認はしておりませぬが、大陸北西部であったような件が再び起こる可能性があるかと…」

「…西大陸北西部で何かあったんですか?」


 俺の問いに、バリー隊長が答えてくれた。


「昨日の襲撃の二カ月ほど前に大陸の北西部で三カ国を巻き込んだ紛争がありまして、その中心にいたのが(くだん)のエレボロス教の宗徒とその教皇代理アルギスだったそうです」


 バリー隊長の言葉に頷きつつ、続けてリベルトがその紛争についての詳細を話してくれた。


「わたしはその時、西大陸北西部の山岳にあるミネア王国に在籍していたのですが…」


 リベルトはミネア王国に所属し、軍職に就いていた事、そして突然ミネアに現れたアルギスとエレボロス教の宗徒達について話す。


 ある日からミネア王は人が変わった様に好戦的になったという。教皇代理であるアルギスがその能力で王を操り、サンジェノ王国、ブラストン王国を巻き込んで戦いを起こしたようだ。


 しかしこの戦いは、同盟を結んだ二国、ミネアとブラストンがサンジェノに勝利し制圧した、という単純な話ではなかった。


 召喚者であり、能力者でもある元軍人のリベルトでも正直、恐ろしい体験だったと話す。二度とあのような事を起こさせたくないと強い口調で話す。


 苦々しい表情で、サンジェノの首都が一瞬にして壊滅した状況を教えてくれた。


 話を聞くと、神眼熱殺光線、シャイニングレーザー、シルバーライニング辺りを乱射したようだ…。アルギスのあの能力、と言うか神眼熱殺光線以外は天使カイさんの力だったんだが、在りえる話だろう…。


「…あれは…戦争とか紛争を通り越したモノです。あんな事はあってはならない…」


 余程の光景を見たのだろう…。年齢と経験を重ねた顔が苦々しく、表情が暗い。そんなリベルトに俺が何かを言う前に、クレアが口を出して来た。


「…分かった。リベルトとやら、我らに任せよ。そのような事が起こらぬよう、ホワイトファミリーがヤツらを止めてやろう」


 クレアがとてもカッコよく言い切る。


 しかしコイツは何故、毎回すぐに安請け合いするんだろう…。どう対処するかは結局、俺が考えるんだからな、全く…。


「…奥方様、ありがとうございます」

「うむ。我が主ならばあのようなヤツら、簡単に叩き潰せる。安心するがよい…」


 …オイオイ…クレアのヤツ…何言ってんだ…。頼むから、それ以上何も言わないでくれ…。あんな危険なヤツらが簡単にどうにかなる訳ないだろう?


 秘孔ツイて、一発ダウンとか、ワンクリックで即解決みたいに言うなよ…。


「…クレア、それは言い過ぎだ。取り敢えず、西大陸での動きは心の中に留めておきますよ」


 俺の言葉に、リベルトが頷く。そんなリベルトにバリー隊長が話す。


「リベルト殿の話だと、西大陸がヤツらに制圧されると再び、パラゴニアにも襲撃の手が来そうですな…」

「そうです、恐らくはここまで手を伸ばしてくるでしょう。だからわたしはそうなる前に、西大陸でのヤツらの動きを止めたいのです」


 隊長とリベルトの話に、俺もなんとなくそうなるであろう予感がした。

俺は、引き続き西大陸でのヤツらの動向をチェックしておいて欲しいと頼んだ。


 その後、リベルトから 


「…もう一つ、お話と言いますか、お願いがありまして…」


 そう言われて俺は話の続きを聞く。


「…何でしょう?」

「…出来ればホワイト殿に、わたしを雇って頂きたいのです」

「…えぇぇぇっ!?雇うって…」


 リベルトからの突然の申し出に俺は驚いた。何で俺なんだ?考えつつ、すぐにティーちゃんにリベルトの鑑定を頼んだ。

 

≪ティーちゃん、リベルトの人物鑑定お願い…≫


 どんな人物か知らないで雇うと危険だからな…。一応、面接はしとかないと…。


 俺の密談での頼みをティーちゃんは心得たもので、周りに悟られる事なく無言のまま鑑定を始めた。


「…雇うのは良いんだけど…俺は爵位も階級もないんだけど…。…ついでに言うなら拠点らしき拠点も決まってないし…」


 それでも良いとリベルトは言う。


「しかし何故、俺なんです?国であれば、戦争経験とスキル持ちのアナタは重用されるはずです。そんな人物を放ってはおかないと思いますが…」


 俺には既に、ティーちゃんの鑑定とは別に、リベルトのスキルが視えていた。この目の前の男は複数のスキル持ちだ。


「国の軍隊ではアルギスのような輩を止める事が出来ないと、先の紛争で思い知らされたのです。軍隊を使ってもいたずらに死者を増やすだけです。だからホワイト殿の様にヤツらに対抗出来る方に、微力ながらわたしの力をお使い頂きたいのです…」


 熱意を感じる話しぶりだ。


 俺は考える振りをしつつ、ティーちゃんに鑑定して貰ったリベルトの人物鑑定をざっと見た。


『リベルト・グランテ』地球からの召喚者で、四十代半ば。西欧出身の職業軍人のようだ。俺と年齢がかなり近いな…。

 

 『護る為の軍隊』という強い信念を持って軍事教練をしていた際に、その強い思いが召喚魔法のエネルギーに引っ掛ったようだ。


 情報収集能力と軍略に長け、『戦略・戦術』と『転移』スキルの他、二つを持っていた。

…悪い人物ではなさそうだな…。


 ティーちゃんの鑑定とは別に『二十二面相』、『鷹の爪』と言うスキルが視えた。しかしティーちゃんの鑑定でも視えないスキルを持っているとは…。


 『二十二面相』、『鷹の爪』か。変わったスキル名だなw


 説明文を読んでみる。


 『二十二面相』情報収集の為に変装能力が召喚された時にスキル化した。一度見た人間の顔を記憶し、変幻自在に変える事が出来る。


『鷹の爪』…能ある鷹は爪を隠す。スキルを選択して隠す事が出来るスキル。


 …あぁ、そう言う事かw


 俺は納得しつつ、ふと思った。情報収集に、戦略・戦術か…。これは絶妙なタイミングで面白い人物に会えたかもしれない…。


 雇うだけのお金は充分あるし、椿姫の件もある。雇った方が俺の労力が減るな…。


 そう考えた俺は、クレア、ティーちゃん、シーちゃん、リーちゃんに密談スキルでリベルトを雇う事を伝えた。みんな、俺に任せる、という事だ。


「リベルトさん、で良いかな?アナタを雇いますよ。色々、力になってくれると助かる。今後ともよろしく」

「ありがとうございます。わたしは個人戦闘力はありませんが情報収集、戦略でファミリーの作戦などでお力になれるかと。これから、よろしくお願いします」


 俺の言葉に、喜ぶリベルト。ついでにミネアから退去の際に信頼できる者も一緒に来ているという。バリー隊長がリベルトを紹介した時に言ってたな…。


 今、他の仲間は西大陸で情報収集をしているようだ。

 

 俺は情報収集の労力を減らす為に、皆まとめて雇う事にした。俺の決断に、バリー隊長もリベルトを見て笑顔でうんうんと頷いていた。


 リベルトとその仲間が力になってくれるので、俺個人の労力負担もかなり軽くなるだろう。俺はブレーリンに戻る前にある事を頼む事にした。


 自分の労力を減らしたいからねw


 雇ってすぐに言うのもどうかと思ったが、俺は『東鳳』の件を頼んでみる事にした。


「リベルト、雇っていきなりで悪いんだけど…」


 と、先に断りを入れつつ、リベルトに椿姫からの頼みと『東鳳』についての事を簡単に掻い摘んで話した。


「…ふむ、東鳳ですか。一度、行った事がありますよ。オリエンタルな雰囲気の国で、外界からの干渉を嫌っている閉鎖的な雰囲気の国ですね」


 話を聞くと、リベルトはこの世界に召喚されてから、能力を隠しつつ東西の大陸をほぼ廻って見たそうだ。


「取り敢えず復讐については一旦、置いとくとして、東鳳の現在の国としての雰囲気と国民から見たキヒダ王の印象、それから先々代のアマダ王の弟である天流(アマル)の消息について調べて欲しいんだ」


 俺の言葉に、リベルトはうんうんと頷きながら、快く引き受けてくれた。


「解りました。西大陸の調査は仲間にやって貰っているので、東鳳にはわたしが行って調べてきますよ」

「ありがとう、では今後もよろしく」


 お互い握手した所で、うちの三人も改めてリベルトに挨拶をする。


「よろしくじゃの」

「よろしくでしゅ」

「皆さん、よろしくお願いします」


 リベルトの挨拶に、クレアが偉そうに返す。 


「うむ、我がファミリーに入ったからには主の為にしっかり働くのだ」

「承知しております、奥方様。お任せ下さい」


 偉そうに言うクレアに、何でいつもコイツはこんな感じなんだろうと思ったが、よく考えたら龍だから他種族に対してはこんなもんだよなと自分を納得させた。

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