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帰還。

 やけくそ気味でスキルを同時併用した所、何とかパラゴニアの酒の島に戻って来れた。さっきのやけくそ複合スキルが成功したようだ。


 その直後、俺の身体が光る。


≪新たにスキル『神幻門』を獲得しました≫


 俺はスキルウィンドウを開いて説明文を読んでみた。


 『神幻門』スキルを複合して数回使う事により発現する上位移動能力。速さの限界を超える事で時空を飛び越すゲートが開く。プラチナカラースキル。


 酒への強い思いが上位スキルを発現させたようだ。俺は周りを確認する。どうやら他の皆はまだ酒の島には居ないようだ…。


 …よしッ、今のうちに酒飲み直すか!!


 俺は急いで大天幕の店に走った。



 巫女セイとバリー隊長は、ティーアとシーアを伴い、パラゴニアの本島神殿前に戻っていた。リーアが、「アンソニーが呼んでるので行ってきます」と言って地獄へと向かった。


 しばらくして地獄での戦闘の終わりを妖精達から確認したリーアが、ティーアに報告する為に戻ってきた。


「どうやら最後はフィー様のラッシュで『神の使徒』の幹部、神眼アルギスを撃破したようです」

「そうか、結局アンソニーは良いトコなしじゃったのぅ」

「いえ、地獄の妖精チーム『地獄でステキ探し隊』のメンバーから聞いた所、戦闘の膠着状態を打破したのはアンソニーみたいです」

「ほほぅ!!一体どうやったんじゃ?」


 ティーアの疑問に、リーアが答える。


「手持ちのスキルを駆使してアルギスに接近、天使カイロシエル様に憑りついていたアルギスのアストラル体を闘気ハンドで引き剥がしたそうです」


 続けてリーアが話す。


「その後に、キルシ様とラッシュを仕掛けようとした所、フィー様が飛び出して最後のトドメを刺したとの事です…」

「…フィーのヤツ、タイミングを見ておったな…。ところでアンソニーは帰って来んのか?」

「…さっきまで地獄巡りしてたようで、鬼に追っかけ回された後、閻魔様に何かアドバイスを貰ってまた、歩いてたみたいです」


 リーアの言葉に、シーアがある事に気が付いた。


「ん?別次元だから帰って来れんのじゃないでしゅか?」

「…あぁ、そう言う事か。次元間移動の仕方が分からんのじゃな…」

「その点については大丈夫です。ちょっと事情があって自分でスキル使って戻ってくるように伝えました。恐らくファントムランナーと神速、朧があれば転移に近いスキルが発動すると思います」

「…ふむ、そうか…。あんまり助けても本人の為にならんからの。そこは任せてみるか」

「そうでしゅね。それで転移スキルが発現したら儲けモノでしゅ」


 妖精族三体はそんな事を話しつつ、巫女と隊長二人の後ろに続いて神殿内へと向かっていた。



 本島ではクレアが、お供の戦士達とギャラリー達を加えて、被害状況を確認していた。


「クレア姉さま。被害はどうなっておるのかのぅ?」


 ふいに声を掛けられたクレアはティーアの声に振り返る。


「…フフフ、ティーとシーも来たのか?しかし今頃来てももう既に戦闘は終わっておるぞ?」


 得意気なクレアの言葉に、ティーアとシーアの二人は呆れ顔だ。


「…姉さま…。その事はリーからの報告でもう知っとるんじゃ…」

「そーでしゅ。姉さまが変な意地を張ってたのもちゃんと聞いてるでしゅ」

「…何ィィッ、ぐぬぬぬぬッ!!リーッ!!余計な事を喋りおって…」

「だって事実じゃん。『報告は正確に』は基本中の基本だからね」


 リーアの突っ込みに、クレアはバツが悪そうだ。そんなクレアにバリーが声を掛ける。


「…お客人、御無事で何よりです。あなた方夫妻のおかけで巫女様も無事に戻る事が出来ましたよ」


 バリーから礼を言われて、急にテンションが戻るクレア。一つ、咳ばらいをするとキリッと表情を戻す。


「…うむ。巫女様と隊長二人とも無事で何よりです。この様な事を収めるなど主とわらわ、そしてそこにおる娘二人のホワイトファミリーPT(パーティー)には造作もない事ですからな!!」


 そう言いつつ、高らかに笑う。


「PTも何も、姉さまはピンチにわたしら二人を呼ぶなと変な意地を張っておったじゃろ…?」


 そんなティーアからの突っ込みを聞こえなかったかのように無視したまま、クレアが巫女に向かい挨拶をする。


「そう言えば巫女様に挨拶をしておりませんでしたな!!わらわはアンソニー・ホワイトの妻でホワイトファミリーのサポートをしているクレア・ホワイトと申します!!以後、よろしくお願いしたい!!」


 突っ込みに被せるように挨拶をするクレアに、にこやかに答える巫女。


「はい、よろしくお願いします」

「では、わらわと供の者達が確認した被害状況を報告しますぞ」


 クレアとお供のドラゴニアが各島の被害状況の説明を始めた。

 

 酒の島では、黒装束が暴れる前にクレアが制圧したので被害はなかった。そこから六の島まではクレアの対応が速かったためほとんど被害はなかった。


 ただ六の島での能面との戦闘で、島の地面を抉ってしまった事をクレアが謝っていた。しかし巫女セイによると地面はすぐにでも復旧出来るそうだ。


「ふふふっ、大丈夫ですよ?この島全体が特殊な創りになってますからね」


 そう話す巫女をティーアがじっと見ていた…。



 続いて神殿内に入る。


 危険がないかを確認する為に、先にバリー隊長と警備兵が入って行く。その後をクレア、巫女とティーアとシーア、そして供の者達が続く。


 神殿内に入りながら、クレアがティーア達に密談スキルで確認する。


≪所で主はどうしているのだ?闘気が消えていない所を見るとまだ戦闘中なのか?≫

≪いや、ルーシとフィーが救援に行ったようでのぅ。戦闘はもう終わっておるんじゃ≫

≪なんだと!!あの二人が助けに行ったのか…。…はぁ、何故主はわらわを信用して任せて下さらんかったのか…。わらわとてあの様な天使崩れなど軽く捻り上げる事が出来るというのに…≫


 そんなクレアを、ティーアとシーアが諭す。


≪…姉さまがここで敵と戦っていたら島のあちこちが壊れてしまうじゃろ?どっちにしろアンソニーがいなくてはあの戦闘は終わらなかったんじゃ…≫

≪…それはどういうことなのだ?≫

≪悪いヤツが天使に憑りついていたんでしゅ。それでアンソニーが憑りついていたヤツを引っこ抜いたんでしゅ≫

≪ほほぅ、あの難敵を攻略するとはさすが主じゃ。しかしアレは天使に憑りついていたのか…≫


 そんな事を話しつつ神殿内を奥に進んでいくと般若面が持っていた刀が、主人を失い取り残されていた。それを拾おうとした警備兵をティーアが止める。


「警備の人、その刀は危険な業物じゃからの…触らぬ方が良いんじゃ。触ると祟りや呪いに掛かるからの…」


 その注意に、警備兵は慌てて手を引っ込めた。


≪…ティーよ、この刀は妖刀や魔刀の類か?≫

≪うむ。姉さま、鑑定ではこの刀は『鬼椿』と名前が付いておる妖刀のようじゃ…≫

≪…ほぅ、妖刀か…≫


 (おもむろ)に妖刀『鬼椿』を拾い上げるクレア。それを見たバリー隊長が慌てたように言う。


「…クレア殿、そんな危険な武器を触っても大丈夫なのですか…?」

「わらわには、あらゆる負のエネルギーを吸収する力がありまして…」


 その言葉に、後ろに控えていたお供のドラゴニアも腕を組んでうむうむと頷いている。クレアは龍眼で刀を見ていた。刀身から妖気が立ち昇っている。


 鈍く光る刃文の部分に着物を着て、鼻から上を覆い隠す様に夜叉面を被った青白い女人の顔が見えた。


「…ふむ。これは面白そうな刀じゃ。主に献上するか…」


 そう言いつつ、クレアは近くに落ちていた鞘を拾い上げると、刀を鞘に納める。刀身から放出される妖力は治まったが、柄の部分から漏れ出していた。


≪…姉さま…献上と言うたが、それを渡すとアンソニーが祟られるじゃろ?≫

≪…フフフ、わらわにいい考えがあるのだ…≫

≪…クレアのいい考えってロクな事じゃないでしょ?≫

≪…まぁ聞くのだ。わらわはこれを妖刀と知らずに、主に『ついうっかり』渡してしまうのだ。主が祟られてしまった所をわらわがすかさず、黒龍の力を使い呪力を吸い取る。当然、主はわらわに感謝するだろう…≫

≪…そーでしゅかね…?≫


 妖精族三体が呆れた顔でクレアを見ている。


≪…そしておそらく…わらわに惚れ直し、改めて結婚を求めてくるであろうな、フフフ…≫

≪…物事はそんなに単純ではないからそんな簡単にはいかんじゃろ…?≫

≪…そもそも姉さまがうっかり渡したんでしゅから、寧ろアンソニー、怒るでしゅよ…≫

≪…わたしは呆れてモノが言えないわよ…≫


 妖精族三体の突っ込みにも、自らの作戦の成功を信じて疑わないクレアであった…。


 巫女セイ、バリー隊長、クレアとティーアとシーアの三人は被害の確認を終わらせた後、お礼も兼ねて食事を、という事になったのでお供の戦士とギャラリー達を連れて酒の島に移動する事にした。



 やっと地獄から脱出した俺は何とか、酒の島に戻ってくる事に成功した。俺は酒を呑み直すべく

俺が巨大テントに走って行く。


「おおっ、アンタ無事だったんだな。アンタらのお陰で助かったぜ!!」

「あぁ、酒飲んでるのに邪魔されたからな。ちょっとお仕置きしてきてやったんだよ」

「おう、そうか。これでお互いゆっくり酒が飲めるな!!」


 皆が戻ってくる前に俺も早く飲んでおきたい所だ。


 俺は酒の島の大天幕の中にある円形カウンターに行って並ぶとビールを注文した。ビールを受け取り、席に着くと一口、口に含む。



 …くうぅ~っ、この冷えた感じ、そしてホップの香りと苦みが堪らん!!



 そしてビールをのど越しに呑もうとした瞬間―。


「…こらっ!!まだ時間が速いじゃろっ!!」

「…んんっ!?ぶーーっ!!」


 突然のティーちゃんの声に、俺は思わず呑みかけたビールを噴き出してしまった…。口元を拭きつつ、後ろを見る…。


「…うそん…もう来たのかよ…」


 みんな勢揃いで今、ここに到着したようだ…。ティーちゃん、シーちゃん、リーちゃんとクレア。巫女様と警備隊長バリー、そして警備の兵士達。


 よく見るとクレアの後ろを配下のように付き従う者達もいた…。ティーちゃんとシーちゃんは巫女様に抱っこして貰って後ろから俺を見下ろしていた…。


 …くそぅっ…皆が来る前にビールジョッキ二杯は吞んでやろうと思ったのにぃぃっ…!!


「…主、わらわを置いて先に酒を楽しむのは許しませんぞ!!」

「いや、まだ吞んでねぇし!!ていうか、いつもクレアの方が先に呑むだろ!!」


 クレアの登場にギャラリーが再び沸く。


「姉さんやったな!!凄かったぜ!!」

「助かったよありがとう!!」


  皆が拍手で迎える。


「皆、落ち着いてくれ。あのような事は大したことではない。さぁ、皆で呑み直そうではないか!!」

「やっぱお前も呑むんじゃねーか!!」

「…姉さま、さっきも言うたがまだ早いじゃろ…」

「もう少し先の大きい宿屋に行けばそこで御馳走食べられるんでしゅよ?」


 俺達の突っ込みを無視したクレアは既に皆と一緒に円形カウンターに並んでいた。ティーちゃんとシーちゃんを抱っこしていた巫女セイはにこにこと楽しそうに笑っている。対照的にバリー隊長は苦笑いを浮かべていた。



 巫女様と隊長は大きい宿屋の一階に料理屋があるので、そこでの酒宴を予定していたようだ。しかしクレアがギャラリー達と大天幕で呑む気満々だったので急遽予定を変えてくれた。

 

 皆で宴会の方が楽しいという事もあったようだ。料理屋からも食事を運んで貰い大天幕の下で皆で宴会をする事になった。

 

 俺は、まだ正式に巫女様と隊長二人に挨拶してなかったので自己紹介をする。挨拶を終えた頃に大天幕のすぐ近くにある宿屋から店員さんが料理のメニュー表を持って来てくれた。


 大天幕の下、テーブルを寄せ集めて、巫女セイ、警備隊長バリー、ティーちゃんとシーちゃん。

そしてクレアと俺とで同じテーブルを囲み料理と酒を注文していく。


 午後からの戦闘でかなり疲れたので、とにかく肉的なモノが欲しかった。

肉料理メニューを見る。


 ロコモコ、ラウラウ(葉っぱで肉を包んで蒸し焼きにしてるヤツ)のようなハワイアンなモノから、ステーキまである。


 取り敢えず、ちびっこ達はロコモコ、俺はラウラウ、クレアには厚切りのステーキを注文する。

あと欲しいものがあれば注文して良いよと言っておいた。

 

 俺とクレア、巫女様と隊長は取り敢えずビールだ。ちびっこ達はトロピカルジュースをオーダーしていた。

 その傍で、クレアのお供をしていた戦士達も、集まって乾杯していた。

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