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スキルの謎と隠れた力。

 現世に帰る道はないと言われた俺は閻魔様にお礼を言った後、再び地獄を歩く事にした。


 暫く歩いていると、地獄の歓楽街のような場所に出たので覗いたら鬼達がいた。また追いかけ回されても困るので、その場をそっと避けて更に地獄を歩いていく。


 次に到着したのは地獄の温泉街の様な場所だ。地獄って結構広いし色々施設があるんだな…。ていうか鬼って地獄のどこにでもいるんだな…そう思った瞬間、俺はふとある事を思い出した。


 どこにでもいると言えば妖精だ!!地獄にも妖精が知識集めに来ているかもしれん。リーちゃんを呼んでもらおう!!


 俺は鬼達の施設から離れた所で深呼吸する。そして何もない宙に向かって一人、呟いてみた。


「妖精さん妖精さん、この近くに居たら出て来て下さいな。チョコを一つ、差し上げましょう…」


 誰もいない所で一人声を出すのは恥ずかしい。どうしても声が小さくなってしまう。



 ………。



 誰も来てくれない…。もう一回だけ呼んでみようかな…。今度はチョコを二個にして、妖精を呼んでみた。


「妖精さん妖精さん、この近くに居たら出て来て下さいな。チョコを二つ、差し上げましょう…」


 すると目の前に、一体の妖精が現れた。


「…あっ、来てくれたっ!!ありがとうっ!!」

「さっきそこで大規模な戦闘があったので別のエリアに退避していたのです。だから呼んでる場所が分からんかったのです」


 と説明された。

 

「では約束通りチョコを二個、差し上げますので最長老のリーちゃんを呼んでくれるかな…?」

「…ん?リー様なら普通に呼べば、どこでも来てくれるよ…?」


 チョコをガリガリ食べながら、さも当たり前のことのように言われた…。何だよ…今まで歩いた俺の労力は、そして鬼との戦闘は…一体何だったんだ…。


 …まぁ、いいか…


 妖精はチョコを持ってまたどこかへと消えた。


「…おーい、リーちゃーん、来ておくれ~」


 …俺が呼んだその時、俺の鼻に小さな虫が飛び込んで来た…。はっ、はっ、はぁっくしょんッッッ!!


 そのタイミングで目の前にリーちゃんが現れたw


「…わっ、汚なッ!!せっかく来て上げたのに何でわたしにくしゃみ浴びせるのよッ!!」

「…あ、いやごめん。ハクション大〇王、ちょっと鼻の中に虫がw」

「誰がハクション大〇王よッ!!どっちかって言わなくても、あ〇びちゃんの方でしょうがッ!!」


 プリプリ怒っているリーちゃんを、まぁまぁとなだめつつ、布の端切れで顔を拭き拭きして上げた。

そして俺はパラゴニアに連れて帰ってくれるようにリーちゃんに頼んだ。


「…まぁまぁ、わざとじゃないんだし機嫌直して…」

「…アンソニーも『神速』使えばたぶん出来るよ…?」


 

 …え?何がw?



 たぶん出来ると言われたが神速を使って何が出来るんだ…?俺の頭の上に?マークが浮かぶ。


「神速を全力で使うとワープみたいになるでしょ?」


 あぁ、確かに神速が最高段階に到達した時、そんな感じだったな…。


「その時に行った事のある場所をイメージしながら、神速の最高段階を越す感じでやると転移に近い感じで行けると思うけど…。場所のイメージがしっかりしてないと変なとこに飛ぶけどね」


 続けてリーちゃんがヒントをくれた。


「速さの限界を超えると肉体が素粒子レベルで分解された様になって時間と空間を飛ぶ事が出来るんだけど…」


 …ざっくりした理論だなwなんとなく言わんとしている事は解からんでもないけど…スター〇レックの転送みたいな感じか?しかし転移先でハエ男みたいにならないだろうなw?


「…身体が素粒子になったまま、速さの限界を維持していると次元の扉が光になって現れるから、そのまま光を超えると目的地に到達できるのよ」


 リーちゃんの説明が続くが…これ以上は無理だ、頭痛くなってくる…しかし神速のスキル説明欄にはそんなこと一言も書いてなかったけど…。


「くしゃみを浴びせた罰ね。ヒント上げたんだから自分で帰ってきてよ。まぁ物は試しでやって見たら?んじゃ、先に戻ってるから!!」


と言ってすぐ消えてしまった。

 

「うおぉぉぉいッッ!!置いて行くんかいッッ!!」


 ………。


 ……………。

 

 …ホントに置いて行かれた…。仕方ない、やってみるか。



 俺は考えた。リーちゃんの言ってた感じで行くと、神速だけでは転移のようにはならない気がする…。

速さの限界超える為にはどうすればいいかだな…。


 そこで俺はふと思い出した。スキルを再構築する人いたな…。しかし俺はスキルの再構築は出来ない。


 …だったら合体させてみるかw?


 合体と言うとちょっと違うかもだけど、要は同時併用でリーちゃんが言ってたような感じになれば行けるかもしれない…。


 まずは『ファントムランナー』で助走を付ける。その最中に『神速』を使いながら『朧』を発動させてみるか。


 よし、取り敢えずやってみようw


 まずは全力でファントムランナーを発動させて助走をつける。その途中で神速最高段を発動させた。直後に朧も同時に発動させる。   


 辺りが一気にオレンジ色に染まりキラキラとした細い光線が一瞬にして通り過ぎていく。

イメージとしてはスタート〇ックのワープ航法みたいな感じだな。


 俺は更に、ファントムランナーを全力で発動させつつ、神速最高段と朧を持続させる。瞬間、周囲の動きが止まったようにスローになっていく。

 俺の身体が全て素粒子になって、意識だけが一気に突き抜けていく感じだ。


 …おっ!!成功したか?


 そんな事を考える俺の目の前に突然…一本の細い、赤い土で出来た坂道が現れた。


 …これはっ!!…


 赤い一本の上り坂のその先に、小さいが強い光が見えた。俺はそのままスキルを発動し続ける。


 小さな光がどんどんと近づいて大きくなってくる。上り坂を走り抜けていく途中で脳内に突然、声が響いた。


≪…ホワイト、振り返るなよ?≫


 キルシさんの声だ!!


 振り返るな…?もしかしてこの赤い上り坂って…地獄から戻る為の『黄泉比良坂』か…?そうだ、確かあれは振り返ると地獄に引き戻されるんだったな…。

 

 よしッ、このまま一気に走り抜けてやるッ!!しかし光の扉が目の前まで来た瞬間、俺の背後から声が響いて来た…。



「…あき!!お金が無くなったのよ!!纏まったお金、貸してッ…!!」


 …この声は…姉の声だ!!


 離婚してから息子を連れて実家に戻ってきた姉は数年まともに働いていたが暫くして好きな事をして生きる!!とのたまった挙句、フルタイムの固定収入を捨てて良くわからない小物を創っては売りに行き始めた…。


 別に好きな事を仕事にするのは良いと思うが、固定収入があるメインの仕事を辞める必要はないだろう?仕事してたって副業で好きな事は出来ると思うが…。


 しかし、うちの姉の思考回路は普通ではない。普通の理論など通用しないのだ。


 金貸してくれって言うがこういう時の貸してくれは貸してくれではない。そもそもほとんど働いてないんだから返せる宛もないし、お金くれって言ってるようなもんだろ…。


 離れて住んでいるから会う事もないし、今仕事しているかどうかも怪しい。確かまだ半分ニートしてるとかうちの母親が言ってたな…。


「私の話聞いてんのッ?!お金が無くなったって言ってるじゃないッ!!」


 全力で走り抜ける俺の背後から、金を無心する姉の声が響く。


「うるせぇんだよ!!そんなの知らんわッ!!親のすね齧ってねーでさっさとまともに働きに出ろッッ!!」


 俺は叫びながらその声を振り切り、俺は坂道を走り続ける。すると今度は別の声が後ろから聞こえてきた。


「…叔父さんっ…俺も母さんも実家から追い出されそうなんだよっ!!頼むからお金貸してくれよっ!!」



 …今度は甥の声だった…。



 甥は大学卒業後、実家に戻って来たが親がまともに働いていない事を良いことに自分も仕事に行かず部屋に籠ってゲームして遊んでるって聞いた…。


 元々コイツは中学時代からスマホに嵌り過ぎて毎日朝まで起きていた様なヤツだ。学校に遅刻しそうになると車で送ってくれと頼み、断られると逆切れするヤツだったな…。


 親子共々、実家に寄生してじーさんばーさんの年金で生きているダメ人間だ。


「金の無心する前にお前も働きに出ろっ!!すぐに人を頼るんじゃねぇっ!!この依存症がっ!!」


 叫び、走り抜ける俺の背後からまたも甥の声がする。


「…俺、人間がどうして働かなきゃいけないのか解らないんだよ!!」


 

 …コイツッッ…!!


 

 俺は思わずイラっとして危うく振り返りそうになってしまった。


「そんな事は働きに出てから考えろやっ!!このボケがァッ!!」


 怒りと共に俺は一気に光の扉に飛び込む。


「うおぉォォォォォッッ!!お前らどうでもいいけど早く働きに出て自分で金稼いで生きて行けやァァッッ、ゴルゥァァァァァッッ…!!」


 怒りに任せて光の扉を走り抜けた瞬間、辺りが一気に閃光に包まれた。そして分解されていた素粒子が全て戻り、肉体を再構成していく。


 閃光が収まると俺は地上に戻っていた。どうにか黄泉比良坂を走り抜けたようだ。地獄へと引き戻そうとする嫌な声に動揺し、かなりイラッとさせられたが何とか振り返らずに済んだ。

 

 しかし異世界に来てまで、アイツら親子に金の無心されるとは…。溜息が出るわ…。

 

 嫌な気分だったが戻って来れたので良しとするか…。しかし一時はどうなるかと思ったぜ…。

俺は辺りを見回す。

 

「…オーイ、クレア戻った…ぞ…?あれっ?ここ、どこぉ…?」


 俺が辺りを確認していると、リーちゃんの声だけが聞こえてきた。


「行った事のある場所をイメージしながらやらないと変なとこに飛ぶよ?って言ったでしょ。まぁ、地獄とこの世界が近くて良かったね」


 …ああ、その場所をイメージしないとダメなんだったな…肝心な事忘れてたわ…。


 …で、ここどこよ?…近くに海があり、港町が見えた。



 マップを開いてみる。この周辺が明るくなって地形が分かるようになっていた。東側に港町があり海が見える。


 マップを全体図にしてみる。


 ここから東を見て海の向こうに陸地がありスラティゴが確認出来た。今、俺がいるここは西大陸の東端のようだ。場所を確認していると突然、俺のお腹がグゥと鳴る。…もうそろそろおやつの時間帯、午後三の刻辺りだろう。

 

 時計が無くても大体の時間が解かるのは、空腹のせいだ。俺の生活は一定のサイクルが出来ている。だからお腹が空いてくる時間で大体何時か解かる。


 毎回言ってるけどw


 早くパラゴニアに帰らんとな…。小腹も減ったし…。そう思いつつも巫女様と隊長の事を思い出してリーちゃんに『ひそひそ』で呼び掛けてみた。


≪…そう言えば巫女様と隊長は無事なの…?≫


 リーちゃんがどこにいるのか見えなかったが、すぐに返事が返ってきた。次元の狭間にいるのかもしれない。


≪うん。大丈夫。さっきまで世界樹にいたからね≫

≪…え?確かに俺は安全な場所に転移させてって頼んだけど…俺以外の人間を世界樹の中に呼び込んで大丈夫なの?≫

≪うん、いきなり中に転移してるからあの二人はどこにいたか分からないと思うよ?≫

≪…ああ、それならいいんだけど…≫

≪今はティー様とシー様のお二人と転移でパラゴニアに戻ってるけどね≫

≪ふむふむ、そうか…。じゃ俺も早く戻らんとな~…≫

≪場所は間違えたけど、さっき出来たでしょ?地獄から戻って来れたのよ?簡単でしょ?じゃ先に戻って待ってるからね~≫

 

 そう言われたが…。この世界の妖精って結構スパルタだな…。簡単って言うなよなぁ…。仕方ない、もう一回、さっきのやってみるか…。


 『ファントムランナー+神速+朧』であんな感じになるとは思いもしなかったが遠距離移動には使えそうだ。


 早く帰って酒を呑みたい俺はまず、パラゴニアの酒の島を強くイメージする。そして地獄から戻った時の様にまずはファントムランナーを発動した。


 次元の壁を超える為、神速最高段を発動した後、朧も発動する。タイミング良く段階的にスキルを発動しているのに何故か上手くいかない…。


 おかしいな、さっきは出来たのに…。地獄にいた時とは状況が違うからかな…。早く帰りたい俺は考えた。三つのスキルを一気に同時発動させてみようか。


 俺は酒の島を強く、強く強くイメージする。やけくそ気味で一気に三つのスキルを全力発動した。


 一回目…失敗。二回も…失敗…。段々イライラしてくる…。


 そして怒りの三回目。チクショーッッ!!俺は早く帰って酒が飲みたいんだよッ!!発動しやがれコノヤロー!!


 その瞬間、一気に眩い光の門が開いた。

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