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地獄巡りと鬼退治ツアー。

 俺は別の懲罰も確認した。


 どうやら次に見えたのは、生前、家族に寄生し、ニートをしていた者達への懲罰のようだ…。


 離婚して実家に帰ってきた親子が、仕事もせずドラマを見て、毎日スマホとパソコンでゲームをする日々…。

 

 何も言えない祖父母から年金を巻き上げた親子が笑い声を挙げた瞬間、鬼によって家から引き摺り出され、労働農場に連れて行かれる。


 今まで散々、祖父母の年金を当てにして遊び続けていた親子は、食べるものも与えられず無間に農場で鍬を振り、働かされる。


 暫く畑を耕すと、親子の目の前に作物が現れる。それを食べようと手に取った瞬間、鬼からそれを取り上げられ、目の前で食べられてしまう。

 

 空腹と疲労で発狂した親子は、互いに罪を擦り合い、果てにはお互いを攻撃し始めた。

鍬を振り回し、お互い殺し合いで動けなくなった所を、鬼によって首を撥ねられる。


 首を撥ねられ、やっと苦しみから解放されたと安心した瞬間、巻き戻しに会い、同じ無間懲罰を繰り返し受けていた…。


 他には仕事を適当にやって残業代を毟り取っていた会社員。自分の事を棚に上げて他人ばかりを批判する人間。

 とにかく難癖をつけて職場から他人を辞めさせる人間と、各懲罰がエリアごとに細かく分かれていた…。


 …この世界の地獄の懲罰、細か過ぎるだろ…。


 しかしいかんな、こんなのばかり見てたら何だか俺の心が病んでいきそうだ…。


 俺は気持ちを切り替えて、とにかく歩く事にする。一方向だけに進んでいけば何かしらの施設には到達できるだろう。そう思って歩こうとした瞬間、前方の岩陰から釘バットを肩に担いだ鬼が現れた。


 節分の時に出てくるあのイメージそのままの鬼だ。赤い肌、黄色と黒の縞の入った二つの角、パンチパーマ、虎柄の腰巻…。

 しかし担いでいたのは棘付きの金棒ではなく何故か釘バットだった…。


 お互い、ふっと視線が合う。


「…あっ、こんにちは。いきなりで申し訳ないんすけど…俺、迷子になってましてね…出口があれば教えて頂けないかな~なんて…」


 俺が声を掛けて、地獄からの出口を聞こうとした瞬間、その鬼が叫んだ。


「なぜ生きている人間がここにいるのだッ!!者共ッ、不法侵入者だ!!捕えろッ!!」

「…いやっ、ち、違うんですっ、誤解ですっ!!不法侵入じゃないんですよ!!俺はたまたまここに連れて来られただけで…」


 俺は必死になって弁解をしたのだが、目を血走らせた赤や青の鬼達は聞く耳を持たず、問答無用と言わんばかりに襲い掛かってきた。

 

 ちょっとは人の話聞いてくれよ!!と言いたい所だったが体長二メートルを超す鬼軍団が殺到してくる光景はコワ過ぎる…。

 俺はすぐに反対側に逃げようとしたが…。反対側からも鬼達が集まって来ていた…。


 仕方ない。弁解しても聞いてくれないし…取り敢えず逃げるか。俺は、土埃を上げながら突進してくる鬼達に向かってファントムランナーで助走を付ける。


 そして鬼達との距離五メートルあたりで俺は前方に向かって跳躍を発動させた。軽く鬼達の頭上を越える。そのまま走って逃げようとしたが更に目の前から第三陣の鬼達がこっちに向かってくるのが見えた。


 くそっ…どうするかな…。…倒しても良いのかな?しかしこの鬼達はたぶん、地獄の王の配下だろうしなぁ…。


 俺がそんな事を考えていると、頭の中に声が響いた。


≪…倒しても良いぞ?人間に負ける様な地獄の警備などいらぬからな…≫


 キルシさんの声だ。地獄では鬼が警備兵の様だ。それで俺を追っかけ回すのか…。

鬼は釘バットをぶんぶん振り回して俺に向かって四方八方から殺到してくる。


 …許可が出たからやるかw


 一応、殺さないように気絶程度にしておこう。俺は、振り返ると、第一陣の鬼達に向かってファントムランナーで急接近する。勢いそのままに大人数の鬼の間を縫うように走り抜けた。


 走り抜ける際に、鬼達の首にチェーンサンダークラップを繋げて、最大出力で発動する。激しい明滅と音と共にバチバチッと電流が龍の如く走り抜けた。

 瞬間、鬼達が身体から煙を出して一気にバタバタと倒れていった。


 最近、籠手のスキルも使えば使う程、威力が上がってきている気がする。


 …やべぇ…やり過ぎたかな…?


 しかし俺の心配をよそに、第二陣の鬼達が構わず殺到してくる。俺はバックステップしつつ、軽く跳躍して龍神弓で地雷矢をひたすら打込んでセットしていく。


 鬼達がその上を走りかかった瞬間、俺は地雷矢にセットして置いた電撃を発動させた。辺り一面に電撃が放出され、第二陣の鬼達も気絶し、倒れていく。


 流石に第三陣の鬼達は先の俺の攻撃を見て怯んだのか、足が止まっていた。俺は構わず神速で接近し、鬼達の足下に大範囲で暴風雷塵をセットして離脱、これも最大出力で放った。


 暴風と稲妻で混乱した鬼達がバラバラと宙に吹っ飛んでいく。気が付いたら、気絶した鬼の山が三つ出来てた…。


 やれやれ、これで終わったか。そんな事を考えていると当たりがさっと暗くなった。

なんだ?どうした?

 

 次の瞬間、ガラガラのしわがれた声が上空から響いて来た。



「地獄の警備を良く倒したな!!人間!!しかしここまでじゃあッ!!」


 俺が見上げると、体長五メートルはあろうかという超巨漢が俺に襲い掛かって来る所だった。


 やべぇっ、油断した!!こんなデカいヤツに既に接近されていたとはっ!!

焦りテンパった俺の頭上に、ラ〇ウのような拳が降ってくる。


 しかし…。


「…ぬッ!?ぬぬッ…!!」


 俺を起点として範囲三メートルでその巨漢の拳は止まった様に動かなくなった。


 …あっ、そうかッ!!


 …クククッ、そうだ。そうだったよ。俺にはカイさんに貰った超便利スキルがあるじゃないですか。


「…フフフ。そこのアナタ、この俺を攻撃しようとしているなら無駄無駄無駄無駄ァッ!!大人しく引き下がって貰えませんかねぇ?」


 ニヤニヤと笑いながらそう言ってみたが…。


「…………」


 あれっ?何でだ?動かないのは解かるが何も喋らない…。

…あっ、そうか。ゾーンエクストリームの中に入ると全ての行動が極限までスローになるんだったな…。


 という事はこの場合、俺が動いて離れないとこの巨漢さんは何も出来ないし、会話も俺側からの一方通行になってしまうのか…。


 …仕方ないな。俺は動いて離れる前に、目の前の巨漢さんに釘を刺して置く。


「良いですか?今からこっちが動いて範囲から出しますんで…俺は争う気はないんです。そっちが何もしなければこっちも手を出しませんので…」


 そう伝えてから一旦、バックステップで距離を取る。その瞬間、止まっていた動きが再開される。

勢いの付いていた拳が大きな音と共に、地面を抉った。


 ドゴオオォォォォォォ―ッッ!!


「ガハハハッ!!動けるぞッ!!人間よ今度こそ覚悟せよッ!!」


 …あっ、この人、俺の話全然聞いてねぇ…。


 巨漢は動けるようになった途端に懐から(しゃく)を出すと俺の方に真直ぐ突き出す。


「『笏・蛇腹剣!!』」


 巨漢が叫んだ瞬間、笏が蛇の様に伸びて俺に襲い掛かってくる。


 が…。


 またもや、範囲に入り巨漢は笏と共に動けなくなってしまった…。

俺は再び釘を刺す。


「…良いですか?良く聞いて下さい。俺の範囲に入るとアナタは攻撃出来なくなるんです。こちらに敵対意志はないので攻撃しないで下さいよ?」


 そしてもう一度、バックステップで距離を取った。

その瞬間―。


「グハハハッ!!今度こそ覚悟せぃッ人間ッ!!魔障炎迅拳ッッ!!」


 巨漢は動けるようになった瞬間、今度は魔障気を拳に纏い、豪快に正拳を放ってきたが…また動けなくなった…。

 

 …この人、全然学習しねぇな…。


 しかし、今この巨漢が叫んだ技名は確か魔皇の…。


「その魔障…ナントカ拳って魔皇も使ってましたけど…アナタは魔皇の関係者ですか…?」

「………」


 俺は巨漢に聞いてみたが、そう言えば範囲に入っていると動きも話も出来ないんだったな…。


「…えーと、良いですか?もう一回説明します。攻撃意志を持って俺の範囲に入ると全ての動きは極限まで遅くなります。つまり俺を攻撃する事は出来ません…。OK?」


 動きの止まった巨漢の眼は悔し気だったが、流石にもういい加減解ってくれただろう…。


「ではもう一度距離を取りますので、動かないで下さいよ?」


 俺は三度釘を刺し、バックステップで距離を取る。


「…おぬし、人間のくせに変なスキル持っておるのぅ…。まぁそれは良いとしてじゃな…何でおぬし、うちのフィーアちゃん知ってるの…?」


 動けるようになった巨漢は、開口一番聞いてきた。


「…えぇ…魔皇なら知ってますよ?…さっきそこで戦闘してた時に一緒に居ましたけど?…ところでアナタはフィーちゃんのお父さんですか…?」

「…いや、ワシは叔父じゃ。フィーアちゃんに『魔障炎迅拳』を教えたのはワシなんじゃ。あ、ちなみにワシ、閻魔大王ね」


 自分が閻魔大王である事をさらっと話す巨漢。と言うか閻魔様。まぁいかにもって格好だから言われなくても分かったけど…。


「さっきまでそこにおったのなら…何で会いに来てくれんのかのぅ…」


 閻魔様が不満そうに腰をクネクネさせながら残念そうにしている。


「…まぁ、魔皇ですから…忙しいんじゃないですかね…」


 …なんだ叔父さんかよ。


 『うちの』って言うからお父さんと勘違いしたじゃねーか…。ていうか魔皇の叔父さんが閻魔様か…。


 …何でw?


「…しかしおぬし、なぜ生きたままここにおるんじゃ?ここは地獄だぞ?」


 さっきまでクネクネしながら不満を漏らしていた閻魔様が急にシリアスになった。


「実はその話なんですが…」


 俺は今まで経緯を説明した。



「なんじゃとッ!!キルシのヤツ!!住む所がなくなったというから地獄の一角を貸してやっておるのに、勝手な事ばかりしおって!!地獄はワシの管轄じゃというに、ぬぬぬぬッ…!!」


 俺がキルシさんに連れて来られた事、危険なヤツと地獄の平野で戦闘していた話をすると、閻魔様はプリプリと怒り始めた。


 ついでに俺は帰り方が分からない事を話す。


「…ふーむ、それは困ったのぅ…。地獄門は入り口専用で外には出られんようになっておるしのぅ…。もう一回キルシのヤツに頼んで…」


 そう言い掛けた閻魔様が言葉を止めた。


「…あやつ、勝手なヤツじゃから自分で何とかしろって言うじゃろうな…。うちのフィーアちゃんと美濃は単独転移しか出来んしのぅ…」


 閻魔大王が話しているその後ろを見ると、巨大な閻魔殿があり、そこから山へと道が続いていた。山の上からは死んだ者達が次々と下りてきている。

 死者達が降りてくるその元を見ると地獄門らしき建物が小さく見えた。


「もう一つ、現世に戻る道は『黄泉比良坂(よもつひらさか)』があるんじゃがアレは地獄のどこに現れるか分からんのじゃ。現れたり消えたりで場所も一定ではない。

 今のお主が現世に帰るのは難しいじゃろうな…」


 そう言われてしまったので仕方なくその黄泉比良坂が見つかるのを期待して再び地獄散歩する事にした。

 

 俺は閻魔様に、お礼を言ってからその場を去った。さて、どうしようかな…。

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