状況説明。
地獄での戦闘が終わる一時間程前ー。
世界樹ではティーアとシーアが巫女セイとバリー隊長の二人と話をしていた。
突然、パラゴニアの神殿から知らない場所に転移して驚いていたが、そこにいた二人の小さな子供に敵意が無い事で安心したようだ。
「…突然で驚いたかのぅ。しかしここには危険は及ばんでな」
「二人とも安心するでしゅ」
「…ここは…?なぜ突然転移したのだ…?」
バリーの疑問に、ティーアが答える。
「島の神殿内で戦闘をしていた者がおったじゃろ?その者に頼まれたんじゃ、暫く安全な所に二人を避難させた方が良いという事でのぅ」
「そうだ!!客人を置いて来てしまったのだ…どうなっているか…」
「あの二人なら大丈夫でしゅ」
「神殿におられた方は、あなた達のお父上様?」
セイとバリーの質問にシーアが答える。
「ん?肌の色が異常に真っ白くて、真っ黒い服着てる人でしゅか?」
「ええ、そう…タガーを持ってて…」
「あぁ、アンソニーの事か…まぁ…そんなもんかのぅ…」
「という事は、もう一人いた女性の客人がお母上様という事か…」
バリーの言葉にシーアが一瞬、考えてしまう。
「クレア姉さまが母上…ま、まぁそんな感じでしゅ…」
「二人はご両親をフランクに呼んでるのね?」
「…うむ、わたしらは二人の養子でのぅ。じゃから余り呼び方にはこだわってないんじゃ…」
「…あらあら、養子でしたのね…失礼な事を聞いたかしら?」
「…いや、大丈夫じゃ。特に気にはしてないからの…」
そう言いつつ、ティーアとシーアがチラッと視線を合わせた。
≪…上手く誤魔化したが…あの二人が父親と母親か…想像するとなんか嫌じゃな…≫
≪…そうでしゅね…あの二人の娘は何か嫌でしゅね…≫
一瞬、おかしな相関図を想像してしまった二人は、慌てて話を変えた。
「…今、戦況の確認をしてみるからの…」
肩に乗っていたリーアからの報告を聞きながら二人に話すティーア。
シーアはセイとバリーをテーブルの方へと案内する。
「こっちに来て座って待つでしゅ」
そう言いつつシーアがお茶と木の実を準備してテーブルの上に並べた。
「どうぞでしゅ」
「ありがとう、小さいのにしっかりしてるのね」
「かたじけない。しかし…ご両親は本当に大丈夫なのか?」
二人の言葉に、シーアがチラッとティーアを見る。
「あねさまが確認してるでしゅ。状況が分かるまでちょっとだけ待ってて下さいでしゅ」
そう話すシーアに、セイが徐に尋ねる。
「お姉さまの肩に乗ってらっしゃるのは妖精さんかしら…?」
「…ん?妖精が見えるんでしゅか?」
「…えぇ、突然目の前に現れて…気が付いたらここに転移してたものだから…」
「もしかしてあの妖精さんが、わたし達二人を転移させたのかと思って…」
「うん、そうでしゅ。二人をここに転移させたのは妖精リーアでしゅ」
リーアが見えないバリー隊長は巫女とシーアの二人を交互に見ながら話を聞いていた。
「…という事はお父上が私達二人をこちらに転移させるように妖精さんに頼んだのですね?」
「そうじゃ…今、二人ともそれぞれ交戦中のようじゃ…」
そう言いつつ、三人が話している所に来てティーアも椅子に座る。
「もう一度、戦況の確認の為に、リーに飛んで貰っておるからの。安全の為に、もうしばらく待ってて欲しいんじゃ…」
そう言いつつ自己紹介をしていなかった事を思い出したティーアとシーアの二人が改めて挨拶をする。
続けてセイとバリーの二人も自己紹介を始めた。
◇
待っている間に、ティーアとシーアの二人はバリー隊長からパラゴニアでの経緯を聞いた。
厳重な警備のパラゴニアに、忍び込んで来た黒装束達。各島で暴れている者達をお母上が、そして神殿内で巫女セイを襲っていた般若面をお父上がそれぞれを相手に戦闘になったと説明する。
瞬間に消えて移動して来た般若面をお父上が止めて下さったのだと、バリーが話した。
話している傍から、再び様子を見に行ったリーアが戻ってきた。
「シー様、解毒水とハイポーションを多めに下さい!!」
リーアに言われて鞄から解毒水とハイポーションを渡すシーア。
「はいでしゅ、いっぱい持って行くといいでしゅ!!」
「…なんじゃ?二人とも苦戦しておるのか…?」
「…クレアがちょっと…苦戦してるって程ではないんですが…」
リーアが『ひそひそ』で状況を説明する。能面を付けた、すり抜けるスキルを持った能力者と戦闘中のクレアが、数か所を鎌で斬られた事、鎌に自己治癒を遅らせる特殊効果が付いている事などを話す。
≪…わたしらが加勢に行った方が良さそうじゃの…≫
≪…それが…クレアがお二人は絶対呼ぶなと…≫
≪なんじゃ!!こんな時にクレア姉さまは変な意地を張ってからに!!≫
≪アンソニーの方はどうなんでしゅか?≫
≪今、神殿内から『真獄』を使って別空間に入り、般若の面を付けた男と戦闘中です…≫
≪アンソニーも押されておるのか?≫
≪…今の所は…互角…ですかね…。クレアと闘っている能面と同じく、般若面も特殊な能力を持っているようです…≫
「…ふーむ。どうしたもんかのぅ…」
「…お二人が危険なのですか…?」
セイの言葉に、どう話していいものか迷うティーア。
「…二人なら大丈夫だと思うんじゃが…」
「俺達も救援に行かなくていいのか?」
「…どうもクレア姉さまが変な意地を張っておるようで…」
巫女セイが報告に戻ってきたリーアを見る。視線に気づいたリーアが驚きつつセイと話した。
「…見えていたのね?」
「えぇ、それでお二人は大丈夫なのかしら…?」
「…取り敢えずセイ様とバリー隊長のお二人はここで待っていて下さい」
「リーよ、どうするんじゃ?」
「解毒水とハイポーションを届けてもう一度様子を見てきます。取り敢えずティー様とシー様も暫く待機していて下さい…。本当に危険がせまったら救援を呼びに戻ってきますので…」
そう言ってリーアは再び消えてしまった。
◇
三十分程してリーアが戻ってくる。能面との戦闘でクレアがちょっと本気出したので戦いは終わったと報告。
「その後、アンソニーの方も般若面との戦闘に勝ったんですが…」
言葉を濁すリーア。
「どうしたんじゃ?何かあったんか?」
「…それが…後から現れた危険な男に、単独で戦闘を仕掛けちゃって…」
「大丈夫なんでしゅか?」
「相手はどんなヤツなんじゃ?」
「…クレアは偽天使と呼んで居ましたが…」
神速四段で相手を殴り飛ばしたが、その後、スキル『朧』を破られて脇腹を刺され『バニッシュ』で亜空間に逃げた所でハイポーション渡して来た、と説明するリーア。
「天使でしゅか…。あねさま、危険な気がするでしゅ…」
「そうじゃの…しかし真獄の中はリーしか行けぬからのぅ…。どうしたもんかの…」
「…どういう事なんだ?父上が危険なのか?助けに行った方がいいのではないのか?」
バリー隊長の言葉に顔を曇らせるティーア。
「…アンソニーが特殊なスキルを使って敵を隔離しておるからのぅ…。救援するのが難しいんじゃ…」
沈黙する一同。そんな中、半分だけ身体を次元の狭間に入れて戦闘の様子を見つつ、説明していたリーアが声を上げる。
「真獄が解除されたようです!!…これは…!!ルーシ様です!!ルーシ様が次元転移で敵ごと纏めて地獄へ転移したようです!!」
「…なんじゃルーシが助けに行ったんか。なら大丈夫じゃろ…」
「そうでしゅねルーシが居れば大丈夫でしゅ。地獄は真っ赤で目がおかしくなるから、余り行きたくないでしゅ…無駄に魔力使うのもちとごめんでしゅ」
「そうじゃの、瘴気も強いしのぅ。決着が付くまで、もう少しここで待ってても良さそうじゃの…」
「元天使と偽天使の戦い…面白そうなんでしゅけどねぇ…」
そんな二人の会話に付いて行けないセイとバリー。そんな中、実況していたリーアが再び、フームと考え込む…。
「ティー様、どうやらフィー様も美濃さんを連れて、救援に行った様です」
「なんじゃ、フィーのヤツも行ったんか…過剰戦力な気がするがのぅ…」
「これでアンソニーの方も大丈夫そうだし、取り敢えずパラゴニアは安全になったので皆で転移しましょう…」
そう言いつつ、次元の狭間から身体を戻すリーア。リーアの言葉で、皆でパラゴニアに戻る事になった。
◇
その頃、地獄の空の下、俺は途方に暮れていた…。
マジでどうやって帰りゃいいんだろう…?
キルシさんにしても、フィーちゃんにしても転移スキルか魔法で移動してたから、転移とかのスキルが無いと、たぶん戻れんよな…。
……はぁ……。
…溜息しか出ない。…まぁいいか。このままじっとしててもどうもならんし、せっかく地獄に来たからいい考えが浮かぶまで少し歩いてみるか。
俺は周りを観察してみる。荒涼とした赤い空と赤い大地。まるで火星を撮影した昔の写真の様な感じだ。
目が痛くなってくるのでゴーグルは付けたままだ。
とにかくこの近くに集落とか、施設とかそういうのがあるか探してみよう。誰かいたら帰る方法を聞く事が出来るかもしれん。
そこで俺はその場で、『バードアイ』を発動したまま、少し強めに『跳躍』を使って垂直に飛んだ。
人間ミサイルの様に飛んだ俺は急いで上空から周りの地形を確認する。この辺りは何もない岩だけの平野のようだ。
方角が良く解からないのでとにかく施設なり集落なりを探してみる。
俺は上空から、周辺を見ていてある所から目を離せなくなってしまった。
俺は思わずバードアイで『それ』をズームアップする。『それ』は、どうやら地獄での無間懲罰場のようだ…。
見た瞬間、その光景が一瞬にして俺の脳内に流れ込んできた。
どうやら、俺が見たのは浮〇や不〇懲罰のようだ。浮〇や不〇をしてパートナーや子供を苦しめた者達が、地獄の責め苦を受けていた。
生前、妻子を放ったまま家にも帰らず、職場の女性と不倫関係を続けていた男。その男が不倫相手からも、妻からも責められていた。
俺はバードアイの遠望機能で見ているだけなので、その現場の声は聞こえなかったが、その様子から大体の察しは付く。
妻と別れると言いながら、のらりくらりといつまでも不倫を続けようとする男に不倫相手が詰め寄る。
男が後ろから肩を掴まれ振り返ると、そこには妻がいた。仕事をしていると言っていたから信じていたのに、私と子供をほったらかしにして外で他の女と浮気して…。
そんな台詞が聞こえてきそうだ。
鬼達に拘束された男の目の前で、不倫相手は他の男の腕を取り去っていく。妻は見知らぬ男とホテル街へと消えた。
妻も不倫相手の女も、他の男とベッドの中へと沈んでいった…。
その瞬間、男は鬼によって首を斬られる。男の網膜に、犯した罪の末路が焼き付けられ、永遠に網膜の中でその苦しみが繰り返されて行く。
男の首は、同じ様な罪を犯し生首となって並べられていた所に新しく置かれた。網膜に焼き付いたその代償が何度も映像となって見えるのか、生首の目はカッと見開かれたまま血涙を流していた…。
…グロ過ぎて見てられん…。
俺の身体が上空から墜ちていく。地面激突三メートル手前で旋風掌を発動してふわりと着地した。
偶然ではあるが地獄の懲罰を見てしまった俺はいけないモノを見てしまったようでドキドキしていた…。
俺は暫く宛もないまま歩く。さっきの光景が目から離れず、気になってソワソワしていた。
他の罰って…どんなのがあるのかな…?
暫く歩いていた俺は、ついに我慢出来なくなって、他の罰がどんなものか見る事にした…。
俺は再び跳躍し、上空でバードアイを使って先程とは別の方角を見た…。