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襲撃。

 俺達が言い合いをしていると、盗賊のヤツらがブチ切れた。


「テメェらッ!!ふざけんのマジでいい加減にしろよッ、ブッ殺すッ!!」


 男達は怒りを爆発させた。しかし、ヤツらはそこから一歩も動けず、ぶっ倒れた。


「…ハイ、終わり…」


 俺は最初に接近していた時に、賊の全員が入る範囲スキルを設定していた。時間差で起動出来る範囲攻撃『サンダーチェインズ』だ。


 このスキルは発動すると範囲内で蜘蛛の巣状に電撃が放出される。俺は纏めてヤツらを無力化した。ちなみに粘糸で繋げて発動も出来る便利なスキルだ。


 …マジ臭過ぎて二度と近づきたくなかったからな!!


「…こいつら、マジで風呂とか入ってないの?川とか湖でカラダとか装備とか洗えるだろう?…洗濯もコマメにしろよな…」


 俺はブツブツ言いながら、籠手から風を起こして臭いを飛ばした。…相変わらずシーちゃんは笑い転げてるし、リーちゃんは、まぁまぁ…と言って俺を宥めようとしてる。


 ティーちゃんに至っては、


「妖精族には『忘れたっていいじゃない、妖精だもの…』と言う格言もあるんじゃ…」


 …とか言うし…。まさか三体がこんなに薄情だとは思わんかった…。


 しかし、これはホントに盲点だったわ…。まさか盗賊達がこんなに臭いとは思っていなかった。しかしよく考えたら盗賊や山賊は臭うわな…。風呂とか入ってないんだろうしな。あの独特のすえた強烈な臭い。仲間同士で気にならんのかね、マジで!?


 ある意味、この臭いがコイツらの攻撃力なんじゃねーか?と思うくらいだ。それぐらい臭かった。



 その後も街道を歩く。特に目的はなかったが、俺はどこかで風呂か、風呂に入らなくても済むような魔法スクロールが欲しいと思った。


 他人の臭いが気になると自分の臭いも気になるからな…。


「アンソニーにも魔法掛けようか?」

「フンっ、別にいいもんねっ!!どうせ俺だけ仲間外れなんでしょ?自分で何とかするよ…」

「アンソニーよ、いつまでも拗ねておるのは大人げないじゃろ?」

「そうでしゅ、もうそろそろ機嫌直すでしゅ」


 皆が宥める中、俺は本気でどうしようか考えていた。さっきは籠手のスキルで風を起こして臭いを飛ばしたけど…。

 

 …風か…。


 風で俺は、自分が好きな漫画のあるキャラを思い出した。ワ〇ゥだ。両腕回転させて凄い攻撃してくるアノ人ね。人じゃないけど…。


 あれだ!!

 

 ヒントを得た俺はさっそく試してみる。籠手から風を出して流れを作り、風が外に行くようにイメージする。


 …難しいが何とか出来た…。


「おっ、アンソニーよ、何かやっておるのか?」


 三体は早速、気付いたようだ。


「フンっ、俺もこれくらいは出来るもんね!!」

「風をカラダの周りで動かしてるでしゅね?」

「ほほう、なかなかやるのぅ」

「よく思いついたわね、ていうかそれ、漫画のパクリでしょ?」


 くっ…そうだ。リーちゃんは俺の部屋でかなりの漫画を読んでたな。ただ、パクリって言うなよな…。オマージュと言って欲しい。


 その日以降も、こっちの世界に来ては、盗賊退治をして周った。しかし特にめぼしいスキルもないし、弱いし臭いし汚いしで全く収穫はなかった。


 …こいつらある意味、ゴミだなと思った…。



 地球からこっちに転移して来ると、まず世界樹の商業区にある洋服屋に行く。初日に頼んでおいた服の仕立てと装備がまだ出来てない。早くお願いねと伝えてから、俺達はいつもの様に森を抜けて街道に出た。


 今回は、森を南西に抜けて海辺の村がある方に向かう。


 しかし、いつもは無駄にゾロゾロと出て来るのに、今日はやけに静かだった。


「…盗賊しゃんはお休みの日なんでしゅかねぇ?」

「ティー様達に恐れをなして出てこれないんじゃないですか?」

「そんな事はないじゃろ?いつも威勢よく偉そうに出て来るじゃろ?」


 そんな話をしながら街道を進んでいく。その先の下り坂から、ぶつかり合う高い金属音が聞こえてきた。

 

 これは剣戟の音だ!!


 皆で走って行くと街道を下った所で、数十人入り乱れて交戦中だった。どうやら商人の交易馬車とその護衛に付いているPT(パーティ)が、盗賊の襲撃を受けているようだ。


 急いで三体と馬車へ近づく。すると馬車を護っていたアーチャーの男が、弓を構えて叫んだ。


「そこで止まれッ!!お前は何者だッ!!」


 俺は慌てて両手を上げると、敵意が無い事を示す。


「…怪しいものじゃないです!!たまたま通りがかったもので…お困りでしたら何かお手伝いしようかと…」


 そう話す俺に、考えつつ中々警戒を解かない男。困ったな…。これだと助けたくても手が出せないな…。


 その時、俺の眼に男の後ろで馬車に寄り掛かって座り込んでいる女性が見えた。魔導師らしき女性が足に怪我を負っている。


 俺は先に断りを入れてから、男に治療の提案をした。


「緊急事態なので気を許せないのも解りますが、うちの子は治療が出来ます。よろしいですか?」


 俺の後ろから現れたちびっこ二人を見て、男は少し警戒を弛めてくれた。そのタイミングで、後ろにいた商人の男が声を上げた。


「エルン殿、緊急ですからこの方を信じましょう!!」

「…うむ、解かりました。アンタ、すまん、頼めるか?」

「ティーちゃん、治療して上げて…」

「うむ」


 テテテッと走って女性魔導師の所へ行くと、足の怪我をした箇所の状態を観察するティーちゃん。


「…ふーむ、これは毒が入っておるのぅ。シー、解毒水じゃ…」

「はいでしゅ、あねさま」


 シーちゃんが鞄から解毒水を出す。それを一滴垂らすと毒素が滲み出てきた。その傷口にティーちゃんが小さな掌を翳す。


 手からボワッと柔らかい光が出ていた。


「まだ毒素が抜けてヒーリングしているだけじゃから、無理はせぬでな?」


 そう言われた女性魔導師は、額の油汗をぬぐいながらコクンと頷く。


「…すまん、助けてくれてありがとう。俺はエルンだ、よろしく。そこに座ってるのがルーシュだ」

「アンソニー・ホワイトです、よろしく。ピンクの子がティーアとグリーンの子がシーアです」

「ティーアじゃ、よろしくなのじゃ」

「シーアでしゅ。よろしくでしゅ」


 エルンさんが、商人とお付の人も紹介してくれた。


「そちらにいるのが俺達に護衛依頼をした、依頼主のカルダモン商会の主と、従者の方だ」

「ピニョール・カルダモンです。よろしく」

「従者のレイモンです」

「どうも、ホワイトです」


 そう言いながら軽く会釈を返す。


「すみませんが前衛の方を助けに行きますので子供二人をよろしくお願いします」

「…えっ!?ちょっ、ちょっと待て!!相手は盗賊団で三十人以上はいるんだ。かなり不利だぞ?」

「大丈夫ですよ。ちょっと試したいスキルもあるので…」


 俺の言葉に、商会主のピニョールさんが目を見開いた。


「…ホワイト殿は余程、腕に自信がある様ですな。エルン殿、お任せしましょう。あの人数を見ても怯まず助けに来てくれた方ですから…勝算があるのやもしれませぬ」

「…すまん、前衛の三人を頼む…」


 …なんか悲壮だな。別に死にに行くわけじゃないんだが…。


≪アイツらでスキル試してくるよ≫


 三体に密談で伝えると、すぐに俺はスキル『ファントムランナー』を発動させた。元々、『跳躍』の方が欲しくて、こっちはついでに取ったんだけど、良い機会だと思って試してみる事にした。


 風を切って、躍動する様に疾走する。神速はどっちかと言うと瞬間移動するような感じだが、ファントムランナーは走ってる感じがあって気持ち良い。


 俺はすぐに交戦地点まで到達した。そのまま、前衛三人と盗賊達の間を一瞬にして走り抜ける。

そのついでに盗賊全員の首の後ろに『粘糸』を繋げて連結させていく。そして走り抜けた後に、『サンダーチェインズ』を発動させた。


 ―バチバチッッ!!という激しい明滅と共に、盗賊達が一気に倒れた。俺は盗賊三十人程を速攻で無力化した。


「…な、なんだ?何が起こった!?」

「どうしたんじゃ…?」

「こ、これは…!?」


 あっという間の出来事に、前衛の三人は呆然としていた。俺はファントムランナーを解除して姿を現す。


「何者だッ!!」


 油断せず、すぐに戦闘態勢に入る辺り、歴戦と言った感じのPT(パーティ)だ。しかし助けに来たのに攻撃されたら堪らないので、俺は慌てて経緯を話した。



「俺はグレンだ!!よろしくな!!」


 熱い感じの屈強な剣士の男が挨拶をしてくれた。続いて重戦士でゴツイひげ面のドワーフ、ボルドさんと鋭い眼の槍使い、フィルさんも挨拶してくれた。


「アンソニーホワイトです。突然、横から入って済みませんでした」

「いや、ザコでも人数いると危険だからな、助かったよ。…しかし、今のどうやったんだ?」


 グレンさんに聞かれたが、ただの電撃スキルですよ。とだけ答えておいた。


「俺は微かに走ってるのが見えたが…」


 フィルさんが細い目を更に細めて言う。見えたとしたら相当な動人視力だな…。人間の目には追えないはずなんだけど…と思っていたら、フィルさんの耳が少し尖ってる事に気付いた。


 …エルフか…。

 

 話している最中、俺は倒れた盗賊達の中に一人動いたヤツを確認した。俺は三人に目配せをして、そっと後ろを指差す。


「…振り向かないで下さい。ちょっと確認してきます…」


 神速でその場に移動して確認する。しかし電撃で伸びているヤツしかいない…。どういう事だ?確かに動いてるのを見たけど…。


 俺は咄嗟に龍眼に切り替える。周辺にエネルギーの残滓が動いているのが見えた。瞬間、俺は危険を感じてタガーを抜いた。

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