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神の使徒。

 金髪碧眼の男が、クレアの掴んでいたレイピアの先に特殊な力を流す。 


「拳が無くなって後悔するんだなッ!!『滅砕振動波ッッ』!!」


 しかし、クレアはレイピアを握ったまま、ウオォォォォッ!!と咆哮を上げると、そのままレイピアごと男を引き込み右裏拳で男の顔を狙う。


 その瞬間、男はすぐにレイピアから手を離し、素早く後ろに後退し着地した。


「…むッ!?何故…振動波が効いていない…?」

「何だ?振動波か…?こんなモノ、わらわに通用するわけなかろう…」

「女…貴様、人間ではないのか…?」

「今頃気付いてももう遅い!!そういうお前は天使崩れのようだな?…いや、天使の威を借る『何か』と言った所か…?」


 クレアの言葉に男は無言のままだ。


 周辺での戦いはドラゴニア達が黒装束を圧倒し、既に終わっていた。


「どうやら、残ったのはお前一人だけのようだな。変な面を被っていたヤツを待っているならここに来ることはないぞ…?」


 男は無言のまま、話すクレアの後ろにいる妖精リーアが持っているスキルとチップを見た。


「…そうか。玲鳳(れいほう)は…貴様に敗北したのか…。まぁ良い、代わりならいくらでもいるからな。それより、そこの妖精が持っているスキルとチップは俺のモノだ。返して貰おうか…」


 クレアは男の言葉を無視して、掴んでいたレイピアを思いっ切り百メートル先に向かって投げ捨てた。


「お前の武器だ、必要だろう?いるなら自分で取りに行くんだな」

「…拾いに行って背を見せた所を奇襲…か?そんな事は俺には通用せんぞ?」

「わらわがそんなせこい事する訳なかろう。…ただ我が主が、人を小馬鹿にしながら、やりそうな事だなと思ってやって見せただけだ…」


 クレアの言葉に、男は無言のままだ。


「…しかし反応が真面目過ぎると全然面白くないな…」


 クレアの言葉を無視したまま、男は無言でレイピアを拾いに行く。その間に、クレアがリーアを呼んだ。


≪リーよ、今すぐそのスキルとチップを持って主の所に行くのだ!!≫

≪ええっ!!さっきまで激戦真っ最中だったから行きたくないんだけど!!…でもあの男はヤバそうね…ここにいるのは危険か…≫

≪だからだ、良いか?次元の扉から機会を伺うのだ。わらわが直接渡したかったが今のこの状況ではそうも言ってはいられぬ!!早く持って行くのだ!!高位次元帯を中継して用心して行け!!ヤツに捕まればお前の存在が消されるぞッ!!≫

≪…わ、解かった…すぐ行ってくる!!クレアも気を付けて!!≫


 その瞬間、男が高速移動でリーアに迫る。


「…逃がさんッ!!」


 しかしレイピアが襲う前に、リーアは高位次元転移を瞬時に発動し、消えてしまった。


 同時に、クレアの拳が男を殴り飛ばす。男は派手に後退したが、腕をクロスさせてエネルギーシールドで防いでいた。


「…逃がしたか…。まぁ良い。貴様を血祭りに上げてすぐに追跡するか…」

「…フッ、追跡だと?…お前は何も解っておらぬな?妖精リーアは古代から存在し続ける知識の集積体。その高位次元転移は、普通のそこら辺りの次元転移とは訳が違うのだ。…天使の顔を被ったお前などが、追って行けるレベルではない。そして―」


 一息置いてクレアが言い放つ。

 

「…血祭りになっているのはお前の方だ!!死んで口が聞けぬようになる前に、名前くらい聞いてやろう」

「名など教える気はない。女、貴様は今から俺に消されるのだからな…」


 その時、男が付けているピアスが振動する。


「…む?道玄か…。今そっちに行く。対象はどうなった…?残念だが玲鳳は…聞いているのか…?」


 クレアを無視して神殿の方に向かおうとした男の足が止まる。


「…貴様ッ!!何者だッッ…!!」


 男が宙に向かって叫んだ。



 ようやく般若との戦闘に決着をつけた俺は、そこに落ちていたチップを拾う。これはエミルの時と同じものだ…。

 

 まだ起動しているのか、小さな光が点滅していた。観察していると突然、スキルとチップを持ったリーちゃんが現れた。


「…やっと倒したわね、遅いよ!!」


 俺はリーちゃんの苦情に弁解する。


「…いや、かなり強いし、スキルはヤバいわで…」


 しかし、リーちゃんは俺の言い訳を無視して、手に持っていたスキルとチップを渡してきた。


「はい、これクレアからね!!確かに渡したから…!!ついでにコレも!!」

 

 俺は、クレアが倒したヤツが持っていたスキルとチップと一緒に、リーちゃんからハイポーションも受け取った。

 

 その場でハイポーションを飲むとすぐに肩の傷が再生していく。


 その後、貰ったチップはアイテムボックスに放り込み、スキルを自分の中に取り込む。『迅脚』は何となく分かるけど…『すり抜け』…何じゃこのスキル…。


 俺がスキル説明文を読もうとしていると、慌てた様子でリーちゃんに言われた。


「…アンソニー!!かなり危険な存在が近づいてるから気を付けて!!それからわたしも危険そうだから暫く高次元帯に隠れてるから!!」


 それだけ言ってリーちゃんはすぐに消えた。


「…ちょっ、何それっ…危険な存在って…」


 般若や、クレアが倒したヤツとは別のヤツなのか…。俺は真獄を解除して、改めて般若が落としたチップを確認する。


 エミルの時もそうだったが、敵はこれを使って操っているんだろう。しかし何故、東大陸のエレボロス教皇領のヤツが西大陸の端のこんな所まで…。


 こっちの大陸でも同じ様な事を起こそうとしているのか…。だったら背後には恐らく…『神の使徒』がいるな…。


 …クソッ、こんなもんで…人を操りやがって…般若は被害者だったのかもしれんな…。


 やるせない気持ちでいるとチップが振動している事に気付いた。俺は龍眼で観察してみる。


「…玄……」


 何だ…?これは…メッセージか…?

 

 俺はそれを自分の頭の傍に近づける。これは聞くというより、骨伝導の様な感じで直接、命令していると思ったからだ。微かだが、意識の中に声が流れてきた。


「…道玄…今そっちに向かう…対象はどうなった?…聞いてるのか…?」

「…あぁ、聞いてるよ…。残念だけど、そのドウゲンさんとやらはもういないけど?」


 ―!!―


「…貴様ッ!!何者だッ!!まさかッ!!まさかッッ!!道玄まで敗れるとはッ…!!」

「大変驚いてるとこ悪いんだけど、ちょっと質問して良いか…?」


 相手は無言のままだ。


「…アンタ、もしかして『神の使徒』か…?」


 しばらく無言だった男が話す。


「…そうか、貴様は『神』が妖精に連れてこさせた人間だな…?それで妖精がいたのか…。そして人間とは思えぬ女。そうでなくては道玄(どうげん)玲鳳(れいほう)が敗れるなど、この世界の能力者ではありえないからな…。大したことのない旧人類だと思ってマークを外していたが…」


 コイツ…!!俺が神様に呼ばれた事をどうして知ってる!?しかもマークを外してたって言ったが…。そもそもなんでコイツはこの星の、と言うかこの銀河の『神様』の存在を認識してるんだ?

 

 普通、神様と言えば、宗教上のイメージとか、個人の想像の範囲のはずだ。しかしコイツの言葉は、かなり断定的だ…。

 

 俺は勝手に話し続けるヤツの言葉を遮る。


「…オイ!!人が聞いてんだから答えろよな!!お前は神の使徒かって聞いてんだろッ!!」


 偉そうな物言いと言い、人を操っている事と言い、それに対する怒りもあったが、神の使徒の幹部と思われるヤツとの遭遇に俺は動悸が収まらず手が震えていた。

 

 エミルの時もそうだったが、こんなに早く神の使徒の、しかも幹部クラスと思われるヤツと遭遇するとは思ってもみなかったからだ…。


「…だったらどうするというのだ?弱小も弱小の旧人類が…」

「…弱小の旧人類かどうかは知らんけど、その弱小旧人類が、お前らみたいな特大のゴミを掃き溜めに送ってやるからな!!」


 そして俺は極力、怒りと動悸を抑えながら言い放った。


「お前らがこの星で何したいのかは知らんけど、俺がトコトン邪魔してやるからそのつもりで!!お前らの思い通りに行くと思うなよ!!」


 俺はチップの向こうのヤツに言い放った後、そのままチップを指で捻り潰した。心臓の動悸が収まらない。両手も震えてたままだ…。


「…ぁっ、やべぇ…」


 壊したチップを見て、しまったと思った。思わず勢いで壊しちゃったけど、後でティーちゃんに鑑定して貰えばよかった…。


 …と、思ったがリーちゃんが持って来てくれたのがあったんだ。後でそれを鑑定して貰うか…。しかしヤツが言っていた『旧人類』という言葉に、俺は何か引っ掛るものを感じた。



 頭の中を一旦、整理する。


 さっきのは確実に『神の使徒』の幹部だろう。コイツはドウゲンを筆頭にレイホウや黒装束達を送り込んで、パラゴニアの巫女を暗殺をさせようとした。


 その結果を聞いてきたという事は、既にこの近くにいるのかもしれない。リーちゃんが言ってた危険なヤツというのは恐らくコイツだな。

  

 クレアなら大丈夫だとは思うが、なんせ相手の能力が未知数なだけに心配だ。俺はすぐに神殿の外に出た。


 神殿前の広場で、レイピアを持った金髪で黒いロングコートを羽織った男とクレアが対峙しているのが見えた。

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