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鬼の居ぬ間に洗濯。

 昼食を終えて、それぞれ紅茶やお茶を飲みながら暫くまったりとした。料理屋を出た俺達は、西門へ向かう。


 衛兵に挨拶をして許可証を返してからベルファを後にした。


 ベルファには数回しか訪れていないが、衛兵や街の人達が俺を覚えてくれていたので街への入退場がスムーズだった。

 

 それは俺が『禅爺から逃げた男』としてこの街で有名になってしまったからだ…。


 ベルファ西門を出て暫く歩く。人通りが少なくなった所ですぐに森へ入った後、リーちゃんに頼んで転移で一旦、世界樹に戻った。


 牛肉の件はティーちゃんとシーちゃんに任せるとして、俺はまずスラティゴに行く事にした。


「…主、何故スラティゴを経由するのですか?」

「そうそう、直接西大陸の島に転移出来るよ?」


 いや、まぁそうなんだけど…と言いつつ、二人にその理由を話す。


「直で行っても良いんだけど、スラティゴを拠点に西大陸で仕事してるって言っちゃってるからね。時々、顔出して西大陸に行ってますよ、的なのも必要なんだよ」


 俺の説明に、フムフムと二人は納得したようだ。すぐにスラティゴ近くの森に転移、そこから村の門へと向かう。


 門衛の所で、名前と職業、滞在理由を記入して村に入る。一旦、冒険者ギルドに寄るってマスターのエルカートさんに挨拶をしておく。公園前の派出所程の大きさの冒険者ギルドに挨拶をしつつ入る。


「…こんちは~」

「…おぅ、アンタか。ん?…今日は二人だけなんだな…?」

「えぇ、ちびっこ達にはちょいとお留守番して貰ってるんですよ」


 前回、センチピード退治の報告の時に、エルカートさんは俺達に付いて来てたクレアと会ってたけど、正式には挨拶と言うか紹介をしていない。


 だから一応、紹介しとこうと思ってたら、やっぱりと言うかいつもの様にクレアがズィッと前に出て来た。


「どうも!!挨拶を申し遅れましたが、わたしがアンソニー・ホワイトの妻で、クレア・ホワイトという者です!!今後ともよろしくお願いしたい!!」


 威勢良く、当たり前の様にいつもの挨拶をするクレア…。もう俺には突っ込む気持ちすらなくなっていた…。既にあちこちで、言い周っているのを実際見てるしなぁ…。


「…ぁ、あぁ…こちらこそ、よろしく…」


 クレアの元気の良さにエルカートさんは若干、引き気味だ。


「…しかし、アンタ結婚してたんだな?既婚者には見えなかったが…。まぁ、小さい子供もいるから結婚していて当然か…」

「…えぇ、まぁ…」


 曖昧に応えつつ、ちょっと西大陸方面で仕事してきますので…と言って俺達は商業ギルドに向かう。そこの受付のお兄さんに、西大陸方面に出る交易船について聞いてみた。


 この時間からだと、三隻ほど西方面へ出るそうだ。それを聞いてすぐに港に向かう。


 商業ギルドで聞いていた船の交易商人と船頭に事情を話してお金を渡し、交易船に乗せて貰った。船に乗っている間に、リーちゃんに西の端の島に付いて聞いてみた。



 西大陸の最西端にあるその島はパラゴニアと言う、七つの島からなる群島だそうだ。色々な文化、風習などが混ざり合ったカオスな島々である。

 多様性に富んでいて何でも取り入れる、おおらかな気風の様だ。


 巫女セイが統治するというその群島は、希少な鉱石や、木材、真珠、魚介類とその加工品などがあり、島の一部では農耕もやっているらしい。


 神秘の島と呼ばれ、少し前までは度々、大陸側の沿岸の国から攻撃を受けていたが、その都度、撃退したらしい…。今では攻め込んで来ることはないそうだ…。


 その他の国は、海洋船や交易船を使い、攻め込んで撃退された国を迂回してパラゴニアとの交易をしているようだ…。


 下手に攻め込むよりそっちの方が良い気がするが…。欲張りで頭の悪い王様とか大臣がいるのかなぁw?


 俺は当初、リーちゃんから話を聞くまで、パラゴニアがある程度の大きさの一つの島だと思っていた。それこそシチリア島だとか、ミノス島だとかあんな感じだ。


 しかしリーちゃんから、いくつかの島からなる色々な文化が混ざった群島と聞いたので、俺的には行くのがとても楽しみだ。


「…おっ、主!!何か嬉しそうですな?」

「そうだね、色々ありそうだし、この際だから良いものは調達しておこうかなと思ってさ…」

「ふむふむ。まぁ、わらわは肉と酒があれば良いですがな!!」


 そう言って豪快に笑うクレア。ようやくテンションが戻ってきたようだ。


 何回か行ったことがある、というリーちゃんは、話を盛ってるんじゃないかって思う程に綺麗で良い島であると教えてくれる。ついでに風呂もあるそうだ。良いね!!


 三人で話しながら、いくつかの島を経由した所で俺達は一旦、下船する。ちょうど東大陸と西大陸の中間地点に当たるその島の森の中から、俺達は西大陸の端にあるというパラゴニアに転移した。


 

 リーちゃんに転移してもらった場所は、一番目の島で門がジャングルの様な木々にに覆われていた。どうやら、この島がパラゴニアの玄関口に当たるようだ。


 後ろの海岸には、幾つもの交易船が並んでいた。その向こうに薄っすらと大陸が見える。入場門には、多くの商人や旅人が並んでいた。


 俺達は、パラゴニアへの入場に並ぶ人達の最後尾に付いた。結構な人数の列だ。その間、周りを見ながら順番が来るのを待つ。

 しかし、入り口に当たるここには、深い森以外何も見えなかった。


「…リーちゃん、本当にここで合ってんの?」


 クレアも、森しか見えんぞ、と言っている。


「うん合ってるよ。ここは入り口でこの先からが凄いのよ!!」


 ふむふむ。待っている間にリーちゃんにパラゴニアの構造というかそれぞれの島について教えて貰った。

 

 入り口の島は、一つ目が『酒の島』というそうだ。そこから時計回りに、二つ目『調味料の島』、三つ目が『魚介類の島』、四つ目が『狩猟の島』、五つ目が『農耕の島』、六つ目が『鉱石と木材』の島。


 そして中央にある七つ目の島が、統治者である巫女が住まう神殿と、島民達の住居があり、グルっと渦巻き状に島が並んだ形になっている。


 酒の島、と聞いて一瞬、俺とクレアの視線が合った。


「…聞いたか?クレア?」

「えぇ、主。酒の島…と聞こえましたな…」


 俺とクレアが見つめ合う。そして俺はニヤッと笑った。


「…クレア。俺がいた国で『鬼の居ぬ間に洗濯』という言葉があるんだけど…意味が解かるか…?」

「…ん?(オーガ)のいない間に…洗濯…ですか…」


 暫く考えていたクレアだったが、言葉の意味が分かったようだ。俺を見てニヤッと笑った。


「…フフ、主。まず飲み屋を探しますかな…?」

「そうだな。まずはどんなものか呑んでみないと、だよな?」

「…いやいや、しかしクレアも悪よのぅ、ククッ…」


 俺が笑いながら言うと、クレアも不敵な笑みを浮かべる。


「いやいや、主ほどでは御座いませんよ…。クククッ…」


 俺達の会話を聞いたリーちゃんは呆れていた。


「夜にもゆっくり飲めるんだから、二人とも程々にしといてよ?」


 ベルファで昼食は食べたけど、ちと小腹も空いたのでおやつタイムにしようか、という事で三人の意見が一致した。


「今日はわたしも呑もうかな…」


 リーちゃんもこの島のお酒が好きなようだ。俺達の気持ちはお酒への興味で合致していた。


 今回は、ティーちゃんとシーちゃんはいないので多少早い時間に呑んでも突っ込まれる事はないし、ゆっくり呑めるだろう。

 

 三人で他愛もない話をしながら心躍らせつつ、俺達は入場の順番を待っていた。入場を待つ人達の後ろに並んで二十数分程待っていると、ようやく俺達の番になった。


 門衛に挨拶をしてから、身分証明台帳と滞在期間台帳に記入し、許可証を貰ってから門を潜る。


 街の中に入った瞬間、俺はその光景に目を奪われた。

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