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思い出がいっぱい。

 午前、六の刻。ベルファに寄ってから世界樹に戻りたかったので皆早めに起きた。意外な事に、一番に起きたのはクレアだった。ティーちゃん、シーちゃんと続いて起きる。

 

 皆がもぞもぞ動き出したので俺も起きた。洗面所で顔を洗い、軽く身だしなみを整える。宿屋の一階に降りて、カウンターと併設されている料理屋で皆と朝食にする。


「おはよう御座います、昨晩は美味しかったです!!ありがとう御座いました!!」


 と、言うとカウンターのダンディさんの後ろから、シェフが出て来て笑いながら挨拶してくれた。


「おかげでだいぶ忙しかったぜ!!だが昨晩でだいぶ稼いだみたいだからな!!俺達の給料にも反映されるんだ。また頼むぜ!!」


 そう言いつつ、厨房の奥へ引っ込んでいった。

 

 朝、早かったがこの世界では、交易商人なども朝が早い。だから一階の料理屋は既にオープンしている。他のお客さんも、数人いて朝食を摂っていた。


 俺達もテーブル席に座り注文する。


 パンをスライスしたものに、野菜の入ったスープ、ハムエッグがあるらしいのでそれも一緒に注文した。パンとスープ、そしてハムエッグが運ばれてくる。最後に何故か野菜付きの燻製スライス肉が運ばれてきた。


「…ん?あれ?これは注文してないけど…他のお客さんのとこじゃない?」


 俺がホール担当のお姉さんに聞いた所、お姉さんが話す前に厨房の奥から大きな声が飛んできた。


「そりゃ、サービスだ!!食って行け!!」

「…という事です」


 ホールのお姉さんも、説明しようとした所に後ろから声が飛んできたので苦笑いだ。厨房に向かって「ありがとうございます!!」とお礼を言ってから、俺達はありがたく頂くことにした。


 特に肉的なモノがハムエッグしかなくて物足りなさそうな顔をしていたクレアが大いに喜んでいた。 朝食の後、一旦部屋に戻る。忘れ物が無いかチェックして、俺達はカウンターに降りた。


「昨晩はお騒がせしました。また、この街に来たらお世話になります!!」


 そう言いつつ部屋のカギを返す。


「ええ、またの機会をお待ちしておりますよ。ブレーリンに来られた際は当方にお越しくださいませ」


 ダンディさんと、シェフ、料理担当のおばちゃんや、ホールのお姉さん達に挨拶をして宿屋を後にした。そして俺達は、ブレーリンの北門に向かう。



 北門に到着。街を出ようとする人達の列に並ぶ。許可証を返す為に列に並んで待っているとテンダー卿とロメリックが来た。


「おはようございます。昨晩は御馳走して頂き、ありがとうございました!!」

「ホワイト殿。また、機会があればこの街に来て下さい。次はこちらが館に御招きしますよ。今回は色々とありがとう!!」


 ロメリックとテンダー卿にお礼を言われて俺も礼を返した。


「いえいえ。こちらこそ、調査依頼のご支援ありがとうございました。次はゆっくりビールでも飲みに来ますよ」


 俺の言葉に、笑うテンダー卿とロメリック。二人に見送られ、俺達はブレーリンを発った。



 ベルファへの街道を北へ歩きつつ、俺は次に醤油の調達を考えていた。刺身はカルパッチョみたいなのでも食べられるからいいけど、鮨は出来ればワサビ醤油で食べて貰いたい。


 地球に戻った時にシャリ玉の握り方、諸々動画で見とかないとだな…。まぁ、仕事でもたまにシャリ玉切れて酢飯からシャリ玉作ったりしてるから職人レベルと行かなくても、そこそこ出来ると思う…。多分…。


 後はついでに巻き寿司も作りたいところだ。巻き寿司に関してはかなり自信がある。仕事で毎日やってるからな。そんな事を考えつつ、歩いていたら肝心な事を忘れている事に気が付いた。


「…あぁっ!!海苔イィィッッ!!」


 突然の叫びに、皆が驚く。


「なんじゃ、なんじゃっ!!急にどうしたんじゃっ!?」

「…もー、びっくりしたでしゅっ…」

「主、いきなりどうしたのですか?」

「あ、あぁ…いゃ、ごめん。大事なこと思い出しちゃって…」


 巻き寿司作るのは良いけど、それ用の海苔があるかどうか確認しないとだよな…。


 俺は歩きながら、リーちゃんに海苔の存在について聞こうとすると、リーちゃんはいつも通りティーちゃんのポケットの中でうとうとしていた。

 

 ほっぺをつんつんして起こす。


「…ごめん、リーちゃん。海苔について調べて欲しいんだけど…」


 俺の言葉に、リーちゃんは眠い目を擦りながら、しばし沈黙していた。


「…この後、行く予定の西大陸の西端の島にあるよ…?」


 おおっ、そうか。良かった…。とりあえず醤油も海苔も確認しに行かないとな。ベルファに寄った後、すぐに向かうか…。ベルファに向かって歩きながら、肉の調達についても考える。


「…クレアは肉が良いってやたら言うけど、何の肉が一番好きなんだよ?」

「ん?肉なら何でも良いですが…。…やはり!!一番は牛肉でしょうなァ。頭から丸ごと食べるのが最高にうまいですからな!!」


 そう言いつつ、高らかに笑う。頭から丸ごと…龍形態の時の話だよな…?クレアの言葉に、俺は何故かひ〇こ饅頭と共に、進撃の〇人を思い出した…。


「じゃあ牛肉も調達しとくか…」


 しかし、ティーちゃんによると、牛肉は世界樹の中でも常備しているので調達は問題ないそうだ。


「…リーズナブルな牛肉から、最高等級の肉まであるんじゃ」

「おおっ、良かったなクレア」

「うむ。やはり良い肉を食らわねば、元気が出ませんからな!!」


 俺達は今後の、食材調達について話しながらベルファに戻るべく歩いていた。



「…そう言えば、おぬし達、たまにわらわ以外で沈黙している時があるが…。あれは一体何なのだ…?」


 歩きながら、突然思い出した様にクレアが三人に問い質す。


「…ん?何の事かのぅ?」


 惚けるティーちゃん。クレアはシーちゃんの方を見る。


「…んー、気にする程の事じゃないでしゅ…」


 次にクレアはリーちゃんを見た。


「…あぁ、アレね。ただの『密談』スキルだけど…?」

「…何ッ!!三人ともリンクしているのか?」

「…あぁ、そうじゃが…」

「…そうでしゅ…」

「みんなリンクしてるけど…それがどうかしたの?」


 次にクレアは俺の方を見た。


「…まさか…主は…?」


 俺はティーちゃんをチラッと見る。リーちゃんがポロリというかハッキリ話しちゃったけど…。二人が惚けてるという事は…。


「…言って良いの…?」


 俺はティーちゃんに確認する。まぁ、この時点で俺も密談スキル『ひそひそ』を持ってるってバラした様なもんだけど…。


「…ああ、アンソニーも持っておるが…姉さま、それがどうしたんかのぅ…」

「…くッ、三人ばかりか、主まで密談スキルでリンクしているのに、おぬし達はなぜわらわを仲間外れにするのじゃッ!!もう我々は家族も同然であろうッ…!?」


 …いや、そこまでじゃないと思うけど。と、突っ込みたい所だったが怒りそうなので止めといた…。


「…ちょっと待ってくれ。俺はこの世界に来た時からそれが付いてたんだよ?この三人は妖精族だから当然、密談スキルはリンクしてるでしょ?けどクレアが密談スキル持ってなかったら仲間外れも何も無いと思うけど…?」


 俺の言葉に、顔を顰めたクレアが説明してくれた。


「…良いですか、主。妖精族と我々龍族は…いや、精霊を含むある一定の上位種族は、お互いにリンクする事が出来るのです。つまり普通に接近しているだけで密談登録されて密談が可能なのです」


「…ふむふむ、ラインみたいなものかな、もしくはグループチャット?」


「そのラインとかグレープがどうとかは、どういうものか知りませぬが、複数人が集まれば上位種は普通に出来るものなのです…。つまりッ!!わらわは、ティーやシー達に弾かれていたという事ですッ!!」


 俺はチラッとティーちゃんを見た。


「…クレア姉さま、凄く言いにくい事なんじゃが…」

「全然…覚えてないんでしゅかね…?」

「お二人とも、気にする事はありません。わたしからハッキリ言いますよ!!」


 そう言うとリーちゃんがクレアの前にパタパタと飛んでいく。目の前に行くと腕を組み脚を組んで、話し始めた。



「…あれは確か千八百年前の、成龍祭(人間で言う所の成人式)の時だったのよ。クレアは、父上の龍神様からお見合いを勧められたのは覚えてるよね?」

「…ああ、覚えているとも。それがどうしたのだ…」

「そこで強い奴としか結婚しません!!と宣言したのも覚えてるよね?」

「…ああ、覚えている…」

「クレアはその時、わらわは、わらわに勝てる相手としか結婚しませぬ。掟か何か知りませぬが龍の気持ちを無視したお見合い結婚なとには従いませぬ!!…って啖呵(たんか)切ったのも覚えてる?」

「…ああ、覚えているとも。だから何なのだ…?」

「フムフム、ここまでは覚えていると…じゃあその後、龍神様にそんな事は許さんッ!!と言われて、里を飛び出したのは覚えてるよね…?」

「…ああ、確かにそうだ…。リーよ、いったい何が言いたいのだッ!!」


 少しイラついた様子でクレアが聞く。


「怒ってやけくそになったクレアがドワーフ火山口の傍にある酒の泉に飛び込んだのは覚えてる?」

「………?」


 一瞬の間があった後、クレアは昔を思い出して話をする。


「…そうじゃな、あの時わらわも若かったからな…。イライラした時や怒りを鎮める時には水浴びが一番だと思ってな。確か大きな泉に入ったのは覚えておるが…」


 急速にクレアのテンションが下がってきたのが解かる。


「その大きな泉、ドワーフ族の神聖な泉だって知ってた?」

「………」


 クレアは何かを思い出したのか、急に頭を抱えてその場に蹲った。


「あの泉はドワーフの神聖なる泉『酒の泉』。それと知らずに泉に入って、酒を呑み尽くして火山口辺りで泥酔、暴れ回った挙句に、怒りを込めて大きな咆哮を上げてたよね?」

「………」

「…で、家族含む全員の密談ネーム、片っ端から消したのは覚えてる?あの時、わたしは成龍祭に招待されていたのよ。アナタが飛び出した後、すぐに龍神様からクレアを頼むって言われて着いて行ってたの。うん、だから全部見てるし、覚えてる」

「………」

「あの後、龍神様からドワーフ族に謝罪の為の使者を送って何とかその場を収めたのよ。しかも下界じゃ人間達や亜人達が大騒ぎになっててさー。そりゃ龍が泥酔してドッカンドッカン暴れて地震並みの揺れは起こすわ、凄まじい咆哮が大陸中に響くわで…。人間達や亜人達は龍の怒りで、ついにこの世界の終末が来たとか言って大混乱してたのよ、知ってた…?」


 クレアはその場で頭を抱えて蹲ったままだ。


「…あの後、すぐに眠り始めたと思ったら大きないびきをかいてるもんだから…今度はいびきの音で、ついに地獄から悪魔が地上に出て来るぞとか言って、また下界が大騒ぎになってねぇ…」


 クレアはその場に蹲ったまま、何も言えなくなっていた。勘違いほど恥ずかしいものはない。しかしそれ以上に恥ずかしいのは、若かりし頃の醜態を今になって思い出してしまう事だろう。


 俺は思わずしゃがんで、クレアの方をポンポンと叩いてやる。


「…クレア、若い頃にはみんな酒飲んでよくやるやつだよw俺も何回かやってるからその気持ち凄く凄ーく解かるわw」


 複雑な表情のティーちゃんとシーちゃん、溜息を吐きながら肩を竦めるリーちゃん。そしてクレアの今の気持ちが痛いほど良く解かる俺はクレアに優しく言った。


「若い頃の泥酔赤っ恥体験なんて皆、二回や三回はやってるからwあんまり気にするなよw?」


 その後、クレアと妖精族三体は密談ネームの再登録をして無事、ネットワークを繋ぎ直したそうですw

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