エミル・シュライア。
俺の頭はまたもやド〇フの爆発コントみたいになっていた…。何とか必死に髪をすいて見れるように戻した…。
しかし不思議な事に、今回は装備の方は全く燃えた様子もなく焦げていない。何で装備だけ…聞いてみたらリーちゃんが答えてくれた。
前回の爆縮の時の教訓から、装備が燃えない様に不燃耐性を付けて持って来てくれたそうだ…。
しかし装備は不燃でも中身の人が燃えちゃうと意味ない気がするんだがw…。
これ以上燃えると、バ〇ボンのあのおじさんみたいに髪が数本しかなくなってしまいそうだ…。
そんな事を考えているとロメリックに質問された。
「…ホワイトさん…それからクレアさん、これをどうやって解体したのか…聞きたいんですが…」
「そうだな…一応、みんなに説明をしとくよ…」
ティーちゃん、シーちゃんとリーちゃんには怪物の各部位を拾って売れるものと売れないものに分けて貰いつつ聞いて貰った。
「…簡単に説明するよ。今回のこの継ぎ接ぎモンスターはマジックキャンセルに加えて、物理攻撃無効化も付いてたよね…?」
「うむ、これでは普通の戦い方では倒せんのぅ…」
「そこで前回のセンチピードの時と同じく、攻撃のアプローチを変えられるか考えてみたんだ…」
「攻撃方法を変える…ですか…?」
「うん。この方法は俺とクレアにしか出来ない方法だけどね…」
「うむッ!!その通り!!わらわと主が…」
何か熱く話し始めたクレアを無視して、俺は説明を続けた。
「外から攻撃してダメなら…みんなだったらどうする?」
俺の言葉に一同、沈黙する。
「そんなの解からんでしゅ…」
ベアの指から綺麗に鎌を取り外しつつ、シーちゃんが言う。ロメリックも腕を組んだまま考え込んでいた。
「…どうやるか、ですか…難しいですね…」
そんな重い沈黙を、リーちゃんがあっさりと破った。
「…アンソニーの事だから、たぶん漫画のパクリでしょ?」
「…うん、リーちゃん正解です…」
ただ、パクリって言うなよなwちょっと参考にさせて頂いているだけだぞwリーちゃんはドヤ顔だ。俺は説明を続ける。
「外からダメなら、内側から破壊すればいいじゃんって思ったんだよ。漫画の内容とかは省くけど…。取り敢えず『朧』を使って、怪物に重なった後に内側から、継ぎ接ぎの弱い部分…つまり関節の部分を俺が気脈逆流タガーで小爆発させたんだ」
「…ちょっ、ちょっと待って下さい!!そのタガーには特殊な効果が付いているんですか?」
「うん、そうだね。多分、ロメリックの槍にもそういう効果が付いてるでしょ?」
「え、えぇ…。しかしこの世界では効果の付いた武器はかなり貴重なんですが…そんな特殊効果の付いた武器をお持ちとは…」
「うん、三本持ってて、二本はちょっとした知り合いから貰ったんだけどね…」
「…そんな特殊効果の付いた貴重なものを二本も…貰ったんですか…?」
ロメリックの顔が若干引き攣っていた。
腐蝕も気脈逆流も、ゲーム内で引退した人に貰った効果付きのタガーだ。アイスエッジだけはゲーム内で自分が作った武器だ。
「取り敢えず、これで小爆発させて、怪物の特殊効果が薄れた関節部分を…」
俺は話したそうなクレアをチラッと見る。
「そう!!わらわが怪物の関節、継ぎ接ぎの部分を主に言われた通り全力で折ってやったのだ!!」
得意気に、そして嬉しそうに話すクレア。その横で顔を引き攣らせたままのロメリックがいた。
話している間に、バラバラになった継ぎ接ぎ怪物くんの処理が終わったようだ。
俺達は、倒れて気絶したままの乙女ちゃんをどうするか話し合う。
…しかし、地面に強く叩きつけ過ぎたかな…。一向に意識を回復する様子がない。
その状態でティーちゃんが乙女ちゃんを鑑定した。俺は、頭の中に流して貰った乙女ちゃんの人物鑑定のログを読む。
その間、クレアとティーちゃんには、乙女ちゃんの身体を調べて貰って戦闘での傷の回復を頼んでおいた。
◇
エミル・シュライア。本名、志渡 絵未。十九歳、日本人。ん?この娘、日本人なのか…。
高校生の頃から義父による虐待を受けていた。誰にも相談出来ず、ちょっとしたきっかけで学校でもイジメられるようになってしまう。
その後、躁鬱病になり、世界に、生きている事に絶望した絵未は何度も自殺を図る…。俺はチラッとエミルの手首を見た。
「…うわっ…」
思わず声が出てしまった。エミルの手首には、リストカットの傷跡が無数にあった…。
その後、絵未は世界と人間を強く呪いながら屋上からの飛び降り自殺を図った所、強い念が召喚エネルギーの波に引っ掛り、教皇領に召喚された。
元より、地球には未練の無かった絵未は、エミル・シュライアと名を変えて教皇領での修道に励む。恨みと復讐、呪いの念が強く、スキル適正能力も高く、数カ月で『茨の道』、『懺悔の十字架』、『炎刑十字葬』を発現した。
その後、その能力を認められ、洗礼を受けてエレボロス教の聖女として認定される。その際に『真獄』、『ダブルフェイス』を授けられた。
◇
「…で、主。このコムスメはどうするのです…?」
俺は、エミルの人物鑑定の内容をざっくりと話した。
「まぁ、何歳でどういう経緯だろうが他人様の領土で人を殺す可能性のある危険なヤツは倒されても文句言えんけど…」
俺はチラッとロメリックを見る。
「…このままには出来んよね…?」
「その通りです。教皇領の者と分かったので、捕虜扱いとなります…。意識が戻り次第、尋問となりますが…」
エミルの人物鑑定を聞いていたロメリックは、難しく苦い顔をしていた。恐らく、このエミルの救われない経歴が気になるのだろう。
「どっちにしろ洗礼…というか洗脳が解けてないだろうからなぁ…」
「…洗脳が解けない限りは…有用な情報は得られないでしょうね…」
これが洗脳スキルだと何とかなるんだが…。
「…恐らく、被害感情を利用されてマインドコントロールされている気がするね…。潜在意識とかを洗脳されているとかなり厄介だな…」
俺は、『スキル泥棒』で、エミルを見ていた。洗脳スキルとかは全く見えない。
しかし、『龍眼』でよく視ていると、エミルの後頭部と首と耳の間辺りに何か小さな光るものが見えた。かなりの極小の異物だ…。何で異物が…?
「ティーちゃん、エミルのこの辺りを鑑定してくれる?」
「うむ」
鑑定をしていたティーちゃんが唸る。
「…ふーむ。これは…何じゃろうか…?『まいくろちっぷ』、となっておるぞ?…アンソニーの家で食べるポテトチップとは違うようじゃが…」
「…ん?待て待て待て!!…マイクロチップ?何でマイクロチップがこの世界にあるんだよ…!!」
「…主、そのチップとはどういうものですか?」
「…ちょっと待って下さい、さっきからチップと言ってますが僕には何が何やら…」
クレアだけでなく、疑問だらけの表情の皆に説明した。
「俺も曖昧な記憶しかないんだけど…確か精神操作とか色々されるんじゃなかったかな…」
「…しかしこのチップと言うやつは小さい上に精密じゃのう…。アンソニーの言う通り、感情を利用し、精神操作をするとなっておる…」
「まぁ、わらわにはチップなどどうでも良いが、ティーは主の家に行ったことがあるのか?主の家はどこにあるのだ…?」
クレアの詰問に、しまった、という顔のティーちゃん。思わず口滑らせちゃったな…。
「このチップと主の家で食べられるというチップには関係があるのか?」
話がごちゃごちゃになってきたので一度、整理する。
「…まず、俺の家にあるポテトチップっていうのは、芋を薄切りにして揚げた上に塩とか色々塗してあるお菓子なんだよ」
「ふむふむ、芋のお菓子ですか…わらわは肉の方が…」
クレアがまた肉がどうとか言ってる。どんだけ肉が好きなんだか。肉しか信じないってヤツかw?
そんなクレアはほっといて、続けて説明する。
「…俺が言ったマイクロチップって言うのは…さっきのポテトチップとは全然関係ない。そうだな…超小型の精密機械を人間に埋込んで、都合のいいように操ったりするモノかな…」
俺はティーちゃん達に聞きたいことがあったので、ここから『密談』に切り替えた。
≪妖精は宇宙の膨大な知識を集積してるんだよね?≫
≪うむ、そうじゃな。それがどうかしたんかの?≫
≪その膨大な知識にアクセスとか出来る…?≫
≪うむ、出来るぞ?≫
≪じゃあ調べて。マイクロチップで…≫
≪…うむ。いくつかの銀河の中でヒットした。…………≫
≪…リー、これはわたしらはアクセスしてもいいが…内容は話せんのぅ…≫
≪…その通りです、ティー様。これ以上は全宇宙ナントカ協定に掛かって限界です…≫
≪それって俺、というか地球の人間には、マイクロチップの話は出来ないって事…?≫
≪…うむ。その通りなんじゃが細かく言うと、話して良いのはごく一部の人間に限られるようじゃな…≫
『一部の地球の人間に限られる』という事は、地球から誰かが持ち込んだ可能性も否定できない、という事か…。
俺は質問を変える。
≪この世界にいる人間は、その知識にアクセス、及び開示は出来る?≫
≪ここの世界の人間には、そもそもアクセス権限すらないのぅ…≫
それを聞いて俺は考えた。地球の人間の中でも一部の者達以外は、召喚者や転生者、この世界の人間もその知識へのアクセス及び、閲覧はダメだ…。
しかし、現代の地球の中でもその存在が囁かれている程度の中途半端な技術力を持ち込むかな?地球の一部の技術者がこの星で人体実験を試みたとしよう。どうやってここまで来る?
ギャラクシー級の宇宙船エンター〇ライズ号みたいなのがあるならいざ知らず、今の地球の技術力では遠く離れた銀河間はおろか、太陽系内を航行出来る宇宙船すらない。
という事は、地球の技術者やこの星の者ではない何者かがチップを持ち込み、使ってるという事か…。
現在の地球より発展している星の者で技術力のある者…宇宙人か…?クリ〇ゴンだとかロ〇ュランみたいなヤツらがいるのかな…。
神様との会話で、別の銀河から何者かがこちらの銀河に入り込んだと言っていたな…。本来、この銀河には居ない存在…。そして神の使いを名乗る謎の集団。
だんまりの俺達にティーちゃんが聞いてくる。
「ところでアンソニーよ、そのチップは取り出せるんかのぅ?」
「…難しいね。取り出せたとしてもなんらかの障害を残すかも…。そもそもこの世界でそこまでの外科手術が出来るかどうか…」
俺はロメリックに聞いてみた。
「この世界で…と言うかこの王国で部分的に頭部を開くような外科手術は出来る…?」
「…いえ、簡単な外科手術はありますが…小さな機械を埋め込む、取り外すなどの話は聞いたことがありませんね…」
と、言う事は取り出すというのは無理だな…。
「…ふむ、その小さなチップとやらを機能停止させるとどうなるんじゃ?」
「そうだねぇ…。神経の間にバイパスで繋げられてたら脳機能停止とか機能障害になるのかな…?」
クレアとロメリックは聞きなれない言葉に首を傾けている。ただ、脳神経に直で繋げるというのはない気がする。誰が、どこで、どうやって埋め込んだかは謎のままだが…。
しかし、ロメリックが言う様にこの世界でそこまで細かい脳外科手術は出来ない。だから機能停止させても問題はないだろう…。
「何らかの方法で埋め込んで、骨伝導みたいに振動や波長でその人間の脳にある負の感情や過去のトラウマに、影響を与えているんじゃないかなと思う…。機能停止させても大丈夫だとは思うけど…」
考えに耽る俺にティーちゃんが聞いてくる。
「…それで、そのチップを機能停止させるんか?」
…皆がじっと俺を見ている。オイオイ、医者でもない俺にそんな重大な決断しろって言うのかよ…?
…仕方ない、やるか…。極僅かな電気を流してショートさせ、機能停止させてみよう…。
俺は、クレアに頼んでエミルの上半身を抱き上げて貰った。エミルのロングの髪を掻き上げて、纏めて横に流しててもらっておく。
マイクロチップはこの辺りだな…。耳裏、後頭部の付け根の間辺りに右手の指を当てる。強すぎると失敗して脳に障害が残るかもしれん…。最悪、死ぬかも…。
俺は緊張で喉が渇いてきた。皆がじっと見守る中、俺は人刺し指一本でサンダークラップを極々僅かなエネルギーで発動させた。