大ピンチ?
俺は苦し紛れで高速接近してくる茨に『ベノムショット』を撃ち込んだ。
ジュウゥッ―…
毒が当たり、茨の進撃が止まる。少しだけ茨が溶けていた。
「…ッ!!…往生際が悪いわね…。しかし、まさかゴミが毒島のスキルを使うとは…。…そうか!!アルギス様が言っていたのはアナタの事ね?相手のスキルを盗む事が出来るとかいう…しかし、スキルを抜く事が出来ても、アナタの身体の中にあるのは、最初に毒島から喰らった分だけよ…」
そうか、喰らった分だけなのか…。ただ、まぁもう毒なんか必要ない事が解かったからどうでもいいけど…。腕が動きさえすればいいからな…。
この茨は攻略できる!!俺は思わず笑いが込み上げてきた。
「…フフフッ…」
「追い詰められて、おかしくなったようね…。では死になさい!!」
「…いいや、まだ死なんよ…?」
ベノムショットで一旦、止まっていた茨が、再び高速で襲い掛かってくる。無数の茨は、俺の足下から這い上がり絡み付いていく。俺は、完全に茨に呑み込まれ、一つの立木の様になってしまった…。
「…終わり。わたしの能力に抗える者などいない…」
そう言いつつ、踵を返す乙女ちゃん。
「…フフッ、この人間がアルギス様が言ってたヤツだったのね。早々に処理が出来て良かったわ。良い報告が出来そう…しかし、全く手応えがなかったわ…。邪神の使い、妖精に連れて来られた人間…。最後の言葉も強がりだったみたいね…神の使徒に逆らう無知なゴミの末路はこんな…もの…ょ…?…ぐっ…な、何ッ?…何か…おかしい…!!…ゥグッ、グッ…ガハッ…!!…なっ、何ッ?一体、何が起きて…」
慌てて振り返る乙女ちゃんは驚愕の表情を隠せなかった。
◇
「…そ、そんなッ!!アナタ、ど、どうやって…!!」
苦しいのか胸を押さえて俯き、膝を付いた。唇から血が流れ出ている。何事も無かったかのように、そこ立つ俺が不思議でならないようだ。
「…クククッ、残念でした!!君、たぶんまだ十代後半でしょ?俺、四十後半のおっさんなんだよね~…四十数年の経験と観察力を舐めて貰っちゃ困るねぇ…」
「…ど、どうやって…わたしの茨から…逃れた…の…」
「…いやいや、俺みたいなゴミは高貴な聖女様とはお話は出来ませんからねえ…」
俺は一本のタガーをくるくると上に投げ回しながら、独り言のように呟く。
「…とってもお偉い聖女様なんだから、自分の頭で考えてみれば…?自分の力に酔ってるヤツはその時点でもう思考が死んでるけどね~」
俺は茨に完全に呑み込まれる前に、腐蝕のタガーで千手封殺を使い、絡み付いてくる茨を突き刺しまくってやった。
このタガーの効果は遅効性なので暫くは、ぎゅうぎゅうに締め付けられて結構痛かったんたけど…。しかし生命力を吸い取られる前に、闘気で茨の棘を防いでおいたおかげで何とか数秒間、耐える事が出来た。
そして俺の予想通り、乙女ちゃんのこの茨の道スキルは相手に攻撃されるとダメージになって返ってくるようだ。さっきのベノムショットの時、少し口元が歪んでたからな。
茨にどんどん腐蝕が拡大していく。
「…ご、ゴミの癖にッ!!ゴミィッ!!このゴミクソあぁぁァッッッ…!!」
…オイオイ、なんか乙女ちゃんの口調が変わってるぞw?
「自信満々で絶対と信じていた自分のスキルが破られてよっぽど悔しかったのかなw?」
「うるせェェッッ!!このゴミクソがアァァァぁッッッッ…、責めて責めて責めて責め抜いて殺してやるよオォォォッ…!!」
膝を付いたまま、茨の腐食が進んでくる部分を自らレイピアで切り落とすと、痛みに耐えながら乙女ちゃんが右手を地面に当てる。
『炎刑十字葬ッッ!!』
乙女ちゃんがスキルの名を叫ぶと、十字を科せられた俺の周り一定範囲の地面から炎が噴き出す。
「…うぉっ!!あちぃっ…今度は焼き殺す気かよっ!!」
噴き出し、飛んでくる炎を俺はアイスエッジで弾き返す。
しかし背後からの炎の迸りは十字によって動きを制限されているので避ける事が出来ない。
俺は咄嗟に背後に闘気を張る。
ジュウッ…と音がして闘気によって遮られた炎が地面に落ちて行く。背後は闘気で防ぎ、前面と両側面はアイスエッジで全て弾き返した。
弾き返された炎が地面に落ちて行く。しかしこのままだと更にまずい事になると気が付いた。このドームと言うか真球は密閉された空間だろう…。
このまま炎が燃え続けるとこのドームの中の酸素が薄くなっていく気が…。恐らく発動者の乙女ちゃんはここから脱出は出来るんだろうね…。
そんな事を考えつつ炎を弾き返していると、地面に落ちた炎が隆起して盛り上がってくる。何だ…?今度は何が起こってる…?
「…フッ、フフッ…炎を弾き返したくらいで良い気にならない事ね!!炎形十字葬の本領はここからよォォッ…!!」
叫ぶ乙女ちゃんに気を取られていたが、異変を感じて俺は自らの周りを見た。モコッモコッと隆起していた炎が、地面から這い出て来る。
人型をした炎のゾンビが次々と現れて、俺に襲い掛かってくる。動きまでゾンビっぽい…。
「…うおぉっ、あちぃっ!!…クソッ…こっち来んなっ…!!」
俺は必死にアイスエッジを振り回す。炎のゾンビは俺を火葬するべく十字架の下、火葬の山を築いていく。
「…アハハハハハッッ!!今度こそ死ねェッ!!ゴミがアァァァッッ…!!」
ダメージのまま膝を付きレイピアを杖にして身体を支えた乙女ちゃんが叫ぶ。その目の前で、俺は炎のゾンビに取り囲まれ、完全にその下に埋もれてしまった…。
「…今度こそ…今度こそ終わ…り…この、わたしにッ…この聖女に勝てる者などッ…この世界にはいないッ…!!」
…ォォン…
…ゴォッンッ…!!
…ボゴオォォッ…!!
しかし、小さな爆裂音が、少しづつ大きくなってくる。
「…そっ、そんなッ…まさか…あ、ありえな…ぃ、グゥッ…」
ドゴオオオオォォッーン…!!
大きな音と共に、炎のゾンビの一角が吹き飛ぶ。同時にそのダメージが乙女ちゃんへと返っていった。
「…グッ…そ、そんな…こんなッ…こんな事がァァァッッ…!!ガフッ…!!」
叫びダメージで口から血を吐き出す乙女ちゃん。その間にも炎のゾンビの山が、次々と吹き飛んでいく。
「…クッ…そ、そんなッ!!この聖女であるわたしがッ!!こんな事がァァッッ…!!…こんな事があって良いものですかァッッッ!!」
「…いや~…今回はさすがにちょっとキツかったわ…」
俺は最初、群がってくる炎のゾンビをアイスエッジとプラチナタガーで押し戻していた。しかし後ろからくる炎のゾンビ達が、俺の闘気をどんどん押し込んでくる。
なんとか闘気を張って防ぎつつ、タガースキル『ストームラッシュ』で押し戻す。しかし、次から次へと湧いてくる炎のゾンビ。
そして上へ上へと乗っていって炎のかまくらの様になってしまった…。
このままだと呼吸が出来なくなり、動けなくなる。そうなると完全に炎のゾンビの山に飲み込まれてしまうだろう…。
俺はすぐに攻撃を切り換えた。切羽詰まっていた俺は、それはもう必死だった…。
コイツらは俺に接近し、触れる事が出来る。という事は実体があるって事だ。土から生み出されたのか、土の中の死体を呼び起したのかは解からんけど、とにかく実体があるなら攻略も出来る。
俺はゾンビに片っ端から籠手の範囲スキルをくっ付けてタガーで弾き返してやった。
熱いはウザイわで、朦朧としていたがここで負けるわけにはいかない。俺はゾンビの頭に、旋風陣をセット。次に来たヤツにも暴風雷塵をセット、そのまま二つともスタックしておく。
更に、別々のヤツにサンダーチェインズ、プラズマバインドをセットしておく。俺は十字によってここから動けない。だからすぐに発動しても、ゾンビ達はちょっと後退する程度だろう。
それだと延々と続いてしまう。だから段階的に吹き飛ばして確実にこの炎の包囲網を崩壊させるべく、何体かにセットして溜めて置いた。
そして範囲をセットしたヤツらのスキルを順次発動させていく。
まずは旋風掌で弾き返す。その瞬間に、弾き返したゾンビ達をサンダーチェインズで範囲拘束。動きを固定したゾンビ達を、暴風塵を発動させてゾンビを吹き飛ばし、更にその先でプラズマバインドで拘束して固定。旋風陣のヤツを発動してゾンビの山の一角が崩れた。
そこからは寄ってくるヤツにセットして弾き飛ばし、固定。そこからスキルを発動して弾き飛ばすの繰り返しで何とか、炎のゾンビの山を崩壊させた。
ここまで来ると、既に乙女ちゃんに相当なダメージが返ったのか、ゾンビが力なく土の中に消失していく。
「…俺もここで死ぬわけにはいかないんでね、悪いけど負けられんのよ…」
乙女ちゃんは俺の言葉を無視したまま、膝を付きレイピアを杖代わりにして俯いたまま、身体を震わせていた。
「…ありえないッ!!こんな事がッ!!…ゴフッ…!!…わ、わたしは…教皇に認められし…せ、聖女…グッ…こんな事は…絶対にッ、絶対にあってはならないッ!!」
そう叫んだ乙女ちゃんは目隠しを解くべく、後頭部に手をやった。マジかよ…まだ攻撃してくるつもりか…?