森のクマさんとジャイアントクーガー。
俺はちびっこ達にせっ突かれながら、妖精の森のモンスター達と闘わされた。
まずはスティングビーに『サンダークラップ』を喰らわせて丸コゲの巨大蜂から『パラライズ』を獲得。アサシンジャガーに飛び掛かかられた俺は咄嗟に全力で蹴り上げ、吹っ飛んだジャガーは泡拭いて瀕死。『サイレントウォーク』を抽出。
デスオウルは急降下の爪攻撃を避けた後に、思いっきり叩き落して『暗視』を抽出。更に範囲でカマイタチサイクロンを起こすフェザーバードには、神速で周り込んでから掴んで地面に叩き付けて気絶させ、範囲攻撃の『フェザーサイクロン』を抽出。
ボンドスパイダーは触りたくないので闘気ハンドで叩き落して『粘糸』を抜き取る。遺跡ゴーレムからのレーザーを躱しつつ、サッカーボールキックでゴーレムを吹っ飛ばしてバラバラにしてから『プラズマ生成』を獲得。
毒鼠は噛みつかれる前にローキックで蹴り飛ばし『猛毒耐性』を獲得。キラーバットにはサンダークラップとパラライズを使って麻痺させて『ウィルス耐性』を抽出した。
この戦闘の中で、俺は面白い事に気が付いた。三枠までだがスキルを同時併用出来るのだ。そして『サンダークラップ』と獲得した『パラライズ』を同時発動した所、新たなスキル『パラライズボルト』を獲得した。
どうやら同時併用する事で新たにスキルが発現するようだ。
続いてフォレストウルフの群れに当たり、粘糸で動きを止めた後にサンダークラップを使い、新たに『サンダーチェインズ』を獲得。ダークネスゴーストには粘糸とプラズマ生成を使い『プラズマバインド』を獲得。捕らえたダークネスゴーストは闘気ハンドで張り倒した。
その後、三十体程のアーミーアンツ(軍隊蟻)を弓のエネルギーショット高速連射で撃破。弓スキル『狂襲乱射』を獲得。幻死蝶の群れを旋風掌、サンダークラップ、フェザーサイクロンで撃退し、『暴風雷塵』を獲得した。
その後、纏わり付いてくる無数のバンパイアモスキートを旋風掌とフェザーサイクロンを使って『旋風陣』を獲得。
気が付くと、もう昼前になっていた。
「午前中はこれくらいにしてお昼を食べに戻るかのぅ…」
ティーちゃんの一言で一旦、世界樹に戻る事になった。
◇
取り敢えずやっとお昼ごはんという事で、俺もテンションが上がっていた。
「ある日ぃ~♪森の中ぁ~♪クマさんにぃ~♪出会ったぁ~♪」
思わず森の〇まをさんを歌ってしまう。
「アンソニーよ、そんなの歌っておったら本当にクマが出てくるじゃろ?」
「あははっ、そんなタイミング良くクマなんて出てくるわけ…」
俺が笑っていると突然、周辺がさっと暗くなった。…ん?なんだ?何で急に暗くなった…?不思議に思って後ろを振り返った。
「グオオォォォォォォォーッ!!」
その瞬間、凄まじい咆哮が響き渡る。俺は思わず耳を塞いだ。後ろで巨大なクマが両手を上げて、口を大きく開いて咆えていた。
「…デカっ!!マジかよ…?」
数メートル離れているのに暗くなったのは、巨大なクマによって陽が遮られたからだ。ゆうに三メートルは越えるクマが、俺達を威嚇してくる。
「こいつはマッドグリズリーじゃな。ちょうど良い。アンソニーが倒すんじゃ…」
その時、ティーちゃんの後ろから、サッと小さな影が飛び出した。シーちゃんがクマに向かって突進して行く。
「あっ!!シーよっ!!そいつはアンソニーの…」
ティーちゃんの言葉を無視したまま、シーちゃんは猛烈な勢いで走っていく。
「コイツはシーが倒すでしゅっ!!」
「…ちょっ、ティーちゃん、止めなくて大丈夫なの?」
「…ああ、シーなら大丈夫なんじゃが…。あれはアンソニーに倒させようとしたんじゃがのぅ…」
しかし見れば見るほどデカい。こんなのシーちゃん一人で大丈夫かな?俺はいつでも飛び出せるように準備だけしておいた。
俺の膝丈ほどしかないちびっこが爆走していく。半分ほど間合いを詰めた所で、シーちゃんが地面を蹴ってくるりと前転した。
そのまま空中を回転しながら高速で飛んでいく。その瞬間、シーちゃんのカラダが光った。
「マドォォーキィーック!!」
シーちゃんは回転の勢いそのままに、物凄いスピードでクマの腹にドロップキックで突っ込んだ。
ドゴオオオオォォォォォォォーンッ!!
轟音と共に、グリズリーの腹にシーちゃんがめり込んでいく。グリズリーの身体が、くの字に曲がった。
「グオオオオオォォォォォォーッ!!」
吐瀉物を出しながら、グリズリーが後退していく。しかし、グリズリーは何とか両足を踏ん張って留まった。
止まったグリズリーの腹からびょんッと回転して着地したシーちゃんが、膝をグッと曲げると再び光を放つ。その瞬間、鉄腕ア〇ムの様に凄い勢いでビュンッと飛んだ。そしてそのまま右パンチをグリズリーの心臓に叩き込む。
瞬間、グリズリーの心臓部がへこんでいく。巨体がその勢いのままふわっと浮かんで後退し、グリズリーはそのまま後ろに倒れ込んだ。
轟音と共に、激しく土埃が舞上がる中、マッドグリズリーは泡を吹いてピクリとも動かなかった…。俺はその光景を見て呆気にとられた。
まさか冗談だろ?こんなちびっこが…。
「アンソニーよ、シーを視るんじゃ」
ティーちゃんにそう言われて俺はシーちゃんをじっと見る。
………。
「…ん?…ティーちゃん、何も見えないけど…?」
「…アンソニーよ。見る、というのはスキルを使って『視る』じゃ。『龍眼』があるじゃろ?」
「…あ、そう言う事ね。ごめん忘れてたw」
改めて『龍眼』を使って視る。シーちゃんのカラダの周りに、様々な色のエネルギーが流れているのが視えた。
「…これは魔法?魔力の流れかな?」
「視えたかのぅ?あれがシーの強さの秘密じゃ」
そしてティーちゃんが、シーちゃんの強さの秘密について教えてくれた。
◇
シーちゃんは双子として転生した時、無属性魔法しか持っていなかった。それだけでは闘う事は出来ない。シーちゃんはそれまで危険が迫るとすぐに実体化を解いて隠れていたらしい。
しかし、その日は気付くのが遅れた。ある日、森の中郭で薬草を採集していた時、魔物に襲われたそうだ。
迫り来る魔物に食べられそうになった寸前―。
「…ンッ!!トウゥッ!!」
変な掛け声と共に、おかしな格好をした人間が現れた。
「キィッッーク!!」
その人間は叫びながら魔物を蹴り飛ばし、続けて魔物を空手チョップで叩きのめし倒してしまった。危機一髪で助けられたシーちゃんが、お礼を言う。
「とってもあいがとでしゅ」
派手なフルフェイスのヘルメットをかぶり、鮮やかなカラーの全身タイツを着たその変な人間が豪快に笑う。
「アーハッハァーッ!!大丈夫だったかな?ちびっこよ!!」
「うん、大丈夫でしゅ。変なおじさんは、人間でしゅか?」
「…へ、変なオジサン…んんっ、お兄さんは変な人ではないぞッ!!正義のヒーローだッ!!」
変なポージングを決めながら、言い放った。
「じゃ、正義の変なお兄しゃんと呼ぶでしゅ」
「…ぁ、いや『変な』はいらないぞッ!!、ちびっこよ!!アーッハッハーッ…」
その日から、森に来る正義の変なお兄さんを見て、シーちゃんは格闘を覚えるようになった。しかし格闘を見て覚えても、体格の差がハンデだった。いくら格闘の練習をしても、魔物にダメージを与える事が難しい。
そこで、シーちゃんの膨大な魔力の流れに気付いた変なお兄さんは闘う為のヒントをくれたそうだ。格闘に『無属性魔法』を生かす事を。
全身に『プロテクト』を巡らせ、パンチの時に肘に『ジェット』を掛け、インパクトの瞬間、拳に『ウェイト』を掛ける。これで防御力と攻撃力は上がったが踏ん張りが効かなかった為に、自分の攻撃の反動で後退し、攻撃力が半減してしまう。
そこでインパクトの瞬間に、全身に『グラビティ』を掛ける事にした。無属性魔法を、複合的に掛ける事により、体格差によるハンデを解消したそうだ。
…これは相当な集中力がいるな。今では無意識に操れる程に無属性魔法を使って闘っているそうだ…。シーちゃんが魔物を倒せるようになった頃、その変なお兄さんは森に現れなくなったそうだ。
ちょうど国家間の能力者同士の戦いが激化している頃だったので、そのお兄さんもどこかしらの戦場に行ったのだろうという事だった。
「シーちゃんの師匠みたいな人間なんだな」
「そうじゃ。まさか人間にヒントを貰うとは思わんかったがの。どこかで会ったらお礼をせんといかんのぅ…」
シーちゃんの魔力と無属性魔法に気付いたり、危険度の高い妖精の森に入って来れる辺り、相当強い人間だな。恐らく能力者だろう。
話の間に、シーちゃんとリーちゃんがクマの解体を終えていたので、お昼を食べる為に皆で世界樹に戻った。
◇
午前中、モンスター達との戦闘でいくつかのスキルを抽出したが、戦闘訓練と言う意味ではいまいちだった。
とにかく必死だったので加減を考えず、いずれのモンスターも一撃か二撃で倒してしまった…。
世界樹に戻ってきたので皆で料理屋に入る。妖精がパタパタと飛んできて、注文を取りに来てくれた。森の木の実と山菜サラダを注文して、メインで猪肉のソテーを頼んで分ける事にした。
料理が来るまで、さっきのシーちゃんとクマの戦いで疑問に思った事を聞いてみる。
「シーちゃんのドロップキックだけどマドーキックの『マドー』って『魔導』の事?」
「そうでしゅ、魔導のことでしゅ」
「マホーキックじゃなくて?」
「アンソニーよ、そこはそんなに気にせんでも良いじゃろ?」
「俺、『魔法』と『魔導』って何がどう違うのか良く解らんのよ…」
「シーもよくわかっとらんでしゅ。ただ『マホーキック』より、『マドーキック』の方がカッコイイからでしゅ!!」
…あぁ、響きの問題ね…。
皆で話しながら、ふとドリンクメニューを見た。ンフフッ、お酒もちゃんと出るみたいだ。前から気になってた『花蜜酒』を注文しようとしたらすぐにティーちゃんに突っ込まれた。
「まだ昼間じゃいうのに。午後からもモンスター退治するんじゃからの」
「ええーっ、まだやるの?」
「当たり前じゃ、早く慣れんといかんじゃろ?お酒は夕食の時にするんじゃ」
そう言われたので、渋々注文を諦めた。俺は猪肉のソテーを食べつつ、どんなスキルが戦闘の役に立つかを考えた。シーちゃんの戦いを見ていて思ったのは、滞空は出来なくても、ある程度の高さに跳躍出来るスキルがあると良いかなと思った。
今回は俺から『跳躍』を持っているモンスターを指定した。すると三体は身を寄せてごにょごにょ話し始めた。
◇
再び、俺達は森へと出る。今回は『跳躍』スキルを持っているモンスター指定だ。リーちゃんが妖精ネットワークを使って探ってくれた。
「東の方向にジャイアントクーガーが出没するみたい」
「クーガー?豹って跳躍するの…?」
「クーガーは獲物を獲るために数メートルは飛ぶからのぅ。確か高く飛ぶスキルを持っておったはずじゃ。スキルを取れば結構な高さまでいけると思うんじゃが…」
皆で情報のあった場所へ向かう。デカいので、すぐに見つける事が出来た。
『ジャイアントクーガー』逞しくしなやかなカラダに、艶やかな黒い毛が美しい。瞳は琥珀色で宝石の様だ。何より驚いたのは、その大きさだった。
象を縦に二頭並べたくらいの大きさだ。しかも牙が凄い。すぐに俺達に気付いて威嚇して来た。かなりの大きさだけど、自分で言ったからにはやらんとね。俺は気を引き締める。
さぁ、いっちょやってみるか…。そう思ってふと周りを見ると、三体がいなくなっていた。…んっ?皆どこ行った?後ろを振り返ると、だいぶ離れた後ろの草陰に隠れてた。
「あれっ?えっ?ちょっ…何でみんな隠れてんの?」
「そいつはかなりヤバいからのぅ。気を付けるんじゃ…」
「巨体の割に動きが速いんでしゅ。速いって言うか見えんのでしゅよ」
「取り敢えず死なないようにね~」
マジか、そんなヤバいのか…。まぁ、自分でやるって言っちゃったからやるけど…。そんな事を考えつつ正面に向き直った瞬間、俺はゾッとした…。