表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

39/210

凶悪聖女?

 俺がドームを観察していると後ろに気配を感じて振り返った。


 俺に近づいていた光点の正体は少女だった。法衣の上に軽い鎧を纏い、頭にシスターが被っているような帽子?を被っていた。色白で細面の顔で、目を布で隠していた。


 俺は思わず笑ってしまう。剣の〇女っぽいw


 しかし鼻から下しか見えなかったが、顔付がまだ幼い様な気がする。…高校生…いや、大学生くらいか…。


 腰にはレイピアを装備していた。無言のまま近づいてくる乙女ちゃん。


「お嬢さん。君は一体何者ですか?五文字以内で答えなさい。そしてここで何をしているのかな…?」

「答える事などない。王国のゴミよ、苦しんで死ぬが良い!!」


 その言葉の直後、俺は胸や鳩尾辺りに苦しさを感じた。


「ゴフッッ!!」


 咳き込むと同時に俺の口から血が流れ出た。


 …くそッ、もう攻撃が始まってたのか…?ちょっと待て、今攻撃されたのか?…攻撃が全然見えなかったぞ…?

 

 …コイツはかなり危険だな…。


 俺は慌てて全身に闘気を巡らせる。そして籠手から風を起こし周辺の空気を外に行くように調整した。ウイルスや毒が空気中に漂っていると考えたからだ。これはドームの能力かもしれない…。


「…聖女、『茨の道』!!」


 乙女ちゃんが淡々と言葉を放つ。…『聖女』…?今、そう聞こえたが…。


 乙女ちゃんの言葉と同時に、無数の茨が地面を奔って襲い掛かってきた。まだこの乙女ちゃんの能力については何も分かっていない。どうするかな…。


 しかし、迷っていた俺より先に、転がったままになっていた毒液くんが最初の犠牲者になった。無数の茨があっという間に毒液くんに巻き付いていく。


 茨の棘が刺さった痛みで、意識を取り戻した毒液くんは何が何だか分からないようだ。その茨が乙女ちゃんのモノだと気付いた毒液くんが叫ぶ。


「…オイッ!!エミルッ!!この俺に何してくれてんだァッ、コラァッ!!」

「…毒島(ぶすじま)さん、アナタは軍規に違反しています。調査の者を発見した時は我々を待って合流し、一気に殲滅する。と言う約束を忘れて勝手に戦闘を始めましたね…?」

「だから何たよッ!!もうお前ら来てるんだからそんなことはどうでも良いだろうがッ!!」

「…いいえ、どうでも良くありませんね。命令違反をする者は足並みを乱します。そしてまた同じことをする…。この集団のリーダーはわたしです。命令違反及び、現地の者に敗北した責任で、アナタにはここで責任を取ってもらいます…」


 そう言うと、茨がどんどん、毒液くんを覆っていく。


「…クソッ、フザケンなッッ…!!」


 毒液くんは必死に逃れようと藻掻く。しかし、プル―ジョンアームもベノムショットも、もう俺が抜き取っていたので発動しない。


「クソォッ!!…なんで…何で発動しないッッ!!…お、俺の…スキ…ル…」


 それがヤツの最後の言葉になった。


 数秒後、茨が解かれて姿を現した毒液くんを見た俺はゾッとした…。命を搾り取られた様に全身が皺だらけで萎んでいる。体内の水分と言う水分を搾り取られた毒液くんが、バサッと倒れた。


 完全にミイラ化している…。


 その上、何かに分解される様に、ミイラになった身体までも空気中に飛散して、ついにはその存在そのものが無くなってしまった。


 …何だ、この能力…。今まで戦ったヤツの度のスキルより凶悪だな…。って言う程そんなにまだ戦ってはないけど…。このドームの謎の攻撃といい、茨の道といい、何かめんどくさい凶悪乙女に会っちゃったな…。



「ヤッホー!!」

 

 考えていると突然、リーちゃんが物質透過を使って来てくれた。そして俺にティーちゃんの見解を伝えてくれる。


 どうやら目の前の乙女ちゃんは、俺とクレアを脅威とみなし、このドームを展開させたようだ。

しかし、ギリギリでクレアが動いた為に、ここに囚われたのは俺だけになった、と…。

 

 どっちにしろ、分断して撃破と考えていたようだな…。しかし、この乙女ちゃんは俺とクレアを相手に闘うつもりだったのか…?

 だとしたら、相当な自信があるんだろう…。俺は外の状況をリーちゃんに確認する。


「外はどう?」

「うーん、あと一体かな…」

「一体?一人じゃなくて…?」

「…アレは…キメラモンスターだと思う…まぁ、外はクレアがいるから大丈夫!!」

「アンソニーは何もたついてんの…?」

「…いや、この乙女ちゃんは…ある意味大当たりで大凶だわ…」

「そんな事言ってないで早く倒さないとみんな心配してるから…。…あー、うるさい!!ここ、何か反響してるから、もう行くね。じゃっ!!」


 そう言って消えてしまった。


「…ちょっ、オイっ…!!」


 何で俺を連れて、このまま転移してくれないんだよ…。…戦って何とかしろって事か?めんどくせぇな…。コイツはマジでやばいんだって…。


 そんな事を考えていた俺は、再び苦しくなって咳き込んだ。


「…かはッ!!」


 口を抑えていた掌に、大量の血が流れている。クソッ…マジで何だコレ…?早くなんとかしないと…徐々に弱らされていく…。


 …コレ、蛇の腹の中みたいな能力だな…。


 俺はスキルとしての鑑定を持ってない。だけど、固有スキルの『スキル泥棒』でスキルと説明文だけは見える。


 乙女ちゃんが姿を現して謎の攻撃を喰らいつつも、なんとかスキルが視えるようになった。しかしスキルが視えた事によって内心、やっぱりこの子は俺にとって大凶だなと思った…。


 スキルがかなり多いのも気になったが、問題はその説明文にあったワードだ。さっき『茨の道』を発動した時に聞こえた言葉は空耳ではなかったようだ…。


 スキルの中に『聖女』と言うワードが入っていたのだ。


 こんなヤツらが、王国内に潜んでいると言う事に驚いたが、俺はこんなに早く『聖女』に遭遇した事にも驚いた…。


 『英雄』『勇者』『聖女』。この辺りとはもう少し戦闘経験を積んでから会いたかったが…そうそう都合よく物事は進んではくれんよな…。


 しかし目の前の乙女ちゃんは、『癒しの…』というより『悲劇の…』といった感じだな…。

スキルの名前からしてそんな感じだ…。


 『真獄』『茨の道』『懺悔の十字架』『炎刑十字葬』そして『ダブルフェイス』。


 真獄と言うのはこのドームの事だろう。乙女ちゃんとはまだ少し距離があるので、最低限の説明しか見えない。それが俺をより不安にさせた。


 『真獄』エミルが聖女の称号を授かった時に付与されたスキル。対象を一定範囲の真球の獄に閉じ込め…。ここまでしか見えない。


 この乙女ちゃんはエミルという名前らしい…。そういやさっき毒液くんが叫んでたな…。しかしこのスキルはドームじゃなくて真球なのか…。


 『茨の道』修道に励み数カ月で発現。自分の前方に、生命吸収する茨を展開できる。これはさっき毒液くんがやられたヤツだな…。


 『懺悔の十字架』エミルが修道により会得した。聖女の力が、対象に十字を科す。…ここまでしか読めない。十字によってどうなる?精神的圧迫で来るのか…。それとも十字で物理的に押し潰すのか…?


 『炎刑十字葬』土の下から炎…。これはここまでだ…土の下から炎がどうなるんだ…?

 

 『ダブルフェイス』聖女が一定のダメージを受けた際に…。これもここまでだ…。


 今の俺で対抗出来るか、かなり不安だ…。ベタな表現だけど、底知れない恐怖ってこう言う事なんだろう…。これ以上は観察しても意味がないな。一気にカタを付けないと…。


 そう思って神速を発動しようとした瞬間、俺は再び激しく咳き込んだ。


「ごほっっごほっっっ、かはっっっ…!!」


 俺の口から、また血が流れ出る。


 なんだっ?…どうなってる…?闘気は張った。風も起こして外に逃がしている…毒やウイルス攻撃ではない、という事か…?


 俺は口から流れる血を腕で拭うと、再び神速を発動する。しかし、発動していても動く事が出来なかった。

 

 一体…何だ?何故、動けない…。腕も手も動く、足も動かせる。しかしそこから一歩も前へ進めない。水中で藻掻いている感じだ…。


「…残念。アナタはこの真獄に入った時から負けが確定しているのよ。そして、十字架によってもう動けない。何も出来ずに死んでいくのよ…こんな調査を受けたばかりにね…」


 十字?これは懺悔の十字架スキルか…。


 しかし、乙女ちゃんはさっきの毒液くんと俺の会話を聞いていたのか…。いつからいたんだ?さも遅れて来たかのように言っていたが…。アレは毒液くんを処分する為の嘘だったのか…?


 とにかくなんとかしないとマジでやばい…。俺は、目に見えない攻撃から逃れるために朧を使う。


「…ぐっ…!!」


 しかし、強制的にキャンセルさせられてしまった。


「無駄よ、何をしても無駄。ゴミとは話したくないのだけれど…最後だから、わたしが何者か教えてあげるわ…。わたしはエレボロス教皇領より認められし聖女!!そして神の使徒に逆らう邪教徒達を殲滅する者…!!」


 乙女ちゃんがなんか語り始めた。その間に、俺は必死に考えた。朧がキャンセルさせられた事である事を思い出した。


 ロメリックとナシゴリくんの戦闘だ。朧がキャンセルさせられたのは何らかの波長が干渉するんだったな…。そしてさっきリーちゃんも言っていた…何かが反響している、と…。


 そこで俺はリッパーマンティスから抽出した『音波感知センサー』を発動させた。一瞬、薄っすらだが龍眼に波の様に揺れるエネルギーに音波が干渉したのを確認した。


 …これは…もしかして…。


 朧が使えなかったのはこのドームというか真球が出している波長とか反響に干渉されたからだろう。ロメリックの槍も特定の波長を起こすと言ってたな。


 確かに、人間の身体に悪影響を及ぼすそういう音があるのを聞いたことがある。そしてそれを増幅して反響させているのか。


 血を吐いたのは肺にウイルスが侵入したとかではなかったんだ。恐らくこれは内蔵全体…というか身体全体に悪影響を及ぼす、そういう音を反響させるスキルだ。

 

 時間が掛かれば掛かる程、俺は弱体化させられていく…。マジで蛇の腹の中って感じだ…。くそっ、どうするか…?

 

 考えている内に、語り終わった乙女ちゃんが叫ぶ。


「さあ、聖女に殺される名誉で歓喜に打ち震えるがいいわッ!!」


 その瞬間、無数に絡み合った茨が地面を素早く這ってくる。目の前に茨が来る直前、俺は苦し紛れでベノムショットを出した。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ