水質調査。
国境防衛という言葉で、俺はマロイ婆と村長の二人に質問する。
「…あの、ちょっと聞きたいんですが…」
「…何だい?」
「国境線防衛任務に、SやAが召集されてるって事ですけど…こういうのってフリーが呼ばれる事ってあります…?」
俺の疑問に、ロメリックが答えてくれた。
「現役のSやAでも王国で一定の職務や、役職のある者は召集されない事があります。ゴーリック村長がそうですね。なので基本的には動ける事の出来る現役のSとAが召集されています」
続けてロメリックが説明をしてくれた。
「場合によりますが、フリーの方でも実力を認められた方は、召集される場合がありますよ。かなりの緊急事態には、僕やマロイ先生、禅師先生のように引退していても召集される事もあります…」
「ホワイトくんはランク持ってるの?」
村長に聞かれたので禅爺に渡されたギルドカードを見せた。
「ふむ…Sだね…。何かあったら呼ばれる確率は高いと思うよ?」
「ほほぅ、フリーでS相当に認定されてるのかい。久しぶりに見たよ…」
マロイ婆が目を見開いて俺のギルドカードを見ている。
「フリーでSは少ないんですか?」
「僕が知ってるのは君を含めて、三人しかいないよ」
村長に続き、マロイ婆も話してくれる。
「フリーでも、S認定されていると呼ばれるね。ある意味、戦況をひっくり返せる可能性があるからねぇ…」
…マジか…あのジジイッ…!!思いっ切り俺を巻き込みやがったな…。
「…ちなみに、良く解かっていないようだから説明しておくよ。この大陸では各国のギルドは独立しておるんじゃ。新顔はどうしても動きが読めないからねぇ。国のギルドに所属するまでは信用されない。お主もこの世界に来たばかりの時にはマークされておったじゃろう?」
確かに、黄色い光点が、今も付かず離れず俺達を尾行している。監視されているのは間違いないだろう…。
「国境線を超えて他国に渡ると、その王国のギルドカードは全く価値はなくなる。それどころか見せた瞬間にその国の者からはスパイ扱いされるからの?…注意するんじゃ、良いな?」
「…そ、そうですか…解りました…」
チクショー、やられた…。…まぁ、今更仕方ないか…。
やられた感、満載の俺は思わず溜息を付いてしまった。陰鬱な気持ちを抑えつつ、調査に行く為に席を立つ。
「調査の進捗によっては何日か滞在するかも知れませんのでよろしくです…」
と伝えて、俺達はギルドマスターの部屋を出た。
ギルドを出る際に、受付のお姉さん達がロメリックを見てキャーキャー言ってた。若いうちから冒険者をやっていただけあって、年代問わずロメリックは女性からの人気が高いようだ。
うらやましい…。
そんなこと考えてたら、ティーちゃん達に突っ込まれた。
≪アンソニーには、クレア姉さまがおるじゃろ?≫
≪そうでしゅ。あれほどの美人は他にはおらんでしゅ。ちょっとアレでしゅけど…≫
≪そうよ。クレアで良いじゃない。まぁ、行動とか言動が色々とアレだけど…≫
…褒めてんだかディスってんだかw
調査に向かう前に、村の宿屋で部屋の予約を取っておく。ロメリックはギルド直営の簡易宿泊所に泊まるそうだ。
クレアがまだ村を見て周っていて合流していないが、俺達と同じ大部屋で予約を取っておいた。
その後、俺達は村の南門に集まる。
俺とロメリックと妖精族三体で、目撃情報の場所に向かった。
◇
河が村の中を横断して、村の南側を流れている。そこにある橋を渡り南門から出て、河沿いに目撃情報のあった東へ向かう。
その間、俺は考えていた。もし工作員がいるとするなら、そいつらはどこで寝泊まりしてる…?
大っぴらにはキャンプを張れないだろうけど、必ずどこかにそういった痕跡があるはずだと。一度目撃された場所には、もういないかもしれないが、その辺りを調べてみると追跡出来るかもしれない。
かなり歩いて、ようやく現場に到着した。辺りを警戒しつつそれぞれ調べる。
河の南側は森になっているが、ここは少し開けていた。周辺を探っていたロメリックが俺を呼ぶ。
「…見て下さい。草が踏み荒らされています…。しかも広く、です。これは獣の類ではありません…」
ロメリックの言葉に俺も頷く。ちょっとした、ぬかるみのようになった所に足跡が出来ていた。
「…人間の足跡っぽいな…レッグアーマーかな?この感じだと、ついさっきまでいた感じが…。
しかもそこそこの人数がいそうだな…」
「…ですね。五人から七、八人程度でしょうか…」
これは工作員がいる可能性がかなり高い…というか確実にいるな…。
「…何度か目撃されているから、もしかしたら場所を転々として活動してるかもね…」
痕跡を発見した後、俺はすぐにレーダーマップを展開させた。やはりいたか…赤い光点がある。
「…もう辺りも暗いし一旦、村に戻って明日改めて再調査しようか…」
俺は皆にそう言いつつ、ちょっと一人で調べたいことがあるから、と皆に先に帰るように言う。
開けた場所から南に入った森の奥に、赤い光点があった。その光点は動かないまま、重なっていて強く光っていた。
こっちの人数がいると出てこないかもしれないと踏んで、俺は皆を先に帰す振りをした。
ロメリックにチラッと視線を向ける。俺の意図が読めたのか分らないがティーちゃんとシーちゃんを連れて先に帰りますと言って村に戻っていった。
直後に、ティーちゃんからひそひそが飛んできた。
≪…何人か隠れておるようじゃが、一人で大丈夫かのぅ?≫
≪…おっ、気付いてたの?≫
≪うむ、木の精霊トレントラに聞いたんじゃ…≫
≪さっきから全然動かないからな~。俺達が村に帰るのを待ってるのかもね…。俺一人だけなら出て来るかもしれないし、ちょっと様子見るってロメリックにも伝えといて…≫
≪うーっ、シーも戦いたいでしゅ…≫
≪現れたらすぐ呼ぶよ。まぁ、その前にクレアが来て暴れそうだけど…≫
気付くかどうかわからないが、俺は少しだけ闘気をカラダから放出させた。爆縮の時と同じで闘気を出して置けばクレアが気付いて来てくれるだろう。なんせ戦闘狂だからなw
皆が離れたのを確認してから、一人残った俺は光点に背を向けて再度調査らしき行動を始めた。
さぁ、出て来るかな…?
◇
皆を村に戻してから二十分程、俺は河べりを調査しているフリをしていた。歩き回り、地面が荒らされた痕跡を調べてみたり、川べりで水をすくってみたり…。
しかしヤツらは中々動かないし姿を見せなかった。仕方ないな。こっちから仕掛けるか…。
痺れを切らしてそんな事を考えていると、向こうも中々帰らない俺に痺れを切らしたのか動き出した。俺は徐に立ち上がり、振り返る。目の前にフードを目深に被っているヤツらが、光学迷彩を解除したようにスッ…と現れた。
「…オマエ、ここで何をしている…?」
フードの真ん中のヤツが聞いてきた。
「…それは、こっちのセリフだ。俺は王国から水質汚染調査依頼を受けた者だ。お前らみたいな怪しいヤツらを探してたんだよ。お前らだな?コソコソ工作して周ってんのは…」
「…だったらどうするってんだァ?コラァッ!!」
「…お前はチンピラかよ?工作はノ〇ポさんとゴ〇太くんがやってるアレだけにしとけよ…」
俺の言葉に、真ん中のチンピラフードのヤツが反応した。
「…ゴ〇太くん…オマエ、日本人か…!?」
「…そうだけど?そういうお前も日本人だな?」
…ていうかコイツ、チンピラの癖に良くゴ〇太くん知ってたな…。
「…召喚者か転生者か知らんけど、他人様の領土荒らすようなセコイ真似すんなよな」
「そういうお前はどっちだよ?俺はなァッ、召喚だぜッ!!」
「…だから?ガラの悪いチンピラくんが召喚されて、能力手に入れたからって良い気になって調子に乗るなよな?」
俺の言葉に、ヤツが口元を歪める。コイツは短気で単純なヤツだな…。無言のまま、周りのヤツに俺を囲む様にハンドサインで指示、展開させる。
剣、ナイフ、戦斧、槍、そして何も持っていないが両腕にレザーの籠手を付けている真ん中のチンピラフードの五人だ。
…五人だけか…?もう何人かいるかと思ったけど…。俺が観察をしていると、問答無用で襲い掛かってきた。