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ユルィキャン。

 砂の王国からの工作員を撃退した俺達は再び、シャリノアを目指して南へと歩いて行く。


 俺達の戦闘の話を聞いて自分も戦いたかったのか、クレアはこのまま付いて来てくれる事になった。歩きながらクレアが俺に聞いてくる。


「ところで主は、どこへ向かっているのですか?」

「…あぁ、水質汚染の調査依頼を受けてるんだ。ついでに美味しいお米も調達しようと思ってな。それでここから南にある大農場のシャリノアに向かってるんだよ」

「…ほほぅ、調査依頼ですか…」


 『調査』と聞いてあからさまにテンションが下がるクレア。


 俺の想像通り、派手に戦闘したかったんだろうな…。俺達が工作員と闘った話を聞いて、かなり興奮してたからな…。俺はクレアのモチベーションを維持する為に、調査依頼がどれだけ大事であるか説明をする。


「…クレア、水質調査はかなり大事な仕事なんだよ。そもそも米もお酒もビールも、綺麗で上質な水で作らないと、美味しくならないんだ」

「…ほほぅ、そうですか!!」


 お酒とビールと聞いて、少しは興味が湧いたようだ。


「その大事な水源である河を汚しているヤツがいるかもしれないんだよ。さっきの工作員みたいなヤツがね…」


 俺の言葉に、クレアの目が光る。


「ほぅ、それならば、わらわが付いて行かねばなりませんな!!」

「…あ、あぁ、まぁそうだな…」


 分りやすいヤツだな…。お前は戦いたいだけだろ、と心の中で突っ込んだ。


 しかし不審者目撃情報があるから、また戦闘になる可能性は高い。クレアが付いて来てくれるなら俺的にはかなり助かる。

 

 戦闘出来るメンバーは多いに越したことはない。クレア、シーちゃん、ロメリックに前衛を任せて、俺はティーちゃんと後衛に周る事も出来るからね。


 その後も、みんなで話しながら、シャリノアへの道をひたすら南下していく。歩いていると俺のお腹が、グゥと鳴った。


 大体、午前十の刻半位だろう。俺は地球での仕事が朝早い。だからお腹がすくと大体何時くらいか分かる。歩きながら現在どの辺りまで進んでいるかを聞いてみた。


「ロメリック、今どこまで進んでいるか分かる?」


 ロメリックは周りを確認しつつ、答えてくれた。


「…大体、シャリノアまでの行程の半分を過ぎたくらいですね」


 今ここで、大体半分くらいか…。こりゃ到着は夕方近くになりそうだな…。続けて、この辺りで食事が出来そうな適当な場所があるか聞いてみた。


 ブレーリン~シャリノア間で、徒歩と馬車で進みの違いはあるが、この辺りには数か所に交易商人と護衛PTがキャンプ出来る場所があるそうだ。

 

 ロメリックが、この辺りのキャンプ地へと案内してくれる。道すがらこの辺りにキャンプ地が複数ある理由を教えてくれた。


 この辺りは夕刻から深夜、明け方までかなり治安が悪いらしい。

その為、交易商人や都市間を移動する者達は夕方に差し掛かる前に到着出来るように、朝早く大体同じ時間帯に出発するそうだ。


 馬車と徒歩の違いを考慮して、どちらでもキャンプが出来るように場所を整備しているようだ。昼間でも油断出来ないので、安全の為に皆で固まってキャンプを張り、食事をするらしい。

 

 話しながら歩いて行くと、それらしきキャンプ地に到着した。一部、森を切り開いて周りが見渡せるようにしてある。


 遠くを見ると三組程の交易馬車と護衛達がキャンプを張っているのが見えた。俺は望遠機能が付いたスキル『バードアイ』を使ってその様子を観察する。


 交易馬車を中心に陣形を展開する様に固まって食事の用意をしていた。方円陣のような感じで、どこから襲撃されても対応出来るように備えている。

 

 凄いね。万全の態勢ってやつだな…。


 足元でガチャガチャ音が聞こえたので観察をやめて俺はそっちを見た。ティーちゃんとシーちゃん二人が、しゃがんで何かしている。


 シーちゃんが、藁や木の枝を重ねて、火を起こす準備をしていた。その近くで、ティーちゃんが小さな鞄から金属棒のような部品?を取り出して立体に組み立てると、火を起こす上にそれを設置した。


 ティーちゃんは、ロウソクの先っちょくらいの火を指先から出すと、藁と木の枝に点火する。


 よく見ると藁や枝の下には炭がいつくかあるのが見えた。火が安定して炭に燃え移ったタイミングで、ティーちゃんが鞄から金網を取り出す。その金網を、四本脚の立体に組み立てた上に乗せた。


 続いてシーちゃんが、小さな鞄の中から、綺麗に包装されていた肉を人数分取り出す。何の肉かは解からなかったが、敢えてそれが何の肉か確認するような事はしなかった…。

 

 その正体を知ったら、素直に食べられそうにないし…。


 シーちゃんは鞄から串を出して、肉に刺していく。そしてその串刺し肉を網の上で焼き始めた…。

なんか本格的だな…。それを傍で見ていたロメリックも驚きの表情だ。


 ジュウジュウと焼かれている肉から脂が滴る。焼ける音に乗って、良い匂いが鼻先に漂ってきた。

ふと隣を見ると、クレアの唇の端から、涎が出ていた…。

 

 まぁ、気持ちは分からんでもないが…。


 かなり離れているキャンプ地にいる交易商人やその護衛PTが、流れ漂ってくる香りに気付いてこっちをチラチラと見ている。


 向こうのキャンプ地も交易商人がいるので、護衛のPTも携帯食料では無く、スープやパンなどを

食べているようだったが、どうしても肉は干肉になってしまうようだ。

 時間停止アイテムボックスとか持ってないと、生肉とか持って歩けないからね…。


 肉には既に下味が付いていたのか、肉が焼けていく度に香辛料を混ぜた甘辛ダレのような匂いが漂う。 


「あまり食べ過ぎると、この後に戦闘になったら支障がでるからの…」

「…程々にお肉と木の実をやくでしゅ」


 …用意が良いな…。俺は宿屋で長ーい、フランスパンみたいなのを一つ貰って来ただけだった。携帯食料を出していたロメリックに、シーちゃんが焼けた肉と木の実が入った木製の器を渡す。


「はい。これたべるでしゅ」

「…ぁ、ありがとう」


 木の器を受け取ったロメリックは、串焼き肉を少し齧る。そして添えられていた木製スプーンで木の実をすくい食べてみる。途端に驚きの表情になった。


「…これは!!とても美味しいですね!!香辛料の入った甘いタレがお肉に良く染み込んでますよ。甘辛でピリッと来る後味が凄く良いです!!この木の実も、ちょうど良い塩味で炙った事によって香ばしさが出ていますね!!」

 

 ロメリックが嬉しそうに肉と木の実を食べる。上品に食べるロメリックの横で、クレアはかぶり付きで豪快に串焼き肉を食ってた…。


 俺達が食事を始めた頃に、交易商人の護衛PTが数人、匂いに釣られて寄ってきた。


「ロメリックにホワイトさん達だったのか…」


 俺は軽く会釈をする。ロメリックも肉を食べながら、軽く手を上げて挨拶をしていた。護衛しているPTは時々、うちのちびっこにお菓子やらをくれる人達だ。串焼き肉を羨ましそうに見ているPTに、シーちゃんが鞄から個数分、肉を取り出す。


「いつもお菓子くれるから、これあげるでしゅ」


 そう言ってシーちゃんは交易商人、護衛PT分に一個づつ、味付き肉の塊を渡す。


「…ホントか!!ありがとう…!!」

「いや~、離れてるのに凄く良い匂いが来るもんだからつい見に来ちまったんだ…なんかすまんな~…」

「気にせんでもいいでしゅ…また今度おかしくだしゃい!!」


 シーちゃんの言葉に、護衛PTのメンバー達は笑っていた。護衛PTはありがとうな!!と言いながら自分達のキャンプ地に戻っていった。嬉しそうに肉を持って戻っていったが…何の肉か確認しなくて良かったのかw?


 俺達も食事を再開する。俺は、世界樹で買っておいた調理用ナイフでパンをスライスして、みんなに配る。貰った串焼き肉も、同じくスライスする。

 

 程よく脂がのった綺麗な肉だ。肉の内側はミディアムレア、外側は程よく焼けている。

ローストビーフみたいな感じだ。俺はそれをパンに乗せて食べた。


「…おっ、アンソニーよ。美味しそうじゃのぅ…」

 

 俺がスライスパンに、スライスした肉を乗せて食べるのを見た三人が、それを真似て食べてみる。

クレアだけはパンを口に放り込むと、無言で肉に齧り付いていた。


「…これも、中々美味しい食べ方ですね」

「うん、美味しいでしゅ」


 飲み物はシーちゃんが鞄から、木のコップと清涼水を出してくれたので、皆でそれを飲んだ。

なんだか仄かに甘くてスポーツドリンクみたい…。妖精って凄いな…。


 二体のお陰で、キャンプでの食事が和気あいあいとした楽しいものになった。



 お腹も満たされたので、再び俺達はシャリノアに向かって歩みを再開した。歩きながら、クレアが俺に質問してくる。


「主は、先程お米を調達、と言っておりましたが、お米を何に使うのですか?」

「…あぁ、ベルファって言う街のギルドマスターから、刺身と鮨を作ってくれって言われてさ…」

「さしみ?すし?それは何ですか…?」


 俺はクレアの疑問に答える。

 

「刺身って言うのは魚の身を卸して皮を引いてカットして生で食うものなんだよ。醤油と山葵を付けてね」

「ほほぅ…魚を生で…ですか…」


 魚と聞いて明らかにテンション下がったな…。


「…わらわは生なら肉が良いですな…」


 お前は生でも生じゃなくても肉が好きだろ?と心の中で突っ込む。しかしかなりの肉好きなだけに、魚には殆どというか、全く興味が無いようだ。


「…で、鮨っていうのはそのカットされた身を酢飯を握ったモノに乗せて食べるんだ。それで良い米が欲しいんだよ」


 俺の言葉に、クレアは必死に『鮨』を想像している。ロメリックは禅爺から、過去に話を聞いていた様で、刺身や鮨を知っているようだった。しかし実物はまだ見た事も食べた事もないそうで、僕も一度試食したいですねぇ、と言ってた。


「まぁ、素材の準備が出来たら一度試食会するけどね」

「良いですね。どうです?うちの館にある厨房をお貸し出来ますよ…」


 ロメリックが館の厨房を貸してくれるというので、俺はその提案を受ける事にした。


「そうだねぇ。全ての素材が集まったら一回、ブレーリンで試食会しようか」

「…試食会ですか…。わらわは肉がいいですのぅ…」


 あくまでも肉推しをしてくるクレアに、俺が教える。


「勿論、肉を乗せた鮨もあるよ、ていうか色々好きなモノを乗せてみても良いと思うよ?肉だと軽く炙ったりして酢飯…と言うか握ったモノがシャリ玉って言うんだけど、それに乗せて食べるんだよ」


 肉もあると聞いてクレアの目がメッチャキラキラしてた…。予定外だけど、肉も調達しとくか…。味覚がクレアに合うかどうかわからんけど…。


 調査依頼が終わって無事、米や諸々の素材を調達出来たら、一度ブレーリンに戻って試食会をする事にした。


 昼食を終えた俺達は再び、シャリノアを目指して南へと向かった。

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