抜けないスキルと肝心な事を忘れる男。
爆縮による破壊の粉塵が晴れたそこには、人の形をしたものが全くなかった。悲嘆にくれるティーア、シーア、ロメリック。妖精リーアも騒ぎで目を覚ました。
「…あれっ?何?何かあったの…?」
沈痛な面持ちのティーアとシーアを見て、戸惑うリーア。
「ティーさま、アンソニーはどこに…?」
リーアが言葉を失う。ティーアとシーアの二人の両目から、大粒の涙が零れていた。…リーアは何があったのか知らなかったが、その場にいるはずの人物がいない事でなんとなく状況を理解した。
そして目の前の、破壊の跡…。
「…ぁ、アンソニー…そんな…まさか…。わたしが連れてきたせいで…」
「…そんな…ホワイトさん…」
「ぃ、いや…アンソニーは振り切れたステータスを…ぅぐっ、持っておるんじゃ…どこかに…ひぐっ…隠れて…お、おるはず…じゃ…」
「…アンソニー…は、早く出てくるでしゅ…シーのプロテクトは…んぐっ、間に合ってたはずでしゅ…」
「…ホワイトさんッッ…!!」
三人と一体の呼び掛けにも、空しく風が通るだけだった。ロメリックは沈痛な面持ちのまま、天を仰ぐしかなかった…。
「…ぅっ、ぅぅっ…うわーんっ…!!」
「…うわぁぁんっ!!」
ついに、大きな声で泣き始めたちびっこ二人を、抱き寄せて自らも涙が止まらないロメリック。
「ホワイトさん、こんな可愛い二人を置いていくなんて…貴方はなんて罪な人なんだ…」
悔しさを滲ませるロメリック。声を上げて泣き続ける二人。そしてリーア。
「…あ、アンソニーよっ、いるんじゃろっ?は、早くっ、出て来るんじゃっ…早くっ…」
泣きじゃくる三体の耳に、森の方から間の抜けた声が聞こえた。
「…いや~…今のはマジでヤバかったわ…」
俺はクレアと共に、森の中からみんなの元へと戻っていく。俺の声に、泣きじゃくってた三体の声が止まった。
「…ぁ、アンソニーか…?」
「…ぁっ、アンソニーでしゅっ!!」
「…何よォッ、ちゃんと生きてるじゃない…ッ!!」
ロメリックも、ほっとした表情だ。
「…良かった…。本当に良かった…」
三体が俺に駆け寄ってきた。
「…ゴメンゴメン、ホントびっくりさせて…」
俺は皆を、ぎゅっと抱き寄せた。
「ホントに…皆ゴメンな…」
泣いてる三体につられて俺も、涙が出て来た。
「…どうした?何があったかは知らんが、わらわにも解かる様に話してくれぬか?」
「…あっ、クレア姉さまっ…」
「姉さまっ!!」
「…クレアッ?どうしてここにいるの…?」
「…あぁ、たまたまこの近くの遺跡を見物に行っておったのだが…」
「続きは俺から話すよ…」
ロメリックを含めた、全員に俺は経緯を話す。クレアにも分かるように、サネルのスキル抽出の所からだな。
「あの時、俺はスキル『バニッシュ』を抜き取ろうとしてたんだけど、どうしても抽出に入らなくてさ…。何回やってもスキル名がガタガタ揺れるだけで、全然動かなかったんだ。…で、俺は焦って無理に外そうとして何回もそれを繰り返してたら、サネルの首辺りから変な音がしたんだよ」
「…変な音?とはどんな音じゃ…」
「…うーん、何かのスイッチ的な?カチッてそんな音だった…。そういう時に、音が鳴るのって大体危険だからね。…ヤバい、コレ絶対爆発するって思ってたら…」
「アンソニー、あれは爆縮でしゅよ?」
「うん、そうなんだ。龍眼で見てたらサネルの身体の内部を中心に高エネルギーが集まってて、咄嗟に三人を爆縮範囲外に弾き出したんだけど…。…その時にはもう、かなりのエネルギーで爆縮が進んでたからね…。ダメだこりゃ、てなったんだ。俺もここで終わりかと本気で思ってたんだけど、そしたら天の声が聞こえた気がしたんだ。あの先生の言葉がね…」
「あの先生って…どちらの先生ですか…?」
「そうじゃ。先生って誰じゃ?」
「…ん?…あぁ、諦めたらそこで試合終了ってやつだけど…」
「ああっ!!あの漫画のやつね…」
リーちゃんはうちで漫画を読んでいるので知ってたが、この星の人間であるロメリックには分からなかった。
「それで諦めるのはまだ早いと思ってたら、何故かクレアを思い出して闘気を張ったんだよ…。
で、闘気を張ったのは良いんだけどさ、爆発と爆縮を間違えて、正面にだけ闘気張っちゃったのよ…」
俺は一息ついて話を続ける。
「間違えたやべぇって思った時には、もう後ろから爆縮のエネルギーが来ててさ…。まずいと思ってたら、シーちゃんの伸ばしてたプロテクトで何とかギリギリ耐えてた所にタイミング良く…」
俺はチラッとクレアを見た。俺の言葉を引き継いだクレアが説明を続けてくれた。
「…うむ、わらわは主に呼ばれた気がしてな…。すぐにこっちに向かって来たのだ…。上空から見ていると、爆縮に巻き込まれそうになっている主を見てすぐに形態変化したのだ。爆縮完成寸前、わらわが主を掴み上げたのだ、ギリギリでな…」
「…そう、俺はクレアがいたおかげで助かったって訳なんよ。マジでギリギリでやばかったんだ…。
…けど、後から気付いたんだよね。あの爆縮範囲攻撃は拘束力がないから、神速とか跳躍を使えば俺もすぐ逃げれたんだよね~…」
俺の説明に、さっきまで泣いていた三体が呆れていた。
「うぬぬ、アンソニーよ!!こういう大事な時に、肝心な事を忘れてはいかんじゃろっ!!」
「…うん、今回は反省してます…」
しかし人間、いきなりそんな状況になると巧く対応出来ないもんだ…。まぁ、そこが戦闘経験の差かもしれんけどな…。
「…今回はホントびっくりさせて、ごめん…」
俺は素直に謝っといた。そんな俺にクレアが言う。
「主もわらわの様に常に闘気を全身に纏っておけばアレくらいのエネルギーなら何とかなりますぞ?」
「…いや、何とかなるって言うけどさ、闘気を全身に薄く張るアレ?結構難しいんだよ。まぁ、少しづつ練習してみるよ…」
「うむ、出来るようになると戦闘がかなり楽になりますぞ」
俺達がそんな事を話していると、ロメリックが恐る恐る聞いてくる。
「…あの…ホワイトさん、御無事で何よりです。しかし先程からのお話で、聞きたいことが色々あるのですが…。今までの経緯を聞いていると、何だか皆さん、僕の想像を遥かに越えた存在の様な気がするんですけど…」
そしてロメリックは俺の肩に乗っていたリーちゃんを見る。
「…いつか聞こうと思っていたんですが…いつもホワイトさんの近くを飛んでいるのは…妖精さんですか…?…そして、上空を飛んでいたというそちらの女性は…」
…あっ…!!…しまったああああぁぁぁーッッッ!!
…ロメリックに色々と知られちゃったよ…。ていうか、ロメリックには妖精が見えるのか…。
俺は話せる範囲で、ロメリックに説明をする事にした。
無効化すると言っていたスキルが、スキルを抽出するものである事。ティーちゃんの精霊魔法と、シーちゃんのマドー格闘、妖精であるリーちゃんの存在と、クレアが人間ではない(黒龍とは言っていない)亜人種である事を…。
そして、俺がこの世界でやらなければならない事。それが、この世界のとてもとても偉い方からの依頼である事などだ。
「…これ、内緒にしといてね…マジで…」
「…え、えぇ…解りました…」
話の内容に、ロメリックは若干、引いていた。そりゃそうなるだろうね…。まぁ、ロメリックはべらべら喋るような男じゃないし、そこら辺は心配しなくても大丈夫だろう。
俺が話を変えようと、ロメリックにクレアの紹介をすると、本人が俺の前にズィッと進み出て来た。
そして―。
「お初にお目にかかります。わらわは、アンソニー・ホワイトの妻で、クレア・ホワイトというものです!!」
「…えっ?…ちょッッ!!うおぉぉぉぉぉーいッ!!ちょっと待てッ!!…まだ結婚してな…」
俺が必死に事実と異なる事を説明しようとする声を遮り、被せるようにクレアが大きな声で挨拶を続ける。
「今後とも我が主と共によろしくお願いしたい次第ですッ!!」
そう言うと高らかに笑うクレア。
…こっ、こいつぅぅっ…!!ついこの前まで、結婚相手の「候補」とか言ってたくせによォォッ!!もう随分と話が進んでるじゃねぇかァァッッッ!!
にこやかなクレアの言葉に、はい、こちらこそよろしくお願いします。と丁寧に答えるロメリック。
「しかし、ホワイトさんはご結婚されてたんですね。所帯を持っている雰囲気ではなかったので意外ですよ」
「アッハッハ!!主は実際の年齢より若く見えますからな!!だからそう見えるのです!!」
何も言えず固まっていた俺を、クレアがちらっと振り返る。その口元が、ニヤッと笑っていた。今回の俺を助けた件で結婚の事をゴリ押しする気だな…。
…くぅ~っ!!とんでもないヤツに借りを作っちまった…!!
その後、リーちゃんもよろしくね!!とロメリックに挨拶をしていた。そんな中、俺は固まったまま放心していた。
「…しかし、アンソニーよ、無事なのは良かったんじゃが髪が…」
「そうでしゅ、アンソニーの髪の毛が…」
「…ん?髪?俺の髪が…何…?」
プププッ、と笑いを堪えているリーちゃん。
「…それにじゃな、お気に入りの装備も…」
俺はリーちゃんにミラーの魔法で全身を映して貰った。
………。
お気に入り装備の、かなりの部分が焼け焦げていた。 …そして…顔はすすだらけ、俺の髪は…ドリフのコントみたいにチリチリになっていた…。




