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ロウ・スピア。

 ルドラのスキルによって、ロメリックの連続刺突攻撃は、全く当たっていなかった。それどころか技と技の継ぎ目を見極められ、逆に攻撃を喰らっていた。


 …どうするか。このままだとロメリックが詰んでしまうな…。手を出すか迷う所だな…。


「アンソニーよ、ロメリックを信じるんじゃ!!」


 ティーちゃんがそんな事を言うが俺はどうも落ち着かない。同様にシーちゃんも出て良いかどうか迷っているようで、ティーちゃんと俺を交互に見ている。


 仕方ない、俺も腹を括って見守るか。俺はしゃがんでシーちゃんにも闘いを見守る様に言った。その間に、ティーちゃんに送って貰っていたロメリックの人物伝に目を通した。



 ロメリック・ディストレア、二十六歳、独身。商業都市ブレーリン出身で、当街の冒険者ギルドのマスター。

 

 十五歳の頃から、戦闘員養成訓練所にて体術、槍の才能を発揮し、当時訓練所の教官だったフィル・ランバートに見出され、徹底的に槍の扱いを叩き込まれた。


 十九歳にして夢幻流星流槍術を修め、ギルドランクSに昇格する。二十歳からはグレン・ブレイクス率いるPTに師、フィルと共に所属し、王国各地を巡り実戦経験を積んでいく。


 先頃、貴族で領主だった両親が突然、事故で他界し緊急で帰郷する。ブレーリンに戻ったロメリックは、遺産整理をしつつ、領主の仕事は義兄、アイゼル・テンダー卿に譲り、最低限の資産だけ残してもらう。


 その頃にハンターギルドマスターが引退することになり、ロメリックはギルドマスターに就任する事となる。帰郷の際、師であるフィル・ランバートが持つ十二本の名槍のうちの一つ、『ロウ・スピア』を譲り受けた。

 

 スキル、『夢幻流星流槍術』皆伝。『体術+4』


 となっている。しかしティーちゃんのこの余裕は何だろう…。人物鑑定を見る限りだと特にナシゴレンを倒せそうな要素は見つかんないけど…。


 槍の攻撃を外されているのに、ロメリックは構わず攻撃し続けている。


「君のその能力、結構凄いけど、どうやら僕との相性は最悪だね…」

「何言ってやがる、一撃も攻撃が当たらなくて焼が回ったかよ?」

「いや、僕は極めて冷静だよ。なんせ師が冷徹で容赦なく厳しい、変わり者なもんでね…」


 これ、軽くディスってるのかなw?


「そんな攻撃しか出来ないんなら、師の実力も大したことなさそうだな、ククッ…」


 疲れる様子もなく、ロメリックは高速連撃で槍を繰り出していく。


 あれ?なんだろう?攻撃の合間に不思議な動きをしている…。しかしロメリックの攻撃は当たらないのに、技と技の間を狙われて、逆に攻撃を喰らっている。


「オラオラァッ!!さっきの威勢はどうしたよ?俺との相性が最悪なのは、若造お前の方だっ…グッ、くそッ…なんだッ…!?」


 スキル『朧』を発動中のヤツの動きが突然、鈍くなった。見るとロメリックの槍が、ヤツの脇腹に刺さっている。

 

 おおっ、何か知らんうちに攻撃が当たってるじゃん…。


「クソッ!!そ、そんなバカなッ…俺のスキルは発動中だぞッ!!…グッ…お前…どうやって…」

 

 凄いな、相手のスキルを破ったぞ…。どうやったのか…俺もそこの所を知りたい。ロメリックが静かに話す。


「自分の能力をひけらかす程、危険なものはない。だから、どうやって、は話せないね」


≪アンソニーよ、ロメリックの槍を見るんじゃ≫


 戦闘をしている二人だけを見ていて気付かなかったが、ティーちゃんに言われて、ロメリックが持っている槍を見る。龍眼を使い、引きで全体を見ると、一帯の空間にエネルギーの流れが出来ている。そして槍が光っていた。


≪ティーちゃん、あれ何?≫

≪あれは特殊な効果じゃな。あの槍が持つ力じゃ。しかし珍しい武器を持っておるのぅ…≫

≪そんなに珍しいの?≫

≪そうじゃな。あれには法と秩序の神、アルラスタ…何とかの力が込められておる。最近ではあの神の力が込められている武器など、見かけなくなったがのぅ…≫


 珍しい武器か…アンティークとか、博物館に飾られているくらいの遺物レベルの珍しいモノなんかな…。


≪だとすると、あの槍を元々持ってたフィルさんって、かなり凄い人、というかエルフなんじゃない?≫

≪うむ、自らが鍛造して創り上げたのか…もしくは古代遺跡のような場所で発見したのかもしれぬのぅ…≫


 ロメリックが、ナシゴレンの脇腹に刺さった槍を引き抜く。


「これが、僕が師から譲り受けた槍、ロウ・スピアの力だよ」

「この槍が無ければ君の言う通り、僕はただの若造だね…」

「グッ…、クソッ…あの『エセ教皇代理』…全然使えねぇ能力じゃねぇかよ…」


 ヤツが両膝を付いて刺し貫かれた脇腹を抑えている。しかし流血はしているが傷は浅いようだ。

空間に漂うエネルギーの効力なのか、ナシゴレンはこれ以上、動けないようだ。


「自分のスキルに頼り過ぎてて周囲の状況を良く見てなかったようだね。当たりもしないのに、僕が躍起になって攻撃をしてたと思ったのかい?残念ながら、初撃で避けられた時から、もう既に君のスキルについては、おおよその見当はついてたよ。僕は鑑定を持っていない。だから君のスキルは見えない。だけど、僕の槍が突き抜けてもダメージがない事でなんとなく気付いたよ…」


 一息ついて、ロメリックが話を続ける。


「だから避けられても、僕はある一定の範囲に君がいるように攻撃を仕掛けたんだ。この辺り一帯の空間で君のスキルが弱体化するようにね」


 ロメリックが持つ槍が妖しい光を放っていた。


「この槍が放出するエネルギー空間では君の思うようにはいかない。チェックメイトだ!!」


 正直、俺は驚いた。この若さでこの強さ、そして敵の能力の見極めと判断力…。元Sランクか…。ただ者じゃないね…。


 この星の市井人が召喚能力者を圧倒したよ…。俺は感心しながら、ナシゴレンのスキルを貰う為に、二人の方へと近づいて行った。


 膝を付いて脇腹を押さえるナシゴレンを見るロメリック。


「相手が若い、というだけで油断したね。人を見た目で判断しない方が良い。スキルを過信するのも良くないね。君のような危険人物を野放しには出来ない。拘束させて貰うよ」


 そう言いつつ、ロメリックがナシゴレンを後ろ手に縛り上げる。俺は動けなくなったヤツの首の後ろを掴んだ。


「ロメリック、コイツのスキルは無効化しとくよ」

「はい、お願いします」


 俺は続けてナシゴレンに通告した。


「これ以上、この王国で悪さ出来ない様にさせてもらう。俺に会ったのが運の尽きだったな…」


 しかし、スキル泥棒を発動した瞬間、突如として空間から黒い影が飛び出してきた。素早く重心を乗せた体当たりで、ロメリックを突き飛ばす。


「…グッ!!何者ッ…!?」


 ロメリックを突き飛ばした黒い影は次の瞬間には態勢を戻して振り返ると、俺の首にシャムシールを当てていた。首に刃を当てられ、俺は動けなくなった…。


 …もう一人いたのか!!


 しかしレーダーマップには光点は無かった…。森の中の対象はシルフィアが感知して殲滅してるはず…。だとするとコイツは俺のレーダーマップに反映されず、シルフィアにも感知されない能力を持っているという事か…。


 龍眼でも視えない、レーダーマップにも反応しない。そしてシルフィアにも感知されない。コイツはかなり危険な能力者だな…。


 口元を布で巻いて隠し、中東でよく見るベール?を被っていて目元しか見えないが、コイツが女である事がすぐに解かった。


 豊潤な香りが匂い立ち、何よりマントの下の黒い布を全身に巻き付けたカラダが、かなりのセクシースタイルだったからね…。こんな状況じゃなきゃ凄く嬉しんだけど…。


 女は、静かに冷徹な感情の無い声で俺に言い放つ。


「…部下を解放して貰おうか?」

「いやいや、アンタ誰ですか?いきなり現れて解放しろって言われても…」


 俺はナシゴレンの首を掴んだまま、話をして気を逸らしてやろうとしたが…。無言の圧力と首に当たっている刃に力が入ったので、俺は慌ててナシゴレンを放す。


「…わっ、わかったよ…。すぐ解放します…」


 俺はナシゴレンの首から手を離して解放すると、両手を上げて降参のポーズを取った。女はナシゴレンの拘束を解くと、俺の首に刃を当てたまま、また少し力を入れた。


「…ちょっ、な、何もしないって…両手上げて降参してるだろ…?」


 そんな俺を無視する女。ナシゴレンは刺されて血が流れる脇腹を抑えてヨロヨロと立ち上がる。

同じく、突然体当たりを受けて吹っ飛ばされ体を起こすロメリックをナシゴレンが蹴り上げた。


「ぐはッ…」

「…このクソがァッ…!!よくもやってくれたなァ、オイッ…!!」


 ロメリックを蹴り上げて近づいていくナシゴレンを女が(たしな)める。

 

甚振(いたぶ)ってないで早く殺せッ!!これ以上ここにいると我々の存在が感づかれるだろうッ!?」


 しかし、女の忠告を無視して再び、ロメリックを蹴り上げようとしたナシゴレンに突然、横から飛んで来た高速弾丸ドロップキックが炸裂する。


「…グハッッ!!」


 派手に吹っ飛んでいくナシゴレン。


 刺された脇腹にシーちゃんの弾丸ドロップキックをまともに喰らったナシゴレンの身体が、くの字に折れ曲がっていた。


「…グワアァッ!!クソォォッ!!何なんだよォッ!!チクショゥッ…!!コイツら一体、何なんだよォォッ…!!」


 …ありゃ、完全に肋骨行ってるな…。吹っ飛ばされて転げまわり、喚き散らすナシゴレン。


「そこの子供二人も動くな!!この男の首が飛んでも…」


 そう叫びながら刃を引こうとして俺を振り返った女が、驚きで目を見開いた。女が持つシャムシールの刃は、俺の首を切る事は出来なかった。

 

 刃先が俺の首をすり抜けていく。俺の身体は瞬間、粒子レベルで分解されていた。


「…ンフッ、もうアンタは俺を斬れないよん」

 

 俺がナシゴレン開放を躊躇っていたのは、抽出がギリギリだったからだ。そして手を離した時には既に、スキル『朧』を抜き取っていた。


「…貴様ッ!!何故そのスキルをッ…!?」


 おっ、初めて目に感情が現れたな。


「…ハイ、残念でした!!そこのゴミなら何のスキルも持ってない抜け殻だよ。抜け殻でも、まだまだ使えるって言うなら連れて帰っても構わんけど?」


 俺の言葉に、無言の女。


「ダメですッ!!ホワイトさんッ逃がしてはなりませんッ…!!」


 ロメリックは逃がすなと言うが、俺も逃がすつもりはない。ちょっとした疑問の解消ついでに、この女のスキルも抜き取っておきたいからね。


「…まぁ、確かに…ロメリックの言う通りだよな…。逃がした後に厄介なスキル持ってまたこの国に潜伏して悪さされるのも困るからな~…」


 俺の言葉を突然、女が遮る。


「もうそいつは抜け殻なのだろう?だったらもう必要ない。同じ人間にスキルの再付与は出来ないからな」


 その言葉に俺の疑問は解消され、考えは確信に至る。抜け殻を連れて帰っても良いと言ったのは、この言葉を聞くための誘導だ。


『同じ人間にスキルの再付与は出来ない』


 そもそも、神の使徒の本拠である教皇領以外でズレて召喚された場合どうなるのか?俺の様に、元々地球で持っていた能力が、この世界でスキル化する事はあると思う。


 ナシゴレンが召喚者だと知った時から俺が考えていたのは、各地にズレて召喚された者達に神の使徒や教皇領の者が接触し、能力を与えているという可能性だ。


 この『朧』のような能力は、現代の地球人が元々持っている様なスキルじゃない。そんな能力あったらミュータントですよ。マジでw


 つまり誰かに与えられた能力、という事だ。


 そしてこの時点で南にある砂の王国が、教皇領や帝国のヤツらと関わっているのはかなり濃い。俺としては国と国との争いに関わりたくはない。俺の目的は、危険なヤツのスキルの回収と排除だ。

 

 しかしこの一件で、各地に神の使徒や教皇領の者が派遣されているだろうという事が分かった。ナシゴレンや目の前の女の様にスキルを与えて周辺国に潜り込ませて工作させているのだろう。

 

 嫌でも巻き込まれそうな感じだな…。

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