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スキル『朧』とロメリック・ディストレア

 ロメリックが言うにはここ、ブレーリンの領主テンダー卿は義兄だそうだ。


「まずは今回、義弟であるロメリックの苦悩の元を排除し、義妹を助けて頂き、ありがたく思います。申し遅れましたが、わたしはこの地の領主で、太守のアイゼル・テンダーと申します。以後、お見知りおき、よろしくお願いします」


 丁寧な紹介を頂いて、俺も慌てて挨拶を返した。


「俺…」


 と言いかけて、訂正。


「わたしはアンソニー・ホワイトです。よろしくお願いします」


 挨拶が終わった後、テンダー卿がギルドからの支援について話してくれた。


「わたしはディストレア家の長女であったロメリックの姉と結婚しておりまして…。」


 あぁ、そう言う事か、お姉さんもいたのか。それでロメリックの義兄なわけね。

 

「今回、義弟と義妹を助けて頂いた事もありまして、街としても、そしてこの街の冒険者ギルドとしても支援をさせて頂きたいのです」


 そしてテンダー卿は、振り返りロメリックを促す。頷いたロメリックが話を引き継いだ。


「今回の水質汚染調査依頼には、相応の危険があるかと思います。黄色依頼になっておりますが、僕の思う所ではただの水質汚染ではない気がします。恐らく他国の工作員が関わっているかと…。ホワイトさんとお子様二人が強い事は十分承知しておりますが…」


 そう言いつつ一度、間を置いたロメリックが話を続ける。


「…このロメリック・ディストレアをお連れ下さい。街としてギルドとしての最大支援としまして、元Sランクの僕が共に参ります!!」

「えええっ!!」


 俺は予想外の展開に驚いて思わず声を上げてしまった。「…うーん、何と言って良いのやら…。マスターが席を空けても良いんですか?」

「大丈夫です。ギルドにはマスター不在時に代理を務めるものおります故、ご心配なさらず…」


 そう説明してくれたのはテンダー卿だ。


「…そうですか。解りました。是非よろしくお願いします!!」


 そう答えた俺に、ティーちゃんが突っ込む。


≪意外じゃのぅ。アンソニーはこういうのを嫌うと思っておったが…≫

≪…でしゅねぇ…≫


 とシーちゃんも同じ様に感じたらしい。俺はその理由を二人に話した。


≪単純にこのロメリックの実力というか槍術を見たいだけなんだよねw≫

≪そう言う事か、他人の技を見るのは良い事じゃ≫


 二人とも納得してくれたようだ。

 

 そして俺と妖精族、ロメリックでシャリノアに向かう事になった。俺達はテンダー卿と衛兵達に見送られてブレーリンの南門を出た。



 俺達は綺麗に整備されている街道を南に進んでいく。


 道中、交易商人やハンターらしき人達とすれ違う。この街道を行く途中に海底遺跡に繋がるダンジョンがあるんだったな。


 ダンジョンなんて初めてだから入ってみたい所だったが、今は水質調査が優先だ。帰りに時間があったらちょっとだけ寄ってみるか…。


 どんどん南下していくと、件のダンジョンへの森道があるのを発見した。


 ロメリック曰く、ここから先は道が整備されておらず、商人などを襲う盗賊達が現れるそうだ。その為に商人達のみならずブレーリン~シャリノア間では、護衛任務が多い。


 話をしながら歩いていると、森の中から数十人程の男達が現れた。正にそれっぽいヤツらだ。


(ゴミ盗賊、キタアァァァーッ…!!)


 俺が、あの人のモノマネを心の中でやっていると、盗賊達の顔色がサッと変わるのが見えた。


 …おっ?もしかして俺を知ってる盗賊か?…フフフ、結構盗賊退治をやったからな…。盗賊界ではもう俺の名を知らんヤツはいないのかもしれんな…。


 思わず、笑みを浮かべてしまう。


「…こッ、こいつはッ!!…なぜこんな所にいるッ!!」

「…フフフッ、恐れおののきたまえ、ゴミ諸君!!お前ら…俺に会ったのが運の尽きだったな!!」


 俺が得意になって言った瞬間、男達は震える声で叫んだ。


「…何でコイツがッ!!ロメリック・ディストレア!!復帰したのかッ!?」

「…マスターをしてたはずじゃなかったのか…!?」


 ………。


 …俺じゃなかった。…コイツらがビビってたのは俺にじゃなくてロメリックの方にだった…。


  なんか急に凄く恥ずかしくなってきた…。恥ずかしくなってもじもじしている俺の前で、静かにロメリックが話す。


「僕を知っているなら、すぐに逃げた方が良いね。今までのストレスも溜まってるから、ちょっと今の僕は危険だと思うよ?」


 沈黙する男達。ティーちゃんとシーちゃんは、静かに様子を窺っている。恥ずかしくなってもじもじしている俺…。

 

 …リーちゃんは…寝てたw


「…チッ、元Sランク迅速のロメリックか…引退したヤツが何でまたこんな所にいやがる…」


 頭らしき男が言いつつ、仲間を展開させる。静かに、そして爽やかにロメリックが言い放った。


「君達が話せなくなる前に、一応、名前を聞いておこうか?」

「ほう、余裕だな…」


 俺も、恥ずかしくてもじもじしてる場合じゃない。目の前に二十人程度、レーダーマップで森の中を確認すると…うーむ、五十人くらいかな…結構多いな…。


 俺が周辺を確認していると、頭が名乗りを上げた。


「…ルドラ・ナシゴルトだ!!後悔するのはオマエの方だよ、若造ッ!!」

「…人を見た目で判断しない方が良いね…」


 静かにロメリックが背中から槍を取り、構える。俺は二人にひそひそを飛ばした。


≪ティーちゃん、森に隠れているヤツがいるからそっちの殲滅お願い≫

≪うむ、既に気付いておる。大丈夫じゃ…≫

≪シーちゃんと俺は、ナシゴレンの取り巻きを掃除ね。ロメリックの初動で俺達も行くよ!!≫


 

 沈黙が流れる。そして―。

 


「夢幻流星流槍術ッ、参るッ!!」


 言うが早いか、あっという間に、ロメリックの槍がナシゴレンの取り巻きを突き倒していく。


「…あっ、それは俺達の獲物っ…」


 踏み込みが早く、槍を繰り出すスピードが普通じゃない。速いとかいうレベルを越している。更に槍の長さを活かし、前進しつつ、突き、薙ぎ、槍を軸にして体術で蹴りを放つなど多彩な攻撃を見せる。


 香港映画みたいだなw神速を使う俺がいうのも何だけど、この星の人間であるロメリックがここまで速いのには驚きを隠せない。

 

 そして何とか流槍術…だっけ?フィルさんの流派かな…?無双してるよ…相手はゴミだけどあっという間にナシゴレン以外のヤツは倒れていた。


「…やるな。さすが元Sか…。だが召喚者の俺には勝つ事はまぁ無理だがな!!」


 薄笑いを浮かべながら、そう言い放つナシゴレンにロメリックが静かに返す。


「…そうかな?確かに、僕の突きを何回か躱したね。でもそれだけでは君が勝つという結果にはならないと思うよ?…最後にどっちが立っているか…楽しみだね…」


 俺はロメリックの言葉を聞いて、焦っていた。さっきザコを倒したのは見た。けど、その最中にナシゴレンにも攻撃してたのか…。


 …さっぱり見えんかったんですけど…。俺はすぐに龍眼を発動した。


 俺達が見ている前で、ロメリックが高速の移動と連続の突きでナシゴレンに接近する。この距離とスピードなら、ヤツは完全にハチの巣になるな…。


 そう思っていた俺の目に驚くべき光景が写った。射程範囲内の高速連続刺突がナシゴレンの身体を通過したのだ。


 …これは…どういう事だ?


 何度もロメリックの槍が刺し貫いても、ナシゴレンの肉体は無傷だった。これはオモシロスキル持ってる可能性があるな…。


 俺はナシゴレンの観察を始めた。



 ロメリックがナシゴレンの取り巻きを、あっという間に倒してしまったので、俺とシーちゃんは後ろで二人の戦いを観戦する事になった。


「うーっ…」


 俺の足下でシーちゃんが、両足で地面をパタパタと踏み踏みしている。戦いたそうだったがもう既にザコは全員倒れてしまってるので俺達が出来る事はない。

 

 俺は再び二人の戦いに視線を戻す。


 見ているとロメリックの速い動きと槍捌きは、ナシゴレンの急所を正確に刺し貫いているはずなのに、何故かダメージを与える事が出来ていない。


 逆にロメリックは、ナシゴレンに技と技の繋ぎ目を見極められて、その隙を突いて攻撃されていた。何とか、剣撃を槍で捌いている感じだ…。


 ナシゴレンが持っている武器は…。あれなんて言うんだっけ?細い曲刀…。暫く戦いを眺めていた俺はようやく思い出した。


 あれはシャムシールだ!!砂漠に居住する戦士達が使っているヤツだったかな…。…だぶん、よう知らんけどw


 俺が二人の戦いを見ている間に、シーちゃんがそこらに転がった盗賊達をごそごそ調べていた。

そして俺の傍に走り寄ってくる。


「アンソニー、何か変でしゅ!!」

「…ん?変って俺が…?」

「ううんっ、違うでしゅ!!アイツの服でしゅっ!!」

「…服?服がどうかしたの…?」

「見てくだしゃい。コイツら盗賊はこの国の服装でしゅ。でもロメリックと戦ってるアイツは服が違うでしゅ!!」


 ビシッと指摘されて気付いたが、確かに転がってる盗賊はこの地域というか王国によくいる盗賊の服だ。しかし、ナシゴレンは砂漠民の様な装備で、この王国のものと違う。そして持っている武器はシャムシールだ。


 俺はティーちゃんにアイツを鑑定してもらう為に振り返った。…あ、森の中のゴミ掃除頼んでたんだった…。ティーちゃんは風の精霊、シルフィアを召還していた。


 今回も、森を荒らすことなく遠距離まで魔法攻撃を飛ばす事が出来るシルフィアが、まるで巡航ミサイルを飛ばすかのように、回転する風の槍をどんどん飛ばしていた。


 仕方ない。余りティーちゃんばかり頼ってても、一人で戦闘になった時に困るかもしれない。今回は俺が確認するか。…スキルだけ…。


 ロメリックの邪魔にならない様に、離れた位置から少しづつ少しづつ近づいて『スキル泥棒』の範囲に入った所でナシゴレンを『龍眼』で観察した。

 

 ん?あれ?ヤツが霞んで見える…。目の錯覚かな…。普通に戻すとちゃんとヤツの身体が見えた。


 俺は、再び龍眼に切り替える。やっぱり霞んで見える。よく観察しているとナシゴレンの攻撃のタイミングだけ実体が濃くなっている。


 それを見た俺は、なんとなくだが解かった気がした。龍眼の時に、霞んで見えるのが恐らくヤツのスキルが発動している時だな。


 ヤツの自信はあのスキルがあってだろう。相手からの攻撃を全く受けない自信。しかもかなりの戦い慣れをしている感じがした。動きが盗賊の動きのそれと全く違う。


 シーちゃんの、ナシゴレンとゴミ盗賊の服が違うという指摘、独特の武器シャムシール。コイツは盗賊じゃないな…。ヤツはこの王国の人間ではないのか…?


 そんな事を考えていると、ゴミ掃除を終えたティーちゃんが俺の傍に立つ。


「どうじゃ?もう終わったかのぅ…?」

「いや、それがロメリックの攻撃が当たってないんだよ…」

「ふーむ、あの速さの攻撃でもダメージが入らんのか…?」


 そう言うと、ティーちゃんはナシゴレンの観察を始めた。


「ふむ、見えたぞ!!」


 ティーちゃんから俺の脳内にログが送られてきた。『朧』というスキルのようだ。スキル泥棒の方でも確認出来た。これだな、アイツが攻撃を受け付けない理由は。スキルの説明文を読んでみる。


 『朧』自らの肉体と着用している装備を粒子レベルで分解、再構成できるスキル。スキル発動後、再構成八十%で攻撃が可能。


 説明文はこれだけだ。人物伝にも一応、目を通すか…。


 ルドラ・ナシゴルト。三十三歳。西欧出身の軍人。暗殺部隊に所属。殺人を愉しむ特殊性癖で、要人の暗殺の際、じわじわ甚振(いたぶ)って殺すのが趣味。


 あるミッションで部下の失態により、要人の暗殺に失敗、射殺される寸前に召喚エネルギーの波に引っ掛り、この世界に飛ばされた。

 

 召喚位置がズレて教皇領ではなく、砂の王国に降り立つ。以降、砂の王国に所属し工作員として周辺国に潜んで殺人を愉しんでいる。


 スキル、『朧』は黄色スキルだ。今まで見た中では初めての黄色スキルだな。そしてもう一つ、緑色スキル『体術』があった。


 …かなり危険で最低最悪の召喚者だな…。


≪ティーちゃん、砂の王国ってどこにあるの?≫

≪砂の王国はこの国の最南端にある大きな河を超えた南側にあるんじゃ≫

≪ふーん、何でそんなとこに飛ばされたヤツがこんなスキル持ってんだろ?≫


 俺はしばし、考えに耽る。ロメリックはコイツのスキルに気付いてるのかな…。超高速で攻撃を繰り出すロメリック。


 しかし技の繋ぎ目を見切られ。逆に攻撃を喰らっていた。

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