ご招待。
ギルドを後にした俺達はブレーリンの街を見て周る。
ブレーリンには学術施設が多い。大学の学生や施設の研究員なども多く住んでいるので、その為、大きな書店もいくつかあった。
俺達は宿屋に戻る前に書店に寄る事にした。ギルドを出た所で、この街で一番大きな書店へと向かう。
レンガ造りで、四階建て。新宿の紀〇国屋くらいの売り場面積かな…。この世界でこの規模の書店があるのは驚きだ。かなり大きい。俺はこの世界について、そして各国についての情報がわかる様な本があれば良いなと思っていた。
二体ともそれぞれ、好きな本を探しにどこかに行ってしまった。リーちゃんに、二人が迷子にならない様に頼んで、俺も店員さんに歴史書のコーナーを教えて貰った。
かなり種類が豊富だ。あまり細かいのより、ざっくり程度でこの世界についてわかる本を一冊、手に取った。こういう世界だから各国についての情勢についての本はなかった。
まぁ各国が争う殺伐とした世界だから、そんな他国の情報がホイホイ解かる様な本がある訳ないよな。色々と自分の足で確かめて行くしかないな…。
そんな事を考えていたら、二人が本を持って来た。ティーちゃんは『高等錬金術への誘い』という本。シーちゃんは『世界の猛獣大図鑑』なる本を手に持っていた。取り敢えずカウンターに行って、俺のを含めてその三冊を購入した。
宿屋に戻り、部屋で買ってきた本を読む。せっかくテラスがあるから、俺はそこに出てレトロなベンチに座って本を読む。昼下がりの穏やかな日差しと、心地良い風が最高だ。
ベッドでゴロゴロと寝転んで本を読んでいた二人も、気付けばテラスに出て来てビーチチェアに寝そべりながら本を読んでいた。
ただ、二人は小さいのでチェアの真ん中でハンモック状態になって寝ているような感じになっていたけど…。部屋の中を見ると、リーちゃんがベッドの枕の上で涎垂らして寝てた…。
◇
本を読みながら待っていると、宿屋の従業員が、『ディストレア家の使いの方が来ております』と伝えに来てくれた。
もうそんな時間か…。俺達は軽く身支度をして階下に降りた。
カウンターのダンディさんに少し出掛けてくる旨を伝える。扉を開けて外に出ると豪華な馬車が留まっていた。その傍にかなりの老齢と思われる、しかし背筋が綺麗に伸びている執事がいた。馬車へ乗る様に案内されたが…。
この馬車…貴族の乗るような超豪華な外装なんだけど…。俺が戸惑ってると、後ろから早く乗れと言わんばかりに、ティーちゃんとシーちゃんにお尻を押された。ロメリックって…ギルドマスターだよな?何でこんな豪華な馬車持ってるんだろう…?
疑問に思いつつ、馬車に揺られること数分。到着したディストレア家の館を見て俺は驚きで呆気にとられた。
中世をテーマにした洋画とかでよく見る大きな貴族の洋館だ。しかも門からスロープのように傾斜の付いたロータリーの様な円形の道まである。その真ん中は花壇になっていた。
玄関前で馬車から下りる。御者をしてくれた先程の老齢の執事が、館の中に案内してくれた。館の中には階上から円を描く様に階段がある。洋画で見る館そのものだな…。ロメリックって金持ちなのか…?
「ようこそ、お待ちしておりました…。…ささ、こちらの部屋へどうぞ…」
ロメリックに案内されたのは、やはり洋画などで見る光景だ。大きな部屋の中に長方形の長ーい豪奢なテーブルがあり、デザイン性の高い背もたれのある椅子が幾つも両側に並んでいる。
地球の現代日本の一般家庭で育った俺には初めての光景でカラダが固まってしまった…。
見るとテーブルの上には、既に前菜料理が用意されている…。席に案内されて俺は座った。実は俺はこの手の食事のマナーを良く知らない。
案内された席に着く前に、二人が挨拶を始めた。
「この度は、夕食に御招き頂き、ありがとうなのじゃ」
「お招き、ありがとうでしゅ」
スモックの服の端を摘まんで、軽く礼をしてる。それから座らせてもらっていた。俺は慌てて立ち上がり、んんっ、と咳払いをしてから挨拶をした。
「…こ、この度は、お招き頂き、ありがたきで恐縮で御座いまする…」
ヤベぇ、テンパっておかしな挨拶になってしまった…。焦る俺にロメリックは優しく笑いながら言う。
「まぁ、堅苦しいのは無しです。座って下さい」
と言われた。うちのちびっこの方が良く知ってて、おっさん逆に恥ずかしくなっちゃったよ…。
◇
食事をしながら盗賊退治と盗賊の頭、ウスバの捕縛についてロメリックから聞かれた。そしてベルファでの禅爺との戦闘試験、そしてカイザーセンチピード退治の話…。
「…聞いているだけでもかなりのスキルをお持ちですね」
「ええ、それなりですが持っていますよ」
「相手のスキルを無効化出来るスキルもお持ちですよね?」
「え、えぇ、持っていますね…」
「ホワイトさんは器用な方ですね。スキルが多いと色々と混乱しそうですが…」
「そうですね、時々混乱してますよ。普通はそんなもんですよ」
そう言いつつ、話を続ける。
「ただスキルは結構持ってますが、過信しないようにはしています。そうなると意外な落とし穴に嵌ることがありますからね…」
「ええ、そうですね、おっしゃる通りです。自分のスキルを過信すると命取りになりかねないですよ。相手をよく観察し、自分のスキルと照らし合わせて対処する事が大事です」
ロメリックの言葉に俺も同意する。
「うんうん、仕事も同じですからね。仕事の内容をよく見て、段取りを組んでからでないと意外な苦戦を強いられますからね」
「ええ、正にその通りです!!」
この若者とは気が合いそうだ。人からの信頼という点ではかなり負けるが、一部考え方が近い気がする。次は逆に俺がロメリックに話を聞いた。
「その若さでSランクだったなら、ギルドマスターじゃなくてもいいのでは?王国正規軍の指揮官とか騎士団を率いてもおかしくない気がするけど…」
その点についての事情をロメリックが話してくれた。
両親が不運な馬車の事故で急逝したのでロメリックは急遽この街に戻らざるを得なくなった。その事はギルド前で聞いたな…。しかしこの後の話に驚いた。
どうやら両親は貴族籍で爵位を持った、ここら一帯の領主だったそうだ…。元々、貴族籍だったのか…。
当時、PTに所属していたロメリックは王都から出身地であるこのブレーリンに呼び戻されて、遺産整理を始めた。
両親は自由な気風で、ロメリックがハンターとして活動する事に反対しなかったそうだ。しかし、その為に領地経営などの知識を得る機会が全くなかった。ロメリックが王都から引き上げる際に王に呼び出されて直接話をしたそうだ。
ロメリックの実力を知っていた王は、勉強しながらの領地経営を勧めたが、自信が無いと断ったそうだ。そして貴族籍を返し、領地経営は信頼出来る貴族の方にお任せしたいと願い出た。
そして遺産として館だけ残して貰い、後任の領主が決まるまで、領地は一時、王に返納した。現在はテンダー卿という貴族が、後任としてこの一帯と街の領地経営をしているそうだ。
それでこんなデカい館に住んでる訳ね…。納得しましたwついでに話に出て来たPTの事が気になったので聞いてみた。
「師匠と同じPTにいましてね…」
「…ふむふむ、師匠ですか…」
ロメリックの才能を引き出した、となると相当の人物だな…。
「ホワイトさんが助けに入ったグレン・ブレイクスというリーダーが率いているPTにいますよ」
ん?俺が助けに入った?グレンという名前が出て来たので思わず話の途中で聞いてしまった。
「…師匠って…誰…?」
「…フィル・ランバートというエルフなんですが…」
「…ああっ!!あの人か…!!」
「そうです、その人です(笑)!!」
「うん、動体視力と言うか、目がかなり良いエルフの人でしょ?」
「そうです。目が細くて釣り目で…エルフには珍しい短髪で…」
話していてふと気が付いたけど、フィルさんが目の前のロメリックの師匠となるとあの人…と言うかエルフだけど相当強いよな…多分…。交易馬車の襲撃の時、慌てて俺が横槍入れちゃったけど…。必要なかったかもな…。
そこの辺りを聞いてみた。どうやら元々は、グレンさん、エルンさん、ルーシュさんの三人PTだったようだ…。
友人同士でどちらもSランクを保持していたフィルさんとボルドさん(ドワーフ)の二人が、たまたま共同依頼を受けていたAランクの三人を見て、戦い方やPTのバランスが悪いと感じたようだ。
元々、ブレーリンで現役のハンターとして戦闘指南をしていた二人は、これも何かの縁だろうとグレンさん達三人をサポートしつつ、PTでの戦い方を教えていく。
その内、なし崩し的に五人はPTを組むことになり、そこにフィルさんの弟子であったロメリックに実戦経験を積ませる為に最終的に六人PTになったようだ。
「…グレンさんは、色々な意味でアツい人でして…。後で交易馬車襲撃の経緯を伝書報告で見たんですが、あの時もグレンさんが隊列から突出してしまっていた様です…。慌てて師匠とボルドさんが追いかけましたが囲まれてしまっていた所に、ホワイトさん達が助けに入ったので結果、良かったと思いますよ」
その話を聞いて、余計な横槍入れたと思っていた俺はほっとした。
話が盛り上がる中、チラッと二人、というか三人を見ると、マナーを守りつつも出てくる料理を片っ端からもしゃもしゃと平らげてた…。
夕食も終わり、玄関前まで見送ってくれるロメリック。馬車で宿屋まで送ってくれると言うのでその言葉に甘える事にした。
何故なら、三体とも食べ過ぎて、まったりモードに入っていたからですw
◇
ディストレア家での夕食会の後、宿屋に戻り一泊した。
ここの宿屋には大き目の風呂が付いているので快適だった。ベッドもふかふかで、今度来たらまた泊まりたいところだ。
翌朝。午前、六の刻。宿屋で出発の準備を終えた俺達は、カウンターで部屋の鍵を返す。ついでにとても快適だったので、と少し多めのチップをダンディさんに渡しておいた。
「それは良う御座いました。またのご利用お待ちしています。旅も無事でありますよう願っておりますよ」
「ありがとうございます。従業員の皆さんにもよろしくです」
そう言って俺達は宿屋を後にした。
ブレーリンの南門に到着。衛兵に挨拶をして許可証を返す。ここからシャリノアまでは長い道のりになるようなので、少しだけ早めに出発する事にした。
しかし、許可証を返した所で衛兵さんに止められてしまった。
俺達が許可証を返して南門から出ようとした所、衛兵の人達に止められてしまった。
「ホワイトさんですね?すみませんが少々、お待ち頂けますか?」
うーん、急いでるって程じゃないけど…。何だろう?
仕方ないので待つ事にした。
その間、立って待たせるのもなんだからと、駐在所の中で衛兵がソファに座るよう勧めてくれた。ついでにうちのちびっこの為に、お茶やお菓子を出してくれる。
衛兵のリーダーが言うには、この街の領主であるテンダー卿が貴殿が街を去る際に連絡を、という事でしたので、と理由を明かしてくれた。
…ん?なんで領主さんが俺を止めるんだ?この世界では貴族に知り合いはいないんだけど…。
お菓子を摘まみながら待っていると、駐在所の前に馬に乗った件のテンダー卿が現れた。「…足止めして申し訳ない…」
そう言いつつ、領主兼、市長のテンダー卿は急いで馬から降りる。精悍な顔つきで筋肉質な領主的イメージとはちょっと違う人物だ。そしてその後ろに、ロメリックがいた。
何でロメリックがw?わざわざ見送りに来てくれたのかな…?
「おはようございます。退去される前に支援について話そうかと思いまして…その事については義兄であるテンダー卿からお話します」
…だそうだ。領主で市長の貴族がロメリックの義兄?どういう事だ…?