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諸々の事情。

 俺は絡んできたチンピラPTを瞬殺した後、ギルド職員にマスターを呼んで来て貰った。出て来たのは金髪碧眼の若い男だった。


 マスターが口を開く前に、俺はチンピラPTについて聞いた。


「コイツらみたいなカスが何でギルドに所属してんの?野放しになってた理由を聞きたいんだけど?」


 ギルドマスターは端正な顔を歪める。


「…貴方はホワイトさんですね?まずは今回の事について謝罪します…」


 そう言って頭を下げるマスター。

 

「…コイツらを止めて下さって感謝します。そして先程の質問に答えましょう。ギルドの職員、冒険者やハンター。それと街の皆さんにも、今まで大変御迷惑をお掛けしました。皆さんにも聞いて頂きたいのです…」


 周りのギャラリーにも頭を下げていくマスター。


「全ては僕の責任です…」


 そう言ってマスターは話し始めた。



 若きギルドマスター『ロメリック・ディストレア』は、このブレーリンの街の戦闘員養成訓練所の出身だそうだ。目の前で黒焦げで転がっているコイツらもそうらしい。


 ロメリックには槍を扱う才能があり、師にも恵まれてた為、十代後半でSランクにまでなった。両親が馬車の事故により急死した為、急遽所属していたPT (パーティ)から抜けざるを得なくなった。


 街に戻ってきたロメリック。そんな折、ブレーリンの冒険者ギルドのマスターが高齢で引退するという事になり、マスターはちょうど街に戻ってきたロメリックを後任に推す。


 幼少の頃からのロメリックの人と成りを知っていたマスターは、是非にとギルド本部、各支部からの推薦も取り付けた。王宮からの承認もあり、ロメリックは若くしてギルドマスターとなった。


 この一件だけを見ると、このロメリックと言う若者が如何に他の冒険者やハンター、各支部のマスターから信頼があるかが分かる。


 そんな時、現れたのがコイツらだった。コイツら四人は各地のギルドで悪さをしていたようだ。懲罰対象になる寸前で、ロメリックがギルドマスターになった事を聞くや、ブレーリンに戻ってくる。

 

 ロメリックに対する嫉妬や、自分達の保身でコイツらは事件を起こしたようだ。


 ロメリックには妹がいた。錬金術屋で見習いとして働いていた妹が、帰宅途中に突然気絶させられ呪いを刻印されたようだ。

 

 犯人は目の前の黒焦げになってるカス共。

 

 通りかかった人が路地で倒れている妹を発見し、治療院に運ぶ。その後、無事に館に帰宅したが、ロメリックは治療院の回復士から、呪いの刻印の事を聞かされる。


 既に両親は他界、ロメリックと妹は二人だけの家族になっていた。程なくして、その妹に呪いを刻印し、命を盾にした男達が現れ、強請(ゆす)りを始めた…。


 妹の命と引き換えの、自分達の保身とランクと金の保証…。コイツらにとっては、ロメリックのギルドマスター就任は渡りに船だっただろう。妹の命は、コイツらカスに握られていた…。


 一旦息を吐く、ロメリック。


 コイツらが他のPT(パーティ)や冒険者、ハンターに手を出し、悪さをしてもロメリックは懲罰を課すどころか、黙っているしかなかった。


 市民からの苦情にも、曖昧に対応するしかなかった。そんなロメリックに悪い噂が飛び交う様になった。マスターに就任した途端に変わった、金に目が眩んでしまった、と。


 事情の知らなかったギャラリーから、同情の声が聞こえる。俺も何も言えなかった。俺達や他の冒険者、ハンター、そして民衆に深々と何度も頭を下げるロメリック。


「…大変、皆さんには嫌な思いをさせてきました…。…本当に申し訳ない…。そして、事情を知っていても、僕を信頼してくれた冒険者や、ハンター、ギルド職員にお礼を言います。ありがとう…」


 頭を下げたまま、ロメリックの肩が震えていた。民衆からは慰めの言葉や、誤解していた、と逆に謝る者もいた。この若者の誠実さと人徳が伺える。そんな中、冒険者、ハンター達が集まってきた。


「…ロメリック、謝って泣いてる場合じゃないだろ?妹の刻印を何とかしないとだよ!!」


 しかし傍に居た、年季の入った魔導師が言う。


「コイツらの『呪縛』は、その刻印された期間が長ければ長い程、解呪は難しくなる。コイツらを殺したとしても、即、呪いが自動発動するんだ。だからロメリックは助けようがなかったんだろ?どうするんだ?無理に刻印を解こうとすれば死んでしまうぞ…?」


 魔導師の言葉に、皆がお通夜のようにだんまりになってしまった。俺は、んんっ!!と咳払いをしてから話をする。


「…大丈夫。その心配はないかな」

「どうしてそう言い切れる!?」


 喰って掛かる魔導師を両手で制止しつつ、俺は話を続けた。


「それは俺が『スキルを無効化するスキル』を持っているからです。コイツらが俺に絡んできた時に、コイツら全員のスキルを確認しました。で、先程のイザコザの最中に『呪縛』は俺が完全に無効化しています。だから刻印は消えているはずです…」


 俺はさっき、抽出した『呪縛』を確認した時に、まずは自分に掛けられている刻印・2を削除してみた。『呪縛』が発動する事は無く、刻印は消えた。


 自分が大丈夫な事を確認してから、点灯していた刻印・1の部分も削除した。『呪縛』の効果自体を解除しようと思ったが解除の項目が無かったので、仕方なくスキル自体の削除を選択すると先に刻印を削除して下さいとインフォが流れた。


 削除で、きれいさっぱり消えてくれたので、おそらくロメリックの妹の刻印も消えているだろう。


「マスター、わたしが確認して来ます」


 ギルド職員の一人が、ロメリックの館に確認に行くようだ。


「…ありがとう、ホワイトさん。なんとお礼を言ったらいいか…本当に…」


 涙で顔を上げられないマスターの肩をポンポンと叩く。


「俺は汚いゴミを掃除しただけですよ」


 そう言いつつ肩を貸して、ギルドの中へと連れて行く。冒険者やハンター、街の人達も一様に良かった良かったと安堵していた。


 俺はその瞬間、何故か背中に悪寒を感じた…。異様な熱視線を感じたので、その方向を思わず、チラッと見てしまった…。


 俺を見るネリアの瞳が潤んでた…。


「…あぁ、やっぱり凄い…カラダもう溶けちゃう…」


 …どうでも良いけどこのミーハー、早く熱冷ましてくれよな…。俺は足早にギルドへと入って行った。


 

 ロメリックの妹に掛けられた刻印は無事、消えたようだ。『呪縛』が刻印されていたのは約三週間で、後遺症など特に影響はないそうだ。


 今は街の治療院で検査と治療を受けている。


 冒険者やハンター達、そしてギルド職員達が気を使い、早く帰るように言うものの、ロメリックは仕事を続けます、と言って俺と二体(三体)をギルドマスターの部屋へと案内してくれた。

 

 俺とちびっこ二人に、お菓子とお茶を用意してくれた。

 

「…お恥ずかしい所をお見せしました…」

「いやいや、もういいから頭を上げて…」

「助けて頂いて本当にありがとうございました。このまま不安と絶望の陰鬱な日々がいつまで続くのかと…。…いゃ、すみません、いつまでもうじうじしてしまいまして…」

「いや、良いんですよ。それで良いんです…。感情に素直で、それで良いと思いますよ。俺も若い頃はそんな感じでしたからね」

「そうですか…そう言って頂けると気持ちが軽くなります…」


 …なんか暗いし硬いな…。もうちょっと砕けた感じで良いんだけど…。まぁ、さっきまでがアレだったからすぐには切り換えられないだろうけど…。

 

 そんなことを考えていると、ロメリックが話しを始めた。


「少し、よろしいですか?」

「えぇ、何でしょう?」

「最近になってホワイトさんの噂を聞いておりましてね。今日のお礼を兼ねまして今夜、家の館で夕食などどうでしょうか?妹は暫く治療院で静養させるのでいないのですが、お子様も一緒に…どうでしょう?色々とお話を聞きたいのです」


 そう言われると断れないよね…。この街に滞在する予定はなかったんだけど…チラッと二人を見るとお菓子食べながらこっち見てた…。

 

 …行きたいのね…はいはい…。


 最近二人の表情で言わんとしてることが分かるようになってきた…。取り敢えず、ご招待をお受けしますよ、と言っておいた。


 俺の返事にうんうんと満足そうなロメリック。ここからは、これから俺達が向かうシャリノアの水質調査についての話になった。



 ここ最近になって、ブレーリン周辺でも他国の工作員が増えたと言う。恐らく今回の突然の水質汚染も何かあると踏んでいるようだ。俺もそれについては考えていた。


「今回の水質調査は最重要と考えております。シャリノアはこの王国の六十%以上に当たる食料を生産しています。事と次第によっては王国の食糧事情を左右しかねない案件になりますからね…」


 ロメリックが水質調査と王国内の食糧生産との関連についての事項を説明してくれる。


「更に、この街にも水を引いています。住民や、旅行者、交易商人や冒険者やハンターなどに健康被害が出ると、依頼などにも影響しますし、飲食が安全でなければ、街から人が離れていくでしょうから王国の経済にも大ダメージになります…」


 うんうんと頷きつつ俺は話を聞く。


「最近は、こういった調査依頼を受ける事の出来る冒険者やハンターもいないですからね。上位ランクの者は今、国境防衛に出動してますので…」

「…えぇ、その辺りの話は俺もベルファの禅さんから聞いてますよ」

「…ですからフリーの方でも、依頼を受けて下さると助かるのです。ブレーリンのギルド支部としても、ホワイトさん達を最大限、支援いたしますので…」


 そう言った後、仕事が終わったらロメリックが宿屋に使いを出してくれるというので、泊まっている宿屋の場所を伝えておいた。


 夕食まで街を散策してから、宿屋に戻る事を伝えて俺達はギルドを後にした。

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