山のどうぶつ達。
いつもの様に仕事から帰って来た俺は、手洗いうがいをしてから玄関の下駄箱の上に置いてあるシーちゃんの絵日記に目を通した。
今日は何をしてたのかな…。
今日も午前中は、草むしりなどをしたようだ。しばくすると、いつもうちの庭に集まる動物達と一緒に、畑を荒らすイノシシ親子なども集まって来た。
今回は害獣と呼ばれている動物たちを含め、色々と指導をしたらしい…。
…指導って何をw?
何故かそこに普段見かけない鳥達も数羽、参加していたようだ。
…なんでw?
俺はページを捲る。シーちゃんがクレヨンと色鉛筆で描いた絵と共に、文章が付いていた。
山の奥で餌がなくなってきた動物達が、比較的近いこの集落に下りてきていたようだ。餌を求め、この近所の畑を荒らし周っていた動物達が、山の動物ネットワークを使って家に集まってきた。
猫がイタチや狸に話し、更にイタチや狸が、イノシシやハクビシン、猿や鳥などに話を拡散させたらしい。この家に来ると、安定的に美味しい餌が貰えると…。
動物版の口コミだな…。
…ちょっと待て。これだと俺の家が動物ランドになっちゃうんじゃねーかw?
俺は更にページを捲る。
どうやら、いつも庭の雑草をむしっていたのには理由があったようだ。野草やキノコ、ドングリなどの木の実を粉砕して混ぜて、動物別に餌を作っていた。
妖精が作る特別な餌。
そして三体が何故、動物達を集めていたのかも解かった。動物達が持つ不思議な力を借りる為だ。
この山の周辺にある、少ない魔力を効率よく集める為に、山にあるエネルギーポイントを探させていたのだ。この辺りだと今の所、七つ程ポイントがあるらしい。
その魔力溜まりのポイントと家を繋いで、より強力で広い魔力フィールドを形成させるつもりのようだ。特別な餌と交換条件でポイントを探させるついでに、この辺りの畑を荒らさない様に説得したらしい。
餌がなくなれば、またこの家に集まる様に指示もしているようだ。
…ただ動物集めて遊んでただけじゃなかったのね…。
◇
お昼を食べて午後からまったりしていると、トメ婆が来たようだ。手提げの袋いっぱいにお菓子を詰めて持って来てくれた。
「…子供達や、おるかのぅ?」
トメ婆の声に、すぐに三体が玄関を開ける。
「ばぁちゃん、こんにちはでしゅ」
「こんにちは、じゃ。ばぁちゃん、今日はどうしたんかのぅ?」
「ホホホッ、この前、言うたじゃろう?お菓子、持って来てやったでな」
袋いっぱいのお菓子を見て喜ぶ二体(三体)。
「おおっ、ばぁちゃん。こんなにいっぱいくれるんか?」
「わぁぁっ、お菓子でしゅ!!お菓子でしゅ!!」
ちびっこ二人が、トメ婆をキッチンに案内する。その直前に『ひそひそ(密談)』を使って、ティーちゃんがリーちゃんにお茶を用意させた。
「ばぁちゃん、お茶でも飲んでいってくれんかのぅ?」
「そうでしゅ、飲んでいくでしゅ」
その言葉に、うんうんと頷いて、トメ婆は二人のちびっこに着いて行く。テーブルの上には、既にお茶が用意されていた。
「ばぁちゃん、すまんのぅ。こんなにいっぱい貰うて…」
お茶を飲みながら、話す。
「いいんじゃ、いいんじゃ。婆も一人でな、お菓子好きじゃからいつも買い過ぎるんじゃ」
「色々あるでしゅね~。この黒いのは何でしゅか?」
四角い、少し歯ごたえのあるお菓子を齧りながら、シーちゃんがお婆に聞く。
「ホホホッ、それはようかんじゃ、ちと甘いでな。お茶と一緒に食べるんじゃ」
「ほほぅ、わたしも頂いてみるかのぅ」
そう言いつつ、ティーちゃんはようかんを齧り、お茶をズズズっと飲む。
「おおおっ、これは良いのぅ。甘くて歯ごたえがあってお茶との相性も最高じゃ」
「ホホっ、そうかそうか。気に入って貰うて何よりじゃ」
その後、お饅頭、おかき、柿の種、黒豆せんべい、揚げせんべいと、今まで食べた事のないお菓子を、頬張る二人。
お婆は、ちびっこ達が喜んでお菓子を食べているのを見て、にこにこしていた。そんな中、キッチンの隅っこの陰で、リーちゃんが大きなおかきを必死に齧っていた…。
絵日記に目を通した後、キッチンに入る。お婆はもう帰っていた。見るとテーブルいっぱいにお菓子が並んでいる。
「ただいま。お菓子、いっぱい貰ったんだねぇ」
「おかえり。トメばぁちゃんがわざわざ持って来てくれてのぅ」
「おかり。いっぱい貰ったんでしゅ」
「うんうん、良かったね」
そう言って俺は買い物袋から、チョコチップクッキーの箱を取り出して、おやつ棚に入れる。
「ん?アンソニーよ。それは何じゃ?」
ティーちゃんが目聡く見ていた。
「これはチョコチップクッキーだよ…?今日のおやつに買ってきたんだけど…それだけあれば今日はもういいでしょ?」
「チョコは別腹じゃ!!」
そう言われたので仕方なく、俺は一枚だけね。と言って箱を開けて、チョコチップクッキーを一枚づつ配った。
「おおっ、これはクッキーに小さいチョコが入っとるんじゃの」
もしゃもしゃと頬張るちびっこ達。
「美味しいでしゅねぇ…」
俺も棚から、裂きイカを取り出す。冷蔵庫からサワーの五百缶を出し、パカッと開けてストローを刺す。するといきなり突っ込まれた。
「…アンソニーよ、まだ午後三の刻半じゃろ…?」
「…お酒はまだダメな時間でしゅ…」
「えええ~っ、いいじゃんっ。仕事して帰ってきてんだからこれくらい許してよ…」
チョコチップクッキーを齧りながら、ちびっこ達が無言で小さな手を差し出して来た…。
…はいはい…。
仕方なく俺は、棚からもう一個づつチョコチップクッキーを取り出して配る。…賄賂を渡して何とか、俺も好物にありつけたw
サワーをストローでチューチュー飲みながら、今日買ってきた物を二人に見せる。
「そろそろ朝も熱くなってくる季節だから、これ買っといたよ」
そう言って俺は、小さな麦わら帽子を二つ、買い物袋から取り出す。
「帽子かの?」
「うん、お外に出て作業する時はこれを被るんよ?」
俺は二人に麦わら帽子を渡す。
「おー、ちょうど良いでしゅ」
「そうじゃの、ぴったりじゃ」
「ぴったりサイズで良かったよ。明日から、暑い日はそれを被ってお庭に出てよ?」
俺の言葉に、麦わら帽子を被ったままうんうんと頷く二人。キッチンの隅っこでは、まだリーちゃんが必死におかきを齧っていた…。