相殺(吸収)と粉砕と破壊。
仕方ない、説明するか…。俺はアイテムボックスから『龍神弓』を取り出した。
「…それはッ!!…お主、弓使いだったのか…?」
「そうです、俺が主に使うメイン武器がコレです。タガーは接近戦用のサブの武器なんですよ」
「ふぅむ…」
唸る禅爺。
「…では、順を追って説明します。今回、普通に戦っても全く歯が立ちませんでした」
弓を腰の後ろ掛けて、タガーを三本見せる。
「このタガーは、どれも特殊な効果が付いています。しかし、センチピードを攻撃しても効果は、完全に打ち消されました。それは、うちのちびっこ二人の魔法も同じです。うちの子が鑑定を持っているんですが、それで特殊甲殻の効果に気付いたんです。だから俺は戦闘方法を変えたんですよ。ところで…禅さんは闘気を持ってますよね?」
「うむ、持っておるが、それがどうしたのじゃ?」
「実は、俺も特殊な闘気を持っています」
「…お主も、闘気を持っておるのか?」
「…ええ、持ってます」
俺は白金色の闘気を出して見せる。
「…ワシ以外に闘気を具現化出来るヤツがおるとはな…何というヤツじゃ。…ワシは何十年と掛かって闘気を会得したというに、こうも簡単に見せてくれるとはな…」
これは自動で付いてきたものだから、何とも答えられない。その言葉をスルーして説明を続ける。
「…禅さんとの戦闘で気付いた事を、あの時思い出したんですよ。闘気は基本、属性も効果も持っていない」
そして俺は、再び弓を持って見せる。
「俺の闘気が特殊なのはコレです…」
鉄の矢に、闘気を纏わせて見せる。
「…おおッ!!、こッ、これはッ…!!闘気を変形させる事が出来るのかッ!!」
「途中、アイちゃんが攻撃に加わり、三人で牽制攻撃をしてもらう間に、この様に闘気を鉄の矢に纏わせました。まずは闘気の矢を先に弓スキルで射出し甲殻の節の部分を削り亀裂を入れて…」
俺は鉄の矢を見せつつ話を続ける。
「次に、時間差で鉄の矢を討ち出して、その亀裂を拡大させたんです。そこを更に、闘気の矢が削って最終的に貫通し、粉砕しました。その後は、甲殻の特殊効果が薄くなった所を、うちの子らが完全に破壊した、と言う事です」
「…うぅむ、闘気を応用し、粉砕したのか…。弓使いには訓練所は狭い。その上、接近されると弓は扱いにくい。だから、この前は弓を出さなかった訳じゃな?」
「はい、そう言う事です」
「そうか、良い良い、納得したわ…」
いや、こっちも納得してくれて良かったわ…。
「もう一つ、お主に確認したい事がある」
…ええっ!!まだあんのかよっ!!さっきの攻撃の説明で既にもう疲れたんだけど…。
「お主が地球からの召喚者である事は、アイリスから聞いて知っておる。しかし、それとは別にどこを拠点にしてスラティゴや、ベルファに来ておるのだ?確認したいのはそこじゃ…」
一旦、呼吸おいてから話を続ける禅爺。
「危険度の高い『妖精の森』からお主らが出てくる所を数回、確認した者がおる。…これはどう説明する?」
この質問で、俺達が尾行、監視されている可能性は高いな…。俺は慎重に答える。世界樹の事とかは言えないからな。まぁ言ったところで信じてはくれないだろうけど…。
「基本的にはスラティゴを拠点としています」
「何故じゃ?お主の事はスラティゴのマスターから聞いておるが、数日に一度くらいしか現れないと聞いたぞ?」
「ああ、それはですね…。俺は、西の大陸で交易をやってまして…」
こういう時の為に、何度かスラティゴから出る交易船に乗せて貰った事がある。実際に、西の大陸までは行ってないけどね…。
「…で、時々スラティゴに風呂に入りに戻って来たり、森に入って探索したりしているんです。まだ、この東大陸には来て間もないので、危険な森だという事は知らなかったんですよ。恐らくその時、森から出てくる俺達を見たんだと思いますよ?」
「…うぅむ」
唸ったまま無言の禅爺。
「…まぁ、良いじゃろう。お主があの森を出入りできる実力がある事は分かった…。ところでお主、今の話を聞いただけでも、かなりの数のスキルを持っておるな?」
「ええ、そうですね。複数持っています」
この事については、誤魔化せないだろう。なんせグレンさん達にもう見られているからな…。そしてあの人達から盗賊ウスバの時の戦闘の話を聞いていると言っていたからな…。
そんな事を考えていると、禅爺が俺に聞いてきた。
「お主、この王国のギルドに所属する気は無いのか?」
そう言われても、俺には神様からの依頼があるからなぁ…。出来ればフリーで動きたい所なんだよね…。
「…今はこの世界で生きて行く為に、交易の仕事やその他の仕事も色々と模索中なんですよ。なので今の所は、その気はありません」
俺ははっきり断っておいた。更に続けて、質問を受けた。
「お主、この街に入る時の身分証明台帳の職業欄が交易ではなく、『調理人』となっておるが…」
その最もな突っ込みに応える。
「…ああ、交易は商人と言える程、まだやってないんですよ。駆け出しって所です。こっちの大陸に来てどう生計を立てるか考えている所ですからね。ちなみに『調理人』と言うのは、地球でやっていた仕事なんですよ」
「料理人ではなくて何故、『調理人』なのじゃ?」
「…それはですね、スーパーの魚コーナーで、魚捌いたり、お刺身作ったり、鮨ネタ作ってたからです」
そう答えた瞬間、禅爺の目が鋭く光った。
「…ほぅ、刺身に鮨ネタか…。ちと話はズレるんじゃが、ワシは和食と日本酒が好きでのぅ。実はアイリスに聞いたんじゃが、お主も酒好きの様じゃのぅ?」
「…え、えぇ、まぁ、程々にですが…」
「うむ、実は少し先の話になるんじゃが…」
と言って、禅爺が話を始めた。
何でも、ベルファの市長のお屋敷で近々、晩餐会があるそうだ。どうやらそこで、俺に刺身と鮨を作って欲しいそうだ…。
「晩餐会に料理人の方は、いないんですか?」
「いない事はないんじゃが、色々な料理があった方が良いと思うてな…。勿論、刺身や鮨を作ってくれた後は、自由に酒を呑んでもらっても良い。市長の知り合いの貴族や、商人が来るだけの大きな晩餐会ではない。じゃから遠慮はいらんぞ?良い酒は飲めるし、子供達も連れて来て良い。どうじゃ…?」
…どうじゃ?って言われても、ここまで言われると断りづらいわ…。こういう格式高そうなパーリィ、おっさん苦手なんだけど…。
…まぁ、いいか。取り敢えず俺は、その招待を受ける事にした。
「事前に予定の日を教えて頂けると助かります。西大陸で仕事してる日だと、すぐにはこっちに戻って来れませんからね…」
「…うむ。分かっておる。では後日、スラティゴに伝書を送るからの?お主も予定を空けといてくれ。良いな?」
「ええ、分かりました。では当日に、スラティゴから食材を持ってお伺いしますよ」
そう言うと、禅爺は厳つい顔を笑顔にして、うんうんと頷く。この爺さんはマジで和食とかが好きみたいだな。喰いつきが半端ないw
しかし、貴族や商人が来るのか…。王国の事情を聴いているだけに、余り取り込まれないようにしないとな。活動しづらくなっても困るし。
最後に禅爺から、一枚の伝書を渡された。伝書は王国ギルド本部から、となっている。俺が伝書の内容を読む前に、禅爺が説明してくれた。
「今回のカイザーセンチピード退治の依頼達成とその功により、お主を『S』ランク相当と認め、フリーでの活動を許可する。と言う内容じゃ…」
そして、一枚のカードを渡された。
「ギルド本部より、公式の冒険者・ハンターカードの交付じゃ。これがあるとフリーでも、ギルドの恩恵は受ける事が出来るぞ?」
見ると、カードに俺の名前があり、その下に大きく、『S』の記載があった…。
…別に、ランクはいらないんだが…。結局なんやかんやで王国ギルドに片足突っ込む羽目になってしまったな…。
禅爺と話を終えた俺はギルドを後にして三体と合流した。さて、晩餐会用の食材調達ついでにこの世界を周ってみるか…。
料理屋でお昼を食べつつ、俺はこの世界の海鮮食材について妖精族三体に聞いた後、今後どう動くかを相談した。
これでカイザーセンチピード編は終わりです。次回は番外編を挟んでキメラモンスター編を始めます。どうぞ、よろしくです~。




