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お説教。

 ベルファ西門で、いつもの様に列に並ぶ。朝から、交易商人やら旅人やらが並んでいて賑やかだ。俺達の番になったので、衛兵に挨拶。そして、いつもの様に、名前と職業、滞在理由と滞在期間を記入して許可証を貰ってから街に入っていく。


 商店で、手土産の饅頭を買っておく。街は区画整理されていて分かりやすいので真直ぐ、ハンターギルドへ向かった。

 

 ギルド前に到着。俺は深呼吸すると元気よくドアを開けた。


「おはようさんでーす!!」


 と挨拶してから入る。俺を見るなり冒険者やハンター達が寄ってきた。


「オイ!!兄さん、アンタやるな!!」とか、

「先生に負けて逃げたのに、巨大センチピードなんか、よく倒せたな、どうやったか教えてくれよ?」とか、

「アンタ面白いな、うちのPT(パーティ)に入らないか」とか、とにかくなんやかんや歓迎された。


 俺は、最初にここに来た時の皆の反応との違いに戸惑った。


「…ぁあ。今日は爺さ…いや、禅師先生に謝りに来たので、その話とかはまたの機会に…」


 と言って、受付の方に向かう。俺を見るなり、アマリアさんと受付のお姉さん達が興奮したように立ち上がった。


「ホワイトさんっ、大丈夫だったんですね…」

「…ええ、なんとかね。アイリスって言うAランクの魔女っ子も来てくれて、何とか倒せましたよ」


 その言葉に、


「ん?」と、皆の顔が?になったが、


「…とにかく、ご無事でよかったです!!」


 と言われた。


「ご心配、ありがとうございます。今日はマスターに用があってですね…」


 と、そこまで言うと、お姉さんの一人が呼びに行ってくれた。


 今日は、三人も一緒に来ていたが、コレも最初の時の反応とは違い、ティーちゃんもシーちゃんも冒険者やハンターに囲まれていた。


「ちびっこなのに凄いらしいな?」


 とか、言われて満更でもないようだ。特に男女問わず、魔導師はやたらとティーちゃんに話を聞きたがっている。


 シーちゃんは格闘系の人達から、お菓子を貰いながら戦闘の話をしていた。

俺は許可が出るまで、アマリアさんとお話しをする。


「あの二人も凄いんですね、退治の伝書が届いた時は驚きましたよ」


 興奮気味に話す、アマリアさん。


「とにかくフリーの方は実力が読めませんからね…。相手によっては戦闘が嚙み合わなくて依頼失敗とか、返り討ちで死亡、とか良くありますから…」


 そうなのか…。結構、フリーで動いてる人っているんだな…。アマリアさんの話を聞いていると、禅爺がしつこく俺と闘おうとした理由もなんとなくわかる気がした。


 実力の見極めを出来るだけして事故を防ぐ、と言うのもあったのかもな…。ホント、ちゃんと謝っとかないとだよな…。


 アマリアさんと話していると、禅爺の部屋に伝達に行った受付のお姉さんが戻ってきた。


「ホワイトさん、マスターが呼んでいますので上がって下さい」


 俺は、アマリアさん達に、ティーちゃんとシーちゃん、二人を見ててもらえますか、とお願いする。お姉さんの一人が、カウンターのドアを開けて二人を呼ぶ。


「お話はまたの機会じゃの」

「またでしゅ~」


 といって、テテテッと二人ともカウンターの中に入って行く。ハンターや冒険者達も、


「またな~」

「またね~」


 と言って自分達の仕事へと戻っていった。


 それを見てから、俺はギルドの真ん中の通路を抜けて訓練所に入る。左側にある階段を上り、ギルドマスターである禅爺の部屋のドアをノックした。


「うむ、入れ!!」


 その声に、ドアを開けて、


「おはようございます!!」


 と、元気よく挨拶をしてから、土産の饅頭を渡す。そして、


「…先日は済みませんでした…」


 と、謝りを入れた。



 うーん…、

『針のむしろ』とか、『居たたまれない』というのは、こう言う事なんだろうなと俺は思った…。


 いや、まずは俺の勝手なイメージがそうさせている部分もあるけど…。格闘家とか武道家は竹を割ったような性格で、サバサバしている。というイメージだった…。


 しかし…、この禅師と言う爺さん、まさかの説教ネチネチ系だったよ…。


「お前はどうしてあそこで逃げたんじゃ」とか、

「期待しておったのに」とか、

「すぐに逃げるようではこの先が…」とか、とにかく、ネチネチネチネチネチネチネチネチネチネチ…、ニ〇動で流れる、コメントみたいに説教が流れてくる。


 とにかく俺は、


「はい、済みませんでした…」

「はい、おっしゃる通りです…」

「今後はこのような事はしません…」


 と、ひたすら謝りを入れるしかなかった…。


 そして二十分程、この拷問のような時間が続いた。…こりゃ、アイちゃんが行きたがらなかった理由が分かったわ…。これなら本部に直接戻って素直にごめんなさいっ、て言った方が良かったかもしれんな…。


 勿論、俺もアイちゃんも悪い事をしたから説教されても仕方ないんだけど…。アイちゃんには悪い事したなと少し反省した。今度会ったら謝っとこう。そして次からは人を勝手なイメージで判断するのはやめよう…。そう思った…。


 苦痛の時間程、長く感じるものはない。俺はこの時間の中で、『説教耐性スキル』があったらいいなと切に思った…。



 (ようや)く説教が終わった後、今度は俺達の能力について聞かれた。センチピード退治に関して、禅爺は一応アイちゃんから軽く報告を聞いるようだ。


 しかし、その中で幾つか気になる事があるらしい…。一体何を聞かれる事やら…。俺は不安で胃が痛くなってきた…。


やっと説教が終わった後、今度は俺達の能力の事について色々聞かれた。センチピード退治に関しては、多少、アイちゃんから報告を聞いるようだ。

 

 しかし、その中で幾つか気になる事があるらしい…。

 

「…アイリスが森の中で使った、火炎魔法の事なんじゃが…」


 まず、禅爺が気になったのは、アイちゃんが森の中でぶっ放した、フレイムバレットの件だ。


 『フレイムバレット』は、火炎系魔法の中では、初級の魔法で普通はソフトボール大だとか。しかし、アイちゃんは転生者で基礎魔力が高く、バスケットボール大になる。


 …その大きさだとバレット、と言うより砲弾に近い気もするけど…。

 

 それをどうやって打ち消したのか、が知りたいようだ。しかし、その話を聞いて、ふと疑念が浮かんだ。アイちゃんが、自分で禅爺にその話をしたとは思えない。森の中で火炎魔法を使っちゃった…。とは言えないだろう。

 

 説教されるのが分かっていたなら、尚の事だ。


 あの時、周りに人はいなかったはず。

 いや、レーダーマップには黄色い光点はあったが、敵対意志のないモンスターだろうと、俺は特に気にしていなかった。

 それは森の中で、ハンターや冒険者、PTなどに、今まで一度も会った事がないからだ。


 (…何故、禅爺が、その件を知っているのか…。)


 俺はどこまで話すべきか考えた。

 ティーちゃんの精霊魔法についてだ。疑念はあるが何者かに尾行、監視されていたなら、そこについては知っていると見て良いのかな…。


 まぁ、知られて困るという事はないだろうけど…。既に、グレンさん達も見ているしな。今後の活動に及ぼす影響を考えると、判断に迷う所だ。


 暫く沈黙する俺を、禅爺がじっと見る。考えた末に、俺はどうとでも取れる答えを出した。


「…魔法です。魔法で相殺しました。」


 正確に言うと、相殺ではないんだけど。曖昧な感じに答えておく。炎の精霊イフリートスが吸収した、と言うのが本当の所だ。


「…ふむ、魔法で相殺、か…。それはお主がやったのか…?」

「いえ、俺は魔法は全く使えません。それが出来るのは、うちのちびっこです。」

「あの小さい子供がか?」

「…そうですね、それを出来る魔法を持っています」

「…ふむ、確かにあの二人から膨大な魔力を感じたのぅ…。」

「…しかしお主、さっき魔法は全く使えん、と言うたが、訓練所で戦った時に、強風や電撃を起こしていたじゃろう?そこはどう説明するんじゃ?」


 最な疑問に、俺は右手の籠手を見せる。


「これは精霊の力の宿った籠手です。この籠手に、風雷の精霊の力を宿した

スキルが付いているんです。」

「…ただ、威力は限定的で一定以上は出ません。

俺が最大奥義と称して使ったのは、二つの力が組み合ったスキルですが、

アレも派手なだけで、威力としてはやはり一定以上は出ないんですよ。」

「…勿論、スキル別で威力の差はあります。ゴミ盗賊には良く効きますけどね…」


 その答えに、フムフムと禅爺は納得したようだ。


「もう一つ、お主に確認したい事がある」


 そう言いつつ禅爺が、センチピードの甲殻の破片を幾つか保管箱から出して見せる。


「これはアイリスがギルドに売りに持ち込んだ、センチピードの甲殻じゃ。これには特殊な効果が付いておる…。宮廷の最高魔導師で鑑定師でもあるサエク様に緊急伝書で問うた所、先の特殊効果が付いている、という答えが返ってきた…」


 禅爺が鋭い目つきで俺を見る。


「そして逆に問われたのじゃ。この甲殻をどうやってここまで破壊したか、とな…。この甲殻にはマジックキャンセル効果が付いておる。…ワシが知る限りでは、アイリスはおろか、お主らの力をもってしても、ここまで破壊、粉砕する事は難しいとワシは考えておったが…お主らはそれを可能にする能力を持っている、という事じゃな?」


 俺は、破片の一つを見る。これは最後に、シーちゃんがセンチピードの頭部にトドメを刺して破壊した時のものだ。


「…勿論、今後の戦闘に支障をきたす程、能力の説明をしろとは言わん。それは他の冒険者やハンターも同じじゃからのぅ。しかし、この甲殻の破壊と粉砕の跡は尋常ではない。キャンセル効果が付いている上に、そこらのSランクのヤツでも手に余る硬度を持つこの甲殻を、どうやってここまで粉砕したか…じゃ…」


 俺は話すべきか、迷った。アーチャーがアーチャーだと知れてしまうと、俺は致命的だと思っているからだ。特にこういう世界では、だ。


 だからこの世界では、ゲームの中の様に、弓も矢筒も腰にぶら下げて歩いていない。迷い、考える俺に禅爺が忠告、と言うか警告をする。


「…余りに秘密が多すぎると王国から脅威と見なされるぞ?そうなると行動制限を受ける事になる」


 そこまで言われると、脅迫に近いものがあるな…。しかし、活動に制限が掛かると動きにくくなるだろうな…。…仕方ない、説明するか…。


 俺はアイテムボックスにしまっている龍神弓を取り出して見せた。

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