急展開。
使用人希望で募集のあったラニエの面接を終えた翌日、俺はフラム、クレアと共に東鳳の商工会にいた。リベルトから連絡があり、ヒスイ城内から米が売りに出されたとの事で朝食後、すぐに来た。
かなり城内から米を出しているようで結構な量だ。
「…全部、買い取らせて貰います。少々、値段が張ってもこちらのお米は西洋でかなり好評なんですよ」
取引担当者に適当な事を言いつつ、出されていた米を全て買い取った。続けて西洋酒の買い取りをしたいと言われたので今回も大量に市場に酒を流して貰った。
商工会を後にした俺達は城下街の大きい茶屋に入り今後について話をする。
「今回、ホワイトさんに来て頂いたのはもう一つ、確認して貰いたい事がありまして…」
俺とリベルトは冷えた緑茶を飲みつつ話をする。隣ではクレアがフラムと共に冷たいお茶と良く冷えた白玉団子を食べていた。
「ヒスイ城内の米の残量を確認して来て欲しいのです。兵糧の残量によって開戦のタイミングが決まりますので…」
「…解った。この後すぐに確認に行ってくるよ」
城内の米の残量の確認もする為に連絡して来たようだ。隠れて城内に潜入出来るのは俺しかいないからだ。
今回の作戦では短期決戦を考えているので、城内の米を買いまくっているのは兵糧攻めの為ではない。東鳳再統一後に全土に米が行き渡る様にする為なのだが実はこれは後付けの理由だ。
何か策を出せと言われた時に思い付いて実行しているものの、短期決戦なので米を買い取る事に余り意味はない。
しかしリベルトから統一後の事を考えてヒスイ城内から米を出させた方が良いとの提案があった。
俺はその提案に乗ったんだが…。
…潜入する今になって気づいた。ヒスイ城包囲後に俺が乗り込んで根こそぎ兵糧をアイテムボックスに放り込めばいいんじゃねーかと…。
その話をした所、リベルトからそれはダメだと止められた。
包囲後はアマルを連れて城内に入り、キヒダを追い詰めなくてはならない。俺が別行動をしていると作戦に支障が出るので開戦前に買い取って向こうから出すように仕向けた方が良いと言われた。
俺は潜入する為にすぐにヒスイ城に向かった。
『大気光象』と『サイレントウォーク』を併用し、気配を消す。城内に出入りする商人に紛れてヒスイ城に潜入した。
前回、潜入した時に城の大体の構造と建物の配置は確認している。俺はすぐに兵糧を保管してある建屋に向かった。
見張りの衛兵をスルーして『すり抜け』を使って中に入る。
建屋の中の広さに対し、米俵はまだ三分の一ほど残っている。出来ればコレも出来る限り出させたい所だ。
…値を上げて買い取り、どんどん吐き出させるか…。
そんな事を考えていると突然、衛兵が入って来ると俺に襲い掛かって来た。
◇
衛兵が繰り出してくる槍をすぐに避ける。大気光象は隠れる事が出来るが攻撃をしても受けてもスキルが解除されてしまう。
倉庫内は狭い。避け続けるのも限界がある。潜入しているのがバレる前に何とかしないと…。
俺はすり抜けを併用して攻撃を避けると『パラライズボルト』を衛兵に喰らわせて気絶させた。その直後、衛兵から半透明の男が抜け出て来た。
コイツはっ…!?
前回、ヒスイ城に侵入した時に天守閣で会ったやつだ。半透明の坊主頭のチンピラが俺に襲い掛かって来た。
≪…キサマ、なぜここに来る…?≫
…念波か?頭の中に直接、話し掛けているようだ。
≪お前こそここで何してる?キヒダに憑りついて何をしてるんだ?≫
俺の問い掛けに無言のまま攻撃してくる坊主頭。俺は先程と同じ手法でスキルを併用し、姿が完全に見えないように立ち回る。
その瞬間、俺の脳内にインフォが流れて身体が光を放った。
≪合成新スキル『サイレントディスアピア』を獲得しました≫
大気光象、サイレントウォーク、すり抜けを併用する事で新スキルが合成されたようだ。
『サイレントディスアピア』自分が解除しない限り周囲から気配を消して隠れたまま攻撃、防御が出来る。赤色スキル。
俺はスキルを維持しつつ、反撃に入る。衛兵に憑りついていた坊主頭は槍を捨てて自らの武器を手にしていた。俺はタガーで坊主頭のアーミーナイフと打ち合う。チンピラの喧嘩殺法をタガーで簡単に弾いていく。
≪…俺のジャマをするな。殺すぞ!!≫
≪…そんな事言われてもねぇ。お前の攻撃、かすりもしてねーけどw?≫
アーミーナイフを余裕で跳ね返しているとチンピラ坊主頭が武器をドスに持ち替えた。瞬間、分身した坊主頭が分身して八方から俺に襲い掛かる。
俺はすぐに攻撃を最適化し、『ストームラッシュ』で対抗した。全てのドスによる攻撃を弾き返す。
≪…そもそもお前はここで何してんだ?キヒダに憑りついて東鳳をどうしたいんだ?≫
≪…どうするか?この国の事などどうでもいい。俺はオンナを犯し、殺す。ただそれだけだ。それが俺を満たす手段…≫
…オイオイ、コイツかなりアブねーヤツじゃねーか!!
東鳳の混乱の原因は鬼哭だが、その鬼哭が不在の間にたまたまここに来てキヒダに憑りついて快楽殺人やってるって事か?
東鳳はどうでも良いが快楽殺人のジャマをするなと言う事か。どっちにしろ危険なヤツに変わりはない。ここで決着を付けとくか…。
その時、突然俺の脳内にログが流れた。
新納 無尽。幼少の頃より喧嘩に明け暮れ必要以上に相手を痛めつけ少年院に送られる。そこでも暴れ続け、ついに少年院内で人を殺す。
その後、刑務所に送られ、女性刑務官を犯し殺した事でサイコキラーとして覚醒した。
俺は新納の攻撃を弾きつつ振り返った。そこに実体化していないティーちゃんとシーちゃん、リーちゃんがいた。
妖精達からの連絡で東鳳での作戦に支障をきたしそうだという事で来てくれたようだ。
その瞬間、新納がティーちゃんを狙って突進する。しかしすぐにシーちゃんが飛び出してサマーソルトキックで吹っ飛ばした。俺は追撃する為に新納に接近する。
闘気ハンドで吹っ飛んだ新納を掴み上げ、パラライズボルトを喰らわせようとした瞬間、またもや消えた。俺すぐに振り返ってリーちゃんを呼んだ。
≪…リーちゃん、ヤツの追跡頼むっ!!≫
俺の頼みでしばらく亜空間、別次元帯などをリーちゃんが確認する。
≪…うーん、スキルの残滓も魔素も何も痕跡がないね~…追跡は無理かな~≫
≪…マジで!?リーちゃんが追跡出来ないって…≫
リーちゃんの能力を持ってしても、新納の追跡は出来ないのか…。
≪厄介なヤツでしゅね~≫
≪…そうじゃな。スキルは一つしか視えんかったがのぅ…。恐らくじゃがスキルがツリーになっておるんじゃろうな…≫
レーダーマップを確認して周囲の気配も探るが隠れている様子はなかった。
一応、キヒダに憑りついているかどうかを確認に行く。俺は隠れたまま、すぐに天守閣に転移してキヒダを確認する。相変わらず昼間っから香を焚いてにやけ面で裸のオンナ達と戯れていた。
ここにも新納の姿はなかった。
その後、ティーちゃん達を連れて茶屋で皆と合流する。そこにフィーちゃんも現れた。どうやら良く冷えた白玉団子が食べたかったようだ…。
◇
数日後、俺達はアマルを担ぎ上げてアマト軍と共にヒスイ城に向かって進軍していた。同時にヤマタとビジュウからもヒスイ城を目指して軍が進発している。
俺は妖刀『鬼椿』を片手に持っていた。数日前、館に戻った際、新納の事を話すと鬼哭は激怒した。
≪わたしがおらんうちに憑りつくとは許せんヤツじゃ!!≫
鬼哭はそう言っていたが、キヒダに憑りついて東鳳を混乱させた張本人のお前も許せんけどな…。
俺は怒りの鬼哭を連れて東鳳に入った。ヒスイ城から売りに出された米をすべて買い取った後、俺達は作戦を決行した。
途中、タイソ側でも『草』の情報があったのだろう。一軍を出してきたが三部族連合軍が軽く撃破した。
これでヒスイ城内の兵力は半減した。
この迎撃戦ではエイムが提案した大量に城に西洋酒を売り込むと言うのが功を奏したようだ。しばらくの間、戦闘もなく油断していたヒスイ城内の兵士は酒におぼれて慢心、訓練不足と士気低下を招いた。
簡単にタイソ軍を蹴散らした連合軍はあっという間に城を囲んだ。
連合軍本陣には、俺とリベルト、クレアの他に、ティーちゃん、シーちゃん、フィーちゃん、リーちゃんとフラムが待機している。フラムを連れてくるつもりはなかったが皆がこっちに来るので一緒に連れて来たのだ。
フラムの護衛はティーちゃんとフィーちゃんに任せて俺とアマル、アマルの護衛をするエイム、クレアとシーちゃんと共にマルチプルゲートでヒスイ城の天守に乗り込んだ。
シーちゃんを連れて来たのは無属性魔法で妖しい御香の効果を完全に消して貰う為だ。乗り込んだ直後、シーちゃんが無属性魔法で御香を完全に消し去る。
焚いていた御香が消えた事により正気に戻ったキヒダとオンナ達が驚き混乱した。
「…貴様らッ!!何者かッ!?者共であえッ!!」
オンナ達はパニックを起こし散り散りに下の階へと逃げていく。代りに上がって来た近衛兵達をクレアが軽くのしていく。
「…弱いヤツらを倒してもつまらんがコレも仕事だからな…」
そう言いつつ階下から殺到してくる近衛兵を片っ端からぶっ飛ばしている。
「…きっ、貴様らッ!!ここがどこか解っておるのかッ!?」
「…えぇ、解っておりますとも。久しいですな、キヒダ殿…」
そう言いつつエイムの後ろから姿を現すアマル。
「…ぉっ、お前はッ…ぁ、アマルッ!!なぜお前がここにッ…!?」
「何故かと?東鳳の歪みを正し、おかしな政治を行う者を糺す為に来たのだ…」
「こ、このワシをッ…たっ、糺すだとッ!?アマダが死んだ後、逃げた腰抜けがよくもそのような事をッ…!!」
「えぇ、だから戻ってきたのですよ。わたしはもう逃げない。兄上と椿の仇もあるが何より、東鳳の為に貴殿の無道を放っておく事は出来ない…」
アマルの厳しい言葉に、全身を震わせて後退りを始めるキヒダ。逃げようとしているのだろう。しかし階下への階段はクレアが抑えている。
そして俺とアマルを護衛するエイムがいる。近衛兵は上がってくる事が出来ず、キヒダは完全に孤立していた。そのキヒダが俺の持っている『鬼椿』に気付いた。
「…き、鬼哭よッ!!戻って来い!!今一度、ワシに力を貸すのだッ!!」
≪…そんな弱小霊の力など必要はない。お前は俺の入れ物だからな…≫
その瞬間、刀から飛び出した鬼哭が動きを止めた。
≪…お前かッ!!わたしの人形を勝手に使っておるのはッ!!≫
激昂する鬼哭の目の前で素粒子が集まる様に人の形を作っていく。
…やっぱり出てきやがったか新納…。
「…ほぅ、あれがホワイトさんがおっしゃっていた霊体ですか」
「あぁ、そうだ。神出鬼没のヤツだからな?警戒してくれ…」
警戒する俺達の前でいきなり鬼哭が突っ込んで行く。
≪生意気なヤツめ!!わたしが取り込んでやるわッ!!≫
叫びつつ突っ込んで行った鬼哭だったが、アーキンドー一家の件で俺に弱体化させられているのを忘れたのか簡単に新納に捕まってしまった…。
≪…こっ、こらッ!!放せッ、放さんかッ!!≫
新納は無表情のまま、叫びつつ藻掻く鬼哭にガブリと噛み付いた。そしてそのまま丸呑みにしてしまった。
≪口程にもない弱小霊が…さほどの力にもならんな…≫
そう呟きつつ、状況が解らないままのキヒダに憑依する新納。しかし、突如として新納の内部から黒い粒子が一気に拡散した。
≪…ぐっ、こっ、これは…≫
≪アハハハッ!!わたしは古代より存在する悪霊、お前のような新米幽霊とは格が違うのだ!!≫
叫びつつ新納を浸食していく鬼哭。しかし新納はギリギリで再び消えて逃げた。そして鬼哭がキヒダに憑依した。
「ワハハハッ!!これだ!!この鬼哭の力があればワシは無敵なのだ!!お前らアマル共々ここで殺してくれるわ!!」
鬼哭の黒いエネルギーを放出しつつ、叫ぶキヒダ。しかし得意になって叫んだキヒダの足を実体化を解いたシーちゃんがガッと掴んでいた。
「そーはいかんでしゅよ!!」
いつもアクセス、ありがとうございます。次回で『東鳳編』は終わりです。
しかし東鳳編と言いながら主人公がほとんど東鳳にいないというww
次回以降、次の話をざっくり作るので二週間程飛びます~。
連日暑い上にタイフーンが来てるらしいので皆さんお気を付け下され。




