転移と異世界オリエンテーション。
リーちゃんの超長距離転移魔法によって、ワームホールを抜けた俺は突然、広い空間に放り出された。その下にあったのは魔法陣が描かれた台座に俺とうり二つのアバターだ。
そのアバターの中に俺のアストラル体がスッと入る。身体を動かして問題ない事を確認した俺は周辺を確認した。
転移して初めて降り立ったのは、妖精達が拠点とする『世界樹』の中の最下層、地下一階にある転移室だった。
世界樹は危険度の高い『妖精の森』の奥深くにある。妖精達は世界樹の中に都市を作り活動していた。
到着してからすぐ、俺は神様に会いに行く事になった。世界樹の最上階から天上の門へ上がり、そこから天界へと至るゾーンを抜ける。
天界へと到着した俺は如何にもな杖と如何にもな白装束、長いお髭と、もさもさ眉毛の神様に案内されて神殿内で話をする事になった。
神様がこの世界に俺を呼んだのは、依頼したい事があるからだそうだ。
この星でも、異世界召喚事件が頻発していた。その原因が謎の集団『神の使徒』と『エレボロス教皇領』が行う『召喚・転生の魔法儀式』だった。神様からの依頼はその召喚と転生によって増え過ぎた異能力者の排除、及びスキルの回収をして欲しいという事だった。
それを可能にするのが俺の固有スキル『スキル泥棒』だ。
俺がこの世界に呼ばれた最大の理由がそれだった。仕事で『他人の仕事を見て自分のモノにする』が、この世界で他人のスキルを盗み取るスキル『スキル泥棒』になった。
『スキル泥棒』のネーミングに関しては納得のいかない部分もあったが、俺のセンスを基にして付けられていると言われたので俺は何も言えなかった…。
◇
続いて神様からスキルの説明を受けた。
「まずは風の精霊の加護を受けていたので『瞬速』を付けておいた。お主は地球で龍神の加護が付いていたので、この世界でも加護が付くぞ。この世界にも龍神はおるからの」
続けて神様からの説明を聞く。
「お主が頭をぶつけた時に開眼した『幽幻視』が龍神の加護により『龍眼』になっておる。普段見えないものが視えるスキルじゃな。更にお主には『龍神闘気』も付いておる。闘気はオーラの一種じゃ。汎用性が高いので色々試してみるとよい」
「具体的にはどう使えば良いですか?」
「例えばゴースト系を普通に殴ってもダメじゃ。闘気を練ってイメージしろ。闘気の拳を纏って殴る、龍の爪をイメージして引き裂く、といった感じじゃ」
頷く俺の前で神様の説明が続く。
「補助スキルに『翻訳』を付けておいたぞ。言葉が通じないでは話にならんからな…」
「そうですね。言葉の壁はきついので助かります」
「主要なスキルとしてはこんな所じゃな。後は自分でよく確認しておいてくれ」
そう言われて補助スキルを確認すると『ひそひそ』という密談スキルがあった。その後、俺のステータスについて話を受けた。
「お主の脳のリミットが外れておる事は聞いておるな?」
「…ええ、どういう状態なのかいまいち分かりませんが」
「では簡単に説明する。リミットが外れているという事は、ステータスが完全に振り切れているという事じゃ。この世界でのお主の力、エネルギーはそこらの召喚者や転生者など比にもならん。じゃからこそ気を付けて欲しいんじゃ。加減をな。とにかく、お主がこの星を破壊するようなことだけは避けてくれ。分かったな?」
…まさかとは思ったが、そこまで言われると俺も心配になってきた…。
「…最後に、コレを持って行け」
そう言って神様から渡されたのは『天獄』と呼ばれる黒い小さな箱だった。
「お主の籠手にセット出来るようにしてある。どうしてもスキルが抜き取れない時に使うんじゃ」
「…解かりました。お借りします」
俺は『天獄』を籠手にセットする。
「この世界の為にも『神の使徒』『エレボロス教』を排除してくれ。…ホワイトよ。お主ならやってくれると信じておるからの…」
その言葉を受けて、俺は異世界に送り出された。
◇
神様からの説明の後、俺は『世界樹』から妖精の森へと出た。この森には世界樹から放出される強い『魔素』に影響を受ける為、巨大化した強力なモンスターしかいないそうです…。
それだけに、人間達が入り込めない危険な森になっていた。
俺は戦闘訓練を始める前に、諸々確認しておいた。
まず視界に各種ウィンドウが開く事を確認する。右上にレーダーマップを確認。頭の上にはアイテムボックスが開く。
レーダーマップは赤青黄色の光点で友好か敵対か中立かが分かる。赤は敵対、黄色はどちらでもない、青は友好的。
装備は遮光ゴーグル、タイトでハイネックな黄色のラインが入った黒いトラックジャケット。下はデニムカーゴ。黒に黄色いラインが入っているスニーカー。
武器はタガー三本と、右腕の『風雷の籠手』。メイン武器は、龍素材で作られた最高クラスの『龍神弓』だ。俺が持ってる中で、一番強い武器だな。
装備は全て、神様がゲームから情報をロードしたものだ。
次に俺は、戦闘スキルの確認をした。
まずはタガーのスキル。
『ストームラッシュ』タガー二刀による高速連撃だ。タガーのスキルはこの一つだけ…。
次に籠手のスキル。
『サンダークラップ』籠手から小電撃を出す。
『旋風掌』掌底から旋風を巻き起こすスキル。相手に当てると吹っ飛ばせる。
籠手もこの二つだけだった…。
最後にメイン武器の弓スキルだ。『トルネードアロー』魔姦光〇砲に形状がそっくりの対近接職用の強力なスキル。デメリットは溜め時間が長い事。
弓スキルもこの一つだけ…。ちなみに籠手から風雷のエネルギーを出せるので鉄の矢とは別に、エネルギーショットを出す事が出来る。
…俺は急に不安になってきた。
ゲームではもっとスキルがあったはずだ…。しかし、よくよく考えると今、確認したスキルは俺がゲーム内で頻繁に使っていたスキルだけだ。だから反映されているスキルが少ないのかもしれない…。
…仕方ない。これからスキルを増やしていくか…。
確認を終えた後、俺はストレッチを始めた。
「訓練の前にストレッチしてるんだよ。いきなり動いてグキッとか嫌だからw」
「そうでしゅね、準備運動は大切でしゅ」
「…うむ。ではその後に、森のモンスターと闘ってもらうからの」
「はーい」
俺は軽く返事をしつつ、ストレッチで身体を伸ばしていく。シーちゃんも隣で一緒にストレッチをしていた。その後、俺達はモンスターを探して森を歩いた。
暫くすると、ざっと体長五メートルはある超デカい真っ赤な蛇に遭遇した。
◇
世界樹の外へと出た俺達が妖精の森を歩いていると、真っ赤な巨大蛇に遭遇した。何でいきなりこんなヤツに会うんだよ…。アナコンダレベルだな…。
胴回りが太く蛇腹が見えてキモチワルイ。眼を煌々(こうこう)と光らせて獲物を探しているようだ。俺、下手したら噛み砕かれて呑み込まれるんじゃねーか…。
「おっ、早速良いヤツに当たったのぅ。アイツはレッドスネークじゃ。ほれっ、訓練開始じゃ!!『スキル泥棒』の練習も兼ねておるからの。巧く瀕死の状態で止めるんじゃ!!」
「ちょっと待って!!いきなりアレとヤルの?もう少し初心者向けのヤツっていないの…?」
「初心者向けってどんなヤツが良いんじゃ?」
「…えっ?そりゃあ、冒険の最初と言えばスライムでしょw?」
「アンソニーよ。『妖精の森』にそんなのいるわけないじゃろっ!!」
…いるわけないじゃろっ!!て言われてもなぁ…。普通は冒険の最初にあんなデカい蛇は出てこないからね…。
不満を見せる俺に、ティーちゃんが発破をかける。
「ほれほれっ、早く戦うんじゃ!!」
「早くやれって…いきなりコレはちょっと…」
「この森で言うと、こいつは超初心者向けじゃ!!」
…これが超初心者向け。マジで…w?
俺達が話していると、レッドスネークが俺達に気付いた。シャーッ!!と口を大きく広げて威嚇してくる。チラッと横を見ると、シーちゃんが、シュッシュッとシャドーでパンチしていた。
「シーよ。手を出してはいかんぞ?」
「うー、分かってましゅ。アンソニー早くいくでしゅよ!!」
…そんな事言われてもなぁ。あんなのに突っ込んでいくヤツなんて、ムツ〇ロウさんくらいしかいないぞ。…マジでどうしよう…。
俺はどう闘おうか必死に考えた。その時、ふと俺はある事を思い出した。
「あっ!そうだよ!!そういや俺、アーチャーだったわw別に接近しなくてもいいじゃん、アハハッ!!」
早速、俺はアイテムボックスから龍神弓を取り出した。しかし、矢を番えようとした瞬間に、ティーちゃんからダメ出しされた。
「アンソニーよ…いきなり弓で倒したら『スキル泥棒』の練習にならんじゃろ?まずはヤツを弱らせるんじゃ!!」
ああ、そうだ。戦闘ついでにスキル抜き取る訓練もするんだったな…。こりゃ想像以上に大変そうだな…。仕方なく俺は弓をアイテムボックスにしまう。そして腰にあるタガーを抜いた。