西洋酒と米。
ランディとの決着を付けた後、皆を王都に戻して俺とフラム、クレア、リベルトは館の玄関ホールに戻った。東鳳に行く前に、まずは応募のあった使用人の面接日を伝える為に商業ギルドに向かう事にした。
門の前で訓練をしている皆には商業ギルドに行く事とその後、東鳳にそのまま向かい、夕方には一度戻ってくると伝えてから出掛けた。
商業ギルドに向かう途中でリベルトと東鳳の相場について話を聞いた。
「西洋酒の反応はかなり良いですね。前回持ち込んだものはほぼ売れているようです」
「じぉあ、商業ギルドに行くついでに酒も仕入れていくか」
続いて米の方も反応が良かったようだ。
「相場より高い値段で買い取ってますからね。このままヒスイ城内の者達が動くまで買い続けましょう」
話しながら商業ギルトに到着。クレアとフラムには休憩スペースで待っても貰う。受付で応募のあった使用人について担当者と面接について話をする。
「面接は明日で、時間は午前十の刻。王都北区の商業街にあるオープンテラスのあるカフェで…」
面接の場所は王都北区にあるカフェで行う事にした。館にで来て貰っての面接ではなく、外での面接にしたのは理由がある。
いきなり貴族街に来て貰ってドン引きされた挙句、遠慮しますと言われてしまうと困るからだw使用人の応募が少ないうちにとっては貴重な人材だからね。
担当者から応募のあった使用人の詳細情報を確認させて貰う。二十代後半の女性、今までは医療関係で働いていたようだ。
「…ふむ。この世界で言う所の治療院?で働いてた人か…。使用人歴は特になし。なぜ今までの仕事を辞めて使用人を希望したのか…謎だなw?」
俺が呟きにリベルトが答える。
「何か事情があるのかもしれません。面接のときに確認してみてはどうですか?」
「そうだな、明日聞いてみるよ」
二人で話していると担当者から面接場所について提案があった。
「面接場所ならそこに専用スペースがありますので使って頂いても大丈夫ですよ?カフェだと騒がしいですし、面接は静かなスペースの方が良いかと」
そう言われたので日程はそのままで、場所をギルド内での面接専用スペースに切り換えて、改めてお願いしますと伝えた。
併せて日雇いで来てくれる料理人、庭師なども商業ギルドで頼んでみた所、既にスタイラーさんとカルダモンさんからその話は既に伝わっていたようだ。
今、手配をしてくれているらしい。
商業ギルドで使用人の面接の日と場所、料理人と庭師の事を伝えた俺達はその後、酒を仕入れる為にギルドの取引所に移動する。
まずはビール、サワー。続いてウィスキー、ブランデー、ワイン、ジン、各種リキュールなどを大量に買い込んでアイテムボックスに放り込んだ。
酒を買い付けると聞いていたクレアも隣で見つつ、ビール、サワー、ワインなどを見て個人用に買っている。
買っていると言っても金払うのは俺なんだが…。
フラムは興味がないから眠そうだ。クレアか酒を見ているので俺が抱っこしてるとそのうちお昼寝を始めてしまった。諸々の用事を済ませた俺達は商業ギルドから出るとすぐに東鳳に転移した。
◇
タイソ領内のヒスイ城の城下街に入る。商工会の前に着いた後、フラムをクレアに預けた。
俺とリベルトで商工会でお米とお酒の動きを見る間、街の雰囲気を気に入ったクレアにフラムを預けて城下街を散策して貰う。
ある程度のお金を渡してフラムの気に入ったものがあれば買ってやってくれと頼んだ。
俺とリベルトは商工会に入ると取引担当者のいるカウンターへ向かう。前回と同じ担当者だったので確認はスムーズだった。
まずは担当者からお酒、西洋酒についての動きを聞いた。
東鳳で西洋酒が流れるのは初めてではないが、なんせめったに出回らないらしく結構な高値が付いていた。前回、登録したものは早いうちから全て売り切れたようだ。
ワイン、ウィスキー、ブランデーを中心にジンのような蒸留酒なども人気がある。中でもウィスキー、ブランデー辺りはヒスイ城からも買い付けに来たらしい。
今回は稼ぐことが目的ではないので、洋酒の値段はそのままにして、改めて洋酒の登録をお願いする。
品切れを起こしていたので担当者は喜んでいた。城内からの催促が再三あったらしいw
俺はアイテムボックスから西洋酒をどんどん出して少し多めに取引所に預けた。
お米は前回、相場より高い値段で買ったのでそれを見た業者が改めて売りに出したようだ。今回も少し値段を上げて市場に登録してある米を全て買い取る事にした。
俺はお金を支払い、担当者に案内された場所へ向かう。山積みの買い取ったお米を全てアイテムボックスに放り込んでいく。
先程、アイテムボックスから洋酒を出した時に若干、驚いていた取引担当者も米の山をどんどん放り込んでいく俺にドン引きしていた…。
リベルトととも話したがお米に関してはヒスイ城内からの反応があるまでひたすら買い続けるつもりだ。担当者にお礼を言ってから一旦、商工会から出てクレアとフラムと合流した。
少し大きめの食堂のような店で昼食にする。
焼き飯?チャーハンっぽいメニューがあったのでそれを注文した。肉料理は少なかったが猪肉の煮込みや、猪肉ソテーがあったのでクレアはその辺りを注文している。
鶏肉の唐揚げの様なものもあったのでそれも注文してフラムに食べさせる。フラムには少し大きい唐揚げだったが半分づつ、もしゃもしゃと元気よく食べる。俺はフラムに焼き飯やら唐揚げを食べさせつつ、買い取った米の扱いについてリベルトに相談した。
「買い取ったお米はどうする?一旦、王国に持って帰ろうか?」
「アイテムボックスの空き状況はどうですか?」
「まだまだ空きはあるから買い取りは出来るよ?」
「では、しばらくホワイトさんが預かっていて下さい。この国から大量の米を外に持ち出すとアマル殿が再統一した後、食料が不足して困るかと…」
「あぁ、確かにそうだな。しばらく預かるのは良いけど、どのタイミングで市場に再流通させるのが良い?」
「まずは作戦決行日の前々日にヤマタ、アマト、ビジュウの進軍に必要な兵糧を三軍に支援として流しましょう。その後、食糧難の各地域に配るのが良いかと思います」
リベルトが続けて説明する。
「タイソにはアマル殿が再統一した後に残りの米を流すように手配しておきます」
「解った。じゃあ当面は俺が預かっておくよ」
俺達が話していると肉を喰いながらクレアが声を潜めて聞いて来た。
「…主ここは敵領の中ですぞ?そのような事をこんな所で話していては…」
クレアの心配も最もだが東鳳に入った時から妖精達の魔法で俺達の会話は周りの人間達には聞こえていない。
その辺りを説明すると納得していた。
「それはいらぬ心配でしたな(笑)!!」
そう言いつつガハハッと笑うクレア。聞こえてなくてもその笑い方は止めようねw?
フラムに焼き飯と唐揚げを食べさせた後、お茶を飲ませている間に俺も焼き飯を食べる。
その後、クレアとフラムにデザートの水羊羹を食べさせてから、各部族の様子を確認する為にまずはヤマタへと転移した。
◇
ヤマタの状況を確認している間、フラムを現地の子供達と遊ばせる。食糧事情も聞いておきたいが、まずはタイソ側との交戦状況だ。
前回、カエイの陣営に赴き、開戦まではお互いに消耗を避けるように約束を取り付けてある。話を聞くと約束はちゃんと履行されているようだ。その後、食糧事情を確認してからアマトへ飛んだ。
ヤマタと同じく、アマトの代官と話をする。アマルはここに顔を見せに来て以降はパラゴニアに戻っている。
暗殺されると困るからだ。状況については逐一、リベルトが連絡係として動いている。現在、アマトはタイソ側からかなり東に押し込まれているのものの、交戦はしていない。
北のヤマタ、南のビジュウから挟撃されるのを恐れてタイソがそれ以上、進軍出来ないからだ。ここでも食糧事情と開戦までに必要な物量を確認しておく。
その後、ビジュウへと飛んだ。
ビジュウでもヤマタと同じく交戦状況を確認してから、食糧事情について話を聞いた。こちらもヨウカが約束通り動き、お互いの消耗を抑えている。
食料についてはヤマタ、アマト、ビジュウも維持は出来るが進軍となるとかなり厳しいようだ。
今回の作戦については短期決戦での決着を想定している。それでも軍を動かすには兵糧が必要だ。
話を聞いて食料はこちらで支援する事を約束しておく。ちなみにレバロニアからの能力者は前回の戦闘以降は派遣されていないようだ。
まぁ、レバロニア王都で俺がだいぶ能力者を減らしたからな。警告もしておいたから向こうとしては戦略を見直す必要もある。
だから今は他国に介入してる暇はないだろう。
各地での戦況と食糧事情の確認を終えた俺達は一旦、ヒスイ城の城下街へと戻る。そこそこ大きな茶屋に入り、お茶を飲みつつ食料分配について話した。
リベルトは既に計算していたようだ。俺が持っている米の量を確認してから
まずは各軍に米の支援、その後に各領地へ直接、俺達が配給に行く事にした。
リベルトの考えとしては、各地の統治する者達に渡すものとは別に、こちらから直に民衆に行き渡る様にする様にした方が良いとの提言があった。
「上に立つ統治者が必ずしもその領民に食料が行き渡る様にするとは限らないですからね」
確かに現代日本でも被災地域に募金や物資を募ってもそこの末端まで届いていない事がある。どこの世界でも中抜きして手元に溜め込むヤツはいるからな…。
リベルトの言う通り俺達が直接、配っていった方が良いだろう。信用していない訳ではないがどこかの段階でそういうヤツが存在するのは確かにいるからね。
俺達は開戦前に、三軍とは別に各地域に米を配って周る事にした。次にヒスイ城内からの兵糧が売りに出された時が根こそぎ買い取るチャンスだ。
開戦のタイミングはリベルトに任せてあるので引き続き、東鳳で情報収集をして貰う。
俺とフラム、クレアは後をリベルトに任せて館に戻った。
◇
翌日、商業ギルドで唯一応募のあった使用人の面接をしていた。普通の…と言うか一般の王都民という感じの女性だ。
面接に来ているのは俺とフラム、クレア、ティーちゃんだ。シーちゃんとリーちゃんには妖精達と引き続きランディ対策及び悪意ある者が敷地内へ入れないようにシステムを構築して貰っている。
「…ラニエ・レリクルです。よろしくお願いします…」
そう言って頭を下げたのはセミロングの銀髪を後ろで束ねた細目で色白の中背の女性だ。俺は自己紹介をしつつ、クレア、ティーちゃん、フラムを紹介する。
その後、今までの職歴と応募の動機について確認する間、ティーちゃんに人物鑑定をして貰った。先日、ここで情報はある程度見たが応募した動機については解かっていない。そこを話して貰う。
「…今まで働いていた治療院が閉鎖する事になりまして…」
引き続き話を聞くと、どうやらそこの回復士は結構な老齢らしい。それで引退を決意したそうだ。それに伴って治療院で働いていた補助回復士、治療助手が新たに職探しをしなければならなくなった。
「何故、うちの使用人として応募されたのですか?」
「最近、王都でのホワイトさんのお話を聞きまして…治療院での給料より好条件と言うのも見ましたので…」
俺が募集に出した時の給料は王都内の使用人の平均給与より少し高いくらいだ。更に話を聞くと回復士の爺ちゃんと補助回復士のラニエさん、そして助手の三人だけの治療院だった為に一日の数を熟せていなかったらしい…。
治療する人の数が少ない→受け取る治療費も少ない→給料も少ない…と言った感じかな…?
ティーちゃんの人物鑑定と本人が話している事にズレはなく嘘は言っていない。治療人員としてもいてくれると助かる。俺は皆と密談で話してラニエを雇う事にした。
「是非、うちに来て頂きたいんですけど…俺の名前を知っているという事はどこに住んでいるかもご存じですよね?」
「はい。貴族街の元公爵邸ですよね?」
知っているならドン引きされる心配もないな。両親もまだまだ現役で働いているらしいので住み込みで働いて貰う事に問題はないようだ。
細かい条件などを詰めた後、ラニエには治療院が閉鎖した後に来て貰う事にした。




