決闘。
俺はスタイラーさんとカルダモンさんの二人を送った後、すぐにリーちゃんを呼ぶと王国内で少々暴れても良い場所を探して貰った。
「なんじゃ?何かあったんかの?」
リーちゃんを呼んだ事で裏門で妖精達と追い出しシステムを構築していたティーちゃんとシーちゃんも正門に来た。
「ん?アイツ、もう来とるでしゅ!!」
「…来るのが早すぎるじゃろ…」
二人は門の外で転げ回っているランディを見て顔をしかめた。
「これからちょっと決闘してくるよ。いつまでも来られたらウザいしめんどくさいからね…」
「ホントに困ったヤツでしゅね~…」
念の為、二人には引き続き追い出しシステムの構築を続けて貰った。
しばらくしてリーちゃんが戻ってきた。王都エニルドからブレーリンの間にある山の上に開けた場所があるそうだ。俺が向かおうとするとフラムがテテテッと駆け寄ってきて俺を見上げて両手を上げる。
フラムを抱っこして留守番するか?と聞いてみたが首を横に振って服の裾を掴んだまま放さないので連れて行く事にした。
「主、わらわも立ち合いますぞ?戦闘中にフラムを預からねばならんでしょう?」
「そうだな、クレアも来てくれ」
リックはフィーちゃんと融真、ジョニーに任せた。
融真、キャサリン、クライ、ジョニー、キース達も俺の異常なスピードを知っている。特にジョニーは先の防衛戦で俺の戦闘を見ているだけに、ランディが勝つ要素は全くないと断言していた。
皆がジョニーの言葉に頷いている。結果が見えてる勝負を見ても無駄。と言う事なので皆には訓練を続けて貰った。
山の上に向かうのは俺とフラム、クレア、ウィルザー、ブラント、ランディ、フィン、霍延、シグルス、カシスだ。
「所でどうやって山の上まで移動するんだ?」
フィン達の疑問にウィルザーが答える。
「心配するな、場所を選定した本人が連れて行ってくれるからな(笑)?」
その言葉にフィン達とブラントが一斉に俺を見る。
「あぁ、俺が皆を連れて行くよ。『マルチプルゲート』!!」
俺が声を上げた瞬間、全員の身体が光を放つ。そして一瞬にして全員纏めて山の上に移動した。
◇
「…オイオイ、マジか?ただの転移スキル持ちじゃなかったのか…?」
「…これだけの人数を一気に転移させるとはな…」
フィンと霍延、シグルスとカシスが驚く中、ブラントも驚いたようだ。ブラントは晩餐会で一度、俺の転移スキルを見ている。
しかし複数人を転移させるマルチプルゲートを手に入れたのはその後の事だ。驚くのも無理はないだろう。俺達が山の上に到着すると既にエイムがエミルを連れて待っていた。
「なんだ?エイムも来てたのか?」
霍延の言葉に頷くエイム。
「今は、ここにいるエミルの戦闘訓練をしていましてね。ホワイトさんがランディさんと闘うという連絡が入りましたので視覚訓練の為に来たのですよ」
エイムの説明の後、フィン達と挨拶をするエミル。
どうやらエイムは妖精達からの連絡を受けて、エミルに戦闘を観察させる為に来たようだ。
…参考になるかなw?
ランディは未だに、俺のア〇ッチの〇叫びのダメージで左耳を押さえて膝を付き、うずくまったままだ。俺はカシスに頼んでランディを回復させて貰う。
全快状態での戦闘でなければ後で文句を言いかねないからな。回復させて貰っているランディに俺は説明を始めた。
「ルールはいたって単純だ。どちらかが動けなくなる、つまり戦闘不能になったら終わりだ。解ったな?」
説明した後、俺はクレアにフラムを預けた。
「フラム、クレアとエイム、エミルと一緒にここで待ってるんだ。良いな?」
「あーぅ(はーい)」
俺は回復したランディの前に立つ。
「さっきの説明は聞こえてたよな?敗けても文句言うなよ?それから敗けたら二度とうちに近づくな。解ったな?」
「…チッ!!気に入らねぇッ!!テメェが勝つ前提で話をするんじゃねぇよッ!!」
「それだけ悪態吐けるならちゃんと回復は出来ているようだなw?」
「…覚悟しろよ?もう不意打ちは喰わねぇからなッ!!」
ウィルザー、ブラント、クレアとフラム、エイム、エミル、フィン、霍延、シグルス、カシスが見守る中、俺とランディと向かい合う。
5メートルほど離れているがランディは俺の頭一つほど背が高い。身長が180程だ。その周りでクレアとエイムがもう少し離れるように皆に言って周っている。
「主のスキルは危険なレベルのものが多い。もっと下がった方が良いだろう」
「奥様のおっしゃる通りです。動く範囲やスキルの性質から二人から離れていた方が良いでしょう…」
二人の注意喚起で皆が下っていく。
「ランディのスキルも結構動くからな…下ってた方が安全だな…」
フィンの言葉に霍延、シグルス、カシスも頷く。
俺はこの間に『ゾーン・エクストリーム』をオフにしておいた。すぐに戦闘が終わってしまうとランディみたいなヤツは消化不良でまた文句言うからな。
ただ全力でやると殺してしまいかねない。こういうヤツは動けなくなるまである程度ダメージを蓄積させた方が良いだろう。
ランディがバスターソードを構える。俺は『スキルスナッチャー』でランディのスキルを確認しつつ、プラチナタガー二刀を抜いた。
『光陰流天』身体全体の能力を上げて動きを高速化させるスキル。持っている武器も併せて高速化が可能。赤色スキル。
直後に突進して来たランディの攻撃を受け流しつつ様子を見る。上段構えから振り下ろし、途中でスキルで攻撃軌道を一瞬にして変えると横薙ぎからのそのまま連続回転攻撃。
身体全体のスピードが上がる能力だが、所持している武器にもそれが適用されるので途中で攻撃軌道を自在に変化させる事が出来るようだ。
全体の動きもそうだが一見、転移の動きの様にも見える。しかし、『龍眼』を使っている俺には簡単に見切る事が出来た。俺は『神速』二段でランディの側面に周る。
ランディがスキルで反応する前に俺は横から膝裏にローキックを喰らわせた。俺の攻撃で体勢を崩したランディの首の後ろの襟を右手で掴むと、そのまま腰に乗せて背負い投げの要領で地面に叩き付けた。
「…グハッ!!テメェッ…!!」
俺に投げられてうつ伏せに地面に叩き付けられたままのランディがそのままスキルを発動する。バスターソードと一体になって突進してくる感じだ。
俺はすぐに左のタガーでバスターソードを受け流す。ここから更にランディはスキルを使って攻撃軌道を変えて来た。
しかし既に読んでいた俺はジャンプで横薙ぎの攻撃を避けた後、下から斬り上げて来たバスターソードを受け流して背後に着地。『パラライズボルト』を範囲で発動する。
範囲内で炸裂した麻痺効果付きの電撃が一瞬、ランディの動きを止めた。俺はすぐにローキックを喰らわせた後、体勢が崩れたランディの腰に両腕を回して掴むとジャーマンスープレックスで後方の地面に頭から叩き付けた。
「…クソッ!!このヤロゥッ…!!」
ローキックを喰らわせているのは投げ易いように体勢を崩させる為だ。直接殴っても良いが今の自分の力がどうなっているのか俺自身が良く解ってない。
いくらイヤなヤツでも殺してしまうと後味が悪い。だから極力、間接的にダメージを与えるつもりだ。
ランディの方はスキルを使っても俺の動きに全く付いて来れていない。
「…あの程度のスビードとは…全く話にならなんな…」
観戦しながら呟くクレアに、その隣にいたエイムが言う。
「奥様。さすがにホワイトさんと比べるのは酷というモノです。あの速さについて行ける者などこの世界には誰一人としていないでしょう」
話す二人の横でエミルが呟く。
「…エイムさん、わたしどっちも見えないんだけど…」
「エミル、ホワイトさんを目で追ってはダメです。まずはランディさんの動きを捉えましょう」
エイムの言葉に目を凝らすエミル。そんなエミルにクレアがアドバイスをする。
「エミルよ。集中は大事だが一点ではなく動きの全体を視るのだ。目で追うのではなく視野全体で動きを把握する様にした方が良い」
「…は、はい…」
クレアの言葉に集中を切らさず視野全体でランディの動きを視るエミル。同じく、抱っこされているフラムもじっと闘いを視ていた。
「…直線の…動き、足元がふらついて…あれは足を攻撃されてるの?」
「…あぁ、足を攻撃されて体勢を崩した所を…投げられてるな…」
隣で解説しつつ、すぐにランディの動きを捕らえたエミルに驚くフィンと霍延。二人はどちらも動体視力魔法とスキルを持っているが隣にいるエミルはそんなスキルを持っている風ではない。
エミルの戦闘センスに二人とも驚きを隠せなかった。
「しかし…ホワイトの動きが…全く見えんな…」
「…あぁ、一体どういうスキルなんだ?俺達が目で追えないとは…」
フィンと霍延、二人の動体視力の魔法とスキルを持ってしても俺の動きは全く見えなかったようだ。
◇
スキルを使ってバスターソードをブン回してくるランディの動きの合間を縫って側面、背後に周りローキック。体勢を崩してから地面に叩き付けていたが以外にも頑丈さと体力があるのか、何度でも起ち上がってくる。
良く良く視るとランディは地面激突時にスキルを発動させてダメージを軽減しているようだ。コイツやるな…。仕方ない。直接、身体の芯にパラライズボルトを流すしかなさそうだ。
自身の攻撃が当たらず、イラついたランディがスキルで無理矢理体を動かす。俺はすぐに突進して来たバスターソードを右のタガーで受け流すとランディの攻撃軌道が変わる前に『ヴァイオレットプラズマ』でスキルの威力を削いで加減しつつ、左のリバーブローを叩き込んだ。
「…グハッ!!くっ、くそっ…」
体勢を戻し尚も左薙ぎ払い攻撃を仕掛けるランディの右側面に周ると右リバーブローを打ち込む。
さすがにSランクハンターとしてのプライドがあるのか戦闘経験の賜物なのかランディは倒れずに振り返ると、退避していた俺に向かってバスターソードで刺突の構えで攻撃して来た。
それを予測していた俺は『朧』を発動。突進で突き抜けて行くランディの側面で人体再構成率を80%まで戻し、再びボディブローを叩き込む。
「…うぐっ、ぐはッ…!!」
瞬間、呻きを漏らしながら吹っ飛ぶランディ。ボディブローを何度も叩き込んでいるのはダメージが蓄積されるというのを聞いた事があるからだ。膝を付いていたランディがフラフラと起ち上がる。
もうこの時点で勝負にならない事は分かっているだろうが根性で起ち上がっているのだろう。
足元がふらついているがスキルで突進してくるランディの攻撃をギリギリで避けると俺は側面に周り左手でランディの手首を掴んで首に手刀を打ち込んだ。
そしてそのまま襟を掴んで足を掛けると背負いで投げ飛ばし、背中から地面に叩き付けた。この間にパラライズボルトを流し続けて、ようやくランディは仰向けに倒れたまま動けなくなった。
俺は最初から接触時にパラライズボルトを使用していたが、耐性があったのかバイタルが高いのか、ランディは何度も起ち上がって来た。シニスターで鋭斗に一発喰らわせて動けなくなっていたその点を考えるとランディは確かに強いと言う事は解った。
「…これで終わりだ。カシス、ランディの治療をしてやってくれ」
俺が皆の所に戻るとクレアが俺の前に立つ。
「主、なぜ本気でやらなかったのですか?」
「…俺が本気でやったら殺してしまうだろ。アレでもこの国のSランクハンターで重要な戦力なんだ。殺す必要はない。ただ、差を見せてやるだけでいいんだよ」
しかし俺の説明に不満の様だったがここで問答してる暇はない。そこに突然、リベルトが転移で飛んで来た。
◇
「…これは!!…どうなっているのですか…?」
驚くリベルトにエイムが経緯を説明する。
「…そうでしたか。降りかかる火の粉を振り払うのは仕方のない事です。それより東鳳で動きがありましたよ」
俺はリベルトからの報告を聞いた。
「米とお酒の相場が動き始めました。戦闘でお疲れでしょうが準備をしてすぐに向かいましょう」
「…あぁ、大丈夫だ。一旦みんなを王都に戻してから向かおう」
俺はすぐに皆をマルチプルゲートでロックすると王都に戻す。エイムとエミルはそのままブレーリンに戻った。
俺とフラム、クレアとリベルトはすぐに館の玄関ホールに戻る。東鳳に向かう前に、あっちの商工会で売りに出す西洋酒を買い付ける為に商業ギルドに向かう事にした。




