対策。
ティーちゃん達によって飛ばされていたランディをブレーリンから王都に連れ戻した後、俺達は夕食後にランディ対策を話し合っていた。
俺が『妖精の森に入り込んだ人間を追い出すシステム』を提案した所、ちびっこ三人とリーちゃんでごにょごにょと相談を始めた。
翌朝、朝食後にセーナさんを仕事に送り出した後、皆の訓練の様子を見ていると早くから門の前に豪華な馬車が止まった。
…ん?朝からなんだ?
御者が下りて門の中にいた俺に挨拶する。
「こちらはルアンブール領主で伯爵のルイス・オランデール伯爵の馬車です。先日の領都防衛のお礼に参りましてございます…」
御者の挨拶の後に、馬車の小窓から伯爵が顔を見せる。
「おはようございます。伯爵でしたか。どうぞ上の館の方へ上がって下さい」
「うむ、挨拶が遅くなって済まなかった。では上がらせて貰うよ」
俺はすぐに門を開けて馬車を通し、そのまま上の館まで上がって貰った。なんせここから館まで結構な距離だからねw
「クレア、伯爵と話をして来るからここで訓練の見物ついでに門番してくれ」
そう言ってフラムを渡そうとしたが、フラムが俺の服をぎゅっと握って離れようとしないので一緒に連れて行く事にした。
すぐに俺はフラムを抱っこしたまま、後をクレアに任せて館の玄関ホールまで転移して正面の玄関を開けて馬車が来るのを待った。
…そういやこういう時の為に執事がいて欲しいな…。まぁそれは後から考えようか…。
待っていると馬車が上がってくるのが見えた。そこから時計回りに真ん中の花壇のあった場所を迂回して馬車が目の前で止まった。
御者に館の裏手に厩舎があると案内してから伯爵を館の中へと迎え入れた。ホールを抜けて応接室に案内する。
上座のソファを勧めて俺も次席に座った。
フラムは一度、ルアンブールで伯爵を見ているのでキャッキャッ愛嬌を振りまいている。
「ふむ。子供も元気そうで何よりだ。領都に戻る前に話しておこうと思ってな。先のルアンブールの防衛、領都を代表し感謝する。早速だがその礼として護衛宿舎、使用人と徒弟の宿舎と倉庫などの整備をこちらで請け負わせて貰うよ。防衛の礼としては安いと思うが他に思いつかぬでな、済まぬ…」
「いえいえ、その気持ちだけで十分ですよ」
そう言って伯爵に頭を上げて貰う。
業者が来たら館の風呂もデカくして貰おうwついでに各宿舎にも風呂を付けて貰うか。
「それではまた。ルアンブールにも顔を出してくれ」
そう言って馬車に乗り込んだオランデール伯爵を俺とフラムが門の前で見送った。
ティーちゃん、シーちゃんとリーちゃんは正面の門と裏門で妖精達とランディ対策のシステムを構築している。フィーちゃんは融真とジョニーのスキル範囲の変形を指導していた。
その他の皆は『魔障気』を使って、組み手をしている。キースとクライ、ルドルフとレイザ、キャサリンとアマナが庭に散って対決している。
リックはまずは体力作りからと言う事で庭をぐるりと走った後、クレアの横に座って皆の組み手を見ている。俺とフラムも噴水を囲む石段に座ってクレアとリックと共に皆の訓練を見学した。
「…皆、順調な様だな?」
「うむ、ほぼ全員が魔障気を体得しておりますぞ。スキル自体の底上げについては各人で差が出ているようですが…」
「まぁ、そこは個人差があるから焦らずにじっくりやる方がい良いだろう」
俺達が話していると馬に乗った男が二人、門の前に現れた。
◇
俺が起ち上がる前に、門の前でスキルの段階的発動訓練をしていたジョニーが顔見知りの訪問に応対に出た。
「…お二人とも、お久しぶりです…」
「…ジョニーか。話は聞いていたが本当にここに出入りしているとはな。済まぬが挨拶に来たとホワイトくんに取り次いでくれ…」
「ダンナならそこにいるよ、すぐ呼んで来る」
呼ばれるまでもなく、正門でのやり取りを見ていた俺はすぐに挨拶に出た。
「…お久しぶりです。晩餐会以来ですね、スタイラーさん…」
「うむ、晩餐会以来だな、その後、大暴れした話も聞いているよ(笑)?」
「…ぁはは、そうですか…いや、お恥ずかしい…」
「ホワイト殿、お久しぶりです。交易馬車襲撃の時はお世話になりました」
「いえいえ、カルダモンさんもお久しぶりです…」
二人と話しつつ、俺は門を開ける。
「…先程まで伯爵も来られてましてね。どうぞ上がって下さい」
そう言いつつ館の上まで馬で上がって貰う。
「ジョニーはさっきの二人を知ってるのか?」
融真に問われたジョニーが答える。
「あぁ、あの二人はこの王都商工会所属の商人なんだよ。ちなみにゴツイのがスタイラーさんで王都商工会の商会長で大商人、カルダモンさんは中級商会の商会長なんだよ」
「…ふーん、ダンナもあの二人と知り合いなのか?」
「あぁ、カルダモンさんは馬車襲撃の時に助けに入った事があってな。スタイラーさんは晩餐会でお会いした事がある…」
伯爵の後は王都商会長のスタイラーがカルダモンさんと共に挨拶に来てくれた。
「クレア、悪いんだが融真とジョニーと門番していてくれ」
「うむ、任せて下され」
俺の頼みに頷くクレア。
ふと見るとフィーちゃんは噴水の石段に座って休憩していた。フラムがもぞもぞしたので下ろしてやるとフィーちゃんの所に走って行く。
「あぅぁー、ぉえいぅ?(ねえさん、これいる?) 」
そう言うと鞄からイチゴ牛乳を出して渡すとリックにも同じものを出して上げていた。
「…ぁ、ありがとう…」
「フラム、おんし、いいヤツじゃのぅ…」
フィーちゃんと一緒に座ってイチゴ牛乳を飲んでいるフラム、リックをクレア、融真、ジョニーに任せて俺は館の玄関ホールに戻った。
正面玄関前で下から上がってくる二人が見える。
「この館の裏手に厩舎がありますので馬はそこに繋いで下さい」
厩舎を案内した後、応接室に案内して伯爵の時と同様に上座にスタイラー、次席にカルダモンさんに座って貰う。
「…スミマセン、まだ使用人がおりませんので…」
「構わんよ、それより突然、挨拶に来て済まなかったな(笑)」
スタイラーさんに続いてカルダモンさんが話す。
「本日は馬車襲撃の時と晩餐会での物資輸送案が一部王宮で可決された事について、いずれもホワイト殿の助けがありましたので王都商工会としてお礼に参ったのですよ。しかし、先の防衛戦で最高殊勲を受けたとか?」
「晩餐会の時は一ハンターだった貴殿がまさかここまでになるとは、驚いたよ(笑)。しかし叙勲を辞退してこの館を授かったとか?」
「…えぇ、わたしは堅苦しいのは嫌いだし、貴族には向いてませんからねw代りに家が欲しいと言ったんですよ。で、この館を頂いたんですw」
俺の説明に二人が笑う。今回、交易馬車救助と物資輸送案の礼として二人はこの館の人員についての提案をしてくれた。
どうやら商業ギルドで俺が料理人や使用人、庭師などを募集しているが応募が来ていないのを見たそうだ。二人が言うには中々人員が集まらない事については理由があるらしい。
「これが貴族からの募集であればすぐに集まるのだが、いかんせんハンターが募集となると皆、渋るのだ…」
スタイラーに続いてカルダモンさんが説明してくれた。
「…単純に『お金』の話なんですよ。王侯貴族なら皆がお金目当てに集まりますがハンターとなるといくら有名であってもその辺りの…つまりどれだけの資産を持っているかは解らないですからね…」
そこで二人は、庭師、料理人については金額を明示して日雇いで来て貰う事を提案してくれた。金払いが良ければ次も来てくれるらしい。
「お話、ありがとうございます。次から日雇いで考えてみますよ」
俺は二人の提案を受けてお礼を言った後、玄関から二人を門前まで送っていく。二人が降りて来る前に、門前に行くとちょっとした騒ぎになっていた。
◇
俺はそれを見て思わず顔をしかめた。融真、ジョニーと門を挟んで大きな声で問答していたのはランディだった。
ティーちゃん達が、対ランディ用追い出しシステムを構築する前にランディが来たのだ。
…もう来やがったのかよ…。
どうやらランディは前回の訪問時にスラティゴへ強制転移された事、そして昨日のブレーリンでの事を大きな声で喚き散らしていた。
「ホワイトを出せって言ってんだよッ!!解らねぇヤツらだなッ!!」
「…またアンタか…今は客人がいるからダメって言ってるだろ?」
「ランディ、いい加減にしろよ?ダンナは忙しいんだよ。そもそもお前は前回何があってそうなったのかよく思い出せよ?」
融真とジョニーと問答して頭が沸騰しているランディをみてうんざりしたがスタイラーさんとカルダモンさんがこれから帰る所だ。門の前に居座られても困る。
俺は言い合う融真達を下げて代りに応対を始めた。
「悪いんだがこれからスタイラーさんとカルダモンさんの二人が帰るんでな。邪魔だから門の前から退け…」
そう説明する俺にランディは話も聞かずに喰って掛かって来た。
「…あッ、テメェッ!!やっぱ居たんじゃねーかッ!!俺はテメェんとこのヤツらに飛ばされたんだぞッ!?どうしてくれるんだよッ、コラッ!!」
大きなうるさい声に、噴水の段に座っていたクレアとフィーちゃんの圧力が徐々に拡がって来ている。
しかしランディのヤツ、スタイラーさんもカルダモンさんがこれから帰るから門の前から退けと言っているのに喚いていてうるさい。
「…だからお前、人の話聞けよ?これから客人が帰るからそこから退けって言ってるだろう?」
俺の返しに怒りを見せるランディ。そうこうしている内に上から降りて来たスタイラーさんとカルダモンさんが門まで来た。
「…どうした?何かあったのか…?」
そう言いつつ門の前にいるランディを見た二人が思いっ切り顔をしかめた。どうやらこの二人もランディの事は知っているようだ。
大きな声に組み手訓練をしていた面々も集まる。門の外ではフィン達が集まってきた。
「ランディッ!!そもそもお前がそんな態度だから飛ばされるんだよッ!!連れて戻して貰ったんだからまずお礼を言えよ!!」
激怒するフィンに続いてシグルスもランディに注意する。
「…周りの事をよく考えて、もうちょっと静かに話した方が良いね…」
霍延とカシスは肩を竦めている。言うだけ無駄だと言った感じだ。
「…うるさいヤツだな。主、殴って黙らせましょうか?」
「いや、わっちが殴って黙らせてやるでな?」
そう言いつつ近付いて来たクレアとフィーちゃんを俺が止める。
「…俺がやるよ…」
二人がやると半殺しにしかねないので俺がランディを少し弱らせる事にした…。
俺はまず皆に下がるように言った後、門の外にいるフィン達にもジェスチャーで下る様に指示する。門を中心に集まっていた皆が、俺とランディを残して大きく下がる。それを確認した俺は大きく息を吸い込んだ。
そしてすぐに転移で門の外に出るとランディの耳元で全力で叫んだ。
「ウラ〇アァァァァァァァァーッ!!」
「…グワッ!!テメェッ…!!」
俺の全力、『アパ〇チの雄〇び』を喰らったランディは耳を押さえて転げまわる。大きな声のヤツにはそれ以上の大きな声、衝撃で対抗した。
耳を押さえて転げ回り、やっと静かになったランディに言い聞かせる。
「良く聞け。俺も忙しいんだ。毎日毎日お前の相手なんかしてられないんだよ。これ以上しつこく来られても迷惑だからな。これから俺がお前を叩きのめす。敗けたら二度とうちに近付くなよ?」
ランディに警告した直後、ウィルザーとブラントが現れた。
「…ホワイトさん、何かありましたか?」
「…あぁ、ちょっとな…」
俺は事の経緯を話してから、これ以上ランディに絡まれないようにこれから叩きのめすと伝えた。
「では王都ギルトの訓練所を使うか?」
ウィルザーに言われたが公開処刑になると今後、ランディが活動しづらくなるであろう事を話して別の場所で一部の人間のみ、立ち会ってもらう事にした。
立ち会って貰うのは今後、うちに近づかないという誓約を護って貰う為だ。門内に戻り、騒がせたことをスタイラーさんとカルダモンさんに謝罪する。
「…見苦しい所をお見せしました、申し訳ない…」
「いやいや、ホワイトくんが悪い訳ではないだろう?」
二人は門から出ると、転げ回っているランディを見てやれやれと言った感じで帰った。俺はすぐにリーちゃんを呼ぶと王国内で少々暴れても良い場所を探して貰った。
いつもアクセスありがとうございます。最近、地震が頻発しているので改めて災害対策を見直しています。備蓄や避難場所などの確認をしておくとよいかもしれません。では、また来週(`・ω・´)ゞ




