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徒弟。

 訓練後、皆が館に戻ってきたので朝食にする。朝食を摂りながら訓練の進捗を聞いた。


「どう?皆、魔障気は体得出来た?」


 俺の質問にジョニー、キースPT、フィン達は何とか会得出来たようだ。それには習得に時間の掛かった融真(ゆうま)が皆のスキルを確認しつつアドバイスをしたらしい。


「俺みたいに一人だけ出来ないと悔しいし、特殊なスキルだと時間が掛かるからな…」


 苦労した分、周りへの配慮まで出来るのはいい事だと思う。皆、魔障気習得に関しては順調な様だ。


「…ところでダンナ、エイムがいないけど…」


 融真、ジョニーに聞かれたのでブレーリンでエミル達の戦闘訓練に向かったと伝えた。


「…そうか。融真もそうだが俺も戦闘訓練を受けたいんだよ。格闘とか武術の素地が無いからな…」

「ジョニーの言う通り、俺達は基礎がないからな…」


 ジョニーと融真に言われて俺はしばらく考えた。


「…あぁ、一人宛があるよ。どっちも出来るヤツがね…」

「ホントかッ!?…ちょっと待てダンナ、まさか奥さんの事じゃないよな…?」


 シニスターでクレアの攻撃の破壊力を見ているジョニーはクレアに対して完全に腰が引けていた。


「いや、それはない。断言して良い。魔皇に奥さんからの戦闘訓練はダメだと釘を刺されてるからな…」


 融真にそう言われたジョニーは詳しく聞くまでもなく、その正体を知っているだけにそれ以上は突っ込む事はなかった。


「…だとするとホワイトは誰を想定してるんだ?」


 霍延(かくえん)に聞かれたので俺は隠す事なく答えた。


逸鉄(いってつ)がいるじゃん。武術も独自の格闘も持っていて戦闘教員って意味じゃかなりのハイレベルだよ?」


 その瞬間、フィンと霍延がチラッと目を合わせる。シグルスとカシスは苦笑いだ。ジョニーは逸鉄を知っているだけに難色を示した。


「…あぁ、アイツか…。確かに良いとは思うんだが…」

「ジョニー、この際だから渋ってる場合じゃないだろ?俺達も戦闘訓練は受けたいし、エイムが戻ってきたら交代して貰えばいい…」


 キースの言葉にしばらく考えた後、ジョニーは仕方なく了承した。融真達は逸鉄を知らないので特に文句はないようだ。


 …あのフザけた格好視ると絶対文句言いそうだけどwただ逸鉄は恰好こそアレだけど実力的には申し分ないからな…。


 朝食後、フィン達はギルドに行って依頼があるか確認してくると言って帰った。習得した魔障気を試す事が出来る討伐依頼を探すようだ。


 その直後に、丁度フィーちゃんが来たので融真、ジョニーとキース達は引き続き下の庭で魔障気訓練を再開した。


 俺はセーナさんを仕事に送り出したあと、シーナさんと一緒に子供達と朝食の後片付けをする。その頃になってようやくクレアが起きて来た。


「クレア、調子はどうだ?訓練行けそうか?」

「…主、さすがにすぐはちょっと…頭が痛いのです…」


 …うん、そりゃ二日酔いだw


 取り敢えずまず水を飲ませてからクレアに朝食を食べさせた。


 全ての片付けが終わった所で、シーナさんは部屋に戻る。俺達は今日の予定についてクレア、フラム、ティーちゃん、シーちゃん、リーちゃんと話した。


「クレアがすぐに訓練に行けないから午前中は商業ギルドに行こう…」


 商業ギルドで警備、料理人、使用人などの応募に付いてどれだけ集まっているか確認だ。その後、ボランティアついでに孤児院を周って徒弟として、うちに来てくれる子供達を探す事にした。


 俺達はフィーちゃん、融真達、そしてジョニーとキース達に留守番を任せて商業ギルドへと向かった。



 使用人の応募は一人、あったそうだが警備、料理人、庭師などは応募してきた人はまだいないようだ。


 警備はしばらく訓練している融真達に任せるとして料理人は何とかしたい所だな。しかし、そこは辛抱強く募集を掛けて待つしかないだろう。


 その間は、俺とセーナさん、シーナさんと子供達、それから訓練に来てるやつらにも手伝わせれば料理人が見つかるまで何とか繋げる事が出来ると思う。


 商業ギルドを出た俺達はその後、徒弟で来てくれる子供達を探して孤児院に向かった。


 最初に行ったのは、地上げに遭っていた孤児院と教会だ。俺達が訪問すると歓迎してくれた。話を聞くとアーキンド一家の土地に新たに教会と孤児院を建設中と言う事だ。この辺りはカネコルソファミリーがちゃんと仕事をしているようで安心した。


 次に向かったのはセーナさんと出会った教会と孤児達だ。


 そこでシスター長から相談を受けた。


 どうやらシスター長が高齢の為に引退するそうだ。教会に付いては統合するという事で若いシスターは他の教会へ移動手続き中だそうだ。


 そこでうちの館の話を聞いていたというシスター長から子供達を預かって欲しいと頼まれた。


 他の教会で預かって貰う事は出来なくもないが、どこの教会も余裕はないらしい。しかも、ここで育った皆がバラバラになる事は避けたいと考えているようだ。


 徒弟の話をしようとしていた俺達にはこの提案は渡りに船だ。しかし子供達の了承なしで勝手にうちに連れて行く事は出来ない。


 俺は改めて、徒弟として子供達を雇いたい事を、子供達を交えてシスターたちに話す事にした。


 一度来て、料理を作ったりおやつを配ったりしていたので子供達からは特に反対の意見はなかった。その話を聞いたシスターも他の教会に行くより、子供達とうちの館に来たいと申し出て来た。


 子供達の世話もあるのでシスター長もそれが良いと了承して移動願いを取り下げる事になった。


 子供達もそこそこ人数がいるので徒弟に付いてはこれで良いだろう。面倒を見てくれる若いシスターも来てくれるので、使用人がいないうちにとっては助かる話だ。


 話を終えて若いシスターと子供達を受け入れる日取りなどを決めて教会を出た。次の孤児院に向かってしばらく歩いていると俺達の前に、一人の子供が飛び出して来た。


 その子供は別の孤児院に預けられて問題を起こしていた男児だ。フラムの頭を叩こうとして反撃を喰らったヤツだなw


 俺の前にクレアが出てくる。


「オイ、小僧。急に飛び出してくると危ないだろう?我が主でなければその首が飛んでいる所だぞッ!?」


 クレアの注意に無言のまま、俺を見上げる男児。尚も注意をしようとするクレアを手で制して男児に問い掛ける。


「…どうした?お前なら覚えてるぞ?孤児院で何かあったのか…?」

「…ぉ、俺をっ…で、弟子にしてくれっ!!」

「…はw?弟子?なんでまた急にそんな事を…」


 俺が聞くと、ハンターになりたいんだと話した。


「…ハンターか…お前、何歳だっけ…?」

「…こ、今度九歳になるんだっ!!なっ?良いだろっ?」


 言い募る子供にクレアが言い放つ。


「弟子にしてくれとかハンターになりたいとか言う前に、お主はまず『礼』から覚えろ?さっきも言ったが我が主でなければ首が飛んでいるぞ?」


 クレアの言葉に沈黙する男児。


 しかし俺はお前がそれ言うなよ、と思った。クレアが『礼』とか語るなよ…。お前も俺と初めて会った頃、礼節なんて欠片も見えなかったぞw?


 俺の心が読めるティーちゃんは笑いを必死で我慢していた。それを見たシーちゃんとリーちゃんがなんとなく察して笑いをこらえ始めた…。


 ここで笑うとまたややこしくなるので取り敢えず男児と一緒に孤児院へと向かう事にした。



 シスターと子供達に挨拶していつものおやつを配る。子供達がおやつを食べている間にシスターの部屋でハンターになりたいという男児に付いて聞いた。


 最近は暴力的な事もなくなり大人しくなったそうだが、どうしても以前の事がわだかまりになって周りとお互いに打ち解けないようだ。


 リックという名前らしいが毎日、自由時間には一人でひたすら俺が作ってやった呪いの藁人ぎょ…いや、人型サンドバッグを殴ったり蹴ったりしているらしい…。


 それが周りを更にドン引きさせているようだ…。暴力は無くなったが別の問題が出て来たか…。俺は考えた。アレ作ってやったの俺だからなぁ…。


 ハンターになるとか弟子入りとかは別にしてもこのままリックをここに置いておくのは酷かもしれんな…。これ以上、捻くれられても困るし…。


 シスターに徒弟の話をしてあと一人分、空いてるから預かっても良いか確認する。


「…えぇ、正直な所、預かって頂けると助かります…」


 話をしようとしても何も喋らないし周りとはいつまでも打ち解けない。シスター達もリックに手を焼かされて困っていたようだ。


 俺はシスターの部屋から出るとリックを呼ぶ。


「…弟子にしてくれるのかっ!?」

「まぁ待て、弟子にするかはお前次第だ。うちで今、徒弟を募集してる。他の施設の子も来る予定なんだが…それでも良いならうちに来るか?」

「うんっ、行くよっ!!それでいつ連れて行ってくれるんだ?」

「今日からだ。解ったらすぐ持って行く物を整理して支度しろ…」


 そう言うと満面の笑顔で言われた。


「俺、生まれた時に捨てられてたから何も持って行くもんなんてないよ!!」


 …あ、そうですか…それはそれで悲しいな…。


 と言う事でリックを連れて行く事になったので、施設の子達がリックに最後の挨拶をする。


 リックより年少の子が多いので喋りが拙かったが気持ちは伝わったようだ。リックは感動して泣いてた…。もう少し、コイツの表現が違ってたら今頃、打ち解けてたかもしれんな…。


 まぁ、結果論だからなんとも言えんが…。


 挨拶をして施設を出る際に呪いの藁人形は回収しておいた…。



 昼前になり一度、館に戻る事にした。戻る途中にリックにはいくつかの注意事項を話して置く。俺達が普通に貴族街に入っていくのでリックは驚いて挙動不審になっていた。


「…あ、あんた貴族だったのか…?」


 俺が答えようとした所、クレアが先に注意をする。


「…小僧…いやリックだったな?まずは言葉遣いから学べ。主はアンソニー・ホワイトというのだ…解ったな?」

「…ぁ、アンソニー…ホワイト、さんって…ま、まさか…帝国軍とその将軍を追い返したり、ガーゴイル倒したりしたっていう…」

「…リック、お前知らないのに俺に付いて来たのか…?」


 驚いた顔のまま、リックはコクンコクンと頷く。今更だけどコイツ、大丈夫かな…?まぁ良いか。まず館に戻ったらコイツを風呂に入れて服を着替えさせるか…。


 俺達は歩いて館へと戻る。俺の正体を知ったリックは黙ったままだ。その間にも俺は大事な事を言い聞かせる。


 まずは弟子がどうとかハンターになるとかの前に徒弟として連れてきたと言う事、まずは徒弟としてうちの仕事を熟してからだと念押しした。


「…いいかリック、うちは貴族(ウィルザー)とか騎士(ブラント)、ハンターの出入りが多いからな?一々、驚くなよ?」


 無言で頷くリック。


 そして到着して門を見上げて館を見たリックはそのまま泡を吹いて気絶してしまった…。



 仕方ないので摘まみ上げて門から敷地に入る。


「ダンナ、その子供どうしたんだ?」


 融真以下魔障気訓練中の面々に聞かれたのでざっくり午前中にあった事を話した。


「…で連れた来たら館見てびっくりして泡拭いて倒れたのか(笑)?」

「このガキ、結構いい度胸してるな(笑)!!」 


 キースとジョニーはリックを見て笑う。


「しかしこの子供臭うでな?早く風呂に入れて着替えさせるんじゃ…」


 フィーちゃんが鼻を摘まみながら取り敢えず風呂へ入れろという。


「あぁ、風呂入れて着替えさせてからお昼に挨拶させるよ」


 俺はそのまま館に連れて行くとリックを起こして風呂に入れさせた。世界樹から八歳から九歳くらいの男児用の服を一式、妖精達に準備して貰う。


 リックを着替えさせた俺は昼ごはんを作るのを手伝わせる。うちの子供達に混ざって野菜の皮むきやカットを覚えさせた。


 そして無事、昼食時に皆とリックの紹介をする。紹介と挨拶が終わった所で今、留守にしている仕事に行ってるセーナさん、戦闘訓練でブレーリンにいるエイム、東鳳で調査している相談役のリベルトの三人もいるとリックに教えた。


 その後、皆には別の日に改めて徒弟を数人、受け入れる事を話した。


 リックはガチガチに緊張していたが、これがうちの日常だから馴れて貰うしかない。新たに徒弟の子供達が来れば少しは緊張も解けるだろう。


 俺は昼飯を食べながら、魔障気訓練とは別に、融真とジョニーにスキルの使い方に付いて新たに思い付いた事を話した。

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