ヒキダじゃなくてキヒダ。
字数調整が出来てない箇所があったので修正を繰り返しています。更新情報が流れますがご容赦くださいw
あたらしいEPは金曜日の夕方になります<(_ _)>。
両手から出たプラズマを見てクレアは歓びに震えていた。しかし、再びクローナに化けたヴィオラが最後の力を振り絞ってクレアに襲い掛かる。
しかし気配だけでそれを察知したクレアは両手を握り締める。
「貴様、まさかわらわに同じ手が通用するとでも思っているのか?笑わせてくれるッ!!」
そう言った瞬間、振り返ったクレアはヴィオラが先に放っていた『滅殺拳打』に対抗する。
「…ォォオオッ!!これが真のッ…真の滅殺拳打だッ!!ウラァッ…!!ウーラウウラウラウラウラウラァッ!!ウラァァッ!!」
その瞬間、ヴィオラが吹っ飛ぶ間もなく拳の連打のみでその肉体を微塵に粉砕した。ヴィオラの肉体は原形を留めておらず、肉片すらも黒い闘気が吸収した。
そんなクレアを見た華梁以下、宗留武領軍は驚きと恐怖で固まって動けなくなっていた。
俺がフラムと共にクレアに近付くと突然、クレアの全身が二回、光を放つ。
「…こ、これはッ…!?」
驚きつつ、振り返るクレア。
「…ぁ、主…頭の中に声が…」
「…クレア、まさかお前…新しいスキルを手に入れたか…?」
俺の質問に頷きつつ、クレアが両手を見る。
「…まさか…スキルを獲得出来るとは…わらわもまだまだ強くなれるという事か…」
俺には呟いているクレアの新スキルが視えた。
『ダークプラズマ』と『黒怨眼』だ。『ダークプラズマ』は俺が貸した『プラズマ生成』がクレアの黒い闘気と合わさったものだ
『黒怨眼』は『イミテーションミラー』と『龍眼』が影響し合った結果、合成されたスキルのようだ。
しかし黒怨眼の方は良いとして、ダークプラズマは生成される範囲が限定されている上にまだまだ弱い。並の能力者のスキルなら何とかなるだろうがクローナと闘うにはまだ十分ではない。
クレアのスキルが成長するか判らないがもっと大規模に発動できるように訓練した方がいいだろう。
「クレア、まだ喜ぶのは早いからな?まだまだクローナに対抗出来る切り札としては弱い。ダークプラズマはもっと鍛えた方がいい」
俺の言葉に頷きつつ、クレアは喜びを止められないようだ。不気味な笑いを浮かべている。
「…解っておりますとも、この力があれば少なくとも母上の攻撃を軽減する事が出来る…」
「クレア、最終目標はクローナのスキルを軽減する事じゃなくて完全に消滅させる事だからな?」
喜びに浸っているクレアには俺の言葉が聞こえていない。クレアはそのままにして俺はカリョウにここに来た理由を話した。
アマルが東鳳に戻る為の支援をしている事を説明する。その後、太蘇南部、士武馬領の太守ヨウカと会い、東鳳正常化の為の話とレバロニアからの能力者排除を依頼された事などを話す。
それを踏まえてソルブ太守華瑛に謁見したいと頼んだ。
カリョウはしばらく幹部達と話した後、案内をしてくれると言う事で共にソルブの領都に向かう事になった。
その前に一度ヤマタ陣営に戻り、ソルブ兵と領都へ向かって太守カエイと話してくると伝える。
離れた場所からクレアの戦闘を見ていたヤマタ兵も驚きと恐怖を感じていたのか、その事に付いて特に何も言わなかった。
俺は再び、カリョウとソルブ領軍に合流して太守屋敷へと向かった。
◇
ソルブ領都は北の海に面した沿岸都市だ。屋又との国境線までかなり近い。それ以外だと山が多く、点々と村があるといった感じだ。
ヤマタと環境的にはあまり変わらないが違う点は中心都市が海に面しているか山の中かというだけだった。
俺はカリョウに取次ぎを頼んで太守屋敷の外で待つ。許可が下りたという事で屋敷の中に入った。
「もう既にホワイト殿のお連れ様が来ているようです」
既にリベルトとエイムがここに来ているとカリョウが教えてくれた。
俺は謁見の間に入るとお辞儀をしてから挨拶をした。
「初めまして華瑛様、わたしはエニルディン王国のハンターでアンソニー・ホワイトという者です…」
「…はい、お伺いしてますよ。どうぞこちらに…」
物腰の柔らかい、文官的な雰囲気の壮年の男だ。俺はカエイを観察しながら、フラムと、クレアを紹介する。
「…一家でおいでになられるとは…面白い方達だ(笑)。話は先程、そちらのリベルト殿から伝書を見せて頂いた所ですよ」
どうやらリベルトとエイムはムセンバラの太守ユウシャクからも伝書を預かってカエイの下に来たようだ。
「大体の話は理解しました。しかし、ヨウカ殿、ユウシャク殿と同じく、余り動きが無くなるとすぐに疑われますので…」
「えぇ、こちらもその辺りは承知しております。ご無理はなさらぬよう…」
そう言いつつ、俺は今まで謎だったキヒダに付いて聞いてみた。するとカエイの顔が苦々し気に曇る。
「…大変申し訳ないが…その事に付いてはお話し出来ませぬ…」
そう言われたのだが、確かにホイホイ味方の情報漏らしてたら誅殺されるわな…。俺は慌てて謝罪した。
「いや、こちらこそ配慮が足りませんでした。大変申し訳ない…」
「…いや、それよりもあなた方もお気をつけた方が良いかと…。東鳳中で『草』が活動しております故…」
そう言いつつ、俺を見るカエイ。意味深な視線に俺はすぐにレーダーマップを展開する。赤い光点が高速で移動しているのが見えた。
…しまった!!いたのかッ!?
「…少しの間失礼します…」
そう言うと俺はすぐにレーダの赤い光点の部分と、記憶にある場所を合わせる。瞬間、転移した俺は『草』と呼ばれる忍者っぽい黒装束を捕まえて地面に叩き付けた。
同時にスキルを根こそぎ奪い取り、リーちゃんを呼ぶ。
「はいはーい、何~?」
「太守屋敷にスキルを使って隠れてた能力者いた?」
次元の狭間に隠れているリーちゃんがしばらく無言で亜空間、各次元帯を探る。
「…うーん、屋敷にはいなかったけどさっきまでいたタイソとヤマタの国境線に一人、転移能力者がいるねー…」
リーちゃんに教えて貰った俺はすぐにさっきまでいた交戦地点に飛んだ。クレアとヴィオラが闘った跡を調べているヤツがいる。恐らくレバロニアの能力者だろう…。
俺はすぐにマントを羽織った茶髪の男に『神速』で接近すると背後からスキルをごっそり奪い取る。
すぐに首を掴んで『パラライズボルト』を流して気絶させた後、そのまま『マルチプルゲート』でレバロニア本国に送り返した。
その後、俺はソルブ太守屋敷に戻る。俺は頭を下げて改めて謝罪した。
「わたしの不用意な発言でご迷惑をお掛けしました。大変申し訳ない…」
「…それで、処分出来ましたか…?」
俺は無言で頷く。その瞬間、カエイの表情が和らいだ。
「今回の提案についてはリベルト殿に伝書を渡しております。そちらの決行までは提案通りに致しますよ」
その言葉を聞いて俺達は太守屋敷を出た。俺達はすぐに伝書を持ってヤマタへと飛んだ。
備戎の時と同じく、カエイ直筆の伝書をリベルトがヤナギに渡す。信じられない面持ちのヤナギだったが、これが東鳳正常化に向けた第一歩だ、と話して何とか納得して貰った。
これで作戦決行日まで、被害は何とか抑えられるだろう。後は出来るだけ工作を仕掛けて弱らせる事が出来れば上々だ。
俺はフラムをクレアに預けると、先にエイムと館に戻るように言う。リベルトには引き続き俺達が行った工作を注視して貰う為に東鳳に残って貰う。
「主はどうするのです?わらわはスキル訓練を早くしたいのですが…?」
「ちょっとキヒダくんを見て来るよ。どんな奴なのか本人を確認したいからね」
俺が皆に説明するとリベルトが充分に注意する様に言う。
「キヒダの人物像は謎ですが巷では二重人格と噂されております。能力者である可能性は高いです…」
そんなリベルトの憂慮を一蹴するクレア。
「…相手がどんな能力者であろうが主には勝てまい。わらわにスキルを発現させた男なのだ。そして今のわらわには主の全てのスキルが視えているのだ、敗ける事などあり得ぬ!!」
俺はそんなクレアを落ち着かせて言い聞かせる。
「クレア、人が敗ける時って慢心した時だぞ?お前もそれを心に刻んでおけ。クローナに勝つ為だ、解ったよな?」
「…わらわとした事が…つい調子に乗ってしまいました…」
うん、良かったw青龍爺さんの説教が効いてるなw
リベルトもエイムも苦笑いだ。俺はクレア、フラム、エイムがリーちゃんの転移魔法で館に戻るのを見送った後、リベルトと共にヒスイ城の城下街まで飛んだ。
◇
リベルトには米やお酒の相場を見ても背う為に、商工会議所へと向かって貰った。俺は改めてヒスイ城を見上げる。
…デカい城だ。妖精達の記憶によるとアマダ王暗殺、タイエンの獄死以降に国中から人を集めてわざわざ建てさせたそうだ。
おかしな政治家がいると国民が苦労するのは大体どこの星もどこの国も同じだな…。俺はそんな事を考えながらヒスイ城の門に向かって歩く。
妖精の記憶から転移で入る事も考えたが一応、城の内部構造を見ておきたかったので正面から侵入する事にした。
スキル『大気光象』と『サイレントウォーク』を使って姿を消した後、跳躍で門の上に飛び乗ると、そのまま警護や兵士に紛れて城の中に侵入した。
城は木造で構造がかなり複雑になっている。簡単には上階へ上がれないような仕組みだ。恐らくだが城の中まで侵入されても時間稼ぎが出来るようにしてあるんだろう…。
城内で働く人々に紛れて上へ上へと上がっていく。もう二階層上に行けばキヒダがいる天守に辿り着く、という所で上から複数人の女性の嬌声が聞こえた。
…キヒダのヤツ、こんな時間からオンナと遊んでやがるのか…。羨ましいヤツだw
もう一段、上に上がると護衛と思われる男達が、酒?を飲みつつ、服をはだけた若い女達と戯れている。
甘く気怠い香りで充満している。どうやらお香を焚いているようだ…。
…エロくなるやつかっw!?
吸い込んだ俺までヘンな気分になってくる。コリャ、キヒダの顔を確認したら早めに退散した方が良さそうだ…。
そしてついに天守閣まで上がった俺の目に、四角いゴツイ顔であご髭を生やした如何にも強欲そうでスケベそうな男が全裸で、これまた全裸の女性達と戯れていた。
周りには酒、お香を焚いて肉が並べられており、スタイルの良い美人やら可愛いやらの女性達が全裸でうっとりとした恍惚の表情でキヒダにしなだれ掛かっている。
…正に酒池肉林と言った感じだ。
オゥオゥ、外が明るいうちから羨ましいやっちゃな…。キヒダの顔は確認出来た。さて、ミイラ取りがミイラになる前にここを出るか…。
俺が踵を返そうとした瞬間、赤くにやけ面のキヒダの身体から半透明の何かがブレて見えた…。
よく視るとキヒダから抜け出る様に、半透明の坊主頭で側頭部に稲妻のような反り込みを入れた細マッチョな男がゆっくりと立ち上がると、俺の方を見た。
…何だアイツは…俺が視えているのか…?
男はゆっくりと女達の間を抜けて、真直ぐ俺の方に歩いてくる。
…マズイ、コイツが何者かは判らないが確実に俺が視えているようだ。俺は慌ててスキルを『バニッシュ』に切り換えた。
そいつは一瞬消えたかと思うと、亜空間の中で一安心している俺の背後からバタフライナイフでいきなり俺の背中を刺した。




