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酔っ払い。

 俺はハンターギルドを出た後、オープンテラスのある宿屋兼料理屋で皆と合流した。現在、午後三の刻半でまだ外は明るい。


 気候も穏やかなので、皆はオープンテラスの方で食事を始めていた。かなり早いが、俺もついでに夕食にする事にした。

 

 俺は地球の自宅でも、夕食が早い。

仕事の始まりが早いので、帰りも早い。だから大体この時間から十六時位には、いつも夕食を済ませている。


 そしていつものゲームとお酒タイムだ。


 俺も皆と同じテーブル席に座り、店員さんからメニュー表を見せて貰う。前菜でサラダかな。その後、スープ的なのが欲しいので取り敢えずその二つを注文した。


 続いて、ドリンクメニューを見せて貰う。ビールっぽいイラストの付いたドリンクがある。良いね!!取り敢えず、ビールも一緒に注文した。


「…アンソニーよ、まだ明るい時間じゃと言うのに…」

「…ホワイトさん、この時間からもう飲むの?早くない?」


 ティーちゃんと、アイちゃんからそう言われたが、今日は色々あってかなり疲れたし、依頼も終わったから少し多めに見て下さいwと頼んだ。


「…仕方ないのぅ」

 

 そう言って、何とか許して貰いましたw


 店員さんが、すぐにビールを持って来てくれた。ジョッキを受け取った俺は驚いた。現代日本と同じように、良い感じで冷えている。こういう世界だと、どうしてもぬるいビールとかエール?が出てくるイメージだけど…。


 ホール担当のお姉さんに、そこを聞いてみた。どうやら氷結魔法を使える従業員が雇われているようだ…。ああ、魔法を利用して冷やしてる訳ね…。


 納得する俺の横で、既にクレアがもうビールを四杯程飲み干していた…。それを見た俺は密談でティーちゃんに抗議した。


≪…クレアも、もう飲んでるけど…なんで、俺にだけダメ出しすんの…?≫

≪…うぅむ…それがのぅ…≫

 

 クレアにも一応、注意はしたそうだが、俺と同じような事を言って構わず、飲み始めたらしい…。クレアも、酒好きの様だ。串焼き肉を食べながら、豪快に飲んでいる…。


(この人…、というかこの龍、お金持ってんのかな?お金持ってて豪快に飲み食いしてるんだろうな…?)


 しかし、凄い美人なのに…こう何と言うか肉を噛みちぎり、豪快にお酒を流し込んでいるのを見ると、なんだか残念感が漂う…。


 取り敢えず、サラダを先に食べてから、ビールを飲みたいので横に置いといた。サラダもすぐに運ばれてきた。

 

 俺がサラダに手を付けようとした頃には、アイちゃんが食事を終えていた。急いで食べたみたいで、口の周りが汚れている…。アイちゃんが慌ただしく席を立つ。


「ホワイトさんも、ティーちゃんとシーちゃん、三人とも今回はありがとね。おかげで今回の報酬金で暫くは何とか食い繋いで行けるよ!!」

「あぁ、気にしないでくれ…」

「ほんと、ありがとう!!」

 

 そう言ってお金を置いて行こうとするので、俺が慌てて止めた。


「…今回のお金は俺が払っとくから、そのお金は取っといて…」


 そう言って俺はアイちゃんが置いた金を返す。


「どんな形であれ、アイちゃんが闘って得た報酬なんだから大事に使いなよ?」

「うんありがと。今回は甘えさせて貰います!!」


 そう言うとアイちゃんは、


「…じゃ、わたしは先に行くから、またね~!!」


 そう言ってサッと箒?を取り出した。そして颯爽とそれに跨ると、いきなり急発進ですっ飛んで行った。それを見て、俺は慌てて席を立つ。


「…ちょっと、行ってくる。すぐ戻ってくるから…」


 そう言い残した俺は、神速を使ってアイちゃんを追い掛けた。



 俺はオープンテラスから魔法の箒?に跨って急発進してすっ飛んで行ったアイちゃんを追う。通りにまだ人が多い。俺は人のいない場所を選んで神速で移動した。


 …すぐに追いついたが…危険、極まりない…。


 村とはいえ活気があり、家族連れや交易商人とその従者など人通りも多い。そんな中を、構わず爆走しているのだ。俺は、自覚のないアイちゃんの危険行動を止める為に、神速を使ってその前に移動すると両手で、箒の先端を掴んで止めた。


「…ひゃっ!!ちょっ、ちょっとホワイトさん何してんのっ?危ないじゃんっ!!」

 

 そんなアイちゃんに、俺は溜息が出た。


「…あのなぁ、ここはまだ村の中だぞ?この箒を使うのは、せめて村の外に出てからにしなよ?」

「…何で…」


 アイちゃんが反論しようとしたので、俺は周りをよく見るように諭す。


「ここは人の往来が多い。そばに家族連れもいるだろ?魔道具か魔工機か知らんけど、こういうのは最低でも村の外に出てからじゃないとダメだろ?子供が飛び出して来たら避けれるの?避けたとしても、その先に別の人いたらどうするんだよ?人を護るはずのハンターや冒険者が、一般人を事故に巻き込んだら、おかしいだろ?」


 俺の説教に、アイちゃんが沈黙する。周りの人々から、拍手が沸いた。これは、恐らく前々からやってたな…。


 冒険者とかハンター相手だと、一般の人は何も言えないのかもしれない。周りの反応で分かる。そんな気がするわ…。


 取り敢えず、ここで公開説教するとハラスメントになりそうなので取り敢えず村の外までアイちゃんを連れて行った。門衛には聞こえない距離で、アイちゃんに話す。


「…さっきも言ったけど、落ち着いて周りの状況をよく確認する事。それを怠ると大事故に繋がりかねない。こういう世界だったとしても、交通安全ルール的なモノは自分の中で持っとかないと…。じゃないと、こういうものに乗る資格はないよ?」


 それから、と言って俺は併せてまずベルファに行くように言う。


「どこに行こうとしてたのかは知らないけど、まずはベルファに行って禅爺に今回の事を謝っといた方がいい。…良く聞いて。いきなり本部に戻って、弁解するより人を介した方がいいと思うんだ。エルカートさんに聞いたけど、禅爺はアイちゃんの事を良く知ってるって聞いたんだ。だから禅爺から今回の事を取り為してもらった方がいい」


 アイちゃんは視線を逸らしている。ちゃんと聞いているのか判らなかったが構わずに俺は話を続けた。


「悪いんだけど、先に行って禅爺に伝えて欲しいんだ。今回は俺もアイちゃんと同じ事してる。赤色依頼の紙を勝手に持ち出してるんだよ。だから後日、謝りに行きますって…」


 その言葉に、アイちゃんは不満気だ。


「…ホワイトさんは何ですぐ行かないの…?」


 そう聞かれたので素直な所を話した。


「今回の突然変異のセンチピードについて、クレアも含めた四人で(正確には五人だが)相談する事があるんだ。明日は他に用事もあるしな…」


 そう言うと、また沈黙した。聞いているのか聞いていないのか、分かっているのか分かっていないのか、じれったいがこのまま放っとく訳にもいかない。


「とにかく後日、改めてベルファに伺いますと禅爺に伝えて」


 と、言うと、アイちゃんが拗ねた様に言う。


「そこまで言うなら一緒に行ってくれてもいいじゃん…。何で今日、明日じゃなくて後日なの…?」

「…済まないけど、俺は明日、西大陸で交易の仕事があるんだよ…。だから早くても明後日になるんだ。そう伝えて欲しい…」


 暫くの沈黙の後、アイちゃんは静かに溜息を吐く。


「…ハイハイ、分かりました…」


 と、答える。とにかく取り返しが付かなくなる前に何とかしないと。箒に跨って、安全運転で去っていくアイちゃんを見送る。


 アイちゃんは顔を背けて、「ハイハイ」と言っていたが、こういう子は、聞いていても理解はしていない事が多い。惰性で返事をしたり、解っている、と言うだけで問題に全く向き合わない。


 根本的な問題を把握して解決しようとしていない…。俺の職場にもこんなヤツがいるわ…。


 …やれやれだぜ…。


 そんな気分で、門衛に挨拶してスラティゴの村の中に戻った。ちなみに明日は西大陸で交易と言ったけど、地球に戻って普通にお仕事です…。



 アイちゃんを見送った後、俺はオープンテラスに戻る。色々考える所もあり、溜息を吐きつつ席に座ったとたんに俺は驚いて思わず声を上げた。


「…うわっ!!」


 …もう既に、泥酔レベルに到達してるヤツがいた…。


 クレアが、顔を真っ赤にして妖しい目付きをしている。エルカートさんと話をして、アイちゃんに説教して戻ってくるまで、三十分経ってないと思うけど…。

 

 まぁ、あのペースで飲んでりゃこうなるわな…。


 たまにいるよね。そんなにお酒強くないのに、お酒好きだからっておかしなペースで飲む人。この人、というか龍だけど、それだな…。


 テーブルの上に肘を付いて、掌に顎を載せてうっとりしている。素が美人だから酔って色気を漂わせてくると思わず見惚れてしまうが、下手に話しかけると絡まれそうなので視線を逸らした。


「アンソニーよ、アイのヤツに何か言ってきたんかの?」


 ティーちゃんに聞かれたので席に座りつつ、色々説教と言うか軽く諭してきたと話す。それについて妖精族三体がそれぞれ見解を述べる。


「…確かに、村の中で魔工機に乗るのは感心せんのぅ、危険じゃからな…」

「とってもあぶないでしゅ」

「周りが良く見えていないタイプなのかな~?」


 ついでに、エルカートさんとの話もした。


「…ふーむ、さっきの魔工機の事と言い、ギルドやPT(パーティ)の事と言い、困ったヤツじゃのぅ…」

「そうだね…このまま同じ事をやればランク剝奪は確実かな…」


 俺の言葉に、溜息を吐く三体。しかし、一人だけ違う反応を見せるヤツがいた。


「…ふんッ…主!!あんなコムスメなど放っておけばよいのです…ヒック…」


 相変わらず肘を付いて掌に顎を乗せ、目が座ったクレアがしゃっくりをしながら話をする。


「…ああいうヤツは、ヒック。誰が何を言っても直らんのです、ヒック…ングッ!!ングッ!!ングッ…プハーッ…!!」


 …コイツ、まだ飲む気かよ…。


「…あの手のヤツは、ヒック…覚悟を持って自らの意識を変えて、ヒック、自己変革に挑まなければ…ングッングッ、美味いッ!!…いつまで経っても…ヒック、変われんのです…ヒック…」


 …なんか凄く良い事言ってるんだけど、グイグイ飲みながら、しかも途中しゃっくりしてるから全て台無しだ…。


 …ティーちゃんがチラッとこっちを見た。誰も何も言わない。多分、絡まれるのが分かっているからだろう…。仕方なく、俺がクレアに話を合わせる。


「…まぁな、俺の甥もスマホ依存から抜けられなくて中々変われないしな…。自分の意識を変えて行動も変えていかないと、だよな。まぁ結局の所、全ては本人の意志の強さ次第なんだけどね…」


 俺が言ったその瞬間。―ガッ!!と、クレアが俺の肩を掴んで抱き寄せる。


「…うわっ!!な、なんだよっ、オイっ!!」

「…ヒック…そうですッ!!、さすが主ッ!!全くもって、その通りなのですッ!!」


 …うわっ!!、マジでめんどくせぇ…、やっぱり、酔うと絡んでくるヤツだ…。


「やはりッ!!…わらわの主となる男だ!!人間にしておくのが勿体ないのぅ…」


 そう言いながら、俺にスリスリと頬ずりをする。赤く上気した、柔らかい頬が、俺の顔に当たる。

周りのお客さんも、酔って騒ぐクレアをチラチラと見ていた。


 俺は苦笑いを見せるしかない。クレアは酔ったまま、まだ俺が飲んでいなかったビールを掴む。


「オイッ!!それ、俺の…」


 そう言う前に、クレアは俺のビールを豪快にグイッと飲み干しやがった…。しかし何だろう?こんなスタイルの良い美人に褒められて、頬ずりされてるのになんだかあんまり嬉しくない…。


 その後、クレアは一頻り俺を褒めちぎった後、突然、バタッ…とテーブルの上に突っ伏した…。


 俺は席を立って、周りのお客さんに苦笑いしながら軽く頭を下げておいた。 暫くして、クレアはグゥグゥと寝息を立てる。


 …そしてそのまま寝落ちてしまった…。


 まだ午後四の刻ちょっと過ぎなんだけど…。既に、食器もグラスも下げて貰っていたから、怪我とか無くて良かったけどね…。


 …なんかパーフェクト美人のイメージがどんどん崩れていくんだが…。俺はティーちゃんをチラッと見る。


「…クレアって、なんて言うかさぁ…」

「みなまで言うな、アンソニーよ。姉さまはこういう人、いや…龍なんじゃ」


 俺は、肩を竦めて溜息を吐く。取り敢えず、今回のカイザーセンチピードの件については、クレアを除いた四人で話す事にした。

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