苦手なモノを避けてばかりでは前に進めない。
クレアと妖しい祈祷師っぽい女の闘いが始まった。祈祷師っぽい格好だがスキルを視ると念道使いのようだ。
『念道』強い思念でサイコキネシスを発動させる後天性サイキック。魔念道とは区別される。
…しかしサイキックだからサイコキネシスで闘う遠距離系だと思っていたが…目の前の女は思いっ切りクレアに接近して殴り、蹴りを出している。
『龍眼』で見ていると、全身にサイコパワーを纏って闘っているようだ。クレアと似た拳闘タイプだ。
そしてもう一つ、このオンナにはスキルがあった。
『プレシーブ』、相手の思念を読み取る。となっている…。
…思念を読み取ってどうするんだろうw?…まぁ、見てれば解かるか。サイコ系のヤツならクレアが苦戦する事はないだろう。
敵のサイコ女もかなり動きが早く本気で闘っているようだが…やはりクレアにしてみれば相手にならないようだ。
かなり余裕があり簡単に避けて拳打を捌いている。
しかし横っ腹のリバーブローを避けようとした瞬間、突然女の拳が巨大化した。余裕だったクレアが本気で巨大拳を弾く。
拳を弾かれた女はすぐにバックステップで後退するとクレアに向かって掌を翳してグッと握り潰す。
その瞬間、クレアの足元から範囲方円陣が現れて地面が捲れ上がり、あっという間にクレアを挟んで潰してしまった。
おおっ、このサイコ女、中々やるな…。
しかし、クレアは巨大な土の壁を粉砕して出てきた。
「…何だこんなモノか?全て受け切ってやるからもっと本気で来いッ!!」
サイコ女を挑発するクレア。しかしそれでもまだ、女には余裕があった。
「…はっ、アンタ余裕だねぇ。けどその余裕、どこまで続くかねぇ、ククッ…」
そう言うと女は、上に向けた掌から無数の何かを出した。…あれはッ!?
女の掌から、蟲がぞわぞわ飛び出して来た。
その瞬間、クレアが身震いする。俺も、鳥肌が立った…。
「…オイオイ、マジかよ?蟲テイマーの真似か…?」
クレアに向かって害蟲を飛ばしつつ、女は俺の方にも蟲を飛ばしてきやがった。
…こざかしいヤツだな…。
俺は蟲は嫌いだが向かってくるヤツを叩き落すくらいは出来る。大量の蟲の接近に、狼狽えるソルブの指揮官と兵士達。
ギリギリまで蟲を引き付けた俺は『ヴァイオレットプラズマ』を発動して全ての蟲を消し飛ばした。ホッとした様子で戻ってくるソルブ指揮官と兵士。
全く、こっちまで巻き込むなっつーの…。
俺のヴァイオレットプラズマに驚くサイコ女。しかし、クレアは完全に及び腰で俺の後ろに逃げて来た。
「オイッ、クレアッ、何やってんだ!!蟲がこっちに来るだろッ!!」
「…いや、主。アレはダメです…ホントにアレはムリなんですよッ…!!」
クレアがこっちに来たので当然、また蟲が大量に接近してきた。安心して戻って来ていたソルブ兵達も慌てて再び後退する。
…仕方ない『闘気』以外のスキルは使うなって言ってあるからな。『怨蝕』が使えないから蟲くらいならこっちで何とかしてやるか…。
俺はすぐに龍神弓を取り出すと、雷撃エネルギー弾で蟲を一気に撃ち落とす。落ちた瞬間、蟲が消えた。
…これもサイコパワーで作り出しているのか?
蟲が消えて意気揚々と飛び出すクレア。しかしその前にいつの間にかクローナが立っていた…。
◇
飛び出したクレアの目の前にクローナが立っていた。
「あぁーぁぅいう!!(ばーちゃんいる!!) 」
フラムもいきなり現れたクローナを見て、ばーちゃんがいると驚いている。俺も驚きだ。突然、何故ここに?青龍の爺さんが呼んだのか?
しかし青龍爺さんは俺がクレアを黒龍の里へ連れて行って反省させると行ったら納得してくれてたはずだ。今更、クローナを呼ぶとは思えない。
と言う事は…クローナが直接説教に来たのか…?
震えるクレアの後ろから『龍眼』で良く観察する。俺はそれの正体がすぐ判った。
サイコ女が化けているんだ!!
サイコパワーで自分をクローナの様に見せているだけだ。オーラと言い、厳しさと言い、エネルギーの質自体が弱すぎて本物のクローナとはまるで違う。
…しかしさっきの蟲と言い、目の前のクローナと言いクレアが苦手にしているモノばかりだ。もしかしてプレシーブスキルで読み取っているのは、相手の苦手な思念を読み取っているのか…?
なんとなく絡繰り、と言うか相手のスキルがわかった所で、俺はアイテムボックスから椅子を取り出して座る。傍で見ていた指揮官も、陣幕から椅子を持ってきて隣に座った。
さて、クレアがどう対処するか観戦させてもらうか…。
「先程の強力なエネルギー体と言い、弓での攻撃と言いあなたは能力者なのか?」
俺は指揮官に問われて答える。
「えぇ、そうです。わたしも、今闘っているうちの戦闘要員も能力を持っていますよ?」
「そうでしたか。それで先程、話そうとしていた事というのはどのような事なのか?ヴィオラ殿が闘っている間にお聞きしたい…」
あのサイコ女はヴィオラというらしい。
「まずはうちのクレアがヴィオラを倒してからにしましょう…」
「解りました。では改めて、わたしは宗留武太守、華瑛の甥で華梁と申す。以後よろしくお願いしたい…」
指揮官は太守の甥のようだ。俺達は並んで座り、クレアとヴィオラの戦いを観戦する事にした。
◇
その頃、太蘇中部地方の牟仙原では太守、幽勺の屋敷で穏やかに話し合いが進んでいた。
リベルト、護衛として付いているエイムが屋敷の中でユウシャクに挨拶をした後、リベルトがヨウカから預かった伝書を渡す。
ユウシャクは体格のゴツイ髭面の厳めしい壮年の男だ。しばらく伝書を呼んでいたユウシャクが顔を上げる。
「…ふむ。話は分かった。では今後の推移を見守らせてもらう。しかしこちらの行動に付いては立場上絶対の約束では無い事を理解して頂きたい」
見た目によらず、丁寧な物腰の男だ。ユウシャクは伝書を呼んだ後、目の前の囲炉裏の火に伝書を入れて燃やした。
「それは承知しております。そちらの立場を考えた上で、お願いをさせて頂いておりますので。その時になって見極めていただいて結構です…」
頭を下げるリベルト。その横で同じように頭を下げるエイム。二人にユウシャクが話す。
「レバロニアの能力者を三人、抹殺したか…残るは二人か…」
「ここに能力者は派遣されていないのですか?」
リベルトの問いにユウシャクが答える。
「この中部地方ムセンバラはどこの国境線とも接していない。だから戦闘系能力者はいないが目付と連絡要員としての能力者が一人いたのだ」
「そちらの方は今、どちらに?」
「…うむ。先程、緊急でソルブに向かうと言って出て行ったのだ。恐らく伝書にあった内容の通りなら…」
そう言いつつリベルトとエイムの二人を見るユウシャク。
「…レバロニア本国で何かあったのであろうな…」
ユウシャクはニヤリと笑う。
「…えぇ、恐らく我々の雇い主が…警告に行った事が要因かと…」
頷きつつユウシャクは紙を取り出し、伝書を書く。
「これから華瑛の所に向かうならこれも持って行くとよい」
そう言ってリベルトに伝書を渡す。
「ありがとうございます。それでは我々は北部へ向かいますので…」
挨拶をして二人は太守屋敷を退去した。
◇
目の前のクローナに怖気ついたクレアが後退りを始めた。
「…ま、まさか母上が何故ここに…」
背中越しだったが激しく動揺しているのが解かる。俺が発破を掛けようとした瞬間、振り返って戻ってくるクレア。
「…ぁ、主…ダメです…。今のわらわでは…母上には到底…敵いませぬ…」
俺はそんなクレアを諭す。
「…クレア、いつまでも逃げてばかりじゃダメだぞ?俺は東鳳の件が終わったら黒龍の里へ行くつもりだ。当然、お前も行くよな?」
俺の話に無言のクレア。
「良く聞け。あのクローナは偽物だ。俺が龍眼で確認してる。いいか?苦手なものから逃げ続けてたら本物のクローナと闘いになった時にどうする?お前は『掟』を覆したいんだろう?なら今、克服しないとな…」
俺達が話しているとカリョウが俺を見て言う。
「ホワイト殿、ヴィオラ殿が来ますぞ!!」
どうやら俺達以外にはクローナには見えていないようだ。俺はすぐにフラムを前に抱っこする。
「フラム、アレは偽物のばーちゃんだ!!アレは悪いヤツだからな?見せてやれフラム!!眼からビ…」
「あぅーっ!!」
俺が言い終わる前にフラムは偽クローナに向かって眼からビームを放った。
一瞬にしてそのビームが偽クローナの足元に炸裂する。
…地面が抉れてミニクレーターが出来た…。
隣で見ていたカリョウも兵士達もドン引きしている。ヴィオラは何とか必死でフラムのビームを避けている。
俺は慌てて連射しているフラムを止めた。その目の前でクレアがブツブツ呟いている。
「…フラムに出来るのだ、わらわにだって出来るはずだ…母としてのメンツもあるのだ…」
顔を蒼褪めさせたまま振り返ったクレアが突進しようとするのを止める。
「…クレア、いい機会だからスキルを二つ、渡しておく。良いか?相手の動きをよく見て使うんだ…」
俺はクレアの肩に触れるとスキルを二つ渡して送り出した。
「苦手なモノを今ここでぶっ飛ばしてこいっ!!」
無言で頷いたクレアが突進していく。フラムのビーム攻撃で一瞬怯んでいたヴィオラもクレアに向かって突進する。
そしていきなり『殲滅拳打』の殴り合いが始まった…。
◇
ヴィオラの能力は化けた相手の能力?をコピー出来るようだ。しかし俺の眼から見てもクローナのアレとはほど遠い。今はクレアが及び腰だから対等に見えるが本気になればクレアが簡単に押し切れる。
その程度の相手なのだがなんせ見た目がクローナだけにクレアには全力では行けないようだ。しかし…。
同じ様に拳打の撃ち合いをしている様に見えたがクレアの身体が一瞬、光を放った後、猛烈な勢いでヴィオラの拳を弾き始めた。
いや、弾いてるのではない。完全に押し込んでいた。恐らく俺が渡した『イミテーションミラー』を使ったのだろう。
瞬間、ヴィオラの両腕が吹っ飛んだ、と思われたが押し切られて殴り殺される前にテレポートで逃げていた。ヴィオラはあまりに激しい拳打に膝を付いて項垂れている。
「…そ、そんなバカな…人に限らず苦手とするものに正面からは向かって行けないはず…」
「…わらわは信じているからな。主の力とスキルをな…。母上に化けている貴様の様な卑怯者には解るまい…」
クレアは完全吹っ切れたようだ。偽物ではあったがクローナの拳打を押し切った事が大きいのだろう。
ヴィオラはクローナから本人の姿に戻っていた。
「…わたしの…わたしのスキルがァッ…敗けるものかァッ!!」
膝を付いていたヴィオラが消えてクレアの後ろに移動する。後ろからクレアを巨大な脚で蹴り飛ばそうとしたヴィオラに反応したクレアが振り向きざま、またしても身体から光を放つ。
その瞬間、巨大化していたと思われたヴィオラの脚は元に戻っていた。驚くヴィオラを逆に蹴り飛ばすクレア。
クレアを見ると両手から揺らめくプラズマが形成されていた。俺は思わず起ち上がって叫ぶ。
「良くやったクレア!!それがプラズマだ!!これでクローナに勝てる目が出たぞ!!」
俺の叫びにフラムも両手を上げて喜んでいる。
「…これがスキル無効化の力か…」
そう言いつつ、両手のプラズマを見てクレアは歓びに震えていた。しかし、蹴り飛ばされていたヴィオラが最後の力を振り絞ってクローナに化けてクレアに襲い掛かって来た。
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また更新情報が流れるかもですがご容赦くださいw




