社会性は低いが戦闘は強い。
士武馬の砂浜で、青龍爺さんと話した俺はフラムと一緒に、クレアとエイムを連れてヨウカのいる士武馬太守屋敷へ向かった。
転移でいきなり入るのもアレなので、正門から取り次いでもらう。さっきいたベテランの衛兵はいないようだ。代りに若い衛兵に伝えて貰う。
しばらくして許可が下りたとの事で再び、ヨウカの屋敷へと入った。
「…で、どうなったのか?聞かせて貰おうか…?」
ヨウカは微笑を見せながら、扇子で仰いでいる。
「何だ?お前は?人間の癖に偉そうな女…」
そこまで言ったクレアの口を塞ぐ。こういうのが出来ないからコイツを連れて来たくなかったんだよッ!!
俺はすぐにクレアに『密談』で膝を付いて頭を下げろと言った。不満そうなクレアだったが取り敢えず膝を付かせてから頭を下げた所で二人を紹介した。
「…コイツはクレアと言います。うちの戦闘要員ですが少し社会性に欠けていまして…」
「…むッ!?そのような事はッ…」
言い募るクレアを制して、続けてエイムの紹介をする。
「こちらはエイム、うちの子供の護衛兼、戦闘訓練要員です」
「こんにちは、ヨウカ様。わたしはエイム、エイムヒトリゲンです」
膝を付いて恭しく頭を下げるエイム。
「…『草』から情報は聞いておる。勝手に出陣したビヴァクを倒したのはお主だな?」
「はい。確かにビヴァク殿を抹殺したのはわたしです」
二人の紹介が終わった所で、ヨウカは俺に向き直る。
「…で、ゲインと呂蝉はどうなったか?」
相変わらず薄笑いを浮かべながら問うヨウカ。
「ゲインはクレアが撃破しました。リョゼン…蟲テイマーには逃げられてしまいました…」
「…そうか、ゲインを殺したがリョゼンには逃げられたか…」
「はい、それともう少々、報告があります。まずは悪い報告からですが…」
「…良い、申せ!!」
ヨウカに促されて俺は士武馬の砂浜の北にある山に大きなトンネルを作ってしまった事を頭を下げて謝罪した。
「…うむ。膨大なエネルギーをここでも感知しておる。じきに草が報告に来るであろう。それはどちらがやったのか?」
俺はチラッとクレアを見る。
「…わらわです。ついイラッとしまして…やってしまいました…申し訳ない…」
…おっ!?クレアのヤツ、ちゃんと素直に謝れるじゃねーか!!こりゃ、青龍爺さんの説教が効いたか!?
頭を下げるクレアを見て薄笑いを浮かべるヨウカ。
「…クッ…ククッ、アハハッ、アハハハッ…!!面白いヤツらよ!!邪魔な能力者を排除してくれたか!!よくやったぞ!!」
大きな声で豪快に笑いながら、上機嫌でヨウカが声を上げる。
「…これで邪魔者は北部領の能力者だけだな。先に来て話した件、考えてやらんでもない。だが…もう少しやって貰いたい事がある、良いか?」
「えぇ、ついでなのでやりますよ」
俺の答えに満足そうなヨウカは、数枚の和紙?のような紙をお付に持ってこさせる。一枚、さらさらとなにやら書いている。
「…これはお主が読んだ後、然るべき者に渡せ…いいな?」
次に二枚ほどさらさらと書くと、今度はリベルトに渡せという。
「この二通はお主より先に来たあの者に渡すのだ…」
そして三枚目を書く。これは今、お前が今、読むのだ。全て読んだらこの場で燃やせ…」
二つ折りにされた最後の紙を拡げて読む。その後、俺は電撃を出してその紙を燃やした。
「…読んだな?」
「…えぇ、では今日はこの辺りで失礼します…」
俺達は一礼した後、屋敷を後にした。
◇
俺達は備戎に転移してリベルトと合流した。ビショウと幹部の面々にクレアを紹介する。
「うちの最強戦闘員だ。そこらの能力者レベルじゃ絶対に勝てない異常なまでに強い美人だ」
俺の紹介にいつも通り、結構な上から目線で話すクレア。
「うむ。主が紹介した通りだ。わらわはこの下界では最強であるからな。よろしく頼むぞ?」
しかしビショウを始め、備戎幹部はクレアの中身をまだ知らない。スラリとした爆乳美人に悪い顔をする者などいなかった。
…中身を知ると残念なんだよなw
次にヨウカに貰った一枚目の伝書をビショウに渡す。
「…これは士武馬太守、ヨウカ様からだ…」
俺が伝書を渡すと、ビショウはすぐに開いて読む。
「…これは…本当に信じて良いのですか?」
「それはお前が幹部達と話して決めるんだ。と言いたいんだがこっちも交渉している手前間違った選択をされると困る。だから一言だけ言っておくよ。信じて良い」
俺の言葉に頷くビショウと幹部達。続いて俺はリベルトに二通、ヨウカからの伝書を渡した。二枚とも開いて読んだリベルトはそれを内ポケットにしまう。
「…ありがたい。すぐに太蘇中部領の牟仙原」へ向かいます。その後、宗留武にも挨拶へ行ってまいります」
リベルトは残りの二太守にも、すぐに挨拶に行ってくれるというので念の為にエイムを護衛に付けた。
二人を見送った後、リーちゃんからの連絡で屋又に宗留武領軍が進軍しているという一報を受けて、俺とフラム、クレアは東鳳北部の山岳地帯、屋又陣営へと飛んだ。
◇
屋又陣営に飛んだ俺達はすぐに長のヤナギに遭う。既に屋又でも宗留武領軍が進軍中の情報を掴んでいたようだ。
すぐにでも出ようとするヤナギ達に、恐らく能力者がいると伝えて俺達が代りに出ると話した。
「ホワイト殿、いくら貴殿が能力者とて千五百人の兵の相手は無謀ですぞ?しかも女人を連れていては…」
クレアが怒り出す前に、ヤナギ以下屋又幹部達にクレアがうちの最強戦闘員だと説明した。
「…何とッ!?お子様に続き、そのようにお美しい方が最強の戦闘員とは…ホワイト殿と同じ能力者ですか…?」
「えぇ、まあそんな所です。ですからヤナギ殿は兵を温存する方向でお願いします。備戎でも方針は説明していますので…」
そう言って何とか納得して貰った。まぁ、最強ってのは嘘じゃないからなw
俺は『ファントムランナー』を使い、クレアは走って進軍中の宗留武軍に急速接近した。
走っている最中に、クレアには一応、釘を刺す。今回の戦闘では『闘気』のみで頼むと言っておいた。相手の能力にもよるが別にスキル使わなくてもクレアは充分強い。
クレアとしては派手に暴れたい所なんだろうが青龍爺さんからお叱りを受けているからな…。
俺は走りながら地形を確認する。
屋又は山岳地帯なのでや山と森が多く兵を広域展開出来ない。それは屋又側も同じだと思うが、山の中から奇襲を仕掛ける屋又の方が有利だろう。
屋又と太蘇の国境線付近に到着した俺達は宗留武軍千五百と対峙した。まずは相手方の指令官に話を…と、思っていたらクレアがいきなり突撃した。
「…ちょっ、ちょっと待てよっ!!」
雄叫びを上げつつ突撃していくクレアをファントムランナーで追い掛けて、慌てて止めた。これから離反を促そうとしている相手にいきなり戦闘を仕掛けたら取り返しが付かない事になる。
交渉自体に応じて貰えないなら叩けばいい。俺はクレアを捕まえるといきなり突撃するなと言い聞かせる。
「…ん?何故ですかな?」
…ダメだ、コイツ。今更こんな返事するって事は俺達が今どういう方針で動いているのかが解かっていない…。
仕方ないので俺は一から説明した。
「…ほほぅ、そう言う事だったのですか。それなら早く言って下さればよいのです」
そう言うけど、お前は作戦会議になるとすぐ寝るだろうがッw!!
取り敢えず何とか理解したようなので、そこから敵将官の所まで歩いて行く。
その間にも、俺達が二人だけだと思って完全に舐めていたのかソルブ兵が俺達を攻撃しようとして片っ端からその動きを止めていく。
あちこちから攻撃しようとして止まるので前が塞がってしまった。俺はクレアと協力して前に殺到していた兵士達を退かせて道を作る。
開けた道を一直線に相手の指揮官に向かって進むが阻止しようと兵士達が前を塞ぐので『旋風掌』で吹っ飛ばして進んだ。
敵司令官の前に到着した俺はまず挨拶をする。
「こんにちは。わたしはエニルディン王国のハンターでアンソニー・ホワイトという者です。以後、よろしくお願いします。実は事情がありましてお話を指せて頂きたく参りました…」
俺がそこまで話すと敵司令官の後ろから女が現れた。
◇
俺が挨拶を終えて話をしようとしたその時、司令官の後ろから怪しげな赤紫の法衣を纏った女が現れた。その装備を見ると東鳳の者ではないようだ。
たぶんレバロニアの能力者だろう。ついさっき俺がその本国でちょいと暴れた事はまだ伝わってないようだ。
ヨウカの話だと太蘇のヤツらはレバロニアの能力者を良く思っていない。キヒダの指示で勝手に派遣されて来たからのようだが…。
「勝手に入り込んできて話など…降伏なら話してやらんでもないがそうでないなら今すぐここで死んでも貰うぞ?」
「オイッ、そこの女ッ!!貴様、主に向かって偉そうな口を利くな!!」
俺の代わりに早速、クレアが咬み付いた。
「たった二人だけで来たお前らの方こそ勝手な口を利くな!!まずはお前から殺してやろうか!?」
怪しげな法衣を纏った赤いロングヘアでお下げの女の叫びにどす黒い闘気を放つクレア。
「…貴様、人間の癖に偉そうだな?覚悟は出来ているんだろうな…?」
今までの消化不良な闘いにストレスが溜まっていたのかその声はドスが効いている…。
「人間の癖に…か。お前、亜人か?」
そう問う女に鼻で笑うクレア。そんなクレアを止めて、闘いが始まる前に、俺は妖し気な祈祷師女に聞く。
「アンタ、レバロニアの能力者か?」
「だったらどうなのだ?お前達が死ぬことに変わりはない」
一応、確認したのはこの女がもし太守か太蘇の将官の一人だと闘うのはまずいからだ。しかしレバロニアのヤツらなら話は違う。消火不良のクレアに闘わせる事が出来るからな…。
俺はすぐにそこにいる司令官以下、兵士達を離れさせた。
もう既に俺には相手のスキルが視えている。術者のようだがこの自信を見ると何か隠し玉を持っているのかもしれない。
しかしハンデがあって相手に隠し玉があったとしても、クレアなら確実に勝てるだろう。そもそもコイツが人間相手にイキって闘うのもどうかと思うが…。
それこそこういう時に『神の使徒』の幹部とかが出てくれば闘わせるのに…。
俺が一人考えていると戦闘が始まった。




