新スキルと龍の怒り。
突然不思議な感覚を感じた俺は、何が起きたか分からず倒れた能力者達の中に立っていた。
俺が一気に能力者を倒したのを見た宰相が慌てて王を連れて玉座の裏にある扉から逃げる。それを見た一般兵士も騎士団も我先にと王宮から逃げて行った。
混乱する俺の頭の中にインフォメーションが流れた。
≪『スキル泥棒』が上位合成スキル『スキルスナッチャー(スキル強奪)』になりました。繰り返します…≫
えっw?スキル泥棒が進化したって事かw?いや、インフォは上位合成って言ってたな…。まぁ、進化でも間違ってはいないか…。
意識してなかったがスキルが同時併用になってたようだ…。
俺は新スキルの確認は後にして、東鳳に戻る事にした。レバロニア王以下、宰相、近衛兵、騎士団、一般兵はことごとくこの場から逃げてるし…。
これだけ脅かしておけば以後、東鳳に介入はしないだろう。たぶんだけど…。
王宮の謁見の間から出ようとした所、フラムが俺の服を掴んで何やら話し掛けて来た。
「あぅぁー、えぁぁいぃう!!(パパ―、めからびーむ!!) 」
「んw?ビーム?あぁ、目からビームだすスキルの事か?」
「うぅ(うん)」
「…もしかして…フラムこの目からビームだすスキル、欲しいのかw?」
「うぅっ(うんっ)」
どうやらさっき能力者から奪った目からビームだすスキル『グリッターアイズ』が欲しいようだ…。
そう言えば確か前にエイムが目からビーム出したの見てやたら食い付いてたもんな…。エイムに目からビームだす方法聞いてみような、って言ってそれっきりだったからな…。
俺は抱っこしているフラムに、グリッターアイズを渡してやる。すごく嬉しそうだw
「フラム、ちょっとそこの壁で試してみるかw?」
「うぅっ(うんっ)」
そう言うとフラムは倒れた能力者や騎士団、兵士がいない壁に目を向ける。瞬間、フラムの目がピキョーンと輝きを放った後、高圧縮された光線が壁を一気に貫通した…。
「えっw?」
俺は慌てて穴が開いた壁の向こう側を見る。
特に人はいなかったようでホッとしたが…威力が強すぎる。恐らくフラムの身体が俺のアバターの細胞から作られているからだろう…。
俺はすぐにフラムに言い聞かせる。
「…フラム。その眼からビームは悪いヤツにしか使っちゃダメだからな?」
「うぅ(うん)」
うちの皆に向けて使っちゃダメだぞ?と念押ししておく。そうこうしている内に外が騒がしくなってきたので王宮の窓から外を確認するとかなりの兵が集まって王宮を囲んでいた。
…そろそろお暇するか。
俺はフラムをおんぶすると、すぐに王宮の大きな窓から身体を乗り出して『跳躍』を使って王宮を囲む城壁に飛んだ。
それを見た兵士達が今度は城壁の方に殺到して来た。俺は更に跳躍でレバロニア王都を囲む巨大城壁の上に飛んだ。
少し遠いが東の離れた所に森が見える。俺はすぐにその森の近くに転移した。歩きながら新スキルを確認する。
『スキルスナッチャー』、スキル泥棒、神速、闘気ハンドに自動発動スキル『ゾーン・エクストリーム』が加わって出来た合成上位スキル。半径五メートル内であれば直接、掴んで強奪出来る。対象が複数人である場合、闘気ハンドで纏めて強奪が可能。スキル発動中は範囲内の時間が極度に遅くなる。プラチナカラースキル。
本来、と言うかスキルを同時発動できるのは三枠までなのだが、パッシブスキルや自動発動スキルはその枠にはカウントされないようだ。
ゾーン・エクストリーム発動中に色々スキル使ったから合体したのか。
…しかし強奪って…。
まぁ良いか。ネーミング的にはこっちの方が良いし…。森の中を歩きながら他のスキルも確認してみる。
『エアジェット』一種の空気弾を出すようだ。『リダクション』対象を縮小させるスキル。その後、踏み潰すんだろうね…。
『コンバージェンスライト』太陽光を集めて一点から光線を照射する。光を集める為、時間が掛かる。『シャドウアクション』気絶した者から影を起こして闘わせるスキル。倒れて気絶した者、死んだ者がいなければ発動出来ない…。
…と言う事は味方にしろ敵にしろ倒れて気絶してないと全く使えないスキルだな。まぁ、大規模戦闘か戦争向きのスキルだろう。
後は異空間の扉を開いて様々な武器を呼び出し、攻撃するスキル『インヴォークアームズ』、使用者周辺の範囲を空気圧縮する能力『コンパクション』、光る眼から光線を出す『グリッターアイズ』、範囲で周辺に体内で合成された香水を出して麻痺及び、混乱させる『フレグランスチャーム』、肉体を合金に変える能力『アロイ』などだ…。
これと言って使えそうなスキルは余りない…。恐らく一部の能力者を除くと戦争を想定したスキル持ちを雇っていたのだろう。キヒダがうまく東鳳を制圧した頃に本格的に進出するつもりだったのかもしれない。
スキルを確認しつつ森を歩いていると、デカいサルやら、巨大ワニやらアナコンダなど諸々出てきた。
しかし全てゾーン・エクストリームによって動きが止まる。
せっかくだからフラムにビームの練習をさせてみた。森の中のモンスターを見てピキョーンと目を光らせてビームを出すフラム。基本的に目で真直ぐ見ているヤツには当たるようだ。命中精度は悪くない。
良い的が出来たので歩きながら、フラムに森のモンスターを片っ端からビームで攻撃して貰った。そのままフラムがモンスターを撃ち抜いていくのを確認しながら、歩いて森を抜けた。
海の向こうに薄っすらと島が見える。あれが士武馬の海岸かと思ってレーダーマップを開いてみた。どうやら対岸にあるのはレバロニア領の島のようだ。
もうレバロニアには用が無いので、士武馬の海岸へ戻る事にした。戻ってちゃんとクレアに注意しておかないとな…。
戦闘に来るのは良い。だが考えなしで暴れられるのは困る。せっかく作戦立て動いていても味方がそれをぶっ壊したら全てが無駄になる。
俺とフラムは転移で士武馬の海岸に戻った。
◇
俺達が士武馬の砂浜の海岸に戻ると、エイムがいた。クレアと何やら話をしている。俺達に気付いたクレアとエイムが歩いてくる。
「…ホワイトさん、レバロニアはどうでしたか?」
「あぁ、ちょっとだけ警告しておいたよ。今後は能力者を撤退させると思う。それよりエイム、備戎の防衛よくやってくれた。被害はあったか?」
「いえ、その前にわたしが出ましたので被害は全くありません」
その言葉に頷きつつ、クレアを見る。
「…クレア。今回の事で言っておく事がある。良く聞いてくれ」
「…ふむ。それよりわらわも能力者を倒しているのですぞ?何故エイムを褒めてわらわには何も言わぬのですか?」
…この言い方だとクローナに言われた事をもう忘れているな…。
「…あぁ、そうだな。クレアも良くやってくれた…」
俺の言葉に満足そうだ。
「…ただな。お前、何か大事な事、忘れてないか?」
「ん?大事なこと…?それは何ですかな?」
俺は思わず溜息を吐いた。
「クレア、お母さん(クローナ)に言われた事、忘れてるだろ?」
「…母上に言われた事…?」
そう呟いたクレアが、ようやく思い出したのか真顔になった。俺はリーちゃんに東鳳の記憶を流して貰った時に、青龍とその巣と言われる山がここ、東鳳にあるのを見ている。
この青龍の場所で黒龍が『龍戯』を使った、となると当然だが青龍はいい気はしないだろう。掟があるなら尚更だ。
俺が続けて説教、と言うか注意をしようとしたその時、白髪で長い髭を生やした厳つい顔の執事のような姿の老人が空から降りて来た。
俺はすぐにその老人が記憶の中で見た青龍の長である事に気付いた。
エイムが瞬間、戦闘態勢に入るが俺はそれを止める。
「…エイム。その方は敵じゃない。攻撃はするな…」
白髪の老人は厳しい目を向けたまま俺達に近づいてくる。
「…やはりお主か、クレア。以前もあったが…何故、この青龍の聖域で『龍戯』を発動した?よもやいまだに掟の事を知らされておらぬわけではあるまい」
青龍の爺さんに言われて項垂れるクレア。爺さんは以前もあったと言っていたが前にもやらかしてたのか…。そういやクレアは世界中を放浪してたってシーちゃんが言ってたな…。
「…お主。前回、クローナ様からの伝言を伝えようとしたうちの若いモンを叩きのめしたであろう?せっかくワシが遣わしたのにじゃ…」
青龍の爺さんの背中から、青白い闘気がユラユラと立ち昇る。威圧感が半端ない。飛んでくる圧にエイムが俺をチラッと見る。俺は無言のままそれを首を横に振って止める。
「…当時はそのような事とは知りませんでした故…わらわも以降は反省し、気を付けますので…」
項垂れて小さな声で反省の意を述べるクレアを青龍の爺さんが一喝した。
「このバカ者がッッ!!お主が簡単に反省などと口にするなッ!!よもやお主が各地の聖域で暴れて来た事をワシら八大龍族の長が知らぬとでも思うたかッ!?」
一喝されて項垂れたまま、ビクッとカラダを震わせるクレア。
「各龍族の長がクローナ様からの伝言を持たせて若い衆を送ったというにお主はッ!!話も聞かず戦闘を仕掛けたであろうがッッ!!」
…あぁ、青龍様の叱責を聞いて話が分かって来た。その昔、八大龍族の若い衆らが求婚に来たのを片っ端からぶっ飛ばしたって聞いてたが…。
…事の真相は、クレアの勘違いだったのか…。
何も抗弁出来ないクレアに近付く青龍爺さん。
「…勝手な事をして龍神クローゼ様、龍王クロノ、龍妃クローナ様に恥を掻かせおって!!ワシがその捻くれた根性、叩き直してくれるわッ!!」
青龍爺さんが今にも龍の爪で、クレアを殴り飛ばそうとしたその瞬間、俺はその間に割って入った。爺さんの龍の爪を闘気ハンドで止める。この爺さん、さすが青龍の長だな、力がハンパねぇわ…。
クレアも覚悟を決めていたのか戦闘態勢に入っていたがそっちはエイムが止めた。
「…なんじゃ?お主は…?」
俺はすぐに膝を付くと恭しく、手短に挨拶をする。
「…青龍様。突然、スミマセン。わたしは人間でアンソニー・ホワイトという者です」
続けて俺は青龍爺さんの前で膝を付いて頭を下げたまま、話を続ける。
「今回の件に付きましてはわたしがクレアを黒龍の里へ連れて行き、クローナ様の下でしっかりと反省させますので、どうかこの場はご容赦を…」
俺を無言で見下ろす青龍爺さん。
「…お主、龍気が混ざっておるな?よもやクレアが教えたのであるまいな?」
「いえ、わたしは別の星からこの銀河を統括する神様に招聘された者です。龍の気が混ざっているのはその星で青龍様を祀っていたからだと思います…」
「ファーザーゴッドに呼ばれた者か…今、照合するゆえ少し待つのじゃ…」
そう言うと青龍爺さんは空を見上げる。しばらくして俺を見下ろした爺さんが言う。
「立つが良い。お主の話…嘘ではないようじゃな。話はゴッドから聞いた。ワシの『龍の爪』を止めたスピードと言いその力と言い、確かに尋常ならざる者よ…」
そう言いつつ、爺さんが俺を真直ぐ見る。幾分か表情が和らいでいる。
「今回はお主の顔を立てて不問にする。しかし大穴を開けられて山の神が怒っておる。そちらはワシが何とか治める故、心配はするな…」
「ありがとうございます」
俺は頭を下げる。続けて爺さんが話す。
「この東鳳での活動が終わった時で良い、お主とそこの…デミヒューマンか?我が青龍の里に来るのだ。話しておく事がある…」
「そこにいるのはうちの護衛のアンドロイドです。近いうちに二人でお伺いいたしますので…」
エイムも爺さんを見て頭を下げる。
「…うむ。待っておるぞ?ではワシは戻るからの…」
そう言うと一瞬で消えてしまった。それを見たクレアは一気に脱力してへたり込んでしまった。
山の神には青龍爺さんが取り為してくれるからいいとして、今度はクレアを連れてヨウカに謝りに行くか…。




