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離反工作。

 離反工作の為に商人に扮したリベルトは太守屋敷を訪れてヨウカに謁見、商品を見せていた。事前情報で、酒はダメだと聞いていたのでその他を並べて見せつつ、それとなく話を始めた。


「…最近では街中で妙な噂が流れておりまして…」 


 そう言いつつ、東鳳の現状から反キヒダ勢力が集結しつつあると話を聞かせた。


「…そのような噂は知らぬが…お主、商人ではないな?どこの手の者か?」


 問われたリベルトは、誤魔化す事なく天登(アマト)からだと答えた。


「…何を血迷うておるのか?…天登はもう潰れかかっておるが?太蘇(タイソ)を離れてそんな所に付けなどと…笑わせる」

「そうですか。それではもう少し、詳しくお話ししましょう。わたしは『ある方』から救援要請を受けている他国の者です。所でヨウカ様は東鳳にアマル殿が戻っている事はご存じでしょうか?」


 その瞬間、ヨウカが立ち上がる。


「であえ者共!!戯言をいうこの者を捕らえよッ!!」


 座ったまま囲まれ、槍を向けられたリベルトは動く事なく構わず話を続けた。


「ヨウカ様、救援要請を受けているのはわたしだけではなく、わたしの雇い主も東鳳の正常化に関与します。これから東鳳は大きく動きますよ。その時になって道を見誤らぬよう、願っております…。本日はご挨拶と言う事で…。では、また参りますので。良き返事が聞けるのを期待しております…」

「お主、そんな戯言をほざいてここから無事に出られるとでも思うておるのか?」

「この様な工作を行う者は危険が付きもの。それは承知しておりますよ。今回の話、良く良くお考え下さい。では後日…」


 その言葉の後、リベルトは転移で消えた。直後にヨウカが叫ぶ。


「能力者か!?幻眩(ゲンゲン)殿ッ!!捕らえよッ!!」

「承知ッ!!」


 瞬間、転移中のリベルトのスキルが遮断された。


「…これは…!?転移スキルが停止したのか…?」


 転移中の停止した次元の狭間の中で辺りを見回すリベルト。その前に、小柄で背の曲がった緑肌のローブを羽織った皺くちゃの顔をした男とも女とも付かぬ一つ目の老人が現れた。


「お主のスキル、止めさせて貰った。我が名はゲンゲン。ヨウカ様の命により、お主を捕縛に来た。覚悟は出来ておろうな?」

「…ふむ。あなたは能力者か。存在は予測はしていたが…」

「お主も能力者であろう?拘束した後、すべての情報を吐いて貰うぞ?」

「わたしも能力持ちですので。そうそう簡単には捕まりませんよ?」


 問答をしつつ、リベルトは考えを巡らせていた。スキルを強制停止させられてからすぐに、救援要請を出したが妖精からの反応はなかった。


(救援要請が届いていないのか?…場所が転移スキルの途中の次元の狭間だからか…?…ホワイトさんが異変に気付いてくれれば良いが…)


 しかし、そう考えつつも、リベルトは甘い考えは排除して最悪の想定をした。それは、太蘇側に捕らえられてしまう事である。


 リベルトは、自らが戦闘でこの状況を打開しなければならないと考えた。その目の前で、ゲンゲンが叫ぶ。


「少し弱らせて貰うぞ!!『六色魔念道(ろくしきまねんどう)!!』燃やせ!!赤色炎鳥(せきしょくえんちょう)!!」


 その瞬間、ゲンゲンが(かざ)した右掌から、炎を纏った鳥が飛び出す。リベルトは離反工作に来るにあたり、事前にスキルを三つ渡されていた。


 リベルト自身が持っているスキルは『戦略・戦術』『転移』『二十二面相』『鷹の爪』である。どのスキルも戦闘系ではない。しかも逃げる為の転移はスキルを停止されている為に使えない。


 それでもリベルトは、思考を巡らせた。なんとしても目の前の一つ目の老人、ゲンゲンを倒して逃げ切らなければならない。


 それだけの力を見せる事が出来ればヨウカの翻意(ほんい)を促す事が出来るかもしれないと考えた。そして分析をしつつ行動を開始した。


(六色魔念道はサイコキネシスだが魔法に近い。体格的にも近接戦闘系ではないだろう。おそらく距離を保っての攻撃、捕縛に来る。わたしがあの者に勝つ為には油断させ、接近して貰う必要がある…)


 リベルトは身を削る覚悟を決めた。その瞬間、炎を纏った鳥がリベルトを襲う。それをギリギリで転がって躱す。


 炎の鳥は、リベルトの左肩をかすめていた。軍服が焼けて肩の皮膚が焼けただれている。間髪入れず、ゲンゲンが攻撃を仕掛ける。


「撃ち抜け!!青色水蜂(せいしょくすいほう)!!」


 叫んだゲンゲンが両手を上空に翳す。瞬間、リベルトの頭上から無数の小さな水の塊が蜂に変化して襲い掛かる。


 間一髪で前転して避けるリベルト。その時、リベルトはゲンゲンが距離を保つように下ったのを見た。


(…やはり一定の距離を保ちたいようだな…)


 水蜂を何とか避けた様に見えたリベルトだったが左足を負傷していた。それを見たゲンゲンが得意気に叫ぶ。


「我が六色魔念道からは逃れる事など出来ぬ!!捕らえよ!!黄色土蜘蛛(おうしょくつちぐも)縛り!!」


 直後に、大人の掌サイズの土の蜘蛛が無数に現れ、リベルトの足元に纏わり付いていく。そして再び土に戻りリベルトの足元を固めた。


「次にその両脚を斬り落としてやろう。両足が無くとも喋る事は出来るであろう?」


 ニヤリと笑ったゲンゲンが、リベルトに向かって両手を翳す。


「斬り落とせ!!白色鎌鼬(はくしょくかまいたち)!!」


 その言葉と同時に、白い無数の回転する鎌鼬がリベルトの足元に襲い掛かった。



 その頃、エイムは備戎(ビジュウ)陣営の洞窟から出て平野を観察していた。眼球をズーム機能にして戦場の様子を伺う。


「…ふむ。敵は相当数いるようですが…」


 そう言いつつ、レーダーを展開するエイム。視認している数とレーダーに映る生体反応数が違う事に気が付いた。


 次に戦場の爆発の痕跡を見る。先程の爆発音の痕だ。


「…魔力反応がありますね。そして見えている敵兵の数とレーダーの生体反応の数が違う。幻術の類ですかね…」


 指揮官と思われる生体反応は部隊の最後尾にいるのが見えた。


「では始めますか。まずは一般兵士に退いて貰いましょうか」


 一人呟いたエイムが腕からプラズマを纏わせたマイクロミサイルを撃ち出す。高速で飛ばしたミサイルは一般兵士の手前に着弾した。


 大きな爆発と共に土埃が舞い上がる。そして拡散したプラズマが、敵兵を消していく。


「やはり幻術でしたか」


 いきなりミサイルを撃ち込まれてパニックに陥る敵兵の中を高速で突き抜けるエイム。しかし一気に指揮官を襲撃しようとしたエイムの前方斜め上から、巨大な岩石が降ってきた。


「…これは!?幻術ではないッ!?」


 すぐに魔力量の高さを検知したエイムが電磁シールドで防御するも、数メートル後退させられた。


「…ふむ。幻術と元素魔法を使い分けているようですね。中々面白い…」


 エイムが見ると術者は既に数十メートル離れていた。濃く蒼いローブを身に纏い、肩まである黒い髪を後ろで纏めた褐色肌の盲目の男だ。


「そして魔法を操る方にしてはかなりの身体能力。いや、転移した、の方が正解ですかね?」


 エイムの呟きに反応する様に、脳内に言葉が響く。


≪正解です。幻術を見破り、妙なモノを飛ばして爆発させて現実にいる兵士を混乱させ、わたしに急接近したその実力、相当なモノとお見受けいたします≫

「…ふむ。念話スキルですか。しかし、あなたは目が見えていませんね?その代わり、別の器官が発達した。常に音を出して反響させ、周囲を常に探っていますね?」

≪よくぞそこまで見破られた。今まで備戎には能力者はいなかった。しかし今、アナタ程の者がここにいるという事は備戎も能力者を雇った、という事ですか?≫

「いえ、わたしは只の護衛ですよ。そしてわたしの主は雇われたのではなく、ある方の依頼を受けて無償で東鳳に介入しています。しかし先程からの話ですと太蘇側は能力者を雇っていると聞こえますが…?」


 エイムの問いに術者はしばらく無言になる。


≪…少しお喋りが過ぎたようです。久々に手応えがありそうなのでね。お互い、一般兵士では相手にならぬでしょう?≫

「えぇ、そうですね。では始めましょう」


 その直後、エイムの頭上に岩の塊が四つ現れた。


「…ふむ。会話の間に準備していましたか。油断なりませんね」


 瞬間、岩が一気にエイムを襲う。それをブースターを使って直進して避けたエイムがそのまま術者に突っ込んでいく。その後ろでは岩が四つ地面に激突して土埃が濛々(もうもう)と舞い上がっていた。


 急接近しようとするエイムに対して術者は手を翳し、その針路上に土の壁を作る。突然、目の前に現れた土の壁を蹴ると、エイムは一気に術者の頭上に飛んだ。


「お名前、聞かせて頂けますか?」


 上空からのエイムの問いに答える術者。


「我が名はビヴァク・クシャラム!!そちらも名乗って頂きたい!!」

「わたしはエイム。エイム・ヒトリゲン。指令により、お命頂きます!!」


 そう言うとエイムはビヴァクの頭上から、マイクロミサイルを撃ち込んだ。


◇ 


 備戎陣営で弾丸と能力者について話していた所、離反工作中だったリベルトが行方不明になったと妖精達から知らせを受けた。


 直後に太蘇領、士武馬(シブマ)からの侵攻があり、俺はその場をエイムに任せてリベルトを探すべく、フラム共に沿岸都市シブマへと飛んだ。


 リベルトが離反交渉中だったから、余り相手を刺激すると今後の作戦にも影響が出るかもしれない。そう考えた俺は、いきなり乗り込む事はせず、取り敢えずシブマの街中の裏通りに転移した。


 俺は士武馬太守『燿禾(ヨウカ)』がいるという屋敷に向かう。ヨウカは、若くして太蘇の宰相にその能力を認められた女性太守だそうだ。


 妖精から情報を聞きつつ、館の前に到着した。丁度、商人の格好で来ていたので門衛に西方から来た商人で太守様に西方の品々を見せたいと頼み込んだ。


「…なんだ?先程も商人が一人来たぞ?お前はその仲間なのか?」

「…いぇ、おそらく偶然にもその商人の方と来るタイミングが被っただけかと思いますが…?」

「ふむ。まぁ良いだろう。少しここで待っておれ。取り次いでくる」


 そう言って門衛の一人が奥へと入っていく。フラムを連れているので脅威とは見做(みな)されなかったようだ。


 残ったもう一人の若い門衛に愛嬌を振りまくフラム。経験の浅い兵士なのだろう。フラムの愛嬌に笑って頭を撫でてみたり、懐からお菓子を出してくれたりした。


 そうこうするうちに奥から面会を取り次いでくれた門衛が戻ってきた。


「…許可が出たぞ?ちなみにヨウカ様は酒が嫌いだからな?酒は勧めるなよ?飾りなどに興味がおありなのでそういうモノを勧めた方が良いだろう」


 門衛からアドバイスを受けたのでお礼を言いつつ、俺達は屋敷へと入って行った。



「…面会の許可を頂き、ありがとうございます。当方は西方の商人でありまして…」

「…お主らは一体何者なのか?先程の者はアマルが東鳳に戻っているなどと戯言をほざいておったが…」


 突然、俺の言葉を遮るヨウカ。どうやら解っていて俺達を通したようだ。自身の実力に余程の自信があるのか…。


 ここで変に誤魔化すのも逆効果かもしれんな。後にキヒダから離反して天登側について貰うなら今は正直に話す方が良いだろう。


「…ヨウカ様。私共は西方にありますエニルディン王国の者です。先に来たのはうちの相談役です。そして私どもが何をしに東鳳へ入ったかをお話しします…」

「…解かった。話を聞こうか。その前に何故お主はそんな小さな子供を連れておるのだ?危険であろう?」

「お気遣いありがとうございます。しかしわたしの娘はわたしの能力をほぼ引き継いだ能力持ちなのでご心配なく…」


 そう言いつつ、東鳳の現状と政治におけるキヒダの姿勢について話をしようとしたその時、ヨウカが後ろを振り返る。


「…何事かッ!?」


 その言葉と同時に後ろの(ふすま)から、ゾロゾロと男達が出てきた。


「…ヨウカ様、そのような者と話をしてはなりませぬ。キヒダ様は絶対の存在。迂闊な行動は謀反を疑われますぞ?」

「…何の事か?わたしは西方の商人と話をしておるだけ。謀反などと笑わせてくれる…」

「…ヨウカ様。レバロニア以外の国との交渉は禁止されております。自重なされませぬと身を滅ぼしますぞ?」


 その言葉に沈黙するヨウカ。しかしその時突然、空間がぐにゃりと歪むと、倒れた(しわ)くちゃ老人?と共に、負傷し膝を付いたリベルトが戻ってきた。

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